日本の子ども

無料産院とは?なぜ必要?誰のため?どんな支援が受けられるのかを解説

ニュースなどで「無料産院」という言葉を目にし
「どういう仕組みで無料になるの?」
「どんな人たちが無料産院を必要としているのだろう?」

と疑問に思うことはありませんか?

このように考える方のために、この記事では以下の内容を解説します。

  • ・無料産院とは何か
  • ・なぜ無料産院が必要とされるのか
  • ・無料産院はどこにあるのか
  • ・困っている妊婦を私たち個人が支援する方法

「無料産院」とは、予期せぬ妊娠をし、経済的・精神的な不安から医療機関を受診できずに出産を迎えてしまう妊婦を支援する取り組みです(無料産院という産院があるわけではありません)。認定NPO法人フローレンスが行っています。

このような取り組みが必要とされる背景には、経済的に困窮していたり、社会的に孤立している妊婦の存在があります。彼女たちは、誰にも相談できず、医療機関を受診することもできず、不安と絶望の中たった独りで出産を迎えてしまうのです。

日本では年間50人の0歳児が虐待死で亡くなっています。その中で、生後0日で遺棄などのネグレクトにより命を落とす子どもの母親の大多数が、妊婦健診を受診していないということが分かっています。

言い換えれば、孤立してしまっている妊婦を周囲が支えることで、生後間もない赤ちゃんの死を防げるのです。

「無料産院」の取り組みは、経済的なサポートだけでなく、妊婦の心に寄り添う心理的なサポートも提供しています。起きなくてよいはずの生後間もない赤ちゃんの死を防ぐこの取り組みは、寄付によって成り立っています。私たちも寄付を通じて孤立に陥った妊婦と、赤ちゃんの命を救えるのです。

「無料産院」はどのような仕組みなのか、「無料産院」を必要としている人たちはどのような状況に置かれているのか、私たち個人が困窮した妊婦さんをどのように支援できるのか、知りたい方はご一読ください。

「無料産院」がどこにあるかすぐに知りたい方は以下見出しをご確認下さい。
>>「無料産院」は全国に4か所(2024年5月時点)

無料産院とは孤立した妊婦を支援する取り組み

「無料産院」とは、予期せぬ妊娠をし、経済的・精神的な不安から医療機関を受診できずに出産を迎えてしまう妊婦を支援する取り組みです。認定NPO法人フローレンスが2023年6月に始めました。

具体的には、各地の提携病院と連携し、妊婦健診(※1)や出産にかかる費用を支援したり行政の支援につなげたりします。母子が危険な状態で出産を迎えるのを防ぐことを目的としています。

支援の主な対象は、妊婦健診や出産の費用が払えず受診をためらっている、お腹が大きくなってきた妊婦です。

フローレンスとは病児保育、小規模保育園、障害児保育・支援、特別養子縁組、こども宅食、ひとり親支援などの事業を通して、子育て支援を行う団体です。

※1 妊婦健診:正式には妊婦健康診査。妊婦の健康状態や、胎児の育ち具合をみるための健診。妊娠 初期から妊娠23週までは4週間に1回、妊娠24週 から妊娠35週までは2週間に1回、妊娠36週から 出産までは週1回の受診が勧められている。

無料産院が必要とされる背景にあるのは「診察を受けないまま出産に至る妊婦」の存在

子どもの虐待死(※)の2割が、生後0-6日で起こっています。その子たちの母親の8割近くが、妊娠確定のための診察や妊婦健診を受けていません。

詳しく解説します。

※子どもの虐待死:ここでは遺棄を含む、心中を含まない。

虐待死の約半数が0歳児

こども家庭庁の2023年のデータによると日本では年間50人の0歳児が虐待死で亡くなっています。

過去14年間(2009年から2022年)で、虐待によって死亡した子ども747人のうち、約半数の370人が0歳児、生後0-6日に死亡したのは全体の約21%です。

また、0-6日児で一番多い死因は「遺棄」で 63 人(85%)です。

こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第19次報告)

出典:こども家庭庁 こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第19次報告)(令和5年9月)

生後0日で虐待死する子どもの母の大多数が、妊婦健診を受診していない

厚生労働省の「子ども虐待による死亡事件等の検証結果等について(17次報告)」によると、生後0日で死亡した「ネグレクト」が死因となった子の母親の内、40人(76.9%)が「妊婦健診未受診」でした。

こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第19次報告)

妊婦が妊婦検診を受けないと、産後すぐのネグレクトだけでなく、以下のリスクが高まります。

  • ・妊娠高血圧症候群などの合併症や切迫早産など、母体のリスクに気づけず、また処置もできず、母体や胎児の命が危険にさらされる
  • ・医療機関で出産しなかったため適切な処置がされず出産と同時に亡くなる確率が高くなる
  • ・出産時だけ病院にかかっても、妊娠経過などが不明でリスクが高く、受け入れられ医療機関が限られてしまう

次に、妊婦が医療機関を受診しない(できない)理由を解説します。

出典:厚生労働省 子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第17次報告)

妊婦健診を受けない理由は、経済的な困窮と社会からの孤立

研究によると、妊婦が医療機関を受診しない主な理由は以下の2つです。

  • ・経済的な困窮
  • ・社会からの孤立

詳しく解説します。

妊婦健診を受けない理由1:経済的な困窮

未受診妊婦が、妊婦健診を受診しなかった、または受診の回数が少なかった理由の37.1%は「経済的理由」です。

(グラフ出典:大阪青山大学看護学ジャーナル 3 巻 11-19「未受診妊婦の背景要因に関する文献的考察」)

妊婦健診の費用は、行政が交付するクーポン(※)を利用することで一部補助されます(助成額は自治体によって異なる)。このクーポンは母子手帳と一緒に受け取ります。

※クーポン:検査項目が定められている「受診券」を発行する自治体と、医療機関が検査項目を決める「補助券」を発行する自治体がある(参考:厚生労働省

しかし、母子手帳を受け取るには、病院で医師が発行する妊娠確定の診断書が必要になります。つまり、妊娠判定を受けるための受診料(全額自己負担)が払えないと、クーポンを受け取ることができないのです。

妊娠判定の受診料に対し補助が出る制度もあります。自治体により条件は異なりますが、住民税非課税世帯や生活保護受給者が対象です。しかし、前年度に収入があった人はこの対象から漏れてしまいます。そもそも、この制度を知らない人も多くいます

ま妊婦健診にクーポンを利用したとしても、妊婦の健康状態によって、追加の検査が必要など、費用がかかることもあります。

またアルバイトなどの非正規で働いている人は、妊娠による体調不良で働けなくなると、収入がなくなってしまいます。妊婦健診の費用どころか、生活費すら捻出できなくなってしまうのです。

出典:大阪青山大学看護学ジャーナル 3 巻 11-19「未受診妊婦の背景要因に関する文献的考察」新増有加、 逆瀬川真衣、森川真美、 炭原加代

妊婦健診を受けない理由2:社会からの孤立

予期せぬ妊娠をし、周りに頼れる家族や知人がいなかったり、周囲に心配をかけたくなく相談できず、ひとりで不安な日々を過ごす妊婦がいます。

(グラフ出典:大阪青山大学看護学ジャーナル 3 巻 11-19「未受診妊婦の背景要因に関する文献的考察」)

妊婦健診を受診しない理由のうち

  • ・誰にも相談できなかった
  • ・知識不足・どうしていいか分からなかった
  • ・家庭の状況(離婚、DV、不倫)
  • ・不法滞在や路上生活

を合わせると18%です。周囲に相談できない状況にある状況は2番目に多い理由だといえます。

未成年または若い妊婦で、親との関係が良好でない場合やネグレクト・虐待を受けている場合は、「親に知られたくない」「親に相談しにくい」状況にあります。誰にも相談できずひとりで抱え込み、受診しないままお腹が大きくなり出産を迎えてしまう事例もあります。

フローレンスの無料産院事業の仕組み


「フローレンスの無料産院」は、まずは妊婦の抱える経済的な不安を取り除き、受診のハードルを下げることを目指しています。

具体的な支援としては以下3つに取り組んでいます。

  1. 妊娠に関わる相談
    予期せぬ妊娠に悩む女性一人ひとりの気持ちに寄り添った相談支援や、相談者の状況に応じて支援制度などを紹介。出産後、育てられない場合は本人の希望に応じて特別養子縁組の支援。
  2. 行政および病院との連携
    パートナー病院と行政と連携し、出産後までを見通した支援の体制を整える。
  3. 病院の受診で必要になる費用の支払い
    行政の補助や出産一時金で賄えない分の妊婦健診および出産費用をフローレンスが代わりに支払う。必要に応じて健康保険加入費も負担する。
認定NPO法人フローレンス公式ページより

これらの活動にかかる費用や、妊婦の代わりに支払う妊婦健診・出産費用は、主に寄付によってまかなわれています

詳しくはこちらの見出しで解説しています。
>>「無料産院」は寄付によって支えられている

無料産院は全国に4か所(2024年5月時点)

フローレンスと提携する「無料産院」は、現在(2024年5月時点)、全国に4施設あります。

認定NPO法人フローレンス公式ページより

予期せぬ妊娠に悩んでいる方、また周囲にそういう方がいたら、最寄りの「無料産院」の提携病院まで問い合わせてみてください。

また、フローレンスでは予期せぬ妊娠に関する相談の乗るLINEチャットボット「エナガさん相談室」を開設しています。24時間いつでも、匿名で相談が可能です。

さらに、必要に応じて専門の相談員が直接話を聞いてくれます。

相談先詳細:認定NPO法人フローレンスのにんしん相談

第二足立病院(京都府京都市)

病院名:医療法人財団今井会 第二足立病院
住所:京都府京都市南区四ツ塚町1
電話:075-681-7316(月~金 9:00-17:00)
問合せフォームはこちら
無料産院事業の紹介ページはこちら

いとうレディースケアクリニック(岐阜県本巣郡)

病院名:医療法人慈愛会 いとうレディースケアクリニック
住所:岐阜県本巣郡北方町北方3195
電話:058-323-7101(木曜以外の平日 9:00~17:00、木曜 9:00-12:00)
メール問合せはこちら
無料産院事業の紹介ページはこちら

操レディスホスピタル(岐阜県岐阜市)

病院名:医療法人セントポーリア 操レディスホスピタル
住所:岐阜県岐阜市津島町6-19
電話:058-233-8811(木曜以外の平日 9:00-12:00/15:30-19:00、木曜 9:00~12:00、土曜 9:00-12:00/14:30-17:00)

まつしま病院(東京都江戸川区)

病院名:医療法人社団向日葵会 まつしま病院
住所:東京都江戸川区松島1-41-29
電話:03-3653-5541(平日 9:00-17:00、土曜 9:00-13:00)※音声ガイダンスで「9」を選択
無料産院事業の紹介ページはこちら

無料産院は寄付によって支えられている


「フローレンスの無料産院」は、寄付によって実現しています。

寄付は、主に以下に使われています。

  • ・経済的に困窮していて受診できない妊婦の健診費や出産費用
  • ・予期せぬ妊娠で困っている女性の相談対応
  • ・無料産院の全国化や政策提言活動にかかる費用

私たちも、寄付をすることで、困難な状況にある妊婦を支えられます

フローレンスへの寄付は月1,500円 (1日あたり約50円)から行えます。支援者には、活動の様子が限定のメールニュースで送られたり、不定期で開催される事業報告会に参加する機会があります。これらを通して、寄付の効果を知ることができるのです。

寄付の申し込みはホームページから行え、毎月の支払いもクレジットカードで自動的に行われるので、手軽に始められます。

<PR>
寄付金控除の対象団体です

無料産院は、経済的に困窮していたり社会的に孤立している妊婦を支える仕組み。私たち個人も寄付で支援できる

この記事では、「無料産院」の仕組みや必要とされている背景について解説しました。

記事の内容をまとめます。

  • ・「無料産院」とは、予期せぬ妊娠をし、経済的・精神的な不安から医療機関を受診できずに出産を迎えてしまう妊婦を支援する取り組み
  • ・「無料産院」が必要とされる背景には、未受診妊婦の存在がある
  • ・無料産院事業は寄付で成り立っている。私たちも寄付を通して孤立してしまっている妊婦を支えられる

日本では年間50人の0歳児が遺棄を含む虐待死で亡くなっています。赤ちゃんの死は、誰にも相談できず、医療機関を受診することもできず、不安と絶望の中たった独りで出産を迎えてしまう妊婦を支えることで防げます。

このような悲しい出来事が起きないようになって欲しい。そう願う私たちにできることは、困窮した妊婦の存在に気づき、行政の支援につなげたり、フローレンスの無料産院事業の活動に寄付することです。フローレンスの「無料産院」の取り組みは、寄付によって成り立っています

困難な状況にあるお母さんを支え、赤ちゃんの命を守るために、できることから始めてみませんか。

<PR>
寄付金控除の対象団体です

以下の記事では、赤ちゃんの虐待死の現状や、防止のために行われている取り組みを解説しています。赤ちゃんの虐待死の現状と背景についてより詳しく知りたい方はご一読下さい。
>>赤ちゃんの命を守りたい!!5つの寄付先や支援方法、虐待死の現状を解説

この記事を書いた人
gooddoマガジンはソーシャルグッドプラットフォームgooddo(グッドゥ)が運営する社会課題やSDGsに特化した情報メディアです。日本や世界の貧困問題、開発途上国の飢餓問題、寄付や募金の支援できる団体の紹介など分かりやすく発信しています。 なお、掲載されている記事の内容に関する「指摘・問い合わせ」「誤字脱字・表示の誤りの指摘」につきましては、こちらの報告フォームよりご連絡ください。

- gooddoマガジン編集部 の最近の投稿