人は食事を摂り、栄養を吸収して、不必要なものは排泄します。これは自然なことであり、代謝として必要な行為です。
排泄されたものは菌なども含まれていて不衛生であることから、適切に処理されなければいけません。しかし、残念ながらそういった設備がなく、不衛生な環境で不適切に処理されている国や地域もあります。
世界の上下水・衛生施設の実態について紹介します。
持続可能な開発目標・SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」のターゲットや現状は?
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世界における水とトイレの問題
現在の世界において、安全な水や衛生的なトイレを利用できない人が大勢います。
世界人口に対する割合からすれば半数には満たないですが、それでも「利用できない人がいる」ことが問題です。
以前からこの問題は国連などでも取り上げられており、問題解決のためミレニアム開発目標(MDGs)が採択されました。
この目標では「2015 年までに安全な飲み水にアクセスできない人口割合を半減する」ということが掲げられました。
実際に1990年には世界人口53億人のうち、安全な飲み水にアクセスできない人口割合が22%(約12.1億人)も存在しました。それが2010年には世界人口69億人に対して11%(約7.6億人)にまで半減されました。
衛生施設を利用できない人口割合も、45%から37%に改善されています。
MDGsの目標は達成できても、まだ安全な水や衛生施設を利用できない人がいます。
そこで国連では2015年にMDGsに続く新しい目標として、持続可能な開発目標(SDGs)を採択しました。
この国際目標では「全ての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」ことを掲げています。
なぜ安全な水や衛生施設が必要なのか
人にとって安全な水は何よりも必要なものです。生きていく上で欠かせないものであり、毎日必用なものです。
しかしただ使えるだけなく、安全に管理されたものでなければ、健康に被害をもたらす可能性があります。
それは衛生設備も同様であり、衛生的に管理された施設がなければ、疫病が発生する可能性が高くなります。
実際に水不足や劣悪な水質、衛生施設の不備は教育や医療に悪影響を及ぼしています。
その影響は特に開発途上国に多く見られ、サブサハラアフリカや西アジア、南アジアなどでは深刻な状況となっています。
さらに衛生施設の中でも区画されたトイレの存在は、人の尊厳にも関わります。トイレがない地域では、屋外排泄などを余儀なくされることも少なくありません。
その姿を他人に目撃されるのは、人としての尊厳を傷つけることになります。特に思春期の女の子や女性にとっては耐え難い屈辱となる可能性が高くなります。
心身の健康にとって、安全で管理された衛生施設の存在はなくてはならないのです。
(出典:国際開発センター「目標6 安全な水とトイレを世界中に」,2018)
(出典:ユニセフ「衛生的な環境 (トイレ)」,2018)
世界の「下水・衛生施設」の実態とは
世界の各国・各地域における下水や衛生施設の状況はどうなっているのか、整理してみましょう。
トイレの実態
2018年のユニセフによる報告によると、安全に管理された衛生施設を利用できる人は全体の45%(34億人)に留まっていることが分かっています。
安全に管理された衛生施設(トイレ)以外については、以下の4つに分類されます。
衛生施設(トイレ)の状況 | 定義 | 利用者の世界人口割合 |
---|---|---|
基本的な衛生施設 | 他の世帯と共有していない、改善された衛生施設(人間が排泄物と接触しないよう、衛生的に設計された衛生施設) | 29%(22億人) |
限定的な衛生施設 | 他の世帯と共有している、改善された衛生施設 | 8%(6億2700万人) |
改善されていない衛生施設 | 足場がないピット式トイレやバケツに排泄して外に捨てる方式のトイレ、池や川の上に設置され排泄物がそのまま落ちる方式のトイレなど | 9%(7億100万人) |
屋外排泄 | 道端や野原、森、やぶ、水域、海岸、その他の屋外で排泄を行うこと | 9%(6億7300万人) |
屋外排泄は2000年以降、急速にその割合を減らしました。それまでは21%もあった割合が、9%と半分以下になり、23ヶ国は屋外排泄をする人の割合が1%を下回る状況にまで改善しています。
しかしまだ9%の人が屋外排泄をせざるを得ない状況にあるとも言えます。その多くはサブサハラアフリカなどに集中しており、39カ国では屋外排泄をする人はむしろ増加傾向にあるとされています。
手洗いの実態
衛生施設は何もトイレだけに限りません。手洗い設備も衛生施設の1つといえます。
世界の人々の自宅における手洗い設備へのアクセス状況を見たとき、基本的な手洗い設備がある人は全体の60%(45億人)存在します。
基本的な手洗い設備がない人は以下の2つに分けられます。
手洗い設備へのアクセス状況 | 定義 | 利用者の世界人口割合 |
---|---|---|
限定的な手洗い設備がある人 | 水または石けんがない手洗い設備 | 22%(16億人) |
手洗い設備がない人 | 手洗いのための設備が全くない | 18%(14億人) |
安全に管理された衛生施設がないとどうなるのか
トイレや手洗い施設といった衛生施設がないのは、環境として不衛生であると言えます。
ただトイレや水で洗える手洗い設備があれば良いというわけではありません。
排泄物は安全に処理され、帰宅後や排泄後には石鹸を利用して手洗いができる環境が望ましいとされています。
例えば排泄物を安全に管理できない状況は、免疫力の低い子どもたちや高齢者に下痢症を発症させる恐れがあります。
特に免疫力の弱い子どもは、下痢症によって命を落とすことも少なくありません。実際に、世界の5歳未満の子どもたちの8%は下痢によって亡くなっています。
また水と石鹸によって手洗いができないことにより、不衛生な状況と汚染された水によって、コレラや赤痢、A型肝炎、腸チフスなどの疾病に感染することもあります。
子どもたちだけでなく、人々の健康を守るためには衛生的に管理されたトイレと水と石鹸によって手洗いができる設備が必要です。
さらに先ほども触れましたが、人の尊厳を守る上でもトイレは重要となります。
限定的にでもトイレがあれば、排泄の様子を見られることはありませんが、屋外排泄をするしかない場合、その姿を見られることは屈辱的でしょう。
特に女性にとっては非常に大きな問題となります。それは住んでいる地域や被災地、難民キャンプだけでなく、学校でも言えることです。
実際にトイレがないという理由で学校に行けなくなってしまった女の子もおり、それが教育にとっても重大な問題の1つとなっています。
人々の健康を維持し、感染症の拡大を防止し、尊厳をもった生活をするためにはトイレはとても重要な役割を果たします。
(出典:ユニセフ「衛生的な環境 (トイレ)」,2018)
(出典:ユニセフ「衛生的な習慣 (手洗い)」,2018)
(出典:ユニセフ「水と衛生 進歩と格差」,2019)
世界で行われている下水・衛生施設への取り組み
世界ではまだ多くの人が安全な衛生施設を使えていないことから、2013年にトイレにまつわる問題を考え、改善するための日として11月19日を「世界トイレの日」と定めました。
「世界トイレの日」を定めたことで、世界の衛生施設事情について、1人でも多くの人に考えてもらい、できることをしてもらえるように働きかけています。
実際にトイレや手洗い施設がない地域に対して、政府や企業、支援団体による取組も行われています。
具体的には、トイレの作り方を伝える方法や、トイレ作りに必要な資材の提供、簡易的な衛生的トイレを設置できるキットの贈呈などが行われています。
また根本的に衛生的な習慣がないという地域もあるため、石鹸での手洗いを普及し、同時に石鹸の提供などが行われた地域もあります。
衛生的な生活についての知識が欠落しているため、そのような普及活動も、改善への一歩となります。
(出典:ユニセフ「11月19日は「世界トイレの日」」,2017)
SDGs目標6のターゲットにあるように、衛生的な環境は重要
私たちは日本に住み、当たり前のように衛生的な環境で生活できています。
その背景には多くの研究や努力により、ここまでの環境が提供されるようになりました。
経済的な問題などもありますが、この環境は日本を含む先進国など限定的な国や地域にだけ提供されるのではなく、世界中のすべての人々に与えられるべきものです。そのために今、世界では問題として取り上げ、対策を講じています。
私たちにとって直接衛生施設を提供するのは難しいことですが、ボランティアや寄付などの支援をすることにより、間接的に協力することはできます。
世界のトイレ事情などについて知り、私たちにできることを1つずつ始めることをおすすめします。
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