ジェンダーの平等、とりわけ女性の権利や自由、差別の撤廃は昔から強く求められていました。
そのような時代の流れから、国際的にジェンダーの問題について議論し、問題を解決していこうと開催されたのが国際人口開発会議です。
SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」では、ターゲットとして「国際人口開発会議」という言葉が出てきます。
この記事では、国際人口開発会議とは何か解説します。
持続可能な開発目標・SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」のターゲットや現状は?
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SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」とは
ジェンダーの平等とは男女の格差を是正するだけでなく、男性も女性も全ての人が自らの能力を最大限発揮するための機会を享受することができる世界であり、平等で公正に機会が与えられることを言います。
このジェンダー平等を実現することにより、持続可能な社会を築くための基盤を構築することもできます。
ジェンダーの問題は世界中で根強く残っており、社会の発展の妨げにもなってきました。
そのため国際的な問題として国連で取り上げられ、持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標の中の一つに、ジェンダー平等の実現が掲げられました。
この目標は、全ての女性と女児のエンパワーメント(力をつけること)を図ることを目的としています。
世界人口の半数を占める女性と女児が活躍できることは、世界の可能性を広げることにもつながります。
つまり世界の可能性の半分は女性や女児が担っているといっても過言ではないのです。
ジェンダーの不平等は至る所にあり、日本も例外ではありません。政治的、あるいは経済的な意思決定のプロセスにおいて、女性の参画が著しく遅れています。
ジェンダーによる差別や暴力、有害な慣行は撤廃・排除されなければならず、家事や育児などの無報酬労働の席に分担、意思決定への女性の参画がなされなければ、政治的あるいは経済的な平等は提供されません。
また性と生殖に関する健康・管理に関しても、すべてのカップルと個人が性と生殖に関する決定を自らの責任において自由に行うことができ、そのために必要な情報や手段へのアクセスを享受できることが必要となっています。
これらの問題を解決することは、全ての人が基本的人権を享受できる未来へ一歩を踏み出すことにもつながります。
SDGs目標5では9つのターゲットに据えて、世界中でジェンダー平等を達成するための取り組みが行われています。
ターゲット | |
---|---|
5.1 | あらゆる場所におけるすべての女性および女子に対するあらゆる形態の差別を撤廃する。 |
5.2 | 人身売買や性的、その他の種類の搾取など、すべての女性および女子に対する、公共・私的空間におけるあらゆる形態の暴力を排除する。 |
5.3 | 未成年者の結婚、早期結婚、強制結婚、および女性器切除など、あらゆる有害な慣行を撤廃する。 |
5.4 | 公共のサービス、インフラ、および社会保障政策の提供、ならびに各国の状況に応じた世帯・家族内における責任分担を通じて、無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価する。 |
5.5 | 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参加および平等なリーダーシップの機会を確保する。 |
5.6 | 国際人口開発会議(ICPD)の行動計画および北京行動綱領、ならびにこれらの検討会議の成果文書に従い、性と生殖に関する健康および権利への普遍的アクセスを確保する。 |
5.a | 女性に対し、経済的資源に対する同等の権利、ならびに各国法に従い、オーナーシップ、および土地その他の財産、金融サービス、相続財産、天然資源に対するアクセスを与えるための改革に着手する。 |
5.b | 女性のエンパワーメント促進のため、ICTをはじめとする実現技術の活用を強化する。 |
5.c | ジェンダー平等の促進、ならびにすべての女性および女子のあらゆるレベルでのエンパワーメントのための適正な政策および拘束力のある法規を導入・強化する。 |
(出典:国際開発センター「目標5ジェンダー平等を実現しよう」,2018)
SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」にあるターゲット「国際人口開発会議」とは
1994年にカイロで初めて国際人口開発会議(ICPD)が行われました。この会議では「セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)」の概念が公式に提唱されました。
このセクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは人々が安全で満ち足りた性生活を営むことができ、生殖能力をもち、子どもを産むか産まないか、いつ産むか、何人産むかを決める自由をもつことを意味します。
そしてこの会議ではジェンダーについてのあらゆる問題について議論がなされ、人口は数の問題ではなく、1人ひとりの尊厳と生活の質に関する問題であると合意され、課題解決のための行動計画などが採択されます。
この会議が行われることになったのには時代背景として、1994年にいたるまで世界で起こった様々な運動が影響しています。
第二次世界大戦後、女性の地位委員会の設立や世界人権宣言の発効、世界人口会議が開催されました。
また、欧米諸国では1960年に中絶禁止反対運動、1967年には女子差別撤廃宣言、1975年を国際女性年とする国連総会の決議や、1981年の女子差別撤廃条約の発効など、女性への差別を中心とした人権や自由に関する動きです。
もちろんこれらは一部であり、他にも様々な要因が影響して、1994年に女性の差別を含んだジェンダーの様々な問題を解決するため、会議がカイロで開かれることになりました。
ICPDはこのような女性の権利の歴史において、また、人口と開発分野の歴史においても画期的な会議と言えます。
すべての人に価値があるという考え方を基本として、女性のエンパワーメント自体を目的とするのではなく、貧困を減らし、人口増加を安定させる一つの手段であることを明確化しました。
そのような意味では、SRHRは女性のエンパワーメントの基礎となります。
カイロ会議では人口統計学的な目標を達成することで、個人のニーズや権利に重点をおいたカイロ行動計画が、参加した179カ国によって採択されました。
この行動計画は20ヵ年計画となっており、2015年までに誰もが初等教育を受け、乳幼児と妊産婦の死亡率を減少、助産師や産婦人科医の立会いの下で出産、HIVを含む性感染症の予防を推進することなどが盛り込まれました。
ICPDは1年に1回開かれていますが、行動計画に関しては5年に1度、再確認と議論が行われています。
2019年で25周年を迎えており、ここではカイロ行動計画に置ける「残された課題」について達成するための議論がなされました。
ICPD25が開催されたナイロビ・サミット
第1回目のカイロ会議から25年が経ち、人口問題に関する各国の合意に基づいて採択されたカイロ行動計画について、現状に残された課題の達成を目的とし、開催されたのがICPD25ナイロビ・サミットです。
2019年の11月に3日連続で開催されたこのサミットは、ケニア政府とデンマーク政府、国連人口基金東京事務所(UNFPA)の共催のもと行われました。
各国首脳や大臣、政府機関、国会議員、地方自治体、国際機関、民間企業、研究機関、NGOや市民団体など170カ国以上から総勢8,300人以上が出席した大規模なサミットです。
このサミットの特徴の一つに、議論だけで終わらせず、サミット閉幕後に「行動計画」を達成させるために必要な「コミットメント(誓約・約束)」を参加者らが表明します。
ICPD25では、各国政府や企業、NGOなどから1,253のコミットメントがありました。
また、このコミットメントに伴う総額は80億米ドルにも上っています。コミットメントは以下の5つのテーマに沿って提出され、提出された内訳は以下の通りです。(小数点以下の繰り上げのため、合計が101%となっています)
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)(※1)達成のためのセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスの完全普及 | 43% |
経済成長と持続可能な開発を推進するための人口動態の多様性の活用 | 23% |
ジェンダーに基づく暴力と有害な慣習(児童婚、FGM(女性器切除))への対応 | 21% |
人道危機下におけるセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスケアに関する権利の保障 | 8% |
国際人口開発会議(ICPD) 行動計画の達成とこれまでの成果を維持するための資金調達 | 6% |
ナイロビ・サミットに先駆けて行われたUNFPAとジョンズ・ホプキンズ大学などとの共同研究によれば、今後10年間でカイロ行動計画の残された課題を達成するために必要な額も算出されています。
特に資金が必要とされたのは「妊産婦死亡をゼロに」する活動であり、これには1155億米ドル必要だと言う試算になっています。
また、「ジェンダーに基づく暴力をゼロに」するためには420億米ドル、「児童婚をゼロに」するためには350億米ドルが必要だとされています。
そしてこのサミットのではナイロビ声明が発表され、12のコミットメントが制定されています。
- ICPD行動計画の達成を加速させ、持続可能な開発のための 2030 アジェンダを実現する
- 家族計画サービス(※)へのアクセスが満たされない状況をゼロに
- 妊娠や出産による妊産婦の死亡・疾病をゼロにし、UHC政策に組み込む/li>
- すべての若者が正しい知識と情報を入手し、自身でSRHRの選択ができるようにする
- ジェンダーに基づく暴力と児童婚や女性器切除などの有害な慣習や差別をゼロに
- ICPD行動計画の実現を推進するための国家予算配分と新しい資金調達の検討
- ICPD行動計画を実施するための国際的な資金調達を増加する
- 人口の多様性に考慮しボーナスを活用するために、若者、特に少女に対する教育、雇用、健康などへの投資
- あらゆる差別の無い、平和かつ公正で包括的な誰も取り残されない社会づくり
- 適格なデータに基づく政策を可能にするためのデータシステムの構築
- 若者の健康とウェルビーイング(※3)に関する決定プロセスに当事者である若者を含める
- 人道危機や紛争後の脆弱な状況における基本的人権の確保とSRHRの保障
特にこのナイロビ・サミットでは、家族計画サービスへのアクセスが満たされない状況をゼロにすること、妊娠・出産による妊産婦の死亡をゼロにすること、児童婚などの有害な慣習とジェンダーに基づく暴力をゼロにすることに焦点を当てて議論がなされました。
2015年9月の国連総会で定められたSDGs目標5のターゲットの一つとしてUHCの達成が位置づけられており、すべての人々が基礎的な保健医療サービスが受けられ、医療費の支払いにより貧困に陥るリスクを未然に防ぐことが重要であることが確認されています。
※1 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage : UHC):
「全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」のこと
※2 家族計画サービス:開発途上国の出生力を引き下げようとする人口プログラム
※3 ウェルビーイング:身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味すに関する決定プロセスに当事者である若者を含める
(出典:国際協力機構「1.はじめに」)
(出典:国連人口基金東京事務所「ICPD25周年 ナイロビ・サミット開催報告」,2019)
SDGs目標達成のためにはジェンダー平等が重要
SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」のターゲットである国際人口開発会議(ICPD)はジェンダー平等を達成し、世界中の誰もが尊厳ある人間生活を送れるように開かれた会議です。
この会議では人口は数の問題ではなく、一人ひとりの尊厳と生活の質に関する問題である、と合意されたもので、女性の権利の歴史においても、大きな影響を与えたものになります。
ジェンダー平等を実現することは、他のSDGs目標達成にも前進することにも繋がります。
既に25年続いているこの会議及びサミットでは多くの人が関わり、世界でジェンダー平等を実現するために動いています。
しかしどれだけ世界がジェンダー平等を叫んでも、そこに住む私たちが、この問題について考え、意識を変えていかなければ、真の意味での平等は訪れません。
この問題は私たち一人ひとりの問題でもあります。誰もがこの問題を知り、議論し、考えていくことがジェンダー平等を達成するための第一歩となるでしょう。
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