児童虐待は身近で起こり得る問題です。
年々虐待件数は増加していく一方にあり、児童相談所の職員が対応に当たっています。
ただ、なかには虐待により命を落とす事件も発生しており、検証なども進められています。
この記事では、児童虐待とは何なのか、また過去に起きた児童虐待事件などを紹介します。
児童虐待とは
児童虐待とは、保護者が18歳未満の児童を虐待することです。
虐待のケースは身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトの4つに分類することができます。
身体的虐待とは殴る、蹴る、叩く、投げ落とすといった暴力的なものから激しく揺さぶる、火傷を追わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束するなど、どれも危険な行為です。
年齢によっては体が成長前あるいは成長過程にある子どもにとって、障がいを残すことや命を落とす危険もある行為です。
一方で心理的虐待とは暴力などによる物理的な虐待は行わないものの、言葉による脅しや無視、兄弟を差別的に扱うなどの精神的なダメージを負わせる行為になります。
また、最近は子どもの目の前で家族に対して暴力をふるうDV(ドメスティック・バイオレンス)や、兄弟への虐待行為を見せることで精神的なダメージを負わせることも心理的虐待として扱われています。
性的虐待は子どもへの性的行為や、性的行為を見せること、性器を触るまたは触らせる、ポルノグラフィの被写体にするなどの行為です。
そしてネグレクトは、児童虐待のなかでも死亡事例の原因として増加している行為です。
家に閉じ込める、食事を与えない、自動車の中に放置する、病気になっても病院に連れて行かないなど、いわゆる育児放棄に該当する行為がネグレクトになります。
自分で食事を用意できない、抵抗力もそれほどない幼い子どもは、必要な栄養を得られず、病気に侵され体が蝕まれていき死を待つしかなくなります。
身体的虐待やネグレクトは直接死につながる虐待ですが、心理的虐待や性的虐待も精神的に追い詰められ自殺など間接的な死の原因となることもあるのです。
その前に周りが気付いて保護できれば、虐待から脱することもできるかもしれませんが、実際に虐待の事例を見るとそれが難しいということも伺えます。
(出典:政府広報オンライン「DV・児童虐待対策 – 児童虐待とは?」,2019)
(出典:厚生労働省「児童虐待の定義と現状」,2015)
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児童相談所での児童虐待相談対応件数
厚生労働省では毎年児童相談所に寄せられる児童虐待相談の対応件数をまとめています。2018年までに寄せられた相談と対応件数についての推移を見ると、十数年で急激に増加しています。
児童虐待防止法という法律は2000年に制定されましたが、その年の児童虐待相談対応件数は1万7,725件です。
それ以前は1999年が1万1,631件、1998年が6,932件、1990年には1,101件と1万件を下回っていました。
しかし1998年以降は件数が急速に増加し、2010年には5万6,384件、2015年には10万3,286件、2018年には15万9,850件と報告されています。
対前年度比で見ると、2013年に7万3,802件だった対応件数は2014年に8万8,931件と増加しており、その割合は120.5%と1.2倍以上になりました。
また2017年の13万3,778件から2018年の15万9,850件でも119.5%と、これも1.2倍近く増加しています。
全体的に見ても年々増加しており、1998年から2018年までの間に15万2,918件も対応件数が増えているのです。
上記のように児童虐待の定義では、主に身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトの4つの項目に分けることができますが、このなかのどれか一つが起こるケースだけでなく、複数が同時に起こることもあります。
それも踏まえたうえで児童相談所での虐待相談の内容別件数に見ると、身体的虐待は2009年に1万7,371件あったのに対して、2018年には4万256件になっています。
これを総数に占める割合で見てみると、2009年には39.3%と4割近くを占めていましたが、2018年には25.2%と占める割合は減少しています。
同様に性的虐待は1,350件で全体の3.1%だったのに対して2018年は1,731件で全体の1.1%、ネグレクトは2009年には1万5,185件で全体の34.3%だったのが、2018年には2万9,474件で全体の18.4%でした。
心理的虐待は2009年には1万305件で全体の23.3%だったものが、2018年には8万8,389件で全体の55.3%と半分以上を占めました。
身体的虐待同様に性的虐待やネグレクトは件数が増加しているものの、総数に占める割合は減少している一方で、心理的虐待が占める割合は増加していることも分かります。
厚生労働省でも、児童虐待相談対応件数の増加要因として、心理的虐待の相談対応件数の増加を主な要因と一つとして挙げています。
2009年以降、2018年までの心理的虐待の増加数で見ても、特に2013年から先の増加数は急激であり、多くの子どもが虐待を受けていることが明らかです。
(出典:厚生労働省「平成30年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>」,2018)
児童虐待事件の死亡件数
厚生労働省では児童虐待の対応件数と同様に、児童虐待による死亡事例などの検証結果もまとめています。
この報告によれば、2018年度において、発生または表面化した児童虐待による死亡事例は64例、人数にして73人もの犠牲が出たことを明らかにしています。
ただしこの件数には心中による虐待死(未遂含む)も含まれているため、心中以外の虐待死は51例54人です。
死亡する原因となった主な虐待の類型としてはネグレクトが最も多く25例で25人、全体の46.3%を占め、次に身体的虐待が22例で23人と全体の42.6%を占めています。
2005年度の第1次報告から2017年度の第15次報告までは身体的虐待が最も多かったのに対して、この2018年度の第16次報告ではネグレクトの人数や割合が上回ったことも報告されています。
直接の死因で最も多かったのは、頭部外傷の10例10人で28.6%、主な加害者は実母の24例25人で46.3%でした。
先の児童虐待の内容別件数とも合わせると、全体の件数の増加は心理的虐待の急激な増加が要因である一方、死亡原因は直接的に身体に影響を及ぼす身体的虐待やネグレクトであることが分かります。
(出典:厚生労働省「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第16次報告)の概要」,2020)
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児童虐待事件の過去の事例
児童虐待は年々増え続けていますが、そのなかには事件として立件された事例もあります。
2016年に茨城県で起こった虐待事件では、産後に実母のうつ病が重症化し、思考能力の低下と心身衰弱の状態で生後2ヶ月の子どもに身体的虐待を行った事件が発生しています。
子どもが泣き止まないことに腹を立てて、素手で首を絞め、子どもは心配停止状態になりました。
その後実母は警察に子どもの首を絞めたと自ら通報し、事件が発覚したことで子どもは病院に搬送されましたが、およそ1ヶ月後に死亡が確認されました。
子どもの行為に対して煩わしい、腹を立てたなどの感情的なもので起こった事件です。
検証が行われ、周りが気付ければ救えたかもしれない命であることが記されており、今後同様のケースがあった場合、どのような対応をとるべきなのかも講じられています。
(出典:茨城県「茨城県児童虐待死亡事例検証報告書」,2018)
死亡事例以外の児童虐待事件
児童虐待は発覚したすべてが死亡事例となったわけではありません。
青森県で起こった事例を紹介します。母親と子どもが医療機関を受診した際に、処置により多少元気は取り戻したものの、口数が少なく元気がない状態で、母親の様子もおかしいことから、この医療機関は児童家庭相談担当課に報告をしています。
その状況確認のため学校を訪問した結果、夫婦喧嘩をすると食事抜きで登校することがあり、気絶状態になったことで学校側が母親に医療機関の受診を依頼したとのことでした。
夫婦喧嘩の頻発とその際に母が家事を放棄することにより食事を与えないなどの子どもの世話を行わないネグレクトであることが判明したのです。
後に保健師や家庭相談員などが家庭訪問を行い、父母で話し合うことで養育に目を向けるようになり状況の改善が見られました。
ほかにも身体的暴力とネグレクトを受けていた事例もあります。
事件の発覚は、子どもたちが近所の家に入って食べ物を漁っていたことで地域住民が児童家庭相談担当課へ通告したことからでした。
事件には5人の兄弟が該当しており、そのなかでも中学2年生の男の子は、叩いてしつけられているという事実から虐待と判断されています。
この男の子はほかにも万引きや家出などの問題があること、両親は働いておらず子どもたちへの虐待の意識がないことから、困難ケースと判断され児童相談所への送致が行われました。
児童相談所からは両親への働きかけが行われたものの、男の子への対応を変えることはできず、男の子が放火事件を起こしたことから、一時保護を実施し、本人の気持ちなどを総合的に判断して知的障害児童施設への入所が決まりました。
その後は児童相談所による男の子の心理面のケアや、父母への指導、親子関係の修復を図るため面会や外泊、夏休みの一時帰宅などを行っています。
また自宅から養護学校への通学の練習なども実施し、環境の改善も進んでいます。
(出典:青森県「市町村対応事例の実際」)
児童虐待事件を防止するための取り組み
増え続ける児童虐待について、政府や地方自治体は様々な対策を展開しています。
その先駆けとなるのは法整備ですが、これはすでに2000年に行われており、それに基づいた取り組みが進められています。
子どもを守るための法律はいくつかあります。児童福祉法や児童買春・児童ポルノ禁止法、学校教育法などが挙げられますが、より児童虐待の防止に効力を発揮するよう整備されたのが児童虐待防止法です。
しかし、この児童虐待防止法も万能ではありません。そのため、児童福祉法とともに何度も一部改正が進められ、その時代の変遷とともに変わる児童虐待の様相に対応させてきました。
近年では児童の権利擁護や児童相談所の体制強化や関係機関との連携強化などを含んだ一部改正が2020年4月から施行されています。
また、施行されるにあたり児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策や、児童虐待防止対策体制総合強化プランを新プランとして策定するなどの動きが見られます。
この法律、そして策定されるプランにより、児童虐待を防止するためには発生予防、児童虐待に対する迅速かつ的確な対応、児童虐待に対する普及啓発活動が行われているのです。
ほかにも厚生労働省が児童虐待防止推進月間を毎年11月に設定し、取り組みの強化や地方自治体独自の児童虐待防止の取り組みを行っています。
(出典:厚生労働省「最近の児童虐待防止対策の経緯」,2020)
(出典:厚生労働省「児童虐待防止対策」)
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児童虐待事件を受けている子どもへの支援
児童虐待を受けている子どもを早期に発見するための取り組みがいくつも行われています。
児童虐待を発見して止めたとしても、それで終わりではありません。児童虐待を受けることで子どもの身体や心には傷ができます。
身体にできた傷はやがて消えていくものもありますが、消えないものもあります。
また心の傷はすぐに癒えないものも多く、その後の生活や将来に支障をきたすものさえあるのです。
そのような児童虐待を受けた子どもたちを支援する取り組みがあり、その多くは社会的養護の一つとして行われています。
社会的養護とは、以下のような取り組みです。
社会的養護とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことです。
社会的養護は、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子どもを育む」を理念として行われています。
(引用:厚生労働省「社会的養護」)
児童虐待を受けた子どもへの支援も行われています。
例えば児童虐待の早期発見と保護や、問題を解決することで虐待が起こらない環境を作り、子どもを父母の元に返すための親子関係再構築支援があります。
また親元に返せないと判断した場合は、子どもに新しい環境で安心して生活できるようにするため、ファミリーホームや里親委託による支援も行われているのです。
(出典:厚生労働省「社会的養護」)
(出典:厚生労働省「親子関係再構築支援実践ガイドブック」,2017)
(出典:厚生労働省「ファミリーホームの設置を進めるために」)
(出典:厚生労働省「里親制度等について」)
現在の日本において、児童虐待は日常的に起こる問題の一つです。家庭のなかで起こるため、なかなか気付きにくいものですが、そこから救い出すためにも、子どもの様子などには気を配る必要があります。しかしその環境から抜け出しただけでは、児童虐待から[…]
児童虐待事件をなくすために、私たちにもできることはある
児童虐待事件は増加傾向にあり、その結果として子どもが命を落とすという事件も報道されることがあります。
家庭内で起こるため、その事実に気付けないことも多いですが、事件が発覚するのも周囲の通告などによることが多いです。
虐待を受けている子どもからは何かしらのサインが出ていることがあります。
泣き叫ぶ声が聞こえる、最近家庭の様子がおかしいといった変化に気付けるのも周辺にいる人の可能性が高いです。
自らその家に行き、虐待の事実を確認することは容易ではありませんが、虐待の疑いがある場合は迷わず児童相談所などに連絡を入れるようにしましょう。