ひとり親家庭は日本だけでなく、世界にも存在しています。
ひとり親家庭の多くは困窮しており支援制度が必要ですが、その方法は国によって異なります。
この記事では、日本と世界のひとり親のための支援制度の違いを紹介します。
ひとり親家庭が抱える問題とは?どんな手当や支援があるのか見てみよう
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日本と世界、ひとり親家庭のための支援制度の違いは?
日本には、2015年時点で全体の2%近くのひとり親家庭が存在していました。2%程度と感じられるかもしれませんが、その世帯数は母子家庭で約75万世帯、父子家庭で8.4万世帯もありました。これは日本に限ったことではなく、世界に目を向けても、各地にひとり親家庭は存在します。
そのひとり親家庭の中には、生活に困窮し、苦しい日常を送っている家庭もあることから、支援を必要としています。
世界に存在するひとり親家庭への支援制度は、各国で異なります。そのため、しばしばその政策の比較が行われることがありますが、特に日本の模範として挙げられるのがイギリスの政策です。
また、ひとり親家庭の貧困率を大きく改善したアメリカの政策も参考にすべきものとなっています。そこで日本との制度の違いを知るためにアメリカとイギリスの政策を紹介します。
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アメリカが行う政策
アメリカが行うひとり親家庭の政策は1996年から行われています。全体では福祉改革(Welfare Reform)(ウェルフェア リフォーム)と言われており、開始時は低所得世帯向けの勤労所得税額控除(EITC)、保育費補助などの拡大を行いました。
加えて母子家庭への政策として就業支援に重点をおき、貧困率の改善に努めました。
アメリカでは1980年代から婚外子の出産が急増し、黒人の家庭で生まれる子どもの約7割が婚外子であるという時代がありました。
それに伴い、低所得で貧困状態となる母子家庭が増加したことで、公的扶助が急増し、福祉支出が深刻な問題となったのです。
こうした状況を受け、1996年に福祉への依存を削減することを最大の目標として改革を始めました。
具体的な支援としては、子どものいる家庭の所得支援である「ADFC」制度を廃止し、貧困家庭への一時的支援としての現金給付「TANF」制度の導入を行いました。
ADFCとは日本で言うところの生活保護に相当しますが、TANFがこのADFCと異なる点は就労要件と受給期間の上限導入という厳しい条件が加えられたことにあります。
ADFCは永続的に現金給付を受けられましたが、TANFの導入によって給付期間は生涯5年を超えられないという上限設定がなされました。
さらに、受給期間中は就労しているか、求職活動中あるいは職業訓練を受けているかといった厳しい要件を課しました。
日本で言うところ雇用保険の受給条件に近いと考えてもらえるといいでしょう。
厳しい条件が課せられる一方で、新しい制度では低所得世帯向けの勤労所得税額控除「EITC」を拡大し、一定の所得以下であれば、収入の最大34%の税金の還付を受けられる制度が導入されました。
例えば、日本円で9万円の収入の場合は、行政機関は所得税の徴収を行わず、3万円の給付を与えるという制度です。
この制度を、特に貧困率が高かったひとり親世帯や子どものいる世帯に控除の拡大幅を広げました。さらに母子家庭の母の就業率を上げるために保育費補助などを拡大し、子どもを預け、仕事を行える環境などの整備を行っています。
また、経済状況に合わせて連邦最低賃金を法律によって引き上げることで、母子家庭を含む多くの人の収入を上げることに成功しました。
これらの政策により、母子世帯の貧困率は1996年が35.8%だったのに対して、2017年には27.9%にまで下がっています。
日本の母子家庭の貧困率は2018年時点で51.4%であり、アメリカのほうが明らかに少ない割合であり、改革による効果で改善がなされていることは明白です。
他にも改革前後の比較をした時、TANFの受給者数はピーク時の3分の1まで減少し、母子家庭の母の就業率も5%程度上昇したという調査結果も出ています。
イギリスが行う政策
イギリスではアメリカとほぼ同時期に1997年からブレア首相のもと、ニューディール政策の導入が始まりました。
イギリスでも婚外子の急増が見られ、母子家庭の世帯数も急速に増加していきました。
アメリカとの相違点としては、シングルマザーの就業率がイギリスは非常に低いという点にあります。
アメリカでのシングルマザーの就業率は改革前でも7割程度あり、それに対してイギリスでは、半分以下の45%程度しか就業していない状況でした。
これにより母子家庭の貧困率も非常に高い割合で推移していたのです。
1993年の貧困率のデータでは、イギリスが32%、アメリカが22%、ドイツが13%でした。
当時のイギリスの子どもの貧困率はヨーロッパ、アメリカを含めかなり高い状態にありました。もちろん母子家庭の貧困率がすべて子どもの貧困率というわけではありませんが、この原因が働いていない、あるいは働けない母親が非常に多かった点にあるということです。
この状態を改善するためにニューディール政策(新規まき直し)を重点的に行いました。
アメリカの政策は貧困の削減に重点を置いていましたが、イギリスでは貧困を再生産させない、つまり再び貧困になる家庭を増やさないことに重点を置いていました。
仕事をする方がより豊かな生活ができるような制度設計を行い、福祉制度を充実させ、それまで機能していなかったインセンティブ※を与えて母親を働かせることを最大目標としたのです。
まず行ったのが最低賃金の引き上げです。1999年に導入された最低賃金のスタートポイントは高めに設定されており、2016年時点でもイギリスの方がアメリカより高くなっています。
社会全体の給与の平均増加率よりもわずかですが早めにベースを引き上げていくことで、底辺の収入で働く人の収入改善を図りました。
加えてアメリカ同様、低所得者向けの勤労所得税額控除制度を、母子家庭を含む子どもがいる家庭を中心に優勢的に拡大していきました。
また、仕事をするときに給与を政府から支給される、求職活動をすると奨励金がもらえる、保育費の補助率を挙げ、保育費をカバーするといった政策で、日本の生活保護に当たる「Income Support(インカムサポート)」の受給者の就業意欲を高めました。
政府の支出は膨張したものの、Income Supportに頼る人は103万人(1997年)から74万人(2008年)まで減少し、さらに、ひとり親の就業率が45%(1997年)から52.7%(2011 年)にまで上昇しました。
※インセンティブ:見返りや報償など、人の意欲を引き出すための外部からの刺激
(出典:東京都福祉保健局「直近の調査に基づくひとり親家庭の現状」,2019)
(出典:内閣府「子どもの貧困と親への就業支援」,2017)
(出典:労働政策研究・研修機構「第5回(2018)子育て世帯全国調査」結果速報」,2018)
日本と世界、母子家庭の現状を比較してみよう
日本もアメリカやイギリスと似ており、1990年代以降に急速に母子家庭の世帯数が増加していきました。
母子家庭が増加すれば、福祉給付も増加します。これにより2002年の児童扶養手当の給付総額は1992年に比べて1.5倍にまで膨れ上がりました。
生活保護を受けている母子家庭の割合は14%前後で変化しなかったものの、福祉支出は高い割合で増加していきました。
しかし、日本とアメリカ、イギリスとの大きな違いは、母子家庭増加の原因にあります。
アメリカやイギリスは婚外子の増加が最大の原因であることに対して、日本は8割近くにも上る離婚率の増加が原因です。
2015年のデータでは母子家庭の離婚率は79.5%、父子家庭でも75.6%となっており、加えて母子家庭は就業率が81.8%もあるにも関わらず、パートやアルバイトが43.8%も占めており、平均年間収入も243万円と平均収入よりも少ないことから、働いても貧困であるという状態が起こっています。
ひとり親家庭の増加による福祉支出の増加は財政を圧迫することから、ひとり親家庭の自立支援のため就業支援の強化を行いました。
ここがアメリカやイギリスとの違いでもあります。どちらの国も最低賃金の底上げや低所得者向けの勤労所得税額控除制度の導入などを行いましたが、日本では就業機会の増大策や職業能力開発策、ジョブサーチ支援策など打ち出し、就業状況の改善を行いました。
2003年に比べ、平均年収や正規雇用の割合は向上したものの、それでもなお収入は貧困を脱するには不足しており、アメリカやイギリスのような大きな改善は見られないという原状があります。
(出典:厚生労働省「ひとり親家庭等の支援について」,2018)
(出典:労働政策研究・研修機構「第5回(2018)子育て世帯全国調査」結果速報」,2018)
(出典:厚生労働省「6 貧困率の状況」,2015)
(出典:厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果の概要について」,2016)
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日本も世界もひとり親家庭のために私たちでできる支援を
ひとり親家庭は世界中にいます。この記事で紹介した日本、アメリカ、イギリスに加え、アジアやヨーロッパ、オセアニア、南アメリカ、アフリカと各地に存在します。
各国で支援などは異なりますが、どの国でも言えることは、支援がなければひとり親家庭の多くは困窮し、苦しい生活を強いられるということです。
国によって支援の方法や考え方も違うのは、ひとり親家庭の増加原因だけでなく、その国や民族の文化など様々な理由が関係しています。
理由はどうあれ、その地域に住むひとり親家庭にとって最適な方法で、ひとり親家庭でも生活していける支援や環境づくりが大切です。
個人でもできる支援として、寄付、ボランティアとして子どもに学習支援をする、子ども食堂に参加するなどがあります。
政府による支援はもちろんのこと、同じ国、同じ地域に住む私たちがひとり親家庭への理解を深め、できることから支援することが重要です。