土壌汚染は日本で初めて起きた産業公害と言われ、私たちの健康被害または生活環境被害をもたらす危険な問題です。
現在でも土壌汚染は続いており、2016年に発覚した豊洲市場の土壌汚染が話題となりました。
この記事では、土壌汚染とはどのようなものなのか、原因、影響、対策法などについて紹介します。
土壌汚染とは?
土壌汚染とは、重金属 ・有機溶剤 ・農薬 ・油など、人間にとって有害な物質によって土壌が汚染された状態を言います。
土壌汚染の中には、人間の事業活動によって生じた人為的な汚染だけではなく、自然由来で汚染されているものも含まれます。
自然由来の汚染とは、海や山など自然界にある岩石や堆積物中に含まれる砒素、鉛、フッ素、ほう素、水銀、カドミウム、セレン又は六価クロムなどによる環境汚染のことです。
土壌汚染の影響とは?
土壌汚染は私たち人間の健康、生活環境、生態系に多大な影響を与えます。
病気や機能障害を引き起こしたり、地下水が汚染され飲用できなくなったり、農作物などの生育を阻害したり、生物が死滅したりします。
土壌汚染は発生してから私たちの健康に影響が現れるまでに時間がかかります。
そして一度汚染されると、対策を施したとしても汚染が長期間続くため、悪影響も長期間継続するという特徴があります。
土壌汚染の状況調査
土壌汚染の状況を把握するため、過去に有害物質使用特定施設であった工場や事業場の敷地で、現在は使用が廃止された土地や、土壌汚染による健康被害が生ずる危険性がある土地を調査します。
調査方法は、地歴調査、 試料採取・測定、汚染範囲・深度の調査などです。
- 土壌汚染とは、重金属 ・有機溶剤 ・農薬 ・油など、人間にとって有害な物質によって土壌が汚染された状態
- 土壌汚染は、病気や機能障害を引き起こしたり、地下水が汚染され飲用できなくなったり、農作物などの生育を阻害したり、生物が死滅したりする
- 土壌の調査は、地歴調査、 試料採取・測定、汚染範囲・深度の調査などが行われる
(出典:環境省「土壌汚染による環境リスクを理解するために」)
土壌汚染の原因と対策法
土壌汚染の原因の多くは、主に鉱山や工場などからの排水に含まれるカドミウム・銅・水銀などの重金属や、ジクロロメタン・トリクロロエチレン・ベンゼンなどの揮発性有機化合物などです。
原料として用いる有害物質が工場の操業中に不適切に取り扱われたり、排水に漏れて土に入る事もあれば、有害物質を含む廃棄物が不適切に土に埋められそれが雨によって溶け出したり、排気ガスに含まれる有害物質などがきっかけとな流などの理由で土壌汚染が始まります。
対処としては、封じ込めや原位置浄化(バイオレメディエーション)などが取られています。
封じ込め
封じ込めとは、文字通り、汚染土壌を封じ込めて、地下水等によって汚染が拡散することを防止するための措置です。
原位置封じ込めや遮水工封じ込め、遮断工封じ込め等があります。
汚染土の除去方法は、「堀削除去」が一般的で、汚染土そのものを掘削し、スッポリ場外へ運び出す「掘削除去」という手段をとります。運び出した汚染土は、場外で処理を行います。
しかし、この処理方法の問題点として、掘り出された汚染土の行き場所や、莫大な処理費用がかかることが挙げられます。
原位置浄化(バイオレメディエーション)
原位置浄化というバイオ浄化技術とは、汚染された土地を浄化し、汚染物質を取り除き、土そのものを蘇らせる技術です。
この技術は、大幅なコスト削減ができ、自然に優しく安全性が高く、広大な土地にも有効であることから近年注目されています。
関東地区では、自然由来汚染土を川崎周辺の臨海処理工場で約1450℃の高温で焼成することにより、有害化合物を分解し、セメントリサイクル化を行っています。
- 土壌汚染の原因となる物質は、鉱山や工場などからの排水に含まれるカドミウム・銅・水銀などの重金属、ジクロロメタン・トリクロロエチレン・ベンゼンなどの揮発性有機化合物など
- 封じ込めとは、汚染土壌を封じ込めて、地下水等による汚染の拡散を防止するための措置である
- 原位置浄化(バイオレメディエーション)とは汚染された土地を浄化し、汚染物質を取り除き、土そのものを蘇らせる技術である
(出典:横浜市「土壌汚染対策法の特定有害物質の用途・環境基準等の情報」)
土壌汚染に関する問題点とは?
日本でも土壌汚染が見つかる件数が増加し、「平成29年度土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果」によると、土壌の汚染状態が指定基準を超過し、要措置区域に指定された件数は84件(前年度80件)、形質変更時要届出区域に指定された件数は470件(前年度448件)、合計で554件(前年度528件)でした。
土壌汚染に関する問題とは、土壌汚染が存在することだけではなく、有害な物質が人体に侵入する経路(摂取経路)があることです。
この経路を遮断する対策を得ることができれば、土壌汚染による健康リスクを減少することが可能です。
土が一度汚染されると、汚染された土壌を取り除いて入れ替えるなどの対策が求められ、回復には長い時間と多額の費用が必要となります。
問題点は、法律に基づかない土壌汚染の発見の増加、掘削除去に偏重していること、汚染土壌の不適正な処理などが挙げられます。
その他にも、福島の原発事故により汚染された土壌の県外最終処分の問題は非常に難しいものがあります。
汚染土壌を搬出する場合には、事前に国に対して届出義務があり、汚染土壌の運搬は、運搬基準の遵守と管理票の交付・保存義務があります。
さらに、汚染土壌を要措置区域等外へ搬出する際は、原則として、その汚染土壌の処理を汚染土壌処理業者に委託しなければならないと定められています。
- 平成29年度の調査によると、要措置区域に指定された件数は84件、形質変更時要届出区域に指定された件数は470件、合計で554件だった
- 土壌汚染に関する問題とは、土壌に含まれる有害な物質が人体に侵入する経路があることである
- 汚染土壌を搬出する場合には、事前に国に対して届出義務があり、汚染土壌の運搬は、運搬基準の遵守と管理票の交付・保存義務がある
(出典:環境省「平成29年度土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果について」,2019)
土壌汚染による公害
土壌汚染は日本で初めて起きた産業公害と言われています。
過去には、有害物質によって農地などの土壌が汚染され、深刻な被害を生じさせた事例があります。
足尾銅山鉱毒事件
1877年(明治10年)頃、栃木県の足尾銅山から銅を含む工業廃水が下流の農地に流入して蓄積し、イネなどの作物の生育に被害をもたらす「足尾銅山鉱毒事件」が発生しました。
イタイイタイ病
鉱山の廃水による汚染で発生した富山県神通川の「イタイイタイ病」は大きな社会問題となりました。
神通川の上流にある岐阜県の神岡鉱山の排水にカドミウムが含まれており、それが農地に蓄積し、生産された米などを食たことが原因でした。
日本は、工場排水や農用地の土壌汚染を規制する「水質汚濁防止法」「農用地の土壌汚染の防止等に関する法律」などの法律を施行し環境汚染対策を図っていましたが、2003年に「土壌汚染対策法」が施行されたことで、本格的な土壌汚染対策が始まりました。
- 土壌汚染は日本で初めて起きた産業公害と言われている
- 土壌汚染が原因で「足尾銅山鉱毒事件」や「イタイイタイ病」などが発生した
- 2003年に「土壌汚染対策法」が施行されたことで、本格的な土壌汚染対策が始まった
(出典:環境省 公益財団法人日本環境協会「土壌汚染による環境リスクを理解するために」)
土壌汚染対策法の施行と特定有害物質
土壌汚染を見つけるための調査の方法や、汚染が見つかったときに、その汚染によって人の健康などへ悪影響が出ないための適切な対処の方法について定めている法律が「土壌汚染対策法」です。
土壌汚染対策法は平成15年に施行され、平成22年に改正された法が施行されました。
その後、法改正が行われ、平成31年4月1日に施行されました。
土壌汚染対策法で定められている特定有害物質は次の3種類に分類されます。
第1種特定有害物質(揮発性の物質群)
- クロロエチレン
- 四塩化炭素
- 1,2-ジクロロエタン
- 1,1-ジクロロエチレン
- 1,2-ジクロロエチレン
- 1,3,-ジクロロプロペン
- ジクロロメタン
- テトラクロロエチレン(パークレン)
- 1,1,1-トリクロロエタン
- 1,1,2-トリクロロエタン
- トリクロロエチレン(トリクレン)
- ベンゼン
第1種特定有害物質は、揮発性有機化合物(VOC)で、人体に影響を与えやすい特徴があります。
1970年代はじめから、工場の洗浄剤として利用されており、古い工場の土壌調査で汚染が発覚することが多々あります。
第2種特定有害物質(重金属類)
- カドミウムおよびその化合物
- 六価クロム化合物
- シアン化合物
- 水銀およびその化合物
- セレンおよびその化合物
- 鉛およびその化合物
- 砒素およびその化合物
- ふっ素およびその化合物
- ほう素およびその化合物
第2種特定有害物質は、人体に影響を与える物質です。
大きな公害の原因になる物質も多く、地表から近い部分で高濃度汚染を引き起こす特徴があります。
第3種特定有害物質(農薬類とPCB)
- シマジン
- チウラム
- チオベンカルブ
- 有機リン化合物
- PCB
第3種特定有害物質は主に農薬で、人体への悪影響から既に製造中止になっているものも含まれています。特に、PCBによる土壌汚染は、長期にわたって影響を与えていることが分かっています。
- 第1種特定有害物質は、揮発性有機化合物(VOC)で、人体に影響を与えやすいという特徴がある
- 第2種特定有害物質は、人体に影響を与える物質で、大きな公害の原因になる物質も多くある
- 第3種特定有害物質は主に農薬で、人体への悪影響からすでに製造中止になっているものも含まれる
(出典:公共財団法人日本環境協会「土壌汚染対策法の特定有害物質の用途・環境基準等の情報」)
世界の土壌汚染対策法
世界的に土壌汚染問題は深刻化しており、諸外国も日本の土壌汚染対策法と同じような法律を施行し、人の健康や生態系の保護および拡散の防止を図っています。
国際連合食糧農業機関は「土壌劣化がこのまま進めば、2050年の世界の一人当たりの耕作可能地は、1960年水準の4分の1になる」と、人の健康や食の安全を危惧して警鐘を鳴らしています。
また、世界の土壌の33%は汚染され、それにより作物の収穫量の減少が考えられます。
世界で土壌汚染問題が深刻化しており、多くの国で日本の土壌汚染対策法のような法律を施行しています。
アメリカの土壌汚染対策
アメリカでは1978年、ニューヨーク州ラブキャナル運河で有害化学物質の埋立が明るみに出たことに対応し、1980年に土壌汚染に関する法律、「包括的環境対策・補償・責任法(通称:スーパーファンド法)」が施行され、これまでに大きな成果を挙げています。
日本では、特定有害物質として26種類の物質が指定されていますが、アメリカのスーパーファンド法では約800種類を指定しています。
また、アメリカでは土壌汚染地の再開発を目指し、再生可能エネルギーの設置を進めています。太陽光発電や風力発電の設備を設置することで、塩漬けになっている土地の活用をしています。
中国の土壌汚染対策
中国の土壌汚染は重金属類から毒性の高い農薬まで多岐にわたっており、2013年に広東省の広州市で検査したところ、飲食店などで提供される米の半分近くがカドミウムに汚染されていたと報告されています。
中国でも、2018年8月「土壌汚染対策法」が国によって可決され、2019年1月から施行されています。
土壌汚染対策法には「土壌環境質量 建設用地土壌汚染リスクコントロール標準(試行)」が策定され、85項目の土壌汚染基準が設けられています。
また、中国では工業用地や住宅などのほかに、鉱山、農地、建設用地のすべて土地を規制しています。
ドイツの土壌汚染対策
ドイツは古くからの産業活動や、二度の世界大戦による土壌汚染が社会問題になっています。
また、現在の工業用地や廃棄物処分場の汚染対策が課題となっており、その対策として、1999年3月に「連邦土壌保全法」が施行されるのと同時に、同年7月には「土壌保全汚染跡地令」が施行されています。
法令が施行され、ドイツの土壌汚染対策が統一化されました。
用途によって調査値と規制値が定められています。
浄化目標の各カテゴリーの用途により、規制当局と土地所有者の合意で決定することが可能です。
- 国際連合食糧農業機関は「土壌劣化がこのまま進めば、2050年の世界の一人当たりの耕作可能地は、1960年水準の4分の1になる」と警鐘を鳴らしている
- 世界の土壌の33%は汚染されており、作物の収穫量の減少が考えられる
- アメリカのスーパーファンド法では約800種類の物質を有害物質として指定している
(出典:国際連合食糧農業機関「FAOは国際土壌年(IYS 2015)をスタート」,2014)
土壌汚染の原因を理解し、対策法や支援策を知ろう
土壌汚染の原因は、原料として用いる有害物質が工場で不適切に取り扱われたり、排水に漏れて土に入ったり、有害物質を含む廃棄物が不適切に土に埋められ雨によって溶け出したり、排気ガスに含まれる有害物質など様々です。
また、人間の事業活動に伴って生じた人為的な汚染だけではなく、自然由来で汚染されている場合もあります。
このようなことで一度土壌汚染が生じてしまうと、悪影響が長期化する上に、汚染した土を処理するにも莫大な処理費用がかかったり、掘り出された汚染土の行き場所も問題になったりします。
そうならないためにも、土壌汚染の原因やリスクを理解し、有害物質を排出する廃棄物を適切に処理したり、特定有害物質を含む商品をなるべく利用しないなど、それぞれの立場からできる限りの対策を行いましょう。