平和と公正をすべての人に

SDGs目標16にある「グローバル・ガバナンス」とは?

あなたの身の回りの課題に対して、一人で解決できないことにはどのように対処しますか?
おそらく、周りの人と一緒に解決を図ろうとするのではないでしょうか。

世界では、環境問題や人権問題などに対する課題が多くあります。
世界で起こる多様な問題に対して、一国では解決できない問題を、その地域や国境を越えて解決する、政治的相互作用のことを「グローバル・ガバナンス」と言います。

国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)では、目標16「平和と公正をすべての人に」があり、ターゲットに「グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する。」というものがあります。

本記事ではSDGs達成のために必要とされる「グローバル・ガバナンス」について課題解決の視点から解説します。

持続可能な開発目標・SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」のターゲットや現状は?

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SDGsとは?

SDGs(Sustainable Development Goals)とは「持続可能な開発目標」のことです。SDGsは2015年9月の国連サミットにて全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に示された国際的な目標です。

このアジェンダでは世界中の「誰一人取り残さない」持続可能で包摂性のある世界を実現するために、SDGsとして17の目標(ゴール)を設定し、目標達成に向けて2030年までに各国が協調して行動することを求めています。

SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」とは?

SDGsの目標16が本記事のテーマである「グローバル・ガバナンス」に関するものです。目標16で目指すことは「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」とされています。

この目標は12のターゲットから構成されています。ターゲットとは目標をブレイクダウンした関連分野における「個別の目指す状況」であり、個々のターゲットを達成することで上段の目標が達成されるという構造になっています。

そして、目標16の8番目のターゲット(16.8)が「グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する。」とされています。

  • SDGsは2015年9月の国連サミットにて全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に示された国際的な目標
  • ターゲットとは目標をブレイクダウンした関連分野における「個別の目指す状況」であり、個々のターゲットを達成することで上段の目標が達成されるという構造になっている
  • 目標16のターゲットは「グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する。」とされている
  • (出典:外務省「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」)
    (出典:ボランティアプラットフォーム「グローバルガバナンス」)
    (出典:総務省「SDGsの指標」)

    グローバル・ガバナンスとは?


    グローバル・ガバナンス(global governance)に明確な定義はありませんが、グローバル・ガバナンスに言及した資料(公益財団法人NIRA総合研究開発機構「グローバル・ガバナンスとは何か」)を参考にすると、次のようにまとめられそうです。

    「地球規模の諸課題を解決するための国際的な意思決定のしくみ」

    地球規模の諸課題とは、貧困、飢餓、感染症、人権、環境、テロなどといった国境を超えて生じている、一国だけで取り組むことが不可能なことがらです。これらを各国が協力して解決しようと打ち出されたのがSDGsです。

    SDGsの目標16には、「包摂的な(inclusive)」という言葉が入っています。inclusive は「すべてを含んだ」という意味ですが、言語学では「話者とその相手を共に含む代名詞を指す」とされます。たとえば、英語では we (われわれ)がそれに該当します。つまり、「包摂的」という言葉は、地球規模の諸課題に対する当事者を I(わたし)、You(あなた)、They(彼ら)などと分離することなく、その場にいる者すべてが一つになり we (われわれ)として係わることのできる状態を意味していると考えられます。

    これはまさに、「誰一人取り残さない」という「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の重要な価値観を反映した言葉であり、地球規模の諸課題に関する意思決定の場(グローバル・ガバナンス機関)へ少しでも多くの国を参加させようとする国連の意思を表していいます。

    それを具体可したものがSDGsの目標16であり、ターゲット16.8なのです。

    (出典:外務省「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」)
    (出典:公益財団法人NIRA総合研究開発機構「グローバル・ガバナンスとは何か」)

    グローバル・ガバナンス機関

    それでは、グローバル・ガバナンス機関にはどのようなものがあるでしょうか。

    ターゲット16.8の指標(16.8.1)は「国際機関における開発途上国のメンバー数及び投票権の割合」となっており、この「国際機関」の対象となるグローバル・ガバナンス機関は次の11機関です。

    国連総会

    英語表記(略称):UN General Assembly(UNGA または GA)
    機能など:国連の主たる審議機関です。

    国連安全保障理事会

    英語表記(略称):UN Security Council(UNSC)
    機能など:国連憲章のもとに、国際の平和と安全に主要な責任を持ちます。

    国連経済社会理事会

    英語表記(略称):UN Economic and Social Council(ECOSOC)
    機能など:国連ファミリーとして知られる国連や専門機関、その他各種機関の経済社会活動を調整する主要な機関として経済社会理事会が設置されています。

    国際通貨基金

    英語表記(略称):International Monetary Fund(IMF)
    機能など:国際通貨協力を容易にし、為替の安定と秩序ある為替取り決めを促進し、多角的支払い制度の樹立と外国為替制限の除去を支援、また、加盟国が国際収支の不均衡を是正できるように、基金の一般資金を一時的に利用させることを担います。

    国際復興開発銀行

    英語表記(略称):International Bank for Reconstruction and Development(IBRD)
    機能など:世界銀行グループの初期の頃からの機関で、中所得かつ信用貸しのできる貧しい国が貧困を削減できるようにすることを担います。

    国際金融公社

    英語表記(略称):International Finance Corporation(IFC)
    機能など:開発途上国の民間プロジェクトを対象にした最大のグローバルな開発機関です。開発途上国が持続可能な成長を達成できるように、民間部門の投資に融資し、国際金融市場で資本を動員し、企業に諮問サービスを提供します。

    アフリカ開発銀行

    英語表記(略称):African Development Bank(AfDB)
    機能など:アフリカ諸国の経済的開発および社会的進歩に寄与することが目的です。最貧国を重点的に支援するため、アフリカ開発基金(AfDF)とあわせ、アフリカ開発銀行グループと呼びます。

    アジア開発銀行

    英語表記(略称):Asian Development Bank(ADB)
    機能など:アジア・太平洋地域を対象とする国際開発金融機関です。世界最大の貧困人口を抱える同地域の貧困削減を図り、平等な経済成長を実現することを最重要課題として、この困難な問題に取り組んでいます。設立以来、日本は最大の出資国として貢献しています。

    米州開発銀行

    英語表記(略称):Inter-American Development Bank(IDB)
    機能など:中南米・カリブ(LAC)加盟諸国の経済・社会発展に貢献することを目的としています。IDBの活動を補完しLAC加盟諸国の民間企業に対する投融資を通じて域内経済の発展に寄与することを目的とする米州投資公社(IIC)、民間投資を促進するため技術協力や零細・中小企業育成等を行うため設立された多数国間投資基金(MIF)と合わせて、米州開発銀行グループと呼びます。

    世界貿易機関

    英語表記(略称):World Trade Organization(WTO)
    機能など:国家間のグローバルな貿易の規則を取り上げる唯一の国際機関です。全加盟国が合意する多国間規則に基づくシステムの中で貿易が円滑に行われるように支援し、政府間の紛争を公平に解決し、貿易に関する交渉のためのフォーラムを提供します。

    金融安定理事会

    英語表記(略称):Financial Stability Board(FSB)
    機能など:金融システムの脆弱性への対応や金融システムの安定を担う当局間の協調の促進に向けた活動などが行われています。

    (出典:UN Statistics Wiki「Indicator 16.8.1」)
    (出典:国際連合広報センター「総会」)
    (出典:国際連合広報センター「安全保障理事会」)
    (出典:国際連合広報センター「経済社会理事会」)
    (出典:国際連合広報センター「国際通貨基金(IMF)」)
    (出典:国際連合広報センター「国際復興開発銀行(IBRD)」)
    (出典:国際連合広報センター「国際金融公社(IFC))
    (出典:財務省「アフリカ開発銀行(AfDB)」)
    (出典:財務省「アジア開発銀行(ADB)」省)
    (出典:財務省「米州開発銀行(IDB)」)
    (出典:国際連合広報センター「世界貿易機関(WTO)」)
    (出典:日本銀行「金融安定理事会(FSB)とは何ですか?」)

    グローバル・ガバナンス機関のメンバー数と投票権の割合

    2020年3月6日現在、世界には196の国があり、国連加盟国数は193か国です(※1)。

    国連はすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいており、総会では、すべての加盟国がそれぞれ1票の投票権を持ち、重要な問題については3分の2の多数決で、その他の問題については過半数で決定が行われます。

    しかし、国連に対する分担金の支払が延滞すると加盟国は投票権を失うこともあります。国連発表によると、2020年01月13日には、全加盟国のうち、2019年通常予算の支払いが滞った6か国(中央アフリカ共和国、ガンビア、レソト、トンガ、ベネズエラ、イエメン)が国連総会での投票権を失っています。

    投票権については、国連総会のように「1加盟国1票」制を採用する機関もあれば、加盟国の財政的貢献に応じて投票に重みがつけられる「荷重投票」制を採用する機関もあります。

    国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、「1加盟国1票」制を採用する国連総会など7機関(※2)における投票権の平均割合(2016年3月1日現在)は、開発途上国(Developing economies)が71%、移行国(Transition economies)が9%、先進国(Developed economies)が20%と、開発途上国の割合が高くなっています。

    一方、「荷重投票」制を採用する国際通貨基金および国際復興開発銀行における投票権の平均割合(2016年3月1日現在)は、開発途上国が37%、移行国が5%、先進国が58%と、先進国の割合が高く、財政的貢献が小さくなりがちな途上国の意見は反映されにくい状況となっています。

    ※1 国数は、日本が承認している国の数である195か国に日本を加えた数。日本が承認している国のうち4ヵ国が国連未加盟で、日本が承認していない北朝鮮は国連に加盟している。
    ※2 国連総会、国連食糧農業機関会議、国際民間航空機関総会、万国郵便連合大会議、世界保健総会、世界気象会議、および世界貿易機の7機関。

  • グローバル・ガバナンスとは、「地球規模の諸課題を解決するための国際的な意思決定のしくみ」
  • グローバル・ガバナンス機関は11機関ある
  • 2020年3月6日現在、世界には196の国があり、国連加盟国数は193か国
  • 国連はすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいており、総会では、すべての加盟国がそれぞれ1票の投票権を持ち、重要な問題については3分の2の多数決、その他の問題については過半数で決定
  • (出典:外務省「世界と日本のデータを見る(世界の国の数,国連加盟国数,日本の大使館数など」)
    (出典:国際連合広報センター「国連憲章テキスト」)
    (出典:国際連合広報センター「世界の動きと国連(2020年)」)
    (出典:UNCTAD DGFF 2016「Goal 10.6 – Participation in institutions」)

    グローバル・ガバナンス機関への参加を拡大・強化する取り組み


    独立行政法人国際協力機構の「国際協力機構史 1999-2018」によると、国際機関における開発途上国の投票権拡大の必要性は、1997年のアジア通貨危機と、その10年後に発生した世界金融危機を通じて高まりました。

    世界金融危機の発生後、世界規模の経済的課題に対応するにはG8のみでは不十分として、新興国を加えたG20サミットを2008年に開催。その後、定期的にG20サミットが開催されるようになり、この過程で途上国の投票権拡大についてさらに大きく議論されるようになりました。

    このような経緯があるためか、ターゲット16.8の指標(16.8.1J)に用いられる11のグローバル・ガバナンス機関のうち、国連総会および国連安全保障理事会を除いた9機関が経済・金融に関する機関です。

    これらのグローバル・ガバナンス機関において制度改革が進められています。たとえば「荷重投票」制を採用する国際通貨基金(IMF)では、2016年1月に開始された改革において投票権(議決権)の割当率(シェア)を再編成し、開発途上国および新興国の投票権を増加させました。これにより、開発途上国および新興国の投票権の割当率は2.8%増加して42.4%になりました。

    2018年4月には、世銀・IMF合同開発委員会は、同年初めにまとめられた「投票権見直しに関する報告書」が掲げる提言についても承認し、投票権の割当率を調整し、新興国・途上国の投票権の拡大を継続していくと報告するなど、グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する取組が行われています

  • 世界金融危機の発生後、世界規模の経済的課題に対応するにはG8のみでは不十分として、新興国を加えたG20サミットが定期的にG20サミットが開催されるようになった
  • グローバル・ガバナンス機関において制度改革が進められている
  • グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する取組が行われている

  • (出典:UNCTAD DGFF 2016「Goal 10.6 – Participation in institutions」)
    (出典:独立行政法人国際協力機構「国際協力機構史 1999-2018)
    (出典:United Nations「Governance reforms at the IFIs」)
    (出典:国際通貨基金「IMFの意思決定」)
    (出典:世界銀行「世界銀行グループ出資国、根源的改革を含む資本パッケージに合意」 ,)
    (出典:財務省「第97回世銀・IMF合同開発委員会 コミュニケ(ポイント)(平成30年4月21日)」)

    SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」達成のためにもグローバル・ガバナンスは重要

    持続可能な開発のためには、課題解決に向けた意思決定プロセスが「公正」であること、すなわち参加者の意思が反映される「包摂的な(inclusive)」仕組みが必要です。

    そのような仕組みづくりにグローバル・ガバナンスというアイデアが生かされ、具体的な方策としてグローバル・ガバナンスへの開発途上国の参加を拡大・強化することが求められます。

    冒頭で述べたように、我々の身の回りの課題を解決するときの考え方はグローバル・ガバナンスに通じるものです。課題解決に向けて周りの人に協力してもらうために、協力者の意見をグループの意思決定に反映させること。そのようにして「誰一人取り残さない」ことが、グローバル・ガバナンスの最初の一歩となり、SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」の目標達成への足がかりとなるでしょう。

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