教育の現場において、子どもたちに質の高い教育を施し、生きていくための知識や技術を教えてあげられるのは教員の人々です。
SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」では、ターゲットとして「質の高い教員」というものがあります。
質の高い教員がいることで、質の高い教育が行われるのですが、実際にはそのような教員が全ての国や地域にいるわけではありません。
この記事では世界に見る「質の高い教員」の実態について紹介します。
持続可能な開発目標・SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」のターゲットや現状は?
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SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」とは
持続可能な開発目標(SDGs)は「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性(※)のある社会の実現のため、2030年を期限として採択された国際目標です。
目標は全部で17項目あり、その下には169のターゲットと232の指標が設けられています。
その中には貧困や飢餓、ジェンダー、水・衛生など世界で問題となっている事柄についてどのように取り組んでいくべきなのか、などが記されています。
SDGsの目標4には教育について「質の高い教育をみんなに」という目標が掲げられています。
世界では日本のように教育環境が整備されておらず、様々な理由で教育を受けられない子どもがいます。
そんな子どもたちに教育を受けられる環境を提供し、さらに読み書きや計算など基礎的な能力や、これから生きていく上で必要な知識を身に付けられる質の高い教育を受けられるようにする必要があります。
この教育はSDGsで掲げられた目標の多くを解決に導くきっかけにもなります。教育を受けることで知識や技術を身に付け、貧困から脱することも可能であり、飢餓を解決することができるかもしれません。
また、教育があることでジェンダーに対しての考え方が変わり、女性の早期の結婚や妊娠、子どもへの略取を防ぐことができるかもしれません。
持続可能な社会を作り上げていく上で、教育というのは非常に重要となっています。
このような可能性を示していく上でも、質の高い教育が求められますが、その根本には質の高い教員が必要不可欠です。
※包摂性:1つの事柄をより大きな範囲に取り込むこと
(出典:国際開発センター「目標4 質の高い教育をみんなに」)
SDGs目標4のターゲットにある「質が高い教員」の実態
質の高い基礎教育を全ての子どもたちに提供する上で、教員が果たす役割は非常に大きいと言わざるを得ず、そのためには質が高い教員、優秀な教員を必要とします。
SDGsの目標4にあるターゲットの中にも「2030年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国(※)における教員研修のための国際協力などを通じて、質の高い教員の数を大幅に増加させる。」とされています。
優秀な教員との出会いが人生を変えた、という声はしばしば聞かれますが、優秀な教員の条件とはなんでしょうか。
それを簡潔に表すと、技術的に有能であること、身体的・精神的・情緒的に健全であること、意欲があり熱心であることが求められます。
どの教員もこのような資質を兼ね揃えている、あるいは教員の養成においてこれらを身に付けることができるのであれば、優秀な教員による質の高い教育を提供することもできるでしょう。
しかし実際には、教員が質の高い基礎教育を提供することを困難にする課題や障害があると言わざるを得ず、また多くが提供できていないという実態があります。
※小島嶼開発途上国(しょうとうしょかいはつとじょうこく):小さな島で国土が構成される開発途上国
教員の課題
教員の課題を挙げると3つに分かれ、教員養成、学習環境、勤務条件に分類できます。
国によってその傾向は異なるものの、大きく分けると課題としてはこれらが挙がります。
教員養成
学校の環境は急速に変化している一方で、教員養成課程がそれに対応できていません。
結果として教員養成課程を履修した卒業生は、教室の現状に対応できるように十分な訓練を受けられないため、教員養成課程で学んだことだけでは現場の要求に対して適切に対処できません。
また、中等教育の教員は各教科の専門性を求められますが、理数科に関しては理系を説く意図する学生の多くが教育以外の進路を志望することが多く、教員を目指す学生で理数科を専攻する学生が少ないという報告があります。
その結果、理数科の教員の多くが教育養成課程で理数科を専攻しておらず、必要に迫られて理数科を教えているケースも少なくありません。
さらに東南アジアの多くの国々では、中等教育の卒業者で教職課程を第一志望にする人があまりいないという現実もあります。
これは勤務条件が悪く、教員は身分が低いと思われているため、優秀な人材は教職を志望しないという話もあります。
学習環境
開発途上国の多くは、教育の財源が不足しており、教員や教室、教材などの基本的なリソース(資産・資源)が十分に提供されておらず、都市部を中心として一学級あたりの児童生徒数が多くなりがちとなっています。
同じ教室に様々な生徒がいるため、教員が生徒一人ひとりの理解度を確認しながら、そのレベルに応じた指導ができず、多人数学級を教える教員にとっては質の高い教育を行うのは困難となることが多くなります。
勤務条件
教員の給与は一般的に低く、他の職業と比較するとそれは如実に浮かび上がります。昇進も研修機会も限られており、勤務時間も長くなる場合が多く、校外で様々なことを要求されることから勤務条件が良くないという課題があります。
マラウイで起こった教育の質の低下
マラウイは1964年にイギリスから独立した国ですが、独立後しばらくは初等教育の就学者数が増加し、順調な教育発展を遂げました。
しかし1980年台の構造調整政策(※)を受け入れたことで、教員の給与が大幅に減額され、初等教育の就学者数が低下傾向へと転向しました。
また、給与の減額により教員のモチベーションは低下し、教育の質の低下が発生しました。
初等教育の就学者の減少などを抑えるため、マラウイでは周辺国に先駆けて初等教育の無償化が導入され、就学者を増やすことに成功しました。
ただ急増する就学者に対して教員不足や施設不足が顕著となり、教育の質が著しく低下してしまったのです。
そこで2000年代には有資格者教員を短期間で急増させる簡素な教員養成課程が導入されましたが、これは結果的に全体的な教員の質の低下を誘発してしまい、教育の質にも悪影響を及ぼしています。
上記にあるように質の高い教員を妨げる3つの課題を全て網羅してしまった結果、就学者は増えても教育そのものの質は落ちしてしまったと一例となってしまいました。
※構造調整政策:途上国が世界銀行などから金融支援を受ける前提として要求される政策勧告。
(出典:広島大学「質の高い基礎教育を推進するための教員の課題」)
(出典:J-STAGE「グローバルガバナンスと「教育の質」」,2016)
SDGs目標4の達成に向けて質の高い教員を育成するには
質の高い教員を育成するための方法はいくつか挙がりますが、基本的には先に紹介した3つの課題を解決していく必要があると言えます。
教育を行う環境を整え、教育の現場に対応できるような養成を行い、勤務条件を改めるということが理想です。
しかしそれはなかなか難しいのが現状でしょう。そのためまずは学校教育の環境を整え魅力ある現場を作るという動きが見られます。
開発途上国であれば、そもそも学校の環境そのものが整っていない場合があります。
設備が整えられ、教材などもしっかり用意されている環境は教員だけでなく、教育を受ける子どもたちにとっても必要な場です。
学校がない地域には新たに建設し、壊れてしまった地域では改修や修繕を行い、男女別のトイレなどの衛生施設や運動場、学校菜園などを整えることで質の高い教育を行える環境を作り上げます。
その上で、正規の教育を行う教員の研修を行い、教員のスキルアップを図っています。
また民族的・語学的マイノリティーや障害のある子どもを含め、誰もが教育を受けられ、個々のニーズに応じた教育を受けられる「インクルーシブ教育」の導入が行われている地域もあります。
これにより、必要な教員養成の充実化や現職教員の能力強化などを支援が受けられます。
他にも「みんなの学校」プロジェクトでは教員と保護者、地域住民の協働により教育改善を目指すという取り組みも行われています。
教員の仕事は増えてしまいますが、住民の選挙に決められた学校運営委員会を設立し、現状や課題を元に教員と保護者が対応策を議論するなどの取り組みが行われ、教員だけでなく周囲の人たちと協力した教育を行うことで、教育の質を改善する動きも見られます。
(出典:国際協力機構「変わる、世界と日本の教育」)
(出典:公益財団法人 日本ユニセフ協会「アフリカに教育支援が必要な理由」)
SDGs目標4「質が高い教育をみんなに」のためには地域住民が協力することも必要
質の高い教育は学校の環境を整えただけでは為されず、教員の育成を行ったとしても不足します。
教育にはどちらも必要であり、子どもたちが教育を受けられる環境を整え、教員が質の高い教育を行える場を作ることで成立します。
そしてそれは行政や関連機関、教育現場の人々だけに押し付けてはいけません。私たち地域住民の協力も必要となってきます。
それぞれが助け合い、そして理解を示すことで質の高い教育は作り上げられます。質の高い教員の養成はできませんが、質の高い教育を行ってもらえる環境を作ることができるよう、私たちにでもできることから取り組んでいくことをおすすめします。
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