自然界には多くの動植物種を含む生態系がありますが、それは元からいる在来種によるものばかりではありません。意図的あるいは非意図的な理由で、本来はそこにいなかった種族が入り込んでいることがあります。
そのような種族の中には既存の生態系を壊し、他の種を絶滅にまで追いやったものもいます。
2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」では、目標15として「陸の豊かさも守ろう」を定め、その中で外来種の侵入防止について触れています。
この記事では外来種の侵入防止について紹介します。
持続可能な開発目標・SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」のターゲットや現状は?
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SDGsと外来種の侵入防止
持続可能な開発目標(SDGs)とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年に「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載され、国連サミットで採択された、持続可能でより良い世界を2030年までに目指す国際目標です。
地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓い、17のゴール・169のターゲットから構成されています。SDGsは、発展途上国だけでなく先進国自身が取り組む普遍的なものであり、日本も積極的に取り組んでいます。
SDGsの目標15として「陸の豊かさも守ろう」があります。この目標は森林を持続可能な形で管理し、劣化した土地の回復や生物多様性の損失に終止符を打ち、次世代へ天然資源の恩恵を引き継いでいくことです。
そのためには外来種の侵入を防止することも重要になってきます。
SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」のターゲットの中で、外来種の侵入防止について触れているものを紹介します。
ターゲット | |
---|---|
15.8 | 2020年までに、外来種の侵入を防止するとともに、これらの種による陸域・海洋生態系への影響を大幅に減少させるための対策を導入し、さらに優先種の駆除または根絶を行う。 |
(出典:国際開発センター「目標15 陸の豊かさも守ろう」,2018)
(出典:外務省「SDGsとは?」)
広がり続ける外来種による被害
私たちの周りを含め、世界中に様々な生態系は形成されています。そこには多種多様な動植物が生息しており、生産者、消費者、分解者にわかれ食物連鎖がなされています。
特に私たちと同じように陸上に住む生態系は地球上の約3割を覆っており、私たちに様々な恩恵を与えてくれています。
それは仕事や食料、燃料、医薬品などすべての供給源になっていますが、裏を返せばその陸上生態系が生み出す財やサービスが得られなくなれば私たちの生活は成り立たなくなります。
生活の基盤となっている陸からの豊かな恩恵を守るために、持続可能な開発目標(SDGs)では目標の中に「陸の豊かさも守ろう」を掲げています。
その中には生態系を形成する環境や、生物多様性の確保と保全などがターゲットになっています。
生物多様性については外来種の侵入についての項目があるのですが、以前から外来種による被害が世界的にも問題になっています。
(出典:国際開発センター「目標15 陸の豊かさも守ろう」,2018)
侵入する外来種とその原因
そもそも外来種とはどのような生物なのでしょうか。
外来種は基本的に人の手によって、本来の自然分布域からその生物が生息していた地域以外に移動させられてきた生物を言います。
外来種以外にも外来生物や侵入生物、侵入種、移入生物、移入種とも呼ばれます。
日本は元々貿易大国ですが、国内には2,000種を超える外来種が存在します。種としてもこれだけ多くの外来種がいますが、個体数も増加してしまうのが外来種の厄介なところです。
外来種の定着による個体数増加
外来種は移動先で繁殖集団を形成します。これを定着あるいは帰化といいますが、その土地に定着し、生態系や農林漁業、果ては人間の健康や日常生活にも影響を及ぼします。
特に大きな影響を及ぼすものを侵略的外来生物と言い、日本だけでなく世界で問題になっています。
本来生物は環境が変われば、元いた所の生態系とは異なることから子孫などを残せず定着できないものも多いのです。
ただし中には移動してきた先の環境に適応したり、新たな環境がこれまでの生態系よりも好環境であったため、個体数を大きく増やすこともあります。
個体数を増やす要因の1つに天敵がないことが挙げられます。元の生態系ではその外来種を捕食するような生物がいる場合、食物連鎖の関係から個体数はバランスを取りながら増減を繰り返します。
しかし移動先に天敵がおらず餌になる生物が多ければ、次々と捕食し繁殖を重ねて個体数を増やしてしまいます。このような理由で外来種が定着してしまうことが多いのです。
固有種の絶滅を引き起こした侵略的外来生物グリーンアノール
先ほど出てきた侵略的外来生物の例として、小笠原諸島に入ってきたグリーンアノールが挙げられます。
小笠原諸島は陸続きになったことがない孤島であることから、独自の固有生物の宝庫となっていました。
そこへ小型トカゲであるグリーンアノールが、天敵がいなかったことと主食となる昆虫が豊富にいたことから次々と固有種を捕食し、個体数を増やして定着してしまいました。
それにより、小笠原諸島に生息していた昆虫のうち、絶滅の危機に瀕した種や既に絶滅してしまったものも多いとされています。
外来種が侵入する原因
外来種が侵入する要因は主に2つあります。それが意図的導入と非意図的導入です。意図的導入は故意に自然分布域の外へ運び出されることを言い、いくつかに分類することができます。
飼育動物・餌生物・観葉植物の放逐・逸出 | ペットの放逐や脱走 | アライグマ、ミシシッピアカミミガメなど(放逐),鳥類の一部(脱走) |
---|---|---|
餌動物の逸出 | アメリカザリガニなど | |
動物園などからの逸出 | タイワンザル、キョンなど | |
観察植物の逸出 | ボタンウキクサなど | |
釣り・狩猟対象生物の放逐 | オオクチバス、ニジマス、イノシシなど | |
食用・水産資源生物の放逐・逸出 | スッポン、ウシガエル、ウチダザリガニ、サケ科魚類の一部など | |
緑化植物の逸出 | 法面緑化植物 | シナダレスズメガヤ、オニウシノケグサなど |
街路樹 | ハリエンジュなど | |
天敵導入(生物農薬) | 害虫・害獣の天敵を導入 農業害虫・害獣駆除 |
オオヒキガエル、ニホンイタチ、ヤマヒタチオビなど |
衛生害虫駆除 | カダヤシなど | |
その他 | 毛皮用の哺乳類の放逐・逸出 | マスクラット、ヌートリア、アメリカミンク |
実験材料・教材用生物の放逐・逸出 | アフリカツメガエル、オオカナダモ |
意図的導入とその代表例をまとめたものになります。その意図には人の不注意によるものから、何かしらの理由の元に放逐されたもの、あるいは逸出(抜け出ること、逃げ出ること)したものと報告されています。
一方で人や物の移動に伴い、意図せず運ばれたものが非意図的導入と言われます。導入経路や侵入経路は生物によって様々ですが、これらを特定した上で監視や検疫が必要な外来種でもあります。
建築資材や土砂などの輸送に随伴 | アルゼンチンアリ、セアカゴケグモ、ヤモリ類など | |
---|---|---|
水産物・農産物・園芸植物などの運搬に随伴 | 水産業対象魚の種苗放流に混入する魚類 | ブラウントラウト、タイリクバラタナゴ、ビワヒガイなど |
農産物や牧草に混入する害虫 | イネミズゾウムシ、トマトサビダニなど | |
雑草 | アレチウリ、ワルナスビなど | |
園芸植物などに随伴する害虫・爬虫類 | シルバーリーフコナジラミ、ヤンバルトサカヤスデ、ヤモリ類など | |
貨物船などに随伴 | 船体に付着、またはプランクトン幼生期にバラスト水に混入する海産無脊椎動物 | ムラサキイガイ、チチュウカイミドリガニ、フジツボ類、ホヤ類など |
軍事物資の輸送に随伴 | ミナミオオガシラ、アカカミアリなど | |
意図的に運ばれる生物に寄生 | マツ類に寄生 | マツノザイセンチュウなど |
両生類に寄生 | カエルツボカビ菌など |
(出典:環境省「日本の外来種対策」)
(出典:国立研究開発法人 国立環境研究所環境省「侵入生物データベース 『侵入生物とは?』」)
(出典:国立研究開発法人 国立環境研究所環境省「侵入生物データベース 『原因は何か?』」)
(出典:国立研究開発法人 国立環境研究所環境省「侵入生物データベース 『その影響は?』」)
(出典:東京都環境局「外来生物が及ぼす被害」)
外来種による影響
外来種による影響は主に生態系と人の生命や身体、農林水産業への影響に分けられます。
生態系への影響
本来生態系は、長い時間の中で食物連鎖を繰り返し、微妙なバランスの元で増減を繰り返し、成り立っています。
しかしここに外来種の侵入が発生すれば、在来種を捕食するだけでなく、在来種の生息・生育環境を奪い、餌の奪い合いを行うことで、バランスを崩してしまうことがあります。
それだけでなく遺伝的撹乱として近年の在来種と交雑してしまい、雑種が生まれることで在来種の遺伝的な独自性が損なわれる可能性もあります。
人の生命や身体への影響
人の生命や身体への影響も大きな問題です。外来種の中には毒を持っているものがいて刺されたり噛まれたりする危険があります。
また本来その国や地域にいなかった動植物であることから、病気の発症や感染の危険が増加してしまいます。
2014年にはセアカゴケグモの定着が大きな話題となりました。セアカゴケグモは毒グモであり、東京都内の6区市でも個体が確認されました。
強い毒性を持つメスに噛まれると、痛みや発汗、発熱といった全身症状や皮膚の壊死などの重症化を起こす危険性もあります。
農林水産業への影響
農林水産業への影響は主に農作物を食い荒らし、畑を踏み荒らす被害や産業の対象となる生物を捕食したり、危害を加えたりする被害になります。
近年はアライグマなどについての相談が都内でも増加しており、有害鳥獣として捕獲される数も増えています。
(出典:環境省「日本の外来種対策」)
(出典:国立研究開発法人 国立環境研究所環境省「侵入生物データベース 『侵入生物とは?』」)
(出典:国立研究開発法人 国立環境研究所環境省「侵入生物データベース 『原因は何か?』」)
(出典:国立研究開発法人 国立環境研究所環境省「侵入生物データベース 『その影響は?』」)
(出典:東京都環境局「外来生物が及ぼす被害」)
外来種侵入への対策とは
外来種の被害はかなり前から起こっており、既に対策も講じられています。外来種の侵入に対しての対処法は主に2つに分かれ、予防的対策とすでに定着している外来種への対策があります。
予防対策
予防的対策としては、外来種の侵入を未然に防ぐ方法が取られます。
外来種被害予防三原則として「入れない」「捨てない」「拡げない」があり、以下のように規定しています。
その上で法規制を行い、持込や放逐などを法的に厳しく規制することが重要だとされています。
ただし、非意図的導入や密輸・密放流される外来種に対しては法規制だけでの効果は限定的という課題はあります。
密輸に関しては、ワシントン条約による輸出国と輸入国間の協力のもとでの規制が行われているため、非意図的な導入と共に監視や検疫を実施しています。
すでに定着している外来種への対策
すでに定着している外来種に関しては、駆除のための戦術として、罠などによる捕獲や捕殺といった物理的方法や、殺虫剤・除草剤など化学的方法、天敵を導入する生物学的方法があります。
ただし、天敵の導入は新たな外来種の定着により、生態系が破壊されないように留意する必要があります。
このような戦術を取りつつ、外来種の根絶や個体数管理、封じ込め、深刻な被害を受ける在来種の一時退避など影響緩和策を実施しています。
(出典:国立研究開発法人 国立環境研究所環境省「侵入生物データベース 『どう対処するのか?』」)
(出典:環境省「日本の外来種対策」)
SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」を達成するために外来種の侵入と繁殖を防ごう
外来種は様々な場所に定着しています。私たちの周りにも存在しており、知らず知らずのうちに個体数を増やしています。
在来種にとっても危険な存在ですが、中には私たち人間にとっても危険な生き物もいます。
外来種に罪はなく、ただ生きるために捕食などを行っていますが、それによって在来種が絶滅する可能性があり、生態系が崩れてしまいます。
SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」を達成するためにも外来種の侵入と繁殖を防ぐのは大切なことです。
もし外来種を見つけたら自治体の関係課などに報告しましょう。むやみやたらと手を出して、人体に危害が及ばないとも限りません。
在来種や自分たちの身を守れるように、外来種についての知識をつけておくことも重要です。
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