リスキリングとは、働き方の変化に伴って必要とされるスキルを身につけることです。少子高齢化やIT人材の不足などで世界的にも注目されています。
「仕事にどんな影響があるのだろう?」
「世界中でリスキリングが注目される背景は?」
このように感じている方に向けて、この記事では下記の内容を紹介します。
- ・リスキリングとは?
- ・リスキリングが注目される背景
- ・リスキリングを推進するうえでの課題
- ・リスキリングを実践するためのステップ
会社としてリスキリングに取り組もうと考えている方はぜひご一読ください。
リスキリングとは?意味を説明
リスキリングとは、社会の変化に対応するため新たに必要とされる業務に役立つスキルや知識を習得することを目的とした取り組みのことです。
リスキリングと混同しやすい言葉は下記の3つです。
- ・OJT
- ・リカレント教育
- ・スキルアップ
具体的にどのようなところが違うのか、次に詳しく説明します。
リスキリング | OJT | リカレント教育 | スキルアップ | |
目的 | 個人や組織の持続的な発展と成長 | 実務を通じた教育 | 学び直し | 個人の能力向上 |
学ぶ対象 | 雇用している従業員 | 新入社員や転職者 | 学校や資格スクールなどで本格的に勉強し直したい人 | 能力向上を目指す人々 |
制約 | 時間とコスト | 指導する先輩の能力と時間的制約 | 仕事との両立が難しい | 時間とリソース、学習環境 |
リスキリングとOJTの違い
OJT(On the Job Training)とは、職場で実際に仕事をさせる、企業が行う教育方法のひとつです。新人が実務や先輩からの指導を通じて必要なスキルや知識を習得することができるため、企業にとっても効果的な教育方法の一つです。
多くの場合、指導をするのは自分が配属された部署の上司や先輩となります。
一方、リスキリングは、OJTや普段の仕事を通じてでは獲得しにくいスキルの取得を目的としています。たとえば専門用語を含むビジネス英会話やプログラミング、AIに対する理解など、今後必要となる新たな業務を行ううえで求められるスキルの取得を目指した学習です。
リスキリングとリカレント教育の違い
リカレントとは、社会に出てから個々が必要とするタイミングで再びスクールなどで学び直すことを指します。仕事とは別の時間に教育を受けるため、休職もしくは退職して学び、転職することになるケースが多いです。
一方でリスキリングとは、主に会社が教育プログラムを構築して、従業員が仕事をしながら学びを続けることを指します。ただし個人が主体的に行う学び直しのことを「リスキリング」と表現する場合もあります。
リスキリングとスキルアップの違い
新しい能力を身につける、という意味ではリスキリングとスキルアップは同じです。
ただし、スキルアップは多岐にわたる能力の向上を指す一方、リスキリングは今後必要とされる新しい能力を習得することを意味しています。
似た部分はあるものの、少し意味が異なっています。
リスキリングが注目される背景
リスキリングが注目される背景は下記のとおりです。
- ・少子高齢化による慢性的な労働力不足だから
- ・IT人材が不足しているから
- ・世界的にリスキリングが注目されているから
具体的に解説します。
少子高齢化による慢性的な労働力不足だから
厚生労働省の発表によると、日本人の出生数は減少し続けています。1989年には125万人が生まれているのに対して2019年には87万人と、わずか30年の間に出生数が大幅に減少しているのが現状です。
少子高齢化によって生産年齢人口が減ると、労働力不足の深刻化が予想されます。労働力が減った場合に今よりも一人あたりの生産性を向上させなければ、会社の規模縮小や事業活動そのものが難しくなる恐れがあります。
政府も少子化対策を進める必要がありますが、現状では改善の兆しは見られません。日本政府が実施している少子化対策の内容については下記記事をご一読ください。
>>日本政府が行う少子化対策や内容について知ろう
会社側は労働力不足を補うため、会社側は従業員へのリスキリングを通じて生産性を向上させる必要があります。また従業員側も、リスキリングによって仕事の効率化やスキルアップを目指すことで、給料アップや転職・独立など、多様な選択肢を選びやすくなるといったメリットもあります。
IT人材が不足しているから
日本でも業務のIT化が加速しているものの、ITに熟知した人材が不足しているという課題があります。
総務省では、「デジタル化の推進には、ICT人材が不可欠であるが、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査結果(2019年度)によると、IT人材の量について、「大幅に不足している」又は「やや不足している」という回答の合計は、89.0%にも達している。」*と発表しています。
ITを通じて業務を効率化したいと思う一方、ITに強い人材を新規採用しようと思うと、採用にかかる費用や提示すべき年収相場が安くありません。また会社に馴染めず短期間で辞めるリスクもあります。
その点、リスキリングを促して今いる従業員をIT人材として育成していくほうが効率的かつコストカットにつながります。さらに、今いる従業員のほうが、会社の方針や基本的な業務について理解できているのもメリットです。
ITに強い人材が増え苦手意識がなくなれば、業務を効率化して生産性アップも期待できます。
*出典:総務省│ ICT人材の不足・偏在
世界的にリスキリングが注目されているから
世界的にリスキリングが注目されており、世界経済フォーラムが中心となってリスキリングの導入を進めています。2020年世界経済(ダボス)会議*では、「2030年までに10億人の労働者のリスキリングを実施」することを目標としています。
これを受け、多くの企業がリスキリング導入を進めています。たとえば、大手EC企業は倉庫従業員にスキルアッププログラムを提供し、ソフト開発エンジニアに必要なスキルを身につける研修を行いました。また米大手スーパーでも、VRを使って最新技術への学びを深めるリスキリングを導入しています。
世界的にリスキリングが注目されている最大の理由はコストカットです。高度なIT技術を持つ人材は、給与の高い大企業に流れがちです。そのため、多くの企業では今ある従業員を育てる方が効率的です。
さらに社風を知っているため新規採用者よりも比較的退職しにくく、社内に精通している人材へのリスキリングが効率的だと考えられています。コストを抑えつつ安定した人材を確保するために、多くの企業がリスキリングに注目しています。
政府がリスキリング支援助成金を開始
2022年、岸田文雄首相は衆院本会議で所信表明演説し、個人のリスキリングの支援に5年で1兆円を投じると表明しました。
その発言を受け、厚生労働省はリスキリングを支援するため、人材開発支援助成金を開始しました。
制度の内容は「新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴い、事業主が雇用する従業員に対して新たな分野で必要となる知識及び技能を習得させるための訓練を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。」*といったものです。
*出典:人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内|厚生労働省
ほかにも、東京都の法人が該当する「DXリスキリング助成金」があります。
日本でリスキリングを推進するうえでの課題
今後の社会へ適応するために、新規事業の人材の確保、ITやAIに対応できる人材育成といったリスキリングは必須です。しかし下記のような課題があります。
- ・何を学べば良いのか分からない
- ・学習プログラムやノウハウがない
- ・時間と手間がかかる
日本でリスキリングを推進するうえで、この課題をどのように解決すべきなのでしょうか。詳しく説明します。
何を学べば良いのか分からない
リスキリング導入における課題に「会社側が従業員に何を学んでもらいたいのか」「何を学ぶ必要があるのか」を、会社側が正しく理解できていないことが挙げられます。
たとえばIT人材不足の解消を行いたいのにビジネス英語のリスキリングプログラムを導入しても問題は解消されません。つまり会社にとってどんなスキルが必要かどうかを明確にすることが大切です。
まず、企業のビジネス戦略や目標を明確にしましょう。企業が成し遂げたい成果や目指す方向性に基づいて、どのようなスキルや知識が必要かを洗い出します。
企業側は成長戦略や目標を明確にして、目標達成のための業務遂行に必要なスキルや資格、学びを理解する必要があります。
学習プログラムやノウハウがない
リスキリングを推進する課題の1つに、適切な学習プログラム構築が難しいという問題があります。
なぜなら一般的な企業には、リスキリングを導入しようと検討しても具体的にどう導入・運用を進めれば良いのか分からない、などノウハウが足りない場合が多いからです。
したがって、自社で学習プログラムを組むのではなく、ノウハウを持っている企業をアウトソーシングで招くほうがリスキリングの導入がスムーズになる場合があります。
時間と手間がかかる
専門的なスキルを身につけることは、時間と手間がかかることです。
たとえば英会話を学ぶ、となった場合すぐにネイティブと日常会話したり海外出張で現地のビジネスマンと英語で交渉ができるようになるわけではありません。プログラミングでも、基礎から初めて仕事で活かせるようになるまではかなりの時間がかかります。
つまり、せっかくリスキリングを導入しても成果がでるまでに時間と手間やお金といったコストがかかるため、途中で挫折してしまいやすいのです。
リスキリングに取り組むためにできること
リスキリングに取り組むため、企業として対応できることは以下の3つです。
- ・現状分析と情報収集を行う
- ・リスキリングしやすい環境を整備する
- ・モチベーションを維持できる仕組みを作る
リスキリングに取り組むために必要なことばかりなので注意しましょう。
現状分析と情報収集を行う
まずは会社の現状を分析し、情報を収集することが重要です。
たとえば会社の現状を知るために、社員の業務内容や生産性が上がるポイントをリサーチすることです。そうすることで自社の問題や成長するために必要なものが見えてくるでしょう。
ほかにも、現状を分析することで既に持っている強みや不足しているスキル、改善が必要な領域を把握することができます。
会社として成長するために必要なスキルを今いる従業員に補ってもらうにはどうしたら良いのか、まずは現状分析と情報収集を行いましょう。
リスキリングしやすい環境を整備する
リスキリングしやすい環境を整備することも重要です。従業員に学び直すことの重要性を伝えると、従業員のリスキリング促進につながります。
リスキリングを重要な活動と位置づけ、学習やスキル習得を促進する組織文化を醸成することが重要です。リスキリングにつながるプログラムを用意したり資格手当の導入を検討したりすることも、環境整備に繋がります。
モチベーションを維持できる仕組みを作る
社内でリスキリングを導入する際には、モチベーションを維持するための仕組みを整えることが重要です。たとえば下記の方法が挙げられます。
- 報酬制度を見直す
- アウトプットの機会を与える
- リスキリングを促す雰囲気を作る
知識や資格を身につけて、売上アップやコストカットなどに貢献してくれれば給与に反映させやすくなります。資格手当の導入を検討してみるのも良いでしょう。
またリスキリングで得た知見を業務に活かす機会を作り、うまくいったかどうか社内で共有することもリスキリングを促す雰囲気を作るうえで役立ちます。
リスキリングした結果、評価がアップしたり仕事で学んだことが役立ったりすれば、学び直しに対して積極的になる従業員もでてくるでしょう。
リスキリングで解消が期待される社会課題
リスキリングを導入することで解消が期待される社会課題もあります。
- ・働きがいのある仕事に就きやすくなる
- ・スキルアップを通じて仕事の生産性を上げやすくなる
働きがいのある仕事に就きやすくなる
リスキリングを行うことで従業員はより働きがいのある仕事に就きやすくなり、労働条件の悪い、いわゆる「ブラック企業」から抜け出しやすくなる効果が期待できます。
不当な条件で従業員を酷使するブラック企業は、テレビや新聞でも取り上げられるなど社会課題の一つとして問題となっています。SDGs(持続可能な開発目標)でも「働きがい」が取り上げられるなど、労働問題は世界的な社会課題でもあります。詳しくは下記記事をご一読ください。
>>SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」で解決するべき問題と現状とは
>>持続可能な開発目標・SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」のターゲットや現状は?
従業員個人も主体的にリスキリングに取り組むことで、別の会社に転職できる可能性が高まります。また会社側から見ても、スキルを身につけた人材を採用できるチャンスが広がります。ブラック企業については下記の記事で詳しく説明しますので参考にしてください。
「はたらきがい」については下記記事でも言及しています。働きがいのある仕事に就くうえでの日本の課題や現状について理解を深めたい方はぜひご一読ください。
>>みんなが働きがいを感じて仕事をするためには?解決するべき日本の課題や現状とは
リスキリングを通じて仕事の生産性を上げやすくなる
リスキリングすることで仕事の効率化が図り、生産性を上げやすくなります。
たとえばパソコンの効率的な操作方法を学んで生産性が上がれば、仕事量は同じでも残業時間が減る可能性があります。ほかにもプログラミングを学んでスキルを習得することで特定の人だけではなく、リスキリングした人もIT系のトラブルにも対応できるようになり会社としての生産性も上がりやすくなるでしょう。
こうして会社全体の残業時間が減り、休みが取りやすくなるとバランスの取れたワークライフバランスを実現できます。働き方改革の影響で生産性を上げる必要があるいま、リスキリングは有効な手段の1つだといえます。
>>働き方改革関連法で残業時間・時間外労働時間の上限はどう変わる?
会社でリスキリングを実践するためのステップ
会社でリスキリングを実践するステップは下記のとおりです。
- ・今後の業務に必要となるスキルを把握する
- ・達成したい目標を決める
- ・必要な育成プログラムを決める
- ・教育プログラムに取り組む
- ・アウトプットの場を作る
1つ1つのステップを踏んでプログラムを導入しないと、失敗してしまうこともあります。
たとえば今後の業務に必要となるスキルを見誤ってしまうと「リスキリングを通じてスキルアップしたのに業務効率化や売上アップにあまり影響がなかった」となってしまいかねません。
一部の社員の教育がうまく進んだとしても、アウトプットの場がなければスキルを活かすことができず知識が無駄になってしまいます。実施方法やプログラム内容を正しく検討し、取り組み、学んだことを活かす場を作るまでを一貫して提供することが大切です。
リスキリングを実施して生産性アップを意識しよう
本記事ではリスキリングについて解説しました。ここで紹介した内容をまとめます。
- ・リスキリングは世界でも注目されている取り組みで、政府の支援補助金も開始されている
- ・リスキリングは従業員だけでなく会社にとってもメリットのある取り組み
- ・会社で実践するためには正しいステップを踏むことが大切
リスキリングは従業員個人の問題だけでなく、企業や社会全体でも考えていくべき課題のひとつです。ブラック企業や少子高齢化による労働力不足、生産性が上がらないといった問題を解決する手段の一つがリスキリングです。
この機会に個人はもちろん、企業側もリスキリングについて真剣に考えてみませんか。