日本には、貧困に苦しむ人々を助けるために設けられている手当があります。
この記事では貧困に係る手当について、その種類や内容などを紹介します。
手当が必要な理由は?貧困で苦しむ人々とは
2020年時点の日本の経済は、長期間の不況から少しずつ上向きの傾向になりつつあります。しかしその間にも様々な問題が浮き彫りになり、今も貧困に苦しむ人がいます。
日本ではひとり親世帯が一定数存在します。厚生労働省により2016年に行われた調査では、母子世帯が123.2万世帯、父子世帯が18.7万世帯という結果となりました。
ひとり親世帯は何らかの理由で片親となり、仕事をしつつ子どもを養っている世帯です。
母子世帯の平均年間収入は243万円となっており、母子世帯の多くが平均年間収入近くかそれ以下の収入で生活していると考えられています。
その背景は母子世帯の就業状況にあります。
正規雇用として働いている母子世帯は44.2%と5割を下回っており、一方でパートやアルバイトは母子世帯が43.8%という現状があります。
このように母子世帯は低収入の中で生活を維持しつつ、子育てをしていかなければいけません。
父子家庭の中にも貧困状態にある世帯はあり、そのような世帯にとって、児童手当や児童扶養手当、遺児手当などは必要な手当です。
そのほかにも、2008年のリーマンショック以降、失業率は大きく変動し、翌年の2009年の完全失業率は5.1%、有効求人倍率は0.47倍とここ20年間の間では最低まで落ち込みました。
徐々に回復していき、2018年には完全失業率が2.4%、有効求人倍率も1.61倍にまでなっています。
それでも10年ほどの間に多くの失業者が出ているため、その人々が生活を維持していくため、そして新しい職に就くためにも失業手当などの支援は必要です。
(出典:厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果の概要について」,2016)
(出典:総務省「完全失業率と有効求人倍率の推移」,2018)
貧困に係る手当は非課税
手当には様々なものがありますが、貧困に係る手当には税金がかからないように法律で定められています。
これは所得税法に明記されているものであり、社会的配慮から創設された手当は課税の対象外とする所得です。
このような手当を申請する家庭は低収入であり、税金は大きな負担となり得ます。
貧困に苦しむひとり親世帯はもちろんのこと、失業状態に陥った人なども、仮に手当が課税対象であった場合、翌年の所得税に影響を与えてしまい負担が増えることになります。
そのため、貧困に係る手当には原則として課税をしない方針です。
※2020年11月時点
(出典:国税庁「所得税の意義と特色」)
貧困に係る手当の種類
貧困に係る手当はいくつか挙げることができます。
子育て世帯の支援のために設けられている児童手当や児童扶養手当、両親のどちらかあるいは両方が死亡してしまった遺児に支給される遺児手当があります。
これはひとり親世帯など子育てを行う世帯を中心に設けられた手当です。
ほかにも、何らかの理由で住む場所がなくなりそう、あるいは住む場所がなくなってしまった人に支給される住宅手当や、失業してしまった人の再就職までの支援策として設けられた失業手当も含まれます。
これらの手当は、対象となる条件、支給要件、支給金額、支給時期や期間などが設けられているため、それぞれの内容を理解しておく必要があります。それぞれの手当について内容を見てみましょう。
児童手当とは
児童手当について、内閣府では以下のように記されています。
児童手当は、子ども・子育て支援の適切な実施を図るため、父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有するという基本的認識の下に、家庭等における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健やかな成長に資することを目的としています。
(引用:内閣府「児童手当」)
この目的の下、その対象となるのは中学卒業まで、厳密には15歳の誕生日を迎えた後の最初の3月31日までの子どもを養育している人、原則として子どもが日本国内に住んでいることが前提です。
ただし留学のために海外に住んでいても、一定の要件を満たしていることで支給対象になります。
支給対象に該当していれば子どもの年齢や所得の状況により、支給額が変わります。
支給額には所得制限限度額が設けられており、その制限額以下であれば児童手当の支給を受けることが可能です。
子どもの年齢 | 児童手当の額(1人あたり月額) |
---|---|
3歳未満 | 一律1万5,000円 |
3歳以上 小学校修了前 |
1万円 (第3子以降は1万5,000円) |
中学生 | 一律1万円 |
また子どもを養育している人の所得が、この所得制限限度額を超えていたとしても、法律の附則に基づく特例給付として、子ども1人あたり月額一律5,000円が支給されます。
この手当が、原則として毎年6月、10月、2月に、それぞれの前月分までの分が支給されます。
(出典:内閣府「児童手当」)
(出典:内閣府「児童手当制度のご案内」,2012)
児童扶養手当とは
児童扶養手当は福祉施策の一つとして、内閣府により以下のように記されています。
離婚によるひとり親世帯等、父又は母と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、当該児童について手当を支給し、児童の福祉の増進を図る。
(引用:内閣府「ひとり親家庭に対する支援」,2018)
2012年までは母子世帯のみが対象となっていましたが、同年8月からは父子世帯も対象となりました。その後も何度か改正がなされています。
支給対象者は、18歳に達する日以降の最初の3月31日までの子どもの母、あるいは生計を同じくする父または祖父母などの養育者が該当します。ただし障がいのある子どもの場合は20歳未満とされています。
ただしこれは支給対象者の条件であり、さらに支給要件が加わります。
支給要件は、父母が離婚した子ども、父または母が死亡した子ども、父または母が一定程度の障がいの状態にある子ども、父または母の生死が明らかでない子どもを監護していることです。
また支給額を決定する際に、所得制限限度額も設定されています。この所得制限限度額をもとにした児童扶養手当の手当月額は以下のようになっています。
全部支給 | 一部支給 | ||
---|---|---|---|
子ども1人の場合 | 4万2,500円 | 4万2,490円から1万30円まで | |
子ども2人以上の加算額 | 2人目 | 1万40円 | 1万30円から 5,020円まで |
3人目以降1人につき | 6,020円 | 6,010円から 3,010円まで |
この手当を支給されますが、2019年以降は支払回数が年3回から年6回に変更されました。
これにより1月、3月、5月、7月、9月、11月に支払月より前の2ヶ月分が支給されます。
児童扶養手当と児童手当は、どちらもひとり親世帯を支援する制度ですが、金額や対象となる要件が異なることも理解しておきましょう。
(出典:内閣府「ひとり親家庭に対する支援」,2018)
(出典:厚生労働省「ひとり親のご家庭へ、大切なお知らせ」,2019)
遺児手当とは
遺児手当は、下野市の広報では以下のように記されています。
両親または父母の一方が死亡して遺児となった義務教育終了前(中学校卒業前)の児童を養育している方に、児童の健全な育成及び福祉の増進を図ることを目的に支給されます。
(引用:下野市「広報しもつけ」)
これは条件に合えば必ずしも支給されるわけではありません。
この遺児手当は、都道府県や市区町村が実施する制度であるため、住む地域によっては遺児手当がないところもあります。いくつか例を挙げて紹介します。
(出典:下野市「広報しもつけ」)
北海道稚内市の遺児手当とは
北海道の稚内市では災害遺児手当制度という形で手当を支給しています。
交通事故や海難事故などによって、生計の中心となる人が亡くなった場合に、遺児の保護者に支給されます。
乳児および奨学生は3,000円、中学生は5,000円の支給が上半期は9月、下半期は3月に半年分がまとめて支給されます。
(出典:稚内市「災害遺児手当制度」,2020)
愛知県小牧市の遺児手当とは
愛知県小牧市では、市制度として手当を支給しています。ただ愛知県では県制度としても遺児手当の支給が行われています。
つまり愛知県小牧市では、県制度と市制度のそれぞれの遺児手当が支給されるのです。
支給要件は県制度の場合、県内に在住し、離婚・死亡・行方不明・遺棄・拘禁などによって片親または両親がいない、父または母が重度の障がいがある、18歳以下の児童を養育しる人が対象です。
県制度では所得限度額以下であることを条件に、手当額は申請を受け付けた月から5年間のみの支給で、1年目から3年目の児童1人につき月額4,350円、4年目から5年目の児童1人につき月額2,175円になります。
支払い方法は1月・3月・5月・7月・9月・11月の25日ごろに支払月の前月分までが支払われます。
これに対して市制度の場合は、対象となる支給要件は変わりませんが、支給の年数制限もありません。
手当額は申請を受け付けた月の翌月から、小学生以下の児童が2,000円、中学生の児童が3,000円、18歳以下(中学卒以上)が4,000円です。
支払い方法は1月・3月・5月・7月・9月・11月の5日ごろに支払月の前月分までが支払われます。
児童扶養手当も遺児手当も、その支給要件を見る限りではひとり親世帯が対象となりますが、児童扶養手当は国の制度に対して、遺児手当は都道府県や市区町村の制度であるという違いがあります。
(出典:小牧市「児童扶養手当・愛知県遺児手当・小牧市遺児手当(ひとり親家庭等への手当)」)
家賃手当とは
家賃手当(住宅手当、現在は住居確保給付金)制度は、厚生労働省では以下のように記されています。
離職等により経済的に困窮し、住居を失った又はそのおそれがある者に対し、住居確保給付金を支給するこ とにより、安定した住居の確保と就労自立を図る。
(引用:厚生労働省「住居確保給付金について」,2015)
この家賃手当には支給要件があり、前提として一定程度の就労能力と就労経験がある人、再就職に向けて原則3ヶ月という期間に集中して支援することが挙げられています。
その上で国の雇用施策による給付などを受けていないことも合わせて必要です。
これらをもとに住宅を喪失していること、あるいは喪失する恐れのあることが対象となる条件です。
収入要件として、申請月の世帯収入合計額が基準額に家賃額を加えた金額以下であることが支給要件として加わります。
支給対象者となり支給要件を満たせば、家賃手当が支給されますが、その場合の支給額は家賃住宅の家賃額により異なるのです。
また支給期間は原則として3ヶ月ですが、就職活動を誠実に行っている場合は3ヶ月の延長が最大2回まで可能であり、最長で9ヶ月まで延長されます。
(出典:厚生労働省「住居確保給付金について」,2015)
(出典:和歌山県新宮市「離職によって住居を喪失又はそのおそれのある方へ」)
(出典:埼玉県「住宅扶助基準額(生活保護法)」,2019)
失業手当とは
失業手当とは雇用保険の一つであり、雇用保険は政府が管掌する強制保険制度であることから、原則として労働者を雇用する事業は強制的に適用されます。
厚生労働省で雇用保険は、以下のように記されています。
1.労働者が失業してその所得の源泉を喪失した場合、労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合及び労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合及び労働者が子を養育するための休業をした場合に、生活及び雇用の安定並びに就職の促進のために失業等給付及び育児休業給付を支給
2.失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図るための二事業を実施
(引用:厚生労働省 ハローワークインターネットサービス「雇用保険制度の概要」)
失業の認定を受けられれば、手当が支給されますが、失業手当の給付額は賃金の日額と離職時の年齢によって決定されます。
例えば離職時の年齢が35歳で、賃金日額が9,000円の場合、基本手当の日額は5,728円(賃金日額の約64%)です。
2019年8月より雇用保険の基本手当(失業手当)の日額が変更になっているため、それ以前に受給された人は金額が異なる可能性があります。
また所定給付日数は特定受給資格者および一部の特定理由離職者、就職困難者を除く場合は、年齢に関わらず被保険者であった期間で決定されます。
被保険者期間が1年以上10年未満である場合は90日間、10年以上20年未満の場合は120日間、20年以上の場合は150日間です。
ただし基本手当を受けられるのは、原則として離職の翌日から1年間のため、これを過ぎると所定給付日数の範囲であっても失業手当を受け取ることはできません。
加えて自己都合による離職の場合、失業手当の手続きをしてから7日間の待機期間があり、その後2ヶ月の給付制限期間を経てから、給付が始まります。
以前までは給付制限期間が3ヶ月でしたが、2020年10月から2ヶ月に変更されました。
※2020年11月時点
(出典:厚生労働省 ハローワークインターネットサービス「雇用保険制度の概要」)
(出典:厚生労働省 ハローワークインターネットサービス「雇用保険の具体的な手続き」)
(出典:厚生労働省「雇用保険の基本手当(失業給付)を受給される皆さまへ」,2019)
(出典:厚生労働省 ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」)
(出典:厚生労働省「失業等給付を受給される皆さまへ」,2020)
手当は貧困から救い出すための施策の一つ
手当はいくつも存在していますが、どれもひとり親世帯や失業者など貧困状態にある人、あるいは貧困状態になってしまっている世帯を助けるためにあります。
そのため条件や支給要件は細かく設定されていますが、その条件に合うということは、それだけ困窮しているということにほかなりません。
生活費で悩んでいる方は、まずは自分の状況で必要とする手当は何なのか知るために、それぞれの制度の内容や対象者を理解しておくことが重要です。
また、貧困で手当が必要とする人に私たちはどんな支援ができるのかも考えましょう。