2011年から内戦が続いたシリアでは、2024年12月8日、反政府勢力が首都ダマスカスを制圧し、親子2代で半世紀以上にわたり続いたアサド政権が崩壊しました。
しかし、シリア内戦は様々な要因が複雑に絡み合っており、解決までには多くの課題が残されています。
この記事では最新のシリア内戦の現状や原因、経緯を解説します。
シリア内戦の原因・現状は?難民の人々が必要としている支援とは
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シリア内戦が起こった背景とは?
シリア内戦のきっかけはアラブの春と言われています。アラブの春の火種となったのが2010年12月にチュニジアで起ったジャスミン革命という民主化運動です。
この民主化運動はやがて近隣アラブ諸国へ広がり、2011年にアラブの春へと発展。
エジプトでは30年続いたムバーラク政権、リビアでは42年続いたカダフィ政権が崩壊します。サウジアラビアやモロッコ、イラク、アルジェリアでも同様の民主化運動が活発化し、この動きはシリアへも広がっていきます。
シリアではアサド大統領による独裁政権が40年にも渡って続いていたため、国民は長年社会経済への不満を抱いていました。そして2011年、アラブの春を皮切りにシリアでも抗議運動が始まりました。
この中心となったのが政権から虐げられていたスンニ派の人々です。
スンニ派を中心とした抗議運動はシリア全土に広がり、シーア派を主とするアサド政権政府軍とスンニ派を主とする反政府軍との間で内戦へと発展したのです。
デモ運動
当初は紛争ではなく、民主化を求めるだけのデモ運動に過ぎませんでした。
デモ運動が激化したのは、反政府軍が近隣国から様々な支援を受けることで武装蜂起をし、自由シリア軍(FSA)を結成したことが要因とされています。
さらに自由シリア軍が政府軍を圧倒したことで、シリアでの民主化の契機が高まることとなりました。
- ・シリア内戦のきっかけは「アラブの春」
- ・アサド大統領の長期の独裁政権に対して、社会経済への不満からデモ運動が始まる
- ・反政府軍が近隣国から様々な支援を受けることで武装蜂起を行い、自由シリア軍を結成
(出典:法務省「国別情報及びガイダンス シリア: シリア内戦」,2016)
(出典:公益財団法人 日本国際問題研究所「シリア内戦の帰趨とイスラエル北辺の安全保障環境」)
(出典:外務省「地域別に見た外交 第6節 中東と北アフリカ」)
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シリア内戦の始まりから現在までの経緯とは
2011年から長い間続いているシリア内戦ですが、どのような経緯で現在に至っているのでしょうか。シリア内戦が始まってからアサド政権が崩壊するまでの経緯を見ていきましょう。
過激派組織ヌスラ戦線の台頭(2012~2013年ごろ)
自由シリア軍が拡大を続ける一方、イラクを拠点にしていたアルカイダ系の過激派組織「イラク・イスラム国」(ISI)(現「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL))の支援を受けて、「ヌスラ戦線」が設立されます。
ヌスラ戦線は自由シリア軍と協同し、アサド政権と政府軍に壊滅的な打撃を与えることとなりました。
(出典:公安調査庁「シリア」)
シリア内戦の激化(2012~2013年ごろ)
一方、アサド政権もロシアやイランの後ろ盾を受け、反撃を行います。
さらにレバノンに拠点を置くシーア派過激組織であるヒズボラもアサド政権の支援軍としてこの内戦へ参戦することとなりました。
これにより、両陣営の過激派組織が台頭し、参戦したことで戦況が激化。シリア国内を混乱へと陥れることとなりました。
イラク・レバントのイスラム国(ISIL)の介入(2012~2013年ごろ)
これをさらに混乱させたのが当事勢いを増していた「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の介入です。
ISILはイラクを拠点としていたスンニ派のアルカイダ系イスラム過激派組織「イラク・イスラム国」(ISI)から派生した組織です。
世界的にも猛威を振るっていましたが、シリア内戦にも介入し支配地を広げようと画策したのです。
2013年半ば以降、アルカイダ系の過激派組織であるヌスラ戦線との関係が断絶し、独自にシリアで勢力を拡大させていきます。
内戦の泥沼化とISILの弱体化(2013~2015年ごろ)
ISILが内戦に介入したことで、アサド政府軍、反政府勢力、ISILの戦いが内戦を泥沼化させることとなりました。
シリア国内は各地で戦火が拡大し、抵抗する力を持たない国民は、大量の難民となって国外へあふれ出ることとなったのです。
内戦は長期化する動きもありました。ISILはアサド政府軍と反政府軍だけでなく、その後ろ盾となっていた欧米諸国やロシアを敵に回してしまいます。
2014年以降には、米国主導の有志連合による空爆や、ロシアの後ろ盾があるアサド政府軍、トルコの支援を受けた反政府勢力、さらには北東部のクルド人勢力による地上戦を含む集中的な攻撃を受け、ISILの支配は次第に縮小し崩壊へとつながります。
それでもISILがシリアに残した傷跡は悲惨なものとなりました。
またこのISILの弱体化により、勢力図に変化が起こったのです。
シリア内戦は再び政府軍と反政府軍の戦いの形になりましたが、政府軍を支持するロシアと反政府軍を支持するアメリカとの対立構図へとシフトしてしまったのです。
また、トルコは反政府勢力を支援と同時に、自国の国境に近いシリア北部のクルド人勢力の台頭も警戒し、軍事介入を続けます。そのため、ロシアとの対立が起きる場面も多くありました。
化学兵器の使用
2017年に入り、アサド政権は爆撃の際にサリンなどの化学兵器を使用するという凶悪な攻撃を行いました。
多くの女性や子どもが狙われ、凄惨な被害をもたらしたのです。
これによりアメリカ軍がシリアの空軍基地に空爆を仕掛けますが、ロシアの影響もありアサド政権への攻撃は限定的なものとなりました。
アメリカ軍の撤退
トランプ大統領就任後、在シリア米軍の撤退が示唆されましたが、ロシアの影響力拡大を懸念したアメリカ国家安全保障チームの説得により、一時的に駐留が続けられました。
2018年末、トランプ大統領は「ISILの掃討が完了した」としてシリアからの軍撤退を決定。この撤退には、シリア北部から北東部にかけて広がるクルド人自治区(ロジャヴァ)を攻撃したいトルコ政府への配慮も影響していたとされています。
アメリカはISIL掃討においてクルド人勢力(特にシリア民主軍=SDF)を支援してきましたが、トルコはこれをテロ組織とみなしています。
米軍の撤退により、アメリカの直接的な軍事介入は縮小しましたが、ロシアの空爆やトルコによるクルド人勢力への攻撃が続くなど、シリア情勢は依然として不安定な状態が続きました。
ロシアとトルコの停戦合意の失敗
2020年にはロシアとトルコの間で停戦合意に至りますが、2021年には再び攻撃が再開され、停戦は失敗に終わりました。
停戦後も局地的な衝突は続き、両国の支持する勢力間での戦闘は収束しませんでした。
アサド政権崩壊
その後も内戦が続いていたシリアですが、2024年11月下旬から急展開を迎えます。各地の反政府勢力が攻勢を強め、11月30日にはシリア解放機構(HTS)がシリア第2の都市アレッポの大部分を制圧。
12月8日には首都ダマスカスも制圧し、親子2代・約半世紀にわたるアサド政権は崩壊に至りました。
ロシアの外務省は、アサド大統領が辞任を認めモスクワへ亡命したことを発表。反政府勢力を率いたシリア解放機構のもとで、暫定政権が発足しました。
急展開が起きた背景には、内戦の長期化による疲弊や経済危機が影響し政府軍の士気低下、さらに補給不足や人員減少が重なり、主要都市の陥落を招いたことが挙げられます。
また、アサド政権を支援していたイランやヒズボラは、2023年10月以降のパレスチナのガザをめぐるイスラエルとの対立で戦力が衰え、ロシアもウクライナ侵攻以降アサド政権を支援する余裕がなかったとの見方もあります。
暫定政権を主導するシリア解放機構は、2016年にヌスラ戦線がアルカイダとの関係を断ち再編された組織ではありますが、国連、アメリカ、トルコからテロ組織に指定されています。
早期の政権移譲をめぐる調整が進められているものの、平和的な移行や安定した政治が実現するのか、依然として不透明です。
- ・政府軍と反政府勢力の過激派組織が台頭、さらにISILの介入で内戦は泥沼化
- ・ISILの弱体後、シリア政府軍を支持するロシアと反政府勢力を支持するアメリカやトルコとの対立構図へとシフト
- ・2018年にアメリカ軍は撤退し、2020年にはロシアとトルコが停戦合意するも内戦は継続
- ・2024年12月アサド政権が崩壊し、シリア解放機構を中心とした暫定政権が発足
(出典:法務省:「国別情報及びガイダンス シリア: シリア内戦」,2016)
(出典:公益財団法人 日本国際問題研究所「シリア内戦の帰趨とイスラエル北辺の安全保障環境」)
(出典:外務省「地域別に見た外交 第6節 中東と北アフリカ」)
(出典:NHK「シリア政権崩壊 首相は早期に政権移譲の考え 専門家はどう見る」)
(出典:NHK「アサド政権崩壊なぜ?シリアでいったい何が?」)
シリア内戦の現状と今後の展開は?
2011年の内戦開始以降、アサド政府軍と反政府軍の戦いだけでなく、クルド人勢力やトルコ支援勢力、それぞれを支援するアメリカとロシアの代理戦争、さらには宗教的や政治的思惑が複雑に絡み合っている状況にありました。
アサド政権崩壊後も、各勢力を支援してきた各国の動きが活発化しており、さらなる介入が続けば再び情勢が不安定化する可能性もあります。
反政府勢力による暫定政権が発足しましたが、その中核を担う組織がテロ組織に指定されているため、今後の展開は依然として不透明です。
国連の報告によれば、2011年以降のシリア内戦で約40万人以上の死者、約690万人以上の国内避難民が発生し、さらに約550万人以上の難民が周辺諸国や遠方に流出しているとされています。
アラブの春で独裁政権が崩壊したイラクやリビアでは、今もなお混乱が続いているのが現状です。特にシリアでは内戦による被害が深刻で、国民が安定した生活を取り戻せるかが大きな懸念となっています。
今後のシリアの安定化には、政府だけでなく国際機関や周辺国の協力が不可欠です。また、難民の救済には支援団体や国際社会の継続的な支援が求められます。
- ・2011年の内戦開始から複雑な勢力図となっている
- ・アサド政権崩壊後したものの、再び情勢が不安定化する可能性もある
- ・シリアの安定化には、国や国際機関、周辺国の協力が必要
- ・難民の救済には支援団体や国際社会の継続的な支援が必要
(出典:法務省:「国別情報及びガイダンス シリア: シリア内戦」,2016)
(出典:公益財団法人 日本国際問題研究所「シリア内戦の帰趨とイスラエル北辺の安全保障環境」)
(出典:外務省「地域別に見た外交 第6節 中東と北アフリカ」)
(出典:外務省「シリア基礎データ」
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