世界には様々な理由により各地で紛争が起こっており、その影には、多くの子どもたちが犠牲になっています。彼らは兵士として戦闘と他者の殺害を強要されることもあり、心と身体に大きな影響を受けるのです。
さらに紛争終結後も満足のいく教育の機会が与えられず、ふとしたことで暴力的な思想に染まってしまう恐れもあります。こうした子どもたちの状況を改善するためには、紛争の原因を把握し、解決に向けた取り組みや被害を受けている人への支援が必要です。
今回は世界で起こっている紛争に対しどのような解決策が必要かなどをふまえ、私たちにできる支援について考えます。
世界で多発し長引いている紛争とは
まずは「紛争」がどのようなものかについて解説します。
紛争とは
JICAの定義によると、紛争とは一般的に「少なくとも2つ以上の主体が、希少な資源(富や権力など)を同時に獲得しようとして相争う社会状況」とされています。
紛争の主体は国家に限定されず政府の在り方をめぐり政府vs反政府の対立や、宗教や考え方の違いによる対立など、主体は様々です。
また、内戦は様々なことが要因となり発生する武力行使による対立が、ある国の領域内で行われることを指すことが多いです。
(出典:独立行政法人国際協力機構JICA公式サイト「用語の定義」,2007)
紛争が起こる主な原因
紛争が起こる原因は実に様々です。
権力者の心理的な側面から物理的な事情、宗教上の対立などあらゆる要素が複雑に絡み合って起こるのが紛争です。
紛争が起こる原因をまとめると以下の通りになります。
- 宗教上の争い
- 土地や資源の奪い合い
- 権力者の利害関係
- 文化や民族性の差異
- 政治的信条の差異
- 差別
ポイントは上記した複数の原因が複雑に絡み合って紛争が起こるというところです。
なぜ紛争が起こっているのか。この点を考えることは紛争の解決に必須です。
原因に即した解決方法をとることができなければ、紛争の再発リスクは高まります。
2019年現在もなお紛争が長引いている国、危険な国や地域とは
現在でも紛争が起こっている国は決して少なくありません。
そして、何年も何十年も解決せずに紛争状態が長引いている地域では多くの死亡者が出ています。
2019年10月時点で解決していない紛争(内戦)について解説します。
アフガニスタン紛争
アフガニスタンは紛争が1978年から断続的に続いています。
アメリカの同時多発テロで世界的に知られているビン=ラディンなどが関わっているのがアフガニスタン紛争です。
アフガニスタン紛争に至った経緯
アフガニスタン紛争の始まりとなったのは、1978年当時の政権であるアフガニスタン人民民主党に対する武力蜂起といわれています。
そして政権に対する武力抵抗が国中に広がり、人民民主党が当時のソビエトに軍事介入を要請しました。
そしてソビエトの介入があり、大統領が殺害され、政権争いと武力衝突は激化していきます。
ソビエトの介入に対立するように抵抗勢力に対するアメリカの支援があるなど、アフガニスタン紛争を介した当時の強国の間接的な対立も存在しました。
その後、国連によるソビエト軍の撤退についての決議があり、1989年にソビエト軍はアフガニスタンから撤退しています。
しかしアフガニスタン紛争はソビエト軍の撤退で終わったわけではありませんでした。軍が撤退したものの、ソビエトによるアフガニスタン人民民主党への援助は続いており、それに対抗するように抵抗勢力へのアメリカの援助も続いていたためです。
そのためアフガニスタンでは対立する勢力の武力衝突が依然として続きます。その中でタリバーン政権の台頭があり、2001年にはアメリカ同時多発テロが起こりました。
その後はアメリカ軍が集団的自衛権の行為を行使し、アフガニスタン紛争はアフガニスタン戦争へと変わっていきました。現在は戦争こそ一応の終結をみていますが、断続的な武力衝突は続いています。
(出典:外務省公式サイト「アフガニスタンの現状と問題」)
(出典:外務省公式サイト「アフガニスタン・イスラム共和国基礎データ」)
(出典:外務省公式サイト「アフガニスタン紛争のダイナミズム」,2018)
シリア内戦
シリアではアサド大統領による独裁政権が40年にも渡って続いていました。
政府に対し国民の不満が溜まっており、2011年に起こった大衆による抗議運動「アラブの春」を受け、民主化運動への契機が高まっていきます。
そして政権から虐げられていたスンニ派を中心とした抗議運動はシリア全土に広がり、シーア派を主とするアサド政権政府軍とスンニ派を主とする反政府軍との間で内戦へと発展したのです。
反政府軍が近隣国から様々な支援を受けることで武装蜂起を行い、自由シリア軍を結成したことで両者の対立は激化していきます。
さらに自由シリア軍は拡大を続け、内部でも意見がわかれヌスラ戦線という過激派組織も独立。アサド政権もロシアやイランの後ろ盾を受け、反撃を行いますが、政府軍側のシーア派過激組織ヒズボラも参戦し、内戦はさらに激化。
ここにイスラム国が勢力を拡大する目的で介入し、アサド政権政府軍、反政府軍、イスラム国という三つ巴の戦いとなり、内戦を泥沼化させることとなりました。
やがてイスラム国は崩壊し、再び政府軍と反政府軍の戦いの形になりますが、同時に政府軍を支持するロシアと反政府軍を支持するアメリカとの対立構図へとシフトしてしまったのです。
近年ではアメリカでトランプ大統領が就任後、在シリア米軍の撤退を示唆していましたが、ロシアの実質的なシリア支配へと繋がるとの懸念があったため、アメリカ軍は駐留を継続。
しかし2018年の暮れにはイスラム国の掃討が完了したとして、アメリカ軍が撤退することと、シリアへの直接介入は終わりを迎えましたが、2019年4月以降も激しい空爆などが行われている状態です。
(出典:外務省公式サイト「わかる!国際情勢」)
クルド対トルコ紛争
クルド対トルコ紛争は、トルコ政府とクルド人の武力衝突です。
この対立は1920年から2019年現在まで続いています。そして対立の根底にあるのは、トルコ人とクルド人それぞれの政治思想や民族のあり方などの考えの違いがあります。
クルド人は「国を持たない民族」とも呼ばれており、トルコではクルド人の問題が内政上の課題です。トルコ政府は2013年1月から、クルドの権利を主張しテロ活動を行ってきたクルド労働者党(PKK)指導者とPKK問題解決に向けた対話を開始し、国内和平プロセスを強く推進してきました。
しかし2015年7月にトルコ政府はPKK施設を爆撃・一斉摘発を実施し、軍事作戦を展開した一方、PKKもテロ活動を活性化。
その後、2019年10月にはトルコがテロ組織と見なすクルド民主統一党(PYD)に越境攻撃を開始。PYDがシリア側からトルコを攻撃することを防ぐために、国境沿いに幅30km、長さ480km程度の安全地帯を設定することを目標としています。
(出典:外務省「トルコ共和国(Republic of Turkey)基礎データ」,2019),
(出典:日本貿易振興機構JETRO(ジェトロ)アジア経済研究所,2019)
リビア内戦
リビア内戦には2011年に起こった当時のカダフィ政権に対するデモをきっかけとした政権打倒の武力闘争と、2014年から現在に至るまで続いている各種政府とイスラム国系の武装勢力が乱立するものがあります。
リビア内戦の問題は、民主的な手法で選ばれた「トリポリ政府(西部)」と国際的に認知された「トブルク政府(東部)」という形で、部族社会に根ざす複数の政府勢力があります。これらの政治勢力に加え、国連を中心とした仲介努力により実現した国民統一政府の賛成力が併存する状況が続いているのです。
そのためリビアの情勢は不安定なままであり、2018年8月にはトリポリで民兵による武力衝突が発生し、市民にも死傷者が出たとされています。
今後はリビア国内や周辺地域の安定のためにも、リビア人による包括的な政治対話が進展し、正統性を持った統一政府が樹立されることが期待されています。
(出典:外務省公式サイト「地球儀を俯瞰する外交-中東と北アフリカ-」,2019)
イエメン内戦
イエメン内戦は2015年に起こり、現在に至るまで続いているものです。
2011年2月、「アラブの春」の煽りを受けて反政府デモが発生し、それに端を発する形でイエメンの国内に混乱が生じました。その混乱の中、33年間にわたり国を支配してきたサーレハ大統領(当時)が辞任。その後ハーディ新大統領が政権移行プロセスに取り組みましたが、2014年9月に反政府武装勢力のホーシー派がイエメンの首都サヌアを占拠し政権掌握を宣言しました。
ハーディ大統領は首都を追われイエメン南部のアデンやサウジアラビアに退避。ハーディ大統領からの要請を受け、2015年3月、サウジアラビア及びアラブ首長国連邦主導のアラブ連合軍がイエメンへの軍事介入を開始し、現在も内戦状態が続いています。
2018年6月にはアラブ連合軍がホデイダ奪還作戦を開始。ホデイダ市はイエメン国内有数の港を有するため、戦闘が継続することで物資供給の停滞し「世界最悪の人道危機」と言われるほど危険な状況が続いています。
そのため、2019年現在でも全イエメン人口の約8割が何らかの人道支援を必要としているとされています。
(出典:外務省公式サイト「日本と国連-日本の外交政策と国連の重要性」,2019)
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紛争地域では子どもも犠牲者に
2019年現在も、世界では紛争が続いています。そして、紛争では多くの子どもが犠牲になるのです。
ここでは紛争地域における子どもの苦難を解説します。
子ども兵士(少年兵)
紛争地域でとりわけ問題になるのが子ども兵士です。
子どもたちは誘拐などにより半ば強制的に徴用されることが多く、戦闘員として紛争に参加させられます。
子どもは価値観や倫理観が未熟な状態にあるため洗脳に近しいような刷り込み教育を行いやすく、兵士として使いやすいのです。
日本ユニセフ協会の発表では、2015年時点世界の20カ国以上で何万もの子どもたちが、紛争下で武装勢力に関与させられているとしています。
子どもたちは前線の攻撃対象となるほか、人間の盾として使われたり、生涯残る傷を負わされたりと戦闘に徴兵・徴用されます。こうした子どもは紛争終結後もトラウマに苦しみ、健全な生活を送ることができなくなる恐れがあるのです。
(出典元:公益財団法人日本ユニセフ協会公式サイト,2015)
(出典元:公益財団法人日本ユニセフ協会公式サイト,2017)
栄養失調・食糧不足
紛争によって食料が不足すると、子どもが栄養失調の状態になります。そして抵抗力が弱まり、感染症などで命を落とすのです。
病気にならないとしても、生命活動を維持するだけのエネルギーを摂取することができず餓死してしまう場合もあります。
性的虐待や暴力
さらに対立勢力に対する性的虐待や暴力が子どもに及ぶ場合もあります。
イラクやシリア、イエメン、ナイジェリア、南スーダン、ミャンマーなどの紛争の影響がある地域では、女の子を強姦したり強制的に結婚するなどの行為も行われています。
またいくつかの地域では、過激グループに拉致された子どもたちが開放され、治安部隊に拘留された際に虐待を受けることもあると言われています。
(出典:公益財団法人日本ユニセフ協会公式サイト,2017)
教育問題
こうした数々の問題は、子どもから教育の機会を奪います。
そもそも紛争地域では教育の体制そのものが整っていない場合が多いため、紛争終結後であっても満足に教育を受けることのできる子どもはほんの一部です。
日本ユニセフ協会の調べでは、2017年時点の世界22カ国におよぶ紛争地域において、6歳から15歳までの子どもの22%(約2,500万人)が学校に通えていないとしています。
教育は、子どもたちが将来仕事に就いたり収入を得るため、また様々な危険を避けるためにも重要です。紛争により教育の機会が奪われることは子どもたちの未来にも影響を残すのです。
(出典:公益財団法人日本ユニセフ協会公式サイト,2017)
紛争地域で現在行われている支援活動
紛争地域の人々に対して、どのような支援が行われているのでしょうか。
そのうちの一つに物資の支援が挙げられます。例えば世界最悪の人道危機と言われるイエメンの内戦において、2015年には以下の物資が支援されたといわれています。
- 子どもが感染しやすい病気のための医薬品
- 栄養補助剤
- 助産キット
- 衛生キット
- 貯水タンク
- 安全な水
武力を用いた戦闘や爆撃が多発する紛争地域では、まずは人が生きるために必要な最低限の物資を供給する必要があります。
その上で教育についての支援を行い、長期的に紛争を防止する仕組みを作ることが求められています。
(出典:公益財団法人日本ユニセフ協会公式サイト,2015)
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世界で起こっている紛争に対し、日本の立ち位置や役割、行っている支援とは?
紛争地域の人々へ私たちができる支援とは
紛争のある地域の人々に対し、私たちにできることは何でしょうか。
命の危険があまりに大きい紛争地域に赴き直接支援を行うのは困難を極めます。
そのため、遠く離れた国で暮らす私たちにできる支援の一つとして寄付があります。
寄付・募金は少額から可能
現地では様々な団体や組織が支援を行っており、私たちはNGO・NPO、また国際機関などに寄付することで活動をサポートすることができます。
寄付は簡単に行うことができ、少額がら手軽に申し込めます。
寄付には毎月同額の寄付額を継続的に支払う方法や、思い立ったときに任意の金額を寄付する方法があります。
金額も数百円の少額から数万円単位の額まで様々な選択肢から選ぶことが可能なため、無理なく、継続して行える方法を選択すると良いでしょう。
2019年は紛争の原因を知り、紛争地域で暮らす人々を一人でも多く救おう
今回は世界でいまも行われている紛争と、そこで犠牲になる子どもについて解説しました。こうした子どもたちを救うために私たちができることの一つに、寄付があります。
一人ひとりの寄付が少額でも、多くの人が参加することで何人もの命を救うことができるかもしれません。
また、紛争には様々な原因が複雑に絡み合っています。
まずは紛争で苦しむ人々のために問題について理解を深めたり、少額の寄付をしてみるのも良いかもしれません。