毎日学校で勉強したり放課後に友達と遊んだりすることは、ある子どもにとっては当たり前の日常です。
しかし中には、家族の世話に時間を費やし、満足に勉強したり遊んだりできない子どももいます。このような子どもはヤングケアラーと呼ばれ、高齢化や核家族化が招く社会問題のひとつです。
この記事では、ヤングケアラーについて以下の内容を紹介します。
- ・ヤングケアラーの実態
- ・ヤングケアラーが抱える問題
- ・ヤングケアラーの事例
- ・ヤングケアラーのための支援・サポート
ヤングケアラーのための相談窓口や、支援団体による取り組みは身近なところで実施されています。どのようなサポートが行われているのか興味がある人は、以下より詳しくご覧ください。
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ヤングケアラーとは?わかりやすく解説
ヤングケアラーとはケアを必要とする家族がおり、大人がおこなうような世話や責任を担っている18歳未満の子どものことです。
ヤングケアラーが担う世話や責任には、さまざまなケースがあります。
例えば、親の代わりに幼い兄弟の世話をしていたり、家計を支えるためにアルバイトをしていたりします。
ヤングケアラーは家族の世話が優先的になり、自分のための時間をなかなか取れません。無理な負担を背負わず子どもらしい生活ができるよう、ヤングケアラーを支える福祉サービスや支援団体によるサポートが求められます。
ヤングケアラーの実態
ヤングケアラーの問題は家庭内で発生しているため、外部から気付きにくい背景があります。
ヤングケアラーを見たことがない人にとっては、身近な問題に感じられないかもしれません。しかし、日本にもヤングケアラーは確実に存在します。
ここでは、日本におけるヤングケアラーの実態について見ていきましょう。
ヤングケアラーは17人に1人の割合で存在する
中高生を対象にしたヤングケアラーの実態調査*では、中学2年生の17人に1人、高校2年生(全日制)の24人に1人のヤングケアラーがいる可能性が示されています。
1クラスに1~2人程度の割合でヤングケアラーがいるイメージです。
しかし、同調査によると「自分はヤングケアラーだ」と自覚している割合は、たった2%程度しかいません。
自覚度が低い背景には、ヤングケアラーにとっては家族の世話が常態化しており、問題として認識できていないことも要因と考えられます。
そのため、本人が自覚していないだけでヤングケアラーがさらに多い可能性は拭いきれません。
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ほぼ毎日長時間の世話を担うヤングケアラーもいる
ヤングケアラーは、家族の世話をする頻度や時間が多いという問題点があります。
3~6割のヤングケアラーは、ほぼ毎日家族の世話をしています。
また、世話に費やす時間は1日3時間未満が多いものの、中には7時間以上も世話に費やす子どもが1割以上います。
子どもが家族の世話を担うことで生じる問題とはどのようなものでしょうか。ヤングケアラーが抱える問題点を紹介します。
ヤングケアラーが抱える4つの問題
ヤングケアラーが抱える問題は以下の通りです。
- 不登校や遅刻気味になる
- 交友関係を築きにくくなる
- 睡眠不足・栄養不足など健康面に影響する
- 進学や一人暮らしなど自立の機会がなくなる
家族をケアする必要があるため、学業や交友関係、自分の健康や将来にかける時間を十分に確保しにくくなります。問題について、具体的に一つずつ見ていきましょう。
問題1.不登校や遅刻気味になる
ひとつ目の問題は、家族の世話に掛かりきりのため、学校へ行きにくくなることです。
朝は幼い兄弟の世話をしてから登校するため遅刻したり、日中は同居家族の介護が必要なため学校へ行けなかったりするケースがあります。
学校へ満足に行けない日が続くと、授業へついていけなくなるなどの問題が起こります。そうなるとさらに学校へ行きにくくなり、そのまま不登校になってしまうことも。
ヤングケアラーの遅刻や不登校による影響は、以下でさらに詳しく解説しています。こちらもぜひご一読ください。
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問題2.交友関係を築きにくくなる
同年代との交友関係を築きにくい点も、ヤングケアラーがかかえる問題です。
同年代の子ども達がテレビを見たりゲームをしたりする間、ヤングケアラーは家族のケアに時間を費やしています。
子どもにとってはテレビ・ゲーム・SNSなど共通の話題は、仲良くなるためのひとつのツールです。
ヤングケアラーは同年代の子と同じ遊び方・過ごし方ができないため話題についていけず、友達との関係を築きにくくなります。
家庭や学校で問題に直面する子どもには、状況に合わせた適切な支援が必要です。そして、適切な支援を受けるためには、まず相談に乗ってくれる大人がいなくてはなりません。
ヤングケアラーの支援体制や相談先については、以下の記事をご一読ください。
>>ヤングケアラーを支援したい!ボランティアや必要な支援、支援団体を紹介
問題3.睡眠不足・栄養不足など健康面に影響する
学校や友達との関係性だけでなく、ヤングケアラーの健康面に対する影響も懸念されます。
家族の世話が優先になり、十分な睡眠時間を確保できない場合があります。
また、経済的に余裕がなかったり料理の知識がない子どもが自炊したりすることで、栄養が不足してしまうこともあるでしょう。
成長期における睡眠不足や栄養不足は、子どもの発育に悪影響をもたらします。
問題4.進学や一人暮らしなど自立の機会がなくなる
幼い頃から家族のケアをしているヤングケアラーは、将来の可能性までも狭まってしまいます。
ヤングケアラーは経済的な理由や「家族の世話をしなければならない」という責任感から、進学や一人暮らしを考えにくくなります。
ヤングケアラーがいる家庭では親が子どもに依存しているケースもみられるため、子どもの将来を考えて外部から積極的に働きかけることが大切です。
早期に周囲の大人や福祉サービスからの助けがあれば、ヤングケアラーは新たな世界や選択肢を広げられます。
ここまで、ヤングケアラーの問題点を4つお伝えしました。それではヤングケアラーにはどのような事例があるのでしょうか。実際の事例について、詳しく見てみましょう。
ヤングケアラーの事例
ここではヤングケアラーの事例を3つ紹介します。
- 脚の悪い70代祖父と2人暮らし
- 精神疾患を抱える母親と特別支援学級に通う弟の3人暮らし
- 下半身不随の父親と2人暮らし
同居している保護者の健康状態が悪かったり、親せきからのサポートがなかったりするのは、ヤングケアラーによく見られる家庭ケースです。
実際の事例について見ていきましょう。
出典:ヤングケアラー支援参考事例集│北海道保健福祉部子ども未来推進局子ども子育て支援課
事例1.脚の悪い70代祖父と2人暮らし
母親の病死後、脚の悪い70代祖父と2人暮らしをする中学3年生女子のケースです。
夕食は祖父が準備しますが、それ以外の家事全般をヤングケアラーが実施しています。
叔母が時々ヘルプに来ますが、祖父との折り合いが悪く十分なサポートができていない状況でした。
ヤングケアラー本人は祖父の言うことが絶対であることや、家に帰りたくない不満があるもののヤングケアラーとは自覚していませんでした。
学級担任との教育相談で問題が発覚し、包括支援センターや学校からのサポートを受けています。
支援内容の一部
- ・包括支援センターが訪問し、祖父の通院確認や介護保険の提案
- ・ヤングケアラーの受験や学校について、叔母に確認・支援の依頼
- ・学級担任や教員がヤングケアラーと教育相談を実施
事例2.精神疾患を抱える母親と特別支援学級に通う弟の3人暮らし
ケアが必要な母親・弟と暮らす中学1年生女子のケースです。
父親の死後、母親は精神疾患を発症。一人で外出や家事をすることが困難な場合があり、そのときはヤングケアラーが付き添いをおこなっています。
また、弟は特別支援学級に通っており、ヤングケアラーが登校に付き添うこともあります。
ヤングケアラーの身なりや遅刻・不登校の増加から学校が問題に気付き、サポートが介入しました。
ヤングケアラー本人と弟は母親の病状を心配しており、自分達の環境については大きな問題と認識していませんでした。
また、ネグレクトの認定には至らなかったため、家庭訪問やカウンセリングを中心としたサポートがおこなわれています。
支援内容の一部
- ・スクールカウンセラーによる定期的なカウンセリング
- ・市子ども相談課の定期的な家庭・学校訪問
- ・母親・子どもが通院時、市子ども相談課による付き添い
事例3.半身不随の父親と2人暮らし
半身不随の父親と暮らす高校1年生女子のケースです。
父親は脊椎損傷による半身麻痺、人工肛門によるストーマ装着といった病状。ストーマ交換や夜間の見守りなど、日常的な介助や家事全般をヤングケアラーが担っています。
訪問介護や家事援助などの福祉サービスは利用していましたが、ヤングケアラーには精神的な負担が大きくのしかかっていました。
ヤングケアラーの自暴自棄な様子を学級担任が目撃し、問題発覚に至りました。
ヤングケアラーは「高校卒業後に自宅を離れ生活したい」という意志が芽生えたため、その実現に向けたサポートが動いています。
支援内容の一部
- ・スクールカウンセラーや保健師による定期面談
- ・介護・福祉サービスの内容変更を父親と相談
- ・ヤングケアラーの負担感の情報共有や、対策事項・役割分担の明確化
ヤングケアラーのための支援・取り組み
ヤングケアラーの問題を解決するために、次のような支援・取り組みがあります。
- ・支援団体によるサポート
- ・相談窓口の設置
- ・福祉サービスの提供・提案
- ・学校や周囲の大人の見守り
ヤングケアラーが適切な支援を受けられれば、学校へ毎日登校できるようになったり進学・自立の道が開かれたりします。支援内容や取り組みについて見ていきましょう。
支援団体によるサポート
以下のように、さまざまな組織・団体がヤングケアラーをサポートしています。
ヤングケアラーをサポートする組織・団体例
- ・児童相談所
- ・市町村の福祉課・児童課
- ・NPO団体
複数の支援団体を活用することで、ヤングケアラーはより充実したサポートを受けられます。
特にNPO団体では、放課後学校の開催や食事の提供など、子どもが安心できる居場所作りに励んでいます。
どのようなNPOがヤングケアラーを支援しているか気になる人は、以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひご一読ください。
>>ヤングケアラーを支援したい!ボランティアや必要な支援、支援団体を紹介
相談窓口の設置
ヤングケアラーの実態調査*では、学校や大人にしてもらいたいことで「自分のことについて話を聞いてほしい」という回答も多いです。
そのため、児童相談所や精神保健福祉士による相談窓口が設置されています。
相談窓口は電話やEメールなどで受け付けており、ヤングケアラー本人や周囲の大人など誰でも相談可能です。
- ・児童相談所相談専用ダイヤル:0120-189-783
- ・子どもと家族の相談窓口(日本精神保健福祉士協会):
[email protected]
福祉サービスの提供・提案
自治体の福祉課や子ども支援課では、ヤングケアラーが受けられる福祉サービスの提供・提案をします。
公的な制度やサービスがあっても、子どもでは調べる術や手続き方法が分からないことは珍しくありません。
どのような支援やサービスを受けられるのか、周囲の大人が教えてあげることは非常に大切です。
また、中には世話されている家族が公的支援・福祉サービスを拒否するケースがあります。
その場合は福祉課職員などが繰り返し家庭訪問を試み、ヤングケアラーが適切なサポートを受けられるよう説得することもあります。
学校や周囲の大人の見守り
ヤングケアラーの問題は、学校や周囲の大人がいち早く気付くことが重要です。
学校の欠席や遅刻、不登校の原因分析によりヤングケアラーの問題が発覚することがあります。
ヤングケアラーの実態が発覚後は、身近な大人による継続的な見守りが求められます。
自治体職員が毎日のように様子を観察することは難しいため、学校や親族の助けが必要です。
学級担任による家庭訪問や、ヤングケアラーの親族へ協力を要請し、周囲の大人たちでヤングケアラーを見守ります。
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ヤングケアラーの早期把握と適切な支援が大切
最後に、ヤングケアラーについて紹介した内容をまとめます。
- ・ヤングケアラーとは家族の世話をする子どものこと
- ・ヤングケアラーは学業・交友関係・健康面などに影響が出る
- ・ヤングケアラーは学校でのカウンセリングや、福祉サービスの支援を受けられる
家庭内で起こる問題は外部からは分かりにくいですが、子どもの身なりや言動からいち早く気付くことが大切です。
子どもが明るい将来を考えられる環境は、大人が整えていかなければなりません。
ヤングケアラーの支援についてさらに詳しく知りたい人は、以下の記事もぜひご一読ください。