様々な社会福祉問題が取り沙汰される中、社会福祉法人による福祉サービスへの注目も高まっています。
この記事では、社会福祉法人とは何か、設立方法や運営方法について紹介します。
NPO(非営利団体)とは?ボランティアや会社との違い、NPOの種類について広く解説
社会福祉法人とは
社会福祉法人とは、社会福祉事業を行うことを目的とした非営利団体です。
社会福祉法に基づいて設立された「社会福祉事業を行うことを目的として、法律の定めるところにより設立された法人」と定義されています。
社会福祉法人は地域における公益的な取り組みを行っています。地域における公益的な取り組みは以下の3つの特徴があります。
- 社会福祉事業または公益事業を行うにあたって提供される福祉サービスであること 例:在宅の単身高齢者や障がい者への見守りなど
- 「日常生活または社会生活上の支援を必要とする者」に対する福祉サービスであること 例:生活困窮世帯の子どもに対して学習支援を行うなど
- 無料または低額な料金で提供されること
社会福祉法人とは、地域社会への貢献を目的として「地域における公益的な取り組み」を行うために設立された法人なのです。
(出典:厚生労働省「社会福祉法人制度改革について」)
社会福祉法人への支援・助成
社会福祉法人には、社会福祉施設利用者の福祉向上と社会福祉事業の振興を目的として、支援・助成が設けられています。
社会福祉法人として法人格が認められると、以下の3つの支援・助成を受けることができます。
- 社会福祉施設利用者の施設整備に対して一定の補助が受けられる(国1/2、地方公共団体1/4の補助)
- 社会福祉法人の公益性を根拠として、法人税・固定資産税・都道府県民税・市町村民税・事業税などの税制優遇措置が受けられる
- 社会福祉施設職員などを対象に、国家公務員の給付水準に準拠した退職金制度が設けられる
通常、法人の場合は各事業年度に生じたすべての所得に法人税が課せられますが、社会福祉法人では収益事業を除いた所得は非課税となり、収益事業に関する所得も軽減税率が適用されます。
しかし、支援や助成を受けられる一方で、社会福祉法人には地域の多様な福祉ニーズに対してきめ細かな対応が求められていることも否めません。
社会福祉法人は、社会的支援が必要な人に対して継続的サービスを提供できるよう、社会福祉事業を安定して継続していく必要があります。
(出典:厚生労働省「社会福祉法人の現状」)
社会福祉法人が行う3つの事業とは
社会福祉法人が行うことができる事業は、「社会福祉を目的とする事業」「公益事業」「収益事業」と大きく3つに分かれています。
社会福祉を目的とする事業とは
社会福祉を目的とする事業とは、高齢者や障がい者などの利用者が、それぞれ自らの力で日常生活が送れるようにサポートするための事業です。社会福祉を目的とした事業に関しては、社会福祉法人の法人格を持たなくても運営を行うことができ、法的な規制や行政からの関与が最小限に留められています。
ただし、「第一種社会福祉事業」および「第二種社会福祉事業」に関しては、行政の関与および一定の規制が行われます。第一種社会福祉事業としては、養護老人ホームや障がい者支援施設、児童福祉施設といった入所サービスがあります。
第一種福祉事業は利用者への影響が大きいため、国または地方公共団体または社会福祉法人に限り運営できます。そのため、社会福祉法人が運営を行う場合、都道府県知事などによる指導や監督を受ける必要があります。
第二福祉事業は、デイサービスや訪問介護、保育園といった在宅サービスがあります。第二種社会福祉事業は、第一福祉事業に比べて利用者への影響が小さいため、届け出をすることで、事業の運営を行うことができます。
(出典:厚生労働省「生活保護と福祉一般:第1種社会福祉事業と第2種社会福祉事業」)
社会福祉法人における公益事業とは
社会福祉法人における公益事業は、公益性を目的として、かつ社会福祉に関係のある事業を行わなければいけません。
例えば、介護老人保健施設や有料老人ホームの経営などが公益事業にあたります。
収益事業とは
社会福祉法人における収益事業とは、その収入をほかの公益性のある事業の運営費用に充てることを目的として行われる事業を指しています。
例えば、貸しビル、貸し駐車場、福祉施設における売店の経営などが収益事業にあたります。
(出典:厚生労働省「社会福祉法人の概要」)
社会福祉法人の設立方法とは
社会福祉法人を設立するには、社会福祉法施行規則で定められている手続きを行い、所轄庁の認可を受ける必要があります。
社会福祉法人の設立の流れは、以下の通りです。
- 設立準備(設立準備会の発足や役員の選出など)を行う
- 設立における定款の作成
- 所轄庁の認可を受ける
- 登記を行う
設立準備
社会福祉法人を設立するにあたって、設立予定者が組織する合意機関として、総会(意思決定機関)、代表者、監査機関(必要な費用の把握と費用が適切に行われるかを監査する機関)などの設立準備会を発足しなければいけません。
定款の作成
社会福祉法人の設立にあたっては、定款の作成が必要です。
定款には以下の事項の記載が必ず必要となります。
- 目的
- 法人の名称
- 種類
- 事務所の所在地
- 役員(理事・監事)に関する事項
- 会計監査人を置く場合には、これに関する事項
- 会議に関する事項
- 資産に関する事項
- 会計に関する事項
- 評議会に関する事項
- 公益事業の種類
- 収益事業に関する事項
- 解散に関する事項
- 定款を変更するにあたって必要な事項
- 公告の方法
一つでも記載事項が抜けてしまうと、定款としての効力を持たなくなります。つまり、所轄庁に定款を提出しても、認可が行われません。
(出典:厚生労働省「社会福祉法人制度改革の施行に伴う定款変更に係る事務の取扱いについて」)
所轄庁の認可
定款を作成後は所轄庁の認可を受ける必要があります。
どこに認可を求めればよいかは事業規模によって異なります。
- 行う予定の事業が1区域内の場合は、市長・区長または都道府県
- 行う事業規模が2区域以上にまたがり、特定の要件を満たす場合は、厚生労働大臣
また、主な認可の基準としては、以下の3つがあります。
- 社会福祉法人の資産があるか(原則、1億円以上の基本財産)
- 目的とする社会福祉事業の条件を満たしているか
- 定款の内容および設立手続きは法令に違反をしていないか
すべての基準が満たされていた場合、社会福祉法人としての設立認可が下りることとなります。
登記
社会福祉法人の設立には、事務所の所在地を管轄している法務局に申請を行います。設立の登記が完了することで、法人として成立することとなります。
ただし、社会福祉法人が土地・建物を保有する場合は、設立の登記を行った後に不動産登記の申請も必要です。
(出典:厚生労働省「社会福祉法人の設立について(平成29年4月1日以降)」)
社会福祉法人の運営
社会福祉法人の運営には、自主的な経営基盤の強化、福祉サービスの質の向上、事業経営の透明性の確保が必要です。
事業運営の透明性確保
運営の透明性を確保するために、社会福祉法人は以下のことを行っています。
- 定款、事業計画書、役員報酬基準などを閲覧対象とする
- 定款、貸借対照表、資金収支計算書、役員報酬基準を公表対象とする
- 閲覧請求は誰でも行える
- 誰でも情報が入手しやすいようにホームページを活用して公表する
また、現状報告書や収支分析表などを所轄庁に提出し、財務情報の公表なども行っています。
経営基盤の強化
社会福祉法人の運営では、経営基盤の強化を目的として行う収益事業にも重要な役割があります。社会福祉サービスをより向上させるためにも、経営基盤の強化は必要不可欠と言えるでしょう。
社会福祉法人では、社会福祉事業以外にも、貸しビル、貸し駐車場、売店の経営などの収益事業を行っている場合が多いです。
サービスの向上
社会福祉事業を行うにあたり、地域の少子高齢化、人口減少などを踏まえたサービスの向上を図っていく必要があります。
(出典:厚生労働省「社会福祉法人の現状」)
社会福祉法人について理解を深めよう
社会福祉法人は、私たちの生活に重要な役割を持っている非営利団体で、少子高齢化が進んでいる日本には欠かせない存在とも言えます。
また、社会福祉法人に求められる役割は幅広く、地域や社会の様々なニーズを受け止め、問題解決へとアプローチしていく必要があります。
そんな中、私たちも社会福祉法人の活動をより理解し、その活動に賛同することで、福祉サービスのさらなる発展へつながるのではないでしょうか。