2018年に発生した西日本豪雨は、水害としてこれまでにない被害を残した災害となりました。
大雨は様々な二次災害を起こし、多くの場所でその被害を拡大させましたが、中には自然災害だけでなく、人為的な要因によって被害が広がってしまった地域もありました。
被害が大きくなった愛媛県大洲市ではどのようにして被害が拡大してしまったのか、また被害の大きさや原因について紹介します。
西日本豪雨の被害の大きさを振り返り、私たちにできることを考えよう
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西日本豪雨で愛媛県の西予市などに深刻な被害
2018年の西日本豪雨では、西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨を降らせました。
これにより国土交通省所管ダムの558ダムのうち、213ダムでは下流部の洪水被害を防ぐために洪水調整という防水操作を実施。
このうち8ダムでは長時間の豪雨により、流入量と同程度の放流量とする異常洪水時防水操作へと移行しました。
これにより被害が軽減した地域もありましたが、かえって被害が拡大してしまった地域もあったのです。
それが愛媛県の肱川上流にある、野村ダムと鹿野川ダムの放流でした。この2つのダムでは満水になる危険が生じたため、異常洪水時防水操作を行う判断を下したのですが、下流での被害が広がってしまい、この措置によって多くの被害者を出す結果となってしまったのです。
では、なぜそのような判断に至り、どうして被害が拡大してしまったのか、当事のダムの状況などを踏まえて解説します。
(出典:国土交通省公式サイト)
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肱川上流のダムの状況とは
先にも述べたように、肱川上流の2つのダムは満水になり決壊する恐れがあったため、放流開始。放流は突然開始されたのではなく、鹿野川ダムは7月3日から、野村ダムは4日から、豪雨に備えて事前放流を行っていたのです。
これはダムの水を暮らしに利用する人々の理解を得た上での放流であり、異例の対応として行われた措置でもありました。これによって両ダムは通常の1.5倍もの貯水容量を増やし、大雨が降っても問題ないように対処していました。
やがて大雨に見舞われ、ダムではその水位を徐々に増やしていくことになりましたが、予想外にその量は多く、記録的な豪雨によって、野村ダムはダムの放流量と同じ量を放流する異常洪水時防水操作を、7日午前6時50分から行うことを西予市野村支所に通達しています。
これにより避難指示を各所に出すことを市長が決定しましたが、避難場所の準備や夜間で安全な避難誘導ができないなどの理由から、避難指示を午前5時以降に出すことにしました。
実際に、午前5時10分には避難指示を防災無線などで呼びかけたのですが、住民の多くは雨により防災無線の音が聞こえなかった、聞こえていたがいつもの放流と変わらないと考えていたなど、非常事態が差し迫っていることが伝わっていない状態だったのです。
やがて、予定より30分早い午前6時20分に野村ダムの異常洪水時防水操作が始まり、瞬く間に下流にある鹿野川ダムに流入し、午前7時35分には同様に鹿野川ダムでも異常洪水時防水操作を行うこととなりました。
このとき放流されたのは、最大で毎秒3,742トンもの放水量となっており、放流基準の6倍もの水が、下流に押し寄せたことになります。
これにより大洲市の河川は氾濫を起こし、街は次々に飲み込まれ、多くの家屋が浸水の被害を受けることとなったのです。
(出典:国土交通省公式サイト)
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豪雨時のダムの放流や対応について見えた課題とは
西日本豪雨でのダム放流の対応について、いくつかの課題が挙げられています。
異常洪水時防水操作に踏み切る必要に迫られた
1つは事前放流を行い、洪水調節容量を確保したにも関わらずそれを使い切り、異常洪水時防水操作に踏み切らなければいけなかった点です。
これについては、想定を大きく超えた雨量であったことが原因となりますが、対策としては事前放流でさらに多くの容量を確保することが考えられます。
しかし、この方法にはリスクや新たな課題もつきまといます。それは降雨量やダム流入量の予測制度を高めなければいけないことや、利水容量を確保するためにダムの下流の人々に同意を得なければならないこと、また水位低下後に予想よりも雨が降らず貯水位が回復しなかったときの渇水被害といったリスクです。
ダム操作に関わる情報が住民の避難行動に繋がらなかった
もう一つの課題は、ダム操作に関わる情報が住民の避難行動に繋がらなかったという点です。
下流の大洲市を河川の氾濫が襲ったのは、7時35分の鹿野川ダム放流以降です。
5時10分には避難指示が出されていましたが、緊急時の防災無線に危機感を覚える住民は少なく、避難することがなかったため、大きな被害を生むこととなってしまいました。
これはダムに関する情報を含む、あらゆる防災情報があるにもかかわらず、十分に活用されておらず、住民に切迫感を伝えることができていないといった課題が浮き彫りとなってしまいました。
事前にダム下流の浸水想定図が作成されていないことや、リスク情報が十分に住民に周知されていないこと、ダムの機能や操作などが十分認知されていないこと、またその操作による情報や災害時の適切な行動について十分に活用されていない、といった問題が明らかになりました。
(出典:国土交通省公式サイト)
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災害時の対応を知っておくことが減災につながる可能性も
西日本豪雨におけるダムに関する対応で浮き彫りになった課題を解決するために、野村ダムでは全国初となる取り組みを実施しました。
一つはダムは「操作」に入る3時間前には市や関係機関に通知する「3時間前ルール」を、ダム操作規則に新たに盛り込みました。
もう一つは関係機関への通知文を新たにしたことです。
これまでの通知文では危険レベルや緊急度が分かりにくかったために、住民への避難情報として役立っていないとの意見が上がりました。そのため、「ただちに命を守る行動をとってください」など分かりやすく、より具体的な表現と内容に改めています。
過去の災害による経験を活かし、今後の減災につながる取り組みは全国各地で行われています。
私たちも非常事態に備え、また災害時には命を守る行動を最優先に行えるよう、日ごろから防災意識を高めておくことが大切です。