海洋汚染は海洋ごみや流出した油、工場や生活排水によって起こります。この汚染により、海洋の環境だけでなく生態系にも影響を及ぼします。
この要因の中でも、工場排水あるいは生活排水による汚染は、「富栄養化」という現象を招き、赤潮を発生させる原因になっています。
SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」では、ターゲットに「富栄養化」についての内容も含まれており、海洋汚染に関連する問題として取り組みが行われています。
この記事では海洋汚染の問題となっている「富栄養化」という現象について紹介します。
持続可能な開発目標・SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」のターゲットや現状は?
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SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」に関連する海洋汚染の要因とは
私たちは海洋資源に支えられ生活しています。
海洋は社会や経済の発展に必要不可欠であり、資源の提供がなされなければ成り立ちません。
しかし、その海洋資源が水質汚染や気候変動といった環境変化によって影響を受けるため、海洋や沿岸地域の環境悪化によって、持続的に得ることが難しくなっています。
この水質汚染や気候変動のほとんどは私たちの生活や生産活動が要因として起こっています。そのため海洋資源を持続的に開発し、海洋の生態系を保全するために、国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)では目標14に海洋についての目標を掲げています。
その目標が「海の豊かさを守ろう」というものであり、そのための10のターゲットを定めています。
水質汚染は海洋ごみによるところが大きいですが、要因はそれだけではありません。
富栄養化という現象も水質の悪化を起こし、水質汚染を引き起こしています。
富栄養化はもとより、それにより起こる現象が海洋の生態系にまで影響を及ぼし、海洋資源を減らす原因となっています。
(出典:国際開発センター「目標14 海の豊かさを守ろう」,2018)
SDGs目標14のターゲットにある「富栄養化」とは
海洋汚染は私たちの生活から発生する海洋ごみによるものが問題視されています。
しかし要因はそれだけではありません。油の流出や生活・工場排水などが海に流れ出すことでも起こります。さらに富栄養化による海洋汚染もあります。
富栄養化という状態になると、赤潮や貧酸素化といった現象が起こります。赤潮は植物プランクトンの大量増殖を引き起こし、魚の斃死(へいし)(※1)につながります。
魚が大量に斃死してしまうようなことになると、漁業を含む水産業に影響を与えます。
また赤潮が海底に沈降することにより、海水中の溶剤酸素(※2)を使用して、バクテリアにより赤潮が分解されます。
溶剤酸素が使用されるということは、海水中の酸素が失われ、貧酸素化が起こり、海底を生物が生息できない環境にしてしまいます。
特に夏季には河川の水の流入や太陽の日射によって海の表層水と底層水が混ざりにくく、貧酸素化しやすくなると言われています。
富栄養化そのものは直接海洋を汚染するものではありませんが、この富栄養化によって海洋汚染につながる現象が起こるということです。
※1 斃死(へいし):行き倒れること、のたれ死ぬこと
※2 溶剤酸素:海水中に溶けている酸素
(出典:環境省「森・川・海における物質循環と人との関わり」)
(出典:水産研究・教育機構「瀬戸内海の栄養塩環境と漁業」)
富栄養化とは
富栄養化は本来湖沼などの閉鎖水域に、長期的に栄養塩類が流入することによって、生物生産の高い富栄養湖に移り変わっていく自然現象のことを言います。
しかし現在は人口や産業の集中などにより、東京湾や伊勢湾、瀬戸内海などの閉鎖性海域でも起こっています。
先ほど触れた赤潮は、この水域の富栄養化により、植物プランクトンなどの藻類が異常増殖して起こる水質問題です。
富栄養化は栄養塩の増加によって起こります。栄養塩とは窒素やリン、珪素(けいそ)など植物が正常な生活を営むために必要な無機塩類のことです。
植物が生長するとき、地中から大量に取り込むものであり、植物の生長及び増殖を制限している物質でもあります。
つまり栄養塩が水域に増加することで、植物プランクトンが生長・増殖するために必要な栄養素が増えるため、赤潮が起こるということです。
富栄養化とは栄養塩が増加し、非常に多くの栄養に満たされている状態を言います。
栄養塩は多すぎると水質の悪化を引き起こしますが、反対に少なすぎると生物の生産性を低下させる貧栄養化も起こります。
そのためバランスが取れた状態が望ましいのですが、この栄養塩は私たちが営む生活の中で排出する生活排水や、工場から出る排水の中に含まれていることが多く、これらが湖沼や海に流れ出すことによって富栄養化が起こる要因となっています。
富栄養化の具体的な事例
富栄養化は湖沼で起こる現象ですが、近年は海洋でも起こるようになりました。その代表的な事例は瀬戸内海で起こった富栄養化です。
1960~1970年代の高度経済成長期に、瀬戸内海では富栄養化が進行しました。1970年代前半には年間300件にもおよぶ赤潮が発生するなど、水質の著しい悪化が起こりました。
これを受け、1973年には瀬戸内海環境保全臨時措置法が制定され、窒素やリンの総量規制が順次導入され、水質改善が進みました。
赤潮の発生が減少しましたが、栄養塩濃度や溶残無機態窒素濃度の低下が進んだことで、養殖ノリの色落ちや瀬戸内海の全ての府県での漁獲量の減少が続くなどの被害が現れました。
瀬戸内海は富栄養化状態を脱したものの、漁業資源が豊かな瀬戸内海の姿は失われてきています。
富栄養化の状態は水質の悪化をもたらしますが、栄養塩などを排除し、きれいにしすぎた貧栄養化状態も漁業や水産業に大きな影響を与えることが判明したことになります。
SDGs目標14の達成に向けた「富栄養化」をなくす取り組み
富栄養化は湖沼や湾などの閉鎖性水域に、窒素やリンなどの栄養塩が流れ込むことで起こります。
この栄養塩は地域によってその割合が異なりますが、主となる成分は窒素やリンが多いと言われてます。
発生割合に関して、東京湾に生活排水や工場排水が流れ込む横浜市を例にとって見たとき、窒素は生活排水が60%、工場排水が20%、農業畜産・その他排水が20%となっています。
また、リンは生活排水が50%。工場排水が30%、農業畜産・その他排水が20%の割合という報告があります。これは水再生センターによる窒素及びリンの約50%の除去率を加味しています。
いずれも生活排水による発生割合が大きいですが、この内訳は窒素が約80%がトイレ、20%が台所や選択などの雑排水、リンは約70%がトイレ、30%が雑排水であり、トイレからの生活排水が大きな割合を占めています。
こういった窒素やリンが栄養塩として湾に流れ込み、富栄養化が起こっていることから、この除去が対策として挙がります。
リンの除去方法については物理化学的方法と生物化学的方法に分かれており、物理化学的方法としては凝集剤として鉄塩やアルミニウム塩などを使用して、海中のリン酸イオンを反応させ、難溶性の塩を生成する凝集沈殿法が挙がります。
また、下水の二次処理水中のリン濃度を下げる技術として晶析脱リン法(しょうせきだつりんほう)も、物理化学的方法として利用されています。
窒素の除去方法についても物理化学的方法と生物化学的方法に分けられますが、生物学的方法として硝化脱窒素法が河川へ処理水を放流する下水処理場などで、富栄養化対策として採用されています。
富栄養化対策としての水質改善方法は技術の進歩が進んでおり、窒素やリンを除去する方法が開発されていますが、それ以前に栄養塩を多量に排出させないための対策も行われています。
特に工場などから出る排水に関しては、全国で排水基準が設けられており、さらに都道府県ごとに、その地域の状況などを鑑みた厳しい排水基準が設定されています。
例えば飲料メーカーの苦情にある排水処理施設では排水基準値を下回るように処理を施してから、河川や下水道に流します。
その処理に上記のような富栄養化対策の技術が用いられています。
※難溶性:水に溶けにくい性質
(出典:国立環境研究所「富栄養化対策(発生源対応)」)
(出典:横浜市「富栄養化の原因となる窒素・りんの発生源は?」,2019)
(出典:環境省「水質汚だくの発生を防ぐために」)
SDGs目標達成のため富栄養化の問題を知ることも大切
富栄養化は私たちが生活の中で排出するものからも起こっています。
工場排水の量の方が、私たち一人ひとりが排出する量よりも多いですが、それでも日本の人口、あるいは世界にいる人口が少しずつでも排出していれば、それは大量になり、先述したように割合としても生活排水の方が多くなってしまいます。
SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」ではターゲットとして「富栄養化」の問題が盛り込まれています。
様々な取り組みを行っている政府や地方自治体による規制、企業の努力により工場排水は処理されて下水に流れるため、栄養塩などは抑えられていることから、生活排水による富栄養化が問題となります。
生活排水をまったく出さないということはできませんが、日々の生活の中で生活排水の中に栄養塩が含まれることを抑えることはできます。
例えば、食器や鍋の汚れを拭き取ってから洗う、洗剤は適量を守り必要以上に使わない、風呂で使った水をトイレや洗濯に使うなどが挙がります。
まずは、富栄養化の問題について知り、私たちができることから始めていきましょう。
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