ここ数年、インターネットやテレビで「親ガチャ」という言葉を耳にする機会が増えたと感じている方もいるのではないでしょうか。
なんとなく意味はわかるものの、
「親ガチャとは何だろう?」
「親ガチャという言葉ははなぜ生まれたのか?」
と考えている方に向けて、本記事では下記の内容を紹介します。
- ・親ガチャという言葉の意味
- ・「親ガチャに失敗した」と言われる原因
- ・親ガチャという言葉が生まれた社会的背景
「親ガチャ」は日本国内に蓄積している社会問題とそれに対する不満が表出した言葉です。
親ガチャについて網羅的に解説していますので、ぜひ最後までご一読ください。
親ガチャとは?言葉の意味を解説
「親ガチャ」という言葉はインターネット上で生まれた俗語(スラング)で、厳密な定義はありません。
一般的には、子どもが親を選べない状況をスマホゲームのガチャになぞらえた言葉で「良い親の元に生まれることができたかどうか」といった意味で使われます。
「親ガチャに外れた=良い親の元に生まれることができなかった」というネガティブな文脈で利用されることが多いです。
ここ数年、SNSなどでは「自分は家庭環境や容姿、能力に恵まれていない。親ガチャ失敗した」といった趣旨の投稿が広まり、2021年には民間企業が発表している新語・流行語大賞に選ばれました。
では、子どもたちが「親ガチャに失敗した」と感じてしまう原因はどこにあるのでしょうか。
「親ガチャに失敗した」と言われる原因
子どもたちが「親ガチャに失敗した」と感じる原因は大きく3つ考えられます。
- ・両親の離婚
- ・経済的に恵まれない家庭環境
- ・親からの虐待
具体的に見てみましょう。
両親の離婚
両親の離婚やそれに伴う生活環境の変化、離婚に至る前の不仲な状況は、子どもの心にストレスを与えます。
そのストレスにより子どもは精神面に支障をきたし、情緒不安定になったり勉強に集中できなくなったり、周囲とのコミュニケーションがうまく取れなくなったりしてしまうことがあります。
自分の内外に起こる様々な問題の原因が両親の離婚にあると感じた子どもは「親ガチャに失敗した」と言いたくなってしまうのかもしれません。
また、離婚により家計が困窮することも深刻な問題です。
国民の経済状態を示す指標として相対的貧困率があります。相対的貧困とはその国の水準において大多数と比較して貧しい状態にあるということです。
厚生労働省の調査によると、2018年時点で日本国内の相対的貧困率が全体で15.4%なのに対し、ひとり親家庭では48.1%*にのぼります。
家計の困窮が子どもにもたらす影響については次の見出しで解説します。
*出典:厚生労働省「ひとり親家庭の現状と支援施策について~その1~」
経済的に恵まれない家庭環境
経済的に恵まれない家庭環境は子どもに大きな負担を与え「親ガチャに失敗した」と感じさせる原因となっています。
例えば、家庭の経済的な事情から大学進学の際に奨学金を借り、社会に出た時点で借金を背負っているという若者は少なくありません。
下記の文部科学省の調査では令和4年時点で貸与型奨学金事業の貸与人員は123万人を超え、金額は9,147億円にものぼります。
一人当たりの借入総額が数百万円になることも珍しくありません。
また、そもそも大学進学を経済的な事情で断念してしまうケースもあります。
家庭の経済状況を理由に大学進学を希望してもそれが叶わない、あるいは進学できても借金をしなければならないとき、子どもは「親ガチャに失敗した」と思ってしまうのかもしれません。
政府も子どもの貧困に対して教育、生活、就労などさまざま支援を行っているものの、問題の根本的な解決にはまだ至っていないのが現状です。子どもの貧困に対する政府の対策については、下記の記事をご覧ください。
特に母子家庭の貧困率は高い傾向にあり、その背景には母親が出産を機に専業主婦やパートタイマーに働き方を変えているといった事情があります。
さらに、母子家庭は経済的な問題だけでなく周囲の偏見によって孤立するケースも見られ、貧困はさらに悪化してしまうのです。
母子家庭の実情については以下の記事をご覧ください。
>>シングルマザー(母子家庭)の貧困率が高い理由とは?子どもの貧困の実状や原因、利用できる支援など
親からの虐待
親からの虐待も子どもが「親ガチャに失敗した」と感じる原因の一つです。
虐待は身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクト(育児放棄)の4つに分けられます。虐待が子どもたちに与える影響は見た目のケガだけではありません。
心の傷や脳へ影響することもあり、発育の遅れやコミュニケーション能力の不全など、その後の人生に大きな支障をきたしてしまうのです。
虐待はしつけと混同されることもありますが、行う大人の感情の観点から明確に線引きすることができます。
虐待を減らすには子どもに接する親や周囲の大人が虐待について正しくとらえることも重要ではないでしょうか。虐待の分類やしつけとの違いについては下記の記事をご覧ください。
>>どこから児童虐待になる?しつけとの違いも解説
親ガチャという言葉の裏に潜む「格差問題」
「親ガチャに失敗した」と感じる3つの原因「両親の離婚」「家庭の経済的な事情」「親からの虐待」は、親ガチャという言葉が生まれる以前から問題となっていました。
ではなぜ「親ガチャ」という言葉がここ数年で急に使われるようになったのでしょうか。
背景には日本社会が抱える4つの格差問題があると考えられます。
- ・所得格差
- ・教育格差
- ・地域格差
- ・情報格差
4つの格差によって自分と他人の家庭環境との差が明確に感じられるようになり「親ガチャ」という発想に至ったのかと思われます。
4つの格差について具体的に解説します。
所得格差
所得格差は日本の社会問題の一つです。
所得の格差を示す指標にジニ係数というものがあります。0から1で表され、1に近くなるほど格差が大きくなることを意味します。
内閣府の調査によると、近年は20代から30代でジニ係数の上昇が見られ子育て世代で所得格差が発生していることがわかります。
出典:内閣府|選択する未来 -人口推計から見えてくる未来像-
親の収入が低ければ旅行といった体験を得る機会が少なくなるだけでなく、家庭によっては衣食住に不自由することもあるでしょう。
さらにSNSが発達し、個の発信力が高まっている現代では他の家庭の状況を知ることも容易なため、自分の家庭と比較して余計に格差を感じてしまうというパターンが考えられます。
また、収入が低い家庭では塾に通う余裕もないため教育面でハンデを負うことが多く、次に紹介する教育格差にもつながっていきます。
教育格差
所得格差と教育格差は密接な関係にあります。
家計に余裕がなければ塾や習い事に通うことはできません。
そのため、子どもは学力を伸ばしたり体験を通して学びを得るチャンスが必然的に少なくなってしまいます。
内閣府の調査では、平成28年の子どもの大学等進学率は全世帯で73.2%なのに対し生活保護世帯では33.1%*に留まり、所得格差が教育格差につながっていることがわかります。
また、教育格差は次の所得格差を生むことも問題です。
高卒と大学・大学院卒では生涯年収で6,000万円から7,000万円前後の差が出る**といわれています。
この所得格差が次の世代の教育格差に連鎖していく構造ができてしまっているのです。
教育格差と貧困の関係については以下の記事もご覧ください。
>>データで見る教育格差。子どもの貧困問題がますます深刻化している実状とは
所得格差と教育格差の連鎖構造から抜け出すためには外部からのサポートが必要です。子どもをこの問題から救うために支援に取り組んでいる慈善団体もあります。
子どもが置かれている現状や団体による支援の内容について知りたい方は下記記事をご覧ください。個人でできる支援についても紹介しています。
>>子どもの教育支援をしたい!課題や私たちにできる支援の方法を紹介
*出典:内閣府|子供の貧困に関する指標の推移
**出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構|ユースフル労働統計2021
地域格差
地域による格差も子どもの人生に影響します。
都市部に行くほど企業や学習塾が多くなり、就職のしやすさや通える塾の選択肢にも幅が増えます。住んでいる地域は教育環境や所得の差にも影響するのです。
また、各都道府県や市町村の財源の余裕にも差があるため、住む場所によって公共サービスなどの住みやすさにも違いがあるでしょう。
家庭がこの問題を解決するためには引っ越しという手段がありますが、それにもお金がかかります。経済的な問題から引っ越しができず、そのために仕事を得られる所得が上がりにくいという悪循環に陥ってしまうのです。
また、親自身が住んでいる地域から出る必要を感じていない、理解できないというケースもあります。親自身が格差の存在や格差が子どもにもたらす影響を情報として知らないということが原因として考えられます。
このような「親の情報格差」も社会問題の一つです。
情報格差
近年はインターネットが発達したため、様々な情報を容易に手に入れることができるようになりました。
一方で情報格差、いわゆるデジタルデバイドと呼ばれる問題が生まれています。デジタルデバイドとは、「インターネットなどの情報通信技術を利用できる人とそうでない人の間に生じる格差」のことです。
例えば、以前は料理のレシピを知るのに本を購入したり人に教えたりしてもらう必要がありました。しかし、今はパソコンやスマートフォンで検索すればすぐに知ることができます。
インターネットを気軽に使う人がどんどん料理のレパートリーを増やしていくのに対し、インターネットに関心の低い人は「調べるコスト」が高いためいつまでも同じような料理を作って食べがちになるケースも多いかと思われます。
これが進学や就職など、子どもの人生に影響する分野でも同じことが起きています。
インターネットで得られる情報を持たないばかりに、現代には多様な生き方が存在しているにもかかわらずその選択肢を提示できない親がいるということです。
親ガチャ問題を無くすために私たちができることを考えよう
本記事では親ガチャについて解説しました。紹介した内容をまとめると下記の通りです。
- ・「親ガチャ」は子どもが親を選べない状況を表現したネガティブな意味合いのネットスラング
- ・両親の離婚や恵まれない家庭の経済状況、親からの虐待といった原因から「親ガチャに失敗した」と感じている子どももいる
- ・親ガチャという言葉が生まれた背景には、日本社会で起きている4つの格差がある
親ガチャという言葉は日本の格差社会を反映したものであり、このような言葉が広まることは決して良い状況とはいえません。
私たち個人が親ガチャ問題の解決に向けてできることとして、教育支援などボランティア活動への参加や、格差問題に取り組んでいる団体にお金の寄付などが挙げられます。
ただし、数ある団体のなかには「寄付してはいけない団体」というのもあります。寄付してはいけない団体の見分け方については、下記記事で詳しく紹介しています。寄付の専門家によるコメントも紹介しているので、お金の寄付をする前にぜひチェックしてください。
>>寄付してはいけない団体は本当にある?寄付先を選ぶときのポイントを3つ紹介!
なおgooddoマガジンが厳選した「信頼感のあるお金の寄付先」については下記で紹介しています。子どもの教育支援に取り組んでいる団体を紹介していますので、気になる方はご一読ください。
>>子どもの教育支援をしたい!課題や私たちにできる支援の方法を紹介