人身取引・売買問題は人権を侵害する行為となり、犯罪です。
この記事では、日本を含め世界でどのような人身取引や売買が行われているのかを解説します。
そして人身取引・売買に対して国連機関等がとっているアクションやその他の対策、私たちにできる支援を紹介します。
人身取引が多い国や現状とは?法律や議定書など国による取り組みなども解説
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人身取引、人身売買とは
日本政府は国際組織犯罪に取り組むという視点から、「人身取引」という言葉を用いています。
人身売買という用語は女性の性的搾取や女性への暴力を中心に使われてきました。しかし、定義が不明確で近年頻発する臓器売買や移住労働者などの搾取的な労働をとらえきれなくなりました。
人身取引という用語は、2000年に国連の人身売買禁止議定書が採択された以降に使用され、性的搾取だけでなく強制労働、臓器売買を含む国際組織犯罪と定義されています。
人身取引の定義とは
次に、人身取引の国際的な定義をご紹介します。以下は国連薬物犯罪事務所(UNODC)による人身取引の定義を日本政府が日本語に訳したものです。
「人身取引」とは搾取の目的で、暴力、その他の形態の強制力による脅迫若しくはその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用もしくはぜい弱な立場に乗ずること、又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することをいう。搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取すること。その他の形態の性的搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属又は臓器の摘出を含める。」
(引用:警察庁「警察の人身取引対策~日本でも人身取引が!~」)
つまり、搾取を目的に暴力や脅しなどの手段を使って人権を侵害する行為が人身取引です。
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人身取引の被害者数
UNODC(国連薬物犯罪事務所)の報告書によると、2020年時点の人身取引の被害者は世界で53,800人です。
20年ぶりに被害者数が減少しました。新型コロナウイルス感染症の影響で人身売買の機会が制限されたことが背景にあると考えられています。
(出典: UNODC GLOBAL REPORT ON TRAFFICKING IN PERSONS 2022)
人身取引反対世界デーとは
2014年から国連薬物犯罪事務所(UNODC)が7月30日を人身取引反対世界デーと制定しました。人身取引の問題を世界中の人に広く知ってもらうため様々なキャンペーンが展開されています。
(出典:国際連合広報センター 「人身取引反対世界デー(7月30日)事務総長メッセージ」2015)
- 日本政府は国際組織犯罪に取り組むという視点から「人身取引」という言葉を用いている
- 人身取引は搾取を目的に暴力や脅しなどの手段を使って人権を侵害する行為
- 「人身取引反対世界デ―」では人身取引の問題を世界中の人に広く知ってもらうため様々なキャンペーンが展開されている
人身取引・売買による強制労働(奴隷制)
2009年、アメリカの連邦労働省国際労働局は「児童労働と強制労働に関する報告書」を公表しました。
この報告書の「児童労働または強制労働によって生産された品目リスト」によると、インドやミャンマー、バングラデシュなどにおいて、児童労働か強制労働、またはその両方によって122品目の製品が生産されています。
主な品目には衣類やカーペットなどの繊維製品から米やサトウキビなどの農業製品、エビ、花火など多様な品目が並び、いかに多くの子どもが強制的な重労働をさせられているかがわかります。
人身取引をされた子どもたちは強制労働だけでなく物乞いをさせられたり、お金を巻き上げられたり性的搾取にあったりもします。また、偽装結婚や臓器売買などの目的に利用されています。
2016年の現代奴隷制の世界推計によると、世界で「奴隷」状態にあるとされる40.3万人のうち3割が子どもで、女性が71%を占めているようです。その地域はアフリカが一番多く、ついでアジア、太平洋地域と世界的に強制労働が蔓延しています。
- アメリカの連邦労働省国際労働局は「児童労働と強制労働に関する報告書」を公表
- 人身取引をされた子どもたちは強制労働だけでなく物乞いをさせられたり、お金を巻き上げられたり性的搾取にあったり、偽装結婚や臓器売買などの目的に利用されている
- 3割が子どもで女性が7割を占め、地域はアフリカが一番多く、ついでアジア、太平洋地域と世界的に強制労働が蔓延している
(出典:ワールドビジョン「人身売買」と「人身取引」)
(出典:国際労働機関「現代奴隷制の世界推計:強制労働と強制結婚(日本語訳)」)
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「児童労働または強制労働によって生産された品目リスト」)
(出典:ウォークフリー財団 「Global Slavery Index (世界奴隷指標) 2018 日本についての記述」2018 )
人身取引・売買による売春や強制的な結婚・ポルノ出演などの性的搾取
アフリカやアジア(ミャンマー、カンボジア、タイ、フィリピン、ネパール、インド、日本など)で、人身取引・売買による売春や強制的な結婚・ポルノ出演などの性的搾取が行われています。
日本には人身取引の被害者である男女、児童(18歳以下)が送られてきます。
人身取引の被害者のための支援団体によると、海外女性の被害相談として多いのはフィリピン、韓国、ルーマニア出身者です。
ここ数年増えた無店舗型の風俗産業に就いた韓国女性からの相談が多いといいます。
アジア、南米、アフリカから偽装結婚のために来日し、性的搾取が目的の人身取引の被害にあってしまうケースや、日本で増加している外国人留学生も例外ではありません。
バー、クラブ、売春宿、マッサージ店などで強制売春をさせるためにブローカーが外国人女性を日本人男性と偽装結婚させるケースも後を絶ちません。
被害者は外国人だけではなく、日本人の少女も性的搾取目的の人身取引の被害にさらされています。「援助交際」や、様々な形の「JK」ビジネスが蔓延している現状です。
(出典: ウォークフリー財団「Global Slavery Index (世界奴隷指標) 2018 日本についての記述」2018)
人身取引・売買が多い国とは?行われている支援や対策
人身取引・売買が多い順に国をあげると、北朝鮮、エリトリア、ブルンジ、中央アフリカ共和国、アフガニスタン、モーリタニア、南スーダン、パキスタン、カンボジア、イランです。
WFFによると、人身取引・売買には三つの傾向があるといいます。
上記のトップ10に入っている国は紛争が多いこと、国主導の強制労働の国であること、また先進国における人身取引・売買が以前よりも増えていることを指摘しています。
(出典:アメリカ国務省「2017年人身取引報告書」,2017)
インド
インドは人身売買の送出国であり、中継国であり受入国です。男性も女性も子どもも工場での労働につられて売買されます。
これまで最大の人身取引・売買問題を抱えているとされたインドの首都、ニューデリーの繁華街の裏手にある「GBロード」と呼ばれる売春街は広く知られています。
しかし近年、インド政府は積極的に人身取引の対策に取り組んでいます。
インドで行われている支援活動
インド政府は強化法施行対応のための包括的な制度を制定しました。今後ますますインドにおける人身売買撲滅に力を注ぐと報告されています。
被害が後を絶たない背景には、国境管理の問題があります。インド・ネパールの国民はパスポートがなくても自由に国境を行き来できます。豊かな生活を求めるネパール人がインドに入国するルートになっています。
現在は人身取引の対策支援活動を行うNGOのメンバーが被害を未然に防ごうと活動しています。
ネパール
2015年4月に起きたネパール大地震で最も被害が大きかった山間部では、いまだに復興が進まず貧困が深刻化し、若い女性などを狙った人身売買の被害が増え続けています。
犯罪組織の甘い言葉にだまされて隣国インドの売春宿などに売られてしまうのです。
また、インドとネパールでは経済的な格差も大きく、ネパールの少年少女が出稼ぎのために国境を越えるケースが急増。
彼らは児童労働の搾取にあう危険があり、それが人身売買の被害につながります。人身売買が疑われるとして、インドの国境警備隊が国境を越えさせなかった人の数は、2014年にはおよそ30人でしたが、2017年には600人以上に増加しました。
ネパールで行われている支援活動
NGOは人身取引の被害者の救出や保護、社会復帰のための職業訓練などを行っています。ネパール政府も国境管理を厳しくしたり、啓発活動に力を入れています。
教科書でも人身売買とは何かということが学校で教えられるようになっています。
統計を取ったり、あるいは警察のトレーニングを行い、包括的に人身売買に対する法制度整備も進めています。
中国
中国は性的搾取と強制労働を目的とした人身売買の送出国であり、中継国であり、受入国でもあります。人身取引の被害者の数は2016年、386.4万人と推定されます。人身売買が行われる過程の始まりは、甘言によるだましのケースが多いです。
多くの犯罪組織が加担しています。
- アフリカやアジアで、人身取引・売買による売春や強制的な結婚・ポルノ出演などの性的搾取が行われている
- 被害者は外国人だけではなく、日本人の少女も性的搾取目的の人身取引の被害にさらされている
- 人身取引・売買のトップ10に入っている国は紛争が多く、国主導の強制労働の国であり、先進国における人身取引・売買が以前よりも増えている傾向にある
(出典:アメリカ国務省「2017年人身取引報告書」,2017)
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日本でも人身取引・売買は起きている現状を知ろう
児童誘拐、児童買春、児童ポルノ、JKビジネスなどの事件が日本で起こっています。我が国の人身取引は、ますます手口が巧妙化しています。
以下は、我が国において検挙された事例の一部です。
- 援助交際などをしていた日本人女性が覚せい剤等で薬漬けにされた上で、その代金支払いなどを口実に、携帯電話や財布を取り上げられる。加害者の監視下に置かれて売春を強要され、売春の報酬を全額取り上げられた
- 「日本のマッサージ店で働かないか」と誘われ来日したタイ人女性が、一切事前の説明がなかった借金を負わされ客への性的マッサージを強要されて給料から借金分を差し引かれた上、帰国の要望を拒否されたり外出を制限されたりするなどされた
- 「日本の工場で働かないか」と誘われて来日したフィリピン人女性が、ブローカーにより日本人男性に結婚相手などとして売り渡された
- スカウトマンらによってマンションに住まわされた児童等が、インターネットを通じて募集した遊客との売春を強要され、逃げ出しても電話で「親にばらす」などと脅され、戻されるなどされたほか、売春代金全額を搾取された
事例からもわかるように、日本では主に性的搾取を目的に子どもや若い女性が被害にあっています。
日本において2018年の検挙数は36件です。手口は勧誘型が一番多く、次に派遣型がきます。
(出典:警察白書H24年版)
(出典:政府広報オンライン「暮らしに役立つ情報」,2019)
(出典:警察庁「平成30年における人身取引事犯の検挙状況等について」,2019)
日本の法規制
次に、日本では人身取引に関してどのような法律が定められ、どんな取り組みがされているのでしょうか。
日本は2000年代に入るまで、国内に人身取引を包括的・専門的に扱う法令や行政組織がなかったことから、国内外から厳しい批判を受けていました。
しかし、2004年から目覚ましい改善が見られています。「人身取引に関する関係省庁会議」の設置や、「人身取引対策行動計画」の策定(2009年12月改定)などはその一例です。2014年、「人身取引対策行動計画」が政府から出されました。
(以下内閣官房「人身取引対策行動計画」より引用)
Ⅱ.人身取引の実態把握の徹底
1.被害者の実態把握
○各関係機関による被害者の実態把握
○諸外国政府及び関連機関との情報交換
2.ブローカーの実態把握
○捜査機関におけるブローカーの実態把握
○退去強制手続等におけるブローカーの実態把握
Ⅲ.総合的・包括的な人身取引対策 1.人身取引議定書の締結
○人身取引議定書の締結
○人身の自由を侵害する行為の処罰に関する罰則の整備
○出入国管理及び難民認定法の改正及び諸手続の柔軟な運用
○婦人相談所における被害者に対する援助
○取り締まりの強化
(引用:内閣官房「人身取引対策行動計画」)
日本で行われている支援活動
海外から人身売買の受け入れ国と非難されていた日本は2004年から人身売買の問題に取り組み、入国審査の強化や店舗摘発、刑法に人身売買罪という犯罪定義を示し人身売買被害者数の減少に努めました。
その結果、被害者数は激減したものの、人身売買被害者と認定された外国人女性たちに対する日本政府の政策は「帰国させる」のみで、被害にあった方々への支援やアフターケアは追いついていない状況です。
支援団体が人身取引の被害者と接するかもしれない支援者、入国管理局、警察や議
員に人身取引対策の研修を行ったり、学校関係者、児童福祉専門家、地域社会、学生グループ、一般企業など幅広い層への講演を行い、「日本は人身取引大国である」という現状を知り、反・人身取引への世論を形成し、防止と発生を防ぐ必要があります。
(出典:在日米国大使館『2019年 人身取引報告書(日本に関する部分』)
- 児童誘拐、児童買春、児童ポルノ、JKビジネスなどの事件が日本で起こっており、我が国の人身取引はますます手口が巧妙化している
- 日本では主に性的搾取を目的に子どもや若い女性が被害にあっている
- 「人身取引に関する関係省庁会議」の設置や、「人身取引対策行動計画」が策定され「人身取引対策行動計画」が政府から出された
人身取引・売買で苦しむ子どもたちのために私たちができる支援は?
私たちは人身取引・売買をなくしていくためにどんな支援ができるでしょうか?
まずは、関心を持つことです。そして、小さなことでも行動に移してみましょう。
国内で行われている支援では様々な活動があります。
例えば人身売買、女性に対する暴力、滞日外国人の人権侵害などの問題に取り組んできた全国のNPO・NGOや研究者・法律家が連帯したネットワークを活用した行政に働きかけ、人身取引の被害者を守るシェルターの運営などが挙げられます。
被害者を救済する、人身取引について広く認知されるために働きかける活動などが行われています。
- 人身取引・売買をなくしていくためには支援に対して関心を持ち、小さなことでも行動に移していくことが大事
- 全国のNGOや研究者・法律家が連帯したネットワークを活用して行政に働きかけたり、講演会を行う活動や、人身取引の被害者を守るシェルターを運営している団体への支援
- 被害者を救済する、人身取引について広く認知されるために働きかける活動
人身取引・売買の被害にあう子どもを一人でも少なくしよう
2018年には世界で人身取引(人身売買)の被害者として確認できた人の約28%が子どもであるといわれています。
サハラ以南のアフリカ地域、ラテンアメリカ・カリブ海諸国地域などでは人身売買被害者に占める子どもの割合はさらに高く、それぞれ64%と62%です。
1990年に子どもの権利を保護するために国連で子どもの権利条約が発効しました。
深刻化する子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノを撲滅するための選択議定書が2000年の国連総会で採択され子どもの権利条約が強化され、日本は2005年1月にこの選択議定書を批准しています。
子どもの人身売買と買春、子どもポルノの問題はお互いに深く結びついており、この子どもの権利条約選択議定書によって大きな問題としてとらえ、解決していこうと世界が動いているのです。
- 世界で人身取引の被害者の約28%が子どもであるといわれている
- 1990年に子どもの権利を保護するために国連で子どもの権利条約が発効しました
- 深刻化する子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノを撲滅するための選択議定書が2000年の国連総会で採択され、日本は2005年1月に選択議定書を批准している
(出典:ユニセフ(国連児童基金)と人身取引反対機関間調整グループ(ICAT)「7月30日は『人身取引反対世界デー」,2018)
あなたの気持ちが誰かのチカラに
人身取引は世界中で起こっており、社会システムの中で構造化されている暴力で許せない犯罪でもあります。
2018年6月に、ようやく日本政府は国連から「人身取引撲滅のための最低基準を十分に満たしている」と認められました。しかし、国民の意識は反・人身取引の世論になるほどにまで高まっていない現状です。
一番重要なことは被害者の声を聞き、救済することです。そして、安い労働力市場、買春という市場を作り出さないようにしなくてはなりません。
人身売買の被害に関する明確な統計資料・情報は今なおありません。さらなる調査をして、世界中から人身取引をなくすことが今後の大きな課題です。