ひとり親世帯は、母子家庭(シングルマザー)と父子家庭(シングルファーザー)に分けられます。
厚生労働省の調査によると、2016年時点での母子世帯は123.2万世帯、父子世帯は18.7万世帯となっており、母子世帯が父子世帯よりも6倍近く多いことがわかります。
日本ではシングルマザーの貧困率が高いと言われますが、その理由は何なのでしょうか。
ここでは、シングルマザーの実態や公的な救済制度などを紹介しながら貧困の理由を見ていきます。
(出典:厚生労働省「平成28年 全国ひとり親世帯等調査結果の概要」)
貧困に悩むシングルマザーの食事や生活とは?自己責任と言われる風潮から脱出するには
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ひとり親世帯に子どもの貧困が多い理由
顕在化しているシングルマザーの貧困問題ですが、父子家庭を含めた「ひとり親世帯」は、そもそも貧困に陥りやすい傾向があります。
その要因は一つではなく複数あるのです。
収入が少ない
親が1人しかいないということはその分収入が減ります。特に夫婦どちらかの収入に頼ってきた家庭では、離婚後に極端な貧困に陥る家庭も少なくありません。
また、共働きの家庭が増えている現状もあり、周りの家庭と比べて生活に格差が出る「相対的貧困」に陥る世帯もあります。日本は、欧米をはじめとした先進国の中でも、この相対的貧困率が高いことが問題となっています。
2015年時点でひとり親家庭の相対的貧困率は50.8%と、2世帯に1世帯が相対的な貧困の生活水準といわれています。そして、直近の30年間で母子世帯数は1.5倍に増え、その80%以上が就業しているにもかかわらず、非正規の場合平均年間就労収入は約133万円とされています。
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子育てと仕事の両立が難しい
子どもが幼い家庭では、子育てや家事に追われてフルタイムで仕事ができない現状であることも貧困に陥りやすい要因です。正規雇用と非正規雇用の格差はニュースなどでも多々取り上げられていますが、この問題は、ひとり親世帯の貧困にも密接に連関しています。
給与や待遇面が充実していない
正社員と同じくらい働いているひとり親の場合でも、給与面や待遇面が充実せず、貧困に陥っている場合があります。この問題はワーキングプア(働く貧困層)と呼ばれます。
夫婦2人いれば両方の収入で補うことができますが、ひとり親世帯では難しいのです。
病気・ケガになると収入がゼロになる
急な病気やケガで働けなくなると収入がゼロもしくは激減します。緊急時に収入を補える環境がない点は、ひとり親世帯の大きな弱点と言わざるを得ません。
- 子育てや家事に追われてフルタイムで仕事ができない現状であることも貧困に陥りやすい要因
- 給与面や待遇面が充実せず、ワーキングプアに陥っている(働く貧困層)
- 緊急時に収入を補える環境がない点は、ひとり親世帯の大きな弱点<\li>
(出典:男女共同参画局「共同参画2019年2月号」,2019)
(出典:厚生労働省「平成28年 全国ひとり親世帯等調査結果の概要」)
特にシングルマザーの貧困率が高いといわれる理由は?
シングルマザーとシングルファーザーの家庭では、前者の方が貧困率が高い傾向にあります。「女性が働ける場が少ないからだ」という意見もありますが、先に紹介した厚労省の調査では母子世帯の就業状況は81.8%、父子世帯では85.4%となっています。就業率にそれほど大きな差はなく、この数字は先進国でもトップクラスです。
ではなぜシングルマザーの方が貧困率が高いのでしょうか。
正規雇用に就きづらい
シングルマザーにとって、正規・非正規雇用の問題は深刻です。
父子家庭の父親は、もともと正規雇用として勤めていることが多い傾向にありますが、シングルマザーとなる女性は、出産を機に退職し専業主婦やパートタイマーなどをしていた人も多くいます。
そのため、シングルマザーとなり仕事を探す場合には正規雇用に就くのは難しい場合もあり、雇用側もシングルマザーであることから雇用を敬遠するところもあります。
シングルマザーの場合、子どもが体調不良になったときに帰らねばならないことや、子どもがいるために遅くまで働けないなど、様々な理由で雇用側は正規雇用としては雇うには不安という理由がみられます。
働き方改革や様々な施策、取り組みによりそうした傾向は減りつつありますが、雇用に関して財政状況が厳しい企業や会社では今なおそうした問題が解決できずにいるのが現状です。
また、内閣府が発表した報告書によると、子どもが小さい母親は子どもとの時間を大切にしたいため、フルタイム・正規雇用を希望していない場合もあると言われています。
(出典:内閣府公式サイト「 平成28年度 子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究 報告書」,2016)
子どもが幼い時期に離婚することが多い
シングルマザーや父子家庭になる理由の多くは離婚です。
離婚が原因でひとり親になった世帯はシングルマザーで8割、父子家庭でも7割を超えています。
このような状況になる平均年齢は、シングルマザーが33.8歳、この方々が育てる子どもの末っ子の平均年齢が4.4歳となっています。
小学校に入学前の子どもがいることから、シングルマザーとなった女性は必然的に子育てに充てる時間が必要となるため、正規雇用の仕事にも就きづらい状況が生まれてしまいます。
(出典:厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査(ひとり親世帯になった時の親及び末子の年齢),2016」)
養育費がもらえない
シングルマザーとなる理由の多くが離婚ですが、この場合、離婚相手である父親から養育費を受け取る権利が存在します。
2016年時点で父親から養育費を受けているのは24.3%、過去に受けたことがあるのが15.5%と少なく、受け取ったことがないのは56.0%と、半数以上のシングルマザーが養育費を受け取っていないことがわかります。
養育費を受けない理由として、親同士が養育費の取り決めをしないためですが、その主な理由としては以下のことが挙げられます。
- 相手と関わりたくない(31.4%)
- 相手に支払う能力がないと思った(20.8%)
- 相手に支払う意思がないと思った(17.8%)
これらの理由から、シングルマザーが貧困に陥ってしまう理由として、離婚時に子どもが小さいため正規雇用で働きづらいこと、また養育費を受けない場合が多いことなども関係していると考えられます。
- シングルマザーが貧困に陥りやすい理由として以下が挙げられる
- 仕事で十分な収入を確保できる環境にはない(フルタイムで働きにくい)
- 離婚の際に養育費の取り決めをしていない
(出典:厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査(養育費の状況),2016」)
シングルマザーの貧困家庭の苦悩
シングルマザーの方は、貧困により様々な壁に悩まされているのが現状です。
代表的な例として4つご紹介します。
貯蓄ができない
貯蓄ができない点も、貧困で苦しむシングルマザーの悩みです。
実際に、2016年の調査では児童のいる世帯と母子家庭の貯蓄について、以下のような結果が出ています。
子どもがいる世帯 | 母子世帯 | |
貯蓄がない | 14.6% | 37.6% |
貯蓄がある | 82.0% | 59.6% |
平均貯蓄額 | 679.9万円 | 327.3万円 |
(出典:厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査(各種世帯の所得等の状況」,2016)
およそ4割近くの母子家庭が貯蓄がない状態ということがわかります。
さらに、生活意識の状況について見てみると、母子家庭では「大変苦しい(45.1%)」「やや苦しい(37.6%)」と、85%近くの家庭が苦しいと感じているとされています。
また、母子世帯の母の預貯金額の状況は、「50万円未満」が 39.7 %と最も多いことも明らかになっています。
(出典:厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査(各種世帯の所得等の状況」,2016)
食事が困る
仕事で時間が取られたり疲れが溜まったりすることで、子どもへの食事がコンビニ弁当やジャンクフードばかりの家庭もあります。栄養バランスが崩れるだけでなく、自炊よりもお金がかかってしまうというマイナス点もあるため、なかなか貧困から抜け出せない要因にもなり得ます。
近年は、こうした問題を解決するために無料で食事を提供する「こども食堂」のような取り組みが普及しています。
習い事や旅行ができない
経済的な余裕がない状態は、衣食住以外の場面にも影響します。子どもに、「好きな習い事をさせてあげられない」、「ゲームやおもちゃを買ってあげられない」といったことや、「友人との食事会や旅行に行けない」などです。友達や近所など、周りの家庭と比べてしまい、日々辛い思いをしているシングルマザーも多いのです。
協力を仰ぎにくい
周りから厳しい言葉をかけられたシングルマザーは少なくありません。シングルマザーに対する偏見的な意見によってストレスを抱える方もいます。
貧しいというだけではなく、誰かに「助けて」と言えない孤立感によって貧困さは悪化すると考えられています。
(出典:厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査(ひとり親世帯になった時の親及び末子の年齢),2016」)
- 母子家庭の85%近くの母親が家計が苦しいと感じている
- 母子世帯の母の預貯金額の状況は、「50万円未満」が 39.7 %と最も多い
- シングルマザーに対する偏見によってストレスを抱えている
シングルマザーが受けられる支援、制度は?
日本には経済的に困窮するシングルマザーを支援する制度がいくつかあります。代表的なものが「手当て」です。ただし、それぞれ、条件によって支給額が変わります。
名称とともに、その条件もご紹介します。
児童扶養手当
母子家庭や父子家庭を対象にした制度で、所得と子どもの数に応じて手当が支給されます。支給者は地方自治体で、0歳から18際に達して最初の3月31日(年度末)までの子どもがいる世帯が対象です。
世帯に児童一人の場合、以下の額が基準です。
- 全額支給 43,070円
- 一部支給 43,060円〜16,160円までの10円きざみの額
児童二人以上の場合は、上記金額に10,160円〜5,090円の加算、三人目以降は6,090円〜3,050円ずつさらに加算されます。
所得に応じた支給額となっているため、正確な金額はお住いの自治体窓口で確認することが必要です。
児童手当
日本に住み、0歳から15歳(中学校修了まで)に達して最初の3月31日(年度末)までの間の子どもがいる世帯が対象です。旧称は「子ども手当」と呼ばれていたものです。
支給額は以下のようになっています。
- 3歳未満の児童 15,000円/月(一律)
- 3歳以上小学校終了前 10,000円/月
(第3子以降は15,000円/月) - 中学生 10,000円(一律)
児童手当には所得制限限度額が設定されており、制限以上の所得の世帯は、特例給付として児童一人につき5,000円/月が支給されます。
医療費助成制度
ひとり親世帯への支援制度で、0歳から18歳に達して最初の3月31日までの間の子どもがいる世帯が対象です。
医療費のうち、保険診療の自己負担分の一部または、全部を助成してくれます。
さらに、所得制限などで医療費助成制度の資格を喪失した場合は、「子ども医療費助成制度」を利用できる場合があります。
保険診療の自己負担分の一部を助成してくれる制度です。対象となる世帯は、「小学校卒業まで」、「中学校卒業まで」など自治体によって違いがあります。
医療費助成・子ども医療費助成ともに、自治体によって詳しい内容は異なるので、窓口で確認するようにしましょう。
母子家庭・父子家庭の住宅手当
ひとり親世帯で、民間の賃貸住宅に住んでいる場合に利用できる、住宅手当の制度です。支給額の相場は5,000円〜10,000円です。市町村によって、「そもそも制度がない場合がある」、「児童の年齢範囲や所得制限の条件に差がある」といった特徴を持つ制度なので、やはり、まずはお住いの自治体窓口で確認することが必要です。
これら5つの他にも、税金が控除される寡婦控除、保険料・年金が免除・減免される制度、教育訓練を受講し修了した場合に支給される自立支援教育訓練給付、といったひとり親世帯に向けた制度があります。
- 児童扶養手当は所得と子どもの数に応じて支給される
- 児童手当は0歳から15歳(中学校修了まで)に達して最初の3月31日(年度末)までの間の子どもがいる世帯が対象
- 医療費助成制度は0歳から18歳に達して最初の3月31日までの間の子どもがいる世帯が対象
(出典:内閣府「児童手当制度のご案内」)
(出典:厚生労働省「母子家庭等関係」)
(出典:厚生労働省「児童扶養手当について」)
(出典:厚生労働省「特別児童扶養手当について」)
(出典:新宿区「ひとり親医療費助成」,2020)
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制度とともに偏見をなくすことが重要
シングルマザー(母子世帯)の貧困には、就業しているか否かだけではない、様々な要因があります。
不本意ながら非正規雇用で働かざるを得ないケースや、養育費の取り決めをしていない(もらえない)ケースなどが、代表的な要因です。
また、社会からのシングルマザーに対する偏見的な意見・見方は、貧困をさらに悪化させてしまう要因です。
国による公的支援をはじめとした制度を充実させることは重要ですが、私たち一人ひとりがシングルマザーに対する偏見をなくすこともシングルマザーを貧困の連鎖から救うために必要な課題だと言えるでしょう。