世界では都市部に人々が集中し、その機能が人口増加に追いつかなくなっています。一方で農村部では、様々な問題が発生しており、人々はより都市部へと向かうようになります。
このままいけば農村部は成り立たなくなり、食料の問題が世界的に広がる可能性もあります。
都市部と農村部のつながりを良好なものにするために、国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)では目標11「住み続けられるまちづくりを」というものが掲げられ、様々な取り組みが行われています。
この記事ではそんな農村部の実態について紹介します。
持続可能な開発目標・SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」のターゲットや現状は?
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SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」において問題となっている都市部の人口増加
世界では人口の増加が年々起こっており、人々は利便性の高い都市部へ移っているとされています。現在の世界人口の半数以上が都市部に移り、居住しているのは、財やサービス、交通手段などを効率的に提供することができ、技術革新や経済成長をもたらすチャンスが広がるためです。
そのため企業の中枢なども都市部に集まりやすく、地方から転勤で都市部に移り住むということもあります。
このまま人々が都市部に移住し続ければ2030年には世界人口の6割の人々が各都市に居住するようになると推定されています。
しかし、急速な人口増加は都市部の生活を適切に管理する機能を圧迫し、生活の安全面や環境面などで深刻な問題を引き起こす可能性があります。
また、そのしわ寄せは貧困層の生活に及び、厳しいものとすると予想されます。
他にも、都市部に人が流れることによって農村部にも影響を与えます。
そういった都市について全ての人々に快適で便利な生活を提供し、持続的な開発を可能にするための方向性を、持続可能な開発計画(SDGs)では目標として掲げています。
それが目標11の「住み続けられるまちづくりを」であり、目標達成のための10のターゲットによる取り組みです。
特にターゲットの11.aでは都市部と都市周辺部、農村部のつながりを良好にし、都市部への人口移動が適切にコントロールされることを目指しています。
つまり都市部の急速な人口増加を和らげることを目的としています。裏を返せば、現在は農村部の実態により、多くの人が都市部へ移動しなければいけない現実があるということにもなります。
(出典:国際開発センター「目標11 住み続けられるまちづくりを」,2018)
世界の農村部の現状
農村部から都市部に人が流れてしまうのは、その過酷な現状や不便な生活などが理由に挙がります。
ユニセフを含む国連5機関が発表した報告書によると、2018年時点で、世界には推計8億2000万人以上が飢餓に苦しみ、極度の貧困生活を余儀なくされているというデータがあります。
こうした人々の大半は農村部に暮らし、収入源は農業のみとなっている人が多いです。子どもの人数で見ても、極度の貧困下で暮らす農村部の子どもは5人に4人の割合であると報告されています。
なぜこれほどまで農村部に貧困層が増えてしまったのか、それはいくつかの理由が考えられます。
1つは農業が気候の影響を受けやすく、凶作期には開発途上国の食料安全保障を脅かし、農村部の零細農業(※)に大打撃を与えます。
途上国の農村部の人々は農業が生命線である人々がほとんどであり、それ以外に収入が得られないことから、貧困となる割合が大きいのです。
また農産物自体の価格が低いことも影響しています。仮に通年どおりの収穫ができても、
公正な取引が行われないこともあり、生活していくために必要な収入を得られないということもあります。
土地を持たない農家も少なからずあり、他人の土地を耕作している人もいます。そうなれば収入の一部を土地の所有者に支払わなければならず、より収入は減ることになります。
他にもグローバル化による急速な発展や、頻発・激化する気候変動、食料価格の高騰、民間セクターの参入拡大、世界的な農地競争など、世界の変化の影響を最も受けやすいのは途上国の農村部に住んでいる人々であり、こうして更なる貧困が助長されてしまいます。
そうなれば農村部の人々は収入を得るために、都市部に出稼ぎに行かなければならない人も出てきます。
しかし上手く職にありつければ良いですが、そうでない人は農村部に戻るか、スラム街に行き着くかといった選択肢を取らざるを得ません。
※零細農業:自家農業だけで家族の生計を維持するだけの土地を持たず、賃労働などを兼ねて生計を立てる農家
変わりつつある農村部
農村部が置かれる貧困や飢餓問題に対して、日本を含め世界では様々な取り組みが行われています。国際機関や日本の国際協力機構などは共同で、農村部に存在する極度の貧困と飢餓を撲滅するための農業農村開発を行っています。
人口増加や食料生産低下などの現状の元、栄養不足や貧困などの課題に対して、農業基盤の整備や作物生産、営農技術の改善などを通じた食料の生産性向上を図っています。
これらに加え、農産物の製造や加工、流通、消費にいたるまでのフードバリューチェーン(※)全体の強化に取り組むこと、そして小規模農家の支援を行うことで、農村部にある貧困の実態を改善するべく動いています。
国際協力機構でもケニア政府とプロジェクトを通じて23カ国で「小規模農家による市場志向型農業を振興するための普及アプローチ」を展開してきました。
他にも日本の米の生産技術を用いて、「サブサハラ・アフリカのコメ生産を2030年までの12年間でさらに倍増する」という取り組みが2008年から継続して行われています。
このような取り組みにより農村部にある貧困と飢餓の問題を、収入の得られる農作物を多角的に生産することで改善させるように進められています。
※フードバリューチェーン:食品流通の各段階で生み出される付加価値(バリュー)を連鎖させたもの。
(出典:公益財団法人日本ユニセフ協会「世界の飢餓人口、8億2,000万人以上」,2019)
(出典:公益財団法人日本ユニセフ協会「子どもの貧困」,2016)
(出典:日本貿易振興機構「農村社会」)
(出典:国際連合食糧農業機関「世界食料農業白書2015年報告」,2015)
(出典:国際協力機構「農業開発/農村開発」)
(出典:農林水産省「農業農村開発協力の新たな視点」)
日本の農村部の現状
世界の農村部についての実態は紹介しましたが、日本国内の農村部では少々違った問題が起こっています。
日本でも農村部から都市部あるいは都市周辺部へ次々と人が流れていっていますが、それによる弊害が起こっています。
世界の農村部同様に、都市部と比較しても収入面が低く、インフラなどの関係により利便性も落ちてしまいます。そのため新成人を含む若年層を中心として、都市部へと移り住む人々が増加します。
実際に東京圏を例に取ると、2017年のデータでは東京圏への転入届は若年層の動きが大きくなっており、20~24歳の層については7万人を超える転入超過が起きています。
続いて農村部の農家人口は、同様の2017年のデータを見てみると437.5万人であり、そのうち65歳以上は182.3万人にも上ります。
農家人口に占める高齢者の割合は41.7%であり、4割超が高齢者であることが分かります。
これを2019年まで進めると、農家人口は398.4万人と39万人ほど減少していますが、65歳以上の人口は180.1万人と2.2万人の減少に留まり、農家人口に占める高齢者の割合は45.2%に増加しています。
一概には言えませんが、これまで農業に携わっていた人の高齢化は進むものの、後継者がおらず農家人口は減る一方で、高齢者の割合は増える傾向にあるということが伺えます。
全国的な農家数も減少傾向にあり、このままでは農業生産活動の維持が困難になり、過疎化などから農村の有する国土保全や水源の涵養、自然環境の保全といった多面的機能が失われる可能性があります。
(出典:財務省「都市部と地方の人口移動」,2019)
(出典:農林水産省「農村の現状に関する統計」)
(出典:農林水産省「農業・農村の有する多面的機能」)
(出典:富山県「農地と農村の現状」)
SDGsへの意識を高め、農村部の人の生活と自然を守ろう
世界には世界の、日本には日本の農村部の問題が存在し、それぞれに対応策も変わってきます。
SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」は、都市部と都市周辺部、農村部のつながりを良好にし、都市部への人口移動が適切にコントロールされることを目指し、目標達成のための10のターゲットによる取り組みを行ってきました。
貧困層が多い途上国の農村部では、安定的な農業で収入を得られることで、そこに住んでいる人々を守ることができ、都市部への急速な流入を防ぐことができます。
担い手が減っている日本の農村部では、農業に携わる人を増やすと共に、地方での利便性の向上や安全で快適な生活の構築などが必要となってきます。
農村部がなければ、都市部に住む人たちの食料はなくなり、どちらの生活も成立しなくなります。
農村部にも目を向け、どちらも持続的に発展していける社会を作り上げることが重要です。
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