労働は自らの意思で行われなければならず、教育を終えた後、誰かに強制されることなく行われなければいけません。
しかし世界全体で見れば、強制労働が行われている現実があり、現代でも奴隷状態で労働を強いられている国や地域が存在します。
理由はどうあれ、そのようなことはあってはならず、撲滅されなければいけない世界の問題です。
SDGsではそのような問題を解決するために、目標8「働きがいも経済成長も」において、ターゲットである強制労働・現代の奴隷制を撲滅する取り組みを行っています。
この記事では世界で行われている強制労働や現代の奴隷制について説明します。
持続可能な開発目標・SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」のターゲットや現状は?
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世界に蔓延する強制労働という問題
私たちは様々な労働形態で日々就業しています。収入や労働条件などに違いはありますが、著しく不利な立場に置かれることは少なく、またそのようなことがあってはいけません。
持続可能な開発目標(SDGs)では、長期的な経済成長を続けるために、産業の多様化やより高い生産性の産業の拡大を図り、包括的かつ持続可能な雇用の拡大を目指すため、目標8「働きがいも経済成長も」が掲げられています。
先進国や新興国、開発途上国を含む世界全土ですべての人に働きがいがあり、同一労働の対価において差別のない仕事が確保されることを目指していますが、開発途上国ではそれを達成するために大きな問題がいくつもあります。
その1つが児童労働を始めとした非人道的な労働、つまり強制労働や奴隷制です。
(出典:国際開発センター「目標8 働きがいも経済成長も」,2018)
SDGsで注目される強制労働・奴隷制の現状とは
世界には有給、無給に関わらず、様々な形態で労働している人がいます。
その労働者の中には、子どもも多く存在します。
先進国では子どもの労働はほとんどありませんが、世界全体で見れば途上国などで子どもの労働、特に幼い子どもが労働を強いられているという現状があります。
これは本来教育を受ける年齢の子どもたちが、教育を受けることなく強制的に働かされているということであり、心身の発達や社会性・教育面の発達を阻害するような危険な労働を強いられれば、それは有害な児童労働であると定義されています。
世界全体で見たとき、国際労働機関(ILO)によると、児童労働を強いられている5~17歳の子どもの数は約1億5,200万人との報告があります。
そのうちアフリカでは最も多い7,210万人で5人に1人、割合にして19.6%、次いでアジア・太平洋諸国では6,210万人で14人に1人、割合にして7.4%の5~17歳の子どもが児童労働に従事しています。
大陸別に見れば、アフリカ大陸・カリブ地域で1070万人(5.3%)、ヨーロッパ・中央アジアで550万人(4.1%)、中東で120万人(2.9%)が児童労働を強いられています。
児童労働が特に蔓延する職が漁業や林業、家畜の放牧、水産養殖を含む農業セクター(※1)であり、全体の71%を占めています。
他のセクターと比べても断トツに多く、続いてサービスセクターが17%、鉱山を含む工業セクターが12%を占めています。
さらにユニセフの報告によれば、南アジアの中ではパキスタンが特に児童労働が深刻であり、学校に通っていない7~14歳の子どもの88%が働いていると言われています。
またバングラデシュやインドでも、その割合は40%と試算されており、いずれも強制労働による教育面への阻害は大きいと言わざるを得ません。
男女比で見れば、児童労働を強いられている子どもの割合はほぼ同じですが、家庭内での無給の労働を強いられている割合は女の子の方が圧倒的に高くなっています。
現代に未だに奴隷制が存在する地域もあります。
2016年時点で、現代奴隷制の被害者となっているのは4,000万人であり、2,500万人が強制労働、1,500万人が強制結婚の被害者です。
世界全体では1,000人あたりに5.4人が現代奴隷制の被害を受けており、成人は世界の成人人口1,000人あたり5.9人、子どもは世界の子ども人口1,000人あたり4.4人と成人の方が多くなっていることが分かります。
性別で見れば女性と女の子の71%、民間主体によって課せられた強制労働の被害者のうち、半分は債務奴隷(※2)として奴隷制の被害を受けています。
※1 セクター:範囲、地域、グループのこと
※2 債務奴隷:債務を返済できない間は,債権者に隷属してその意のままに使役に服していた人々
(出典:公益財団法人 日本ユニセフ協会「児童労働」,2017)
(出典:国際労働機関「現代奴隷制の世界推計」,2017)
SDGs目標8「働きがいも経済成長も」を達成するための強制労働・奴隷制に対する世界の取り組み
児童労働を含む強制労働や奴隷制は、世界の発展にとっては撲滅しなければならない問題です。
多くの児童労働を強いられている子どもたちは必要な教育を受けることもできないため、将来的に質の良い雇用に就くこともできず、経済発展どころか衰退の一途を辿る可能性もあります。
SDGsが掲げる目標8「働きがいも経済成長も」を達成するためには、このような児童労働を含む強制労働、奴隷制をなくし、子どもたちには良質な教育が受けられる環境を作る必要があります。
そのため国際労働機関(ILO)やユニセフを始めとした国際機関や関連機関、支援団体などが対策を講じています。
特に国際労働機関(ILO)では各国で取り組みに当たるよう、強制労働についての条約を採択してきました。
それに加えて2014年に採択された議定書が強制労働に対して今も有効に働いています。
条約は「1930年の強制労働条約」と「1957年の強制労働廃止条約」、議定書が「2014年の議定書」になります。
1930年の強制労働条約
1930年6月28日に採択され、1932年5月1日に発効された強制労働に関する条約です。現在も通用する条約であり、強制労働についての基本条約の1つになります。
この条約は強制労働の使用をできる限り短期間のうちに廃止することを目的としています。ここで言う強制労働とは、処罰の脅威によって強制され、自らが任意に申し出たものではないすべての労働のことと定義されています。
この条約は時代背景もありますが、植民地において行われている労働形態を念頭において条文のほとんどが作成されています。
これは後に2014年の議定書によって不足している部分に対処し、実施をするために必要な技術的な手引きを提供する勧告が採択されています。
また後述する1957年の強制労働廃止条約はこの条約を補強および補完する条約として採択されました。
1957年の強制労働廃止条約
1957年6月25日に採択、1959年1月17日に発効され、1930年の強制労働条約同様に基本条約の1つであり最新の条約として効果を発揮しています。
この条約を批准(条約に対する国家の最終的な確認・同意)している国は、以下の手段や制裁、方法としてのすべての種類の強制労働を廃止し、これを利用しないことを約束するものとしています。
- 政治的な圧制もしくは教育の手段、または政治的な見解、既存の政治的、社会的、経済的制度に思想的に反対する見解を抱き、もしくは発表することに対する制裁
- 経済的発展の目的のために、労働力を動員し利用する方法
- 労働規律の手段
- ストライキに参加することに対する制裁
- 人種的、社会的、国民的、宗教的差別待遇の手段
これらの手段や制裁、方法として使うことを禁止しています。
その上で、このような強制労働を完全に廃止するために必要な効果的な措置を講じていかなければいけません。
2014年の議定書
2014年6月11日に採択され、2016年11月9日に発効された最新の議定書です。
1930年の強制労働条約について現在起こっている人身取引などにも対応するために採択されました。
批准した国に強制労働の防止やその使用の撤廃、被害者の保護から補償までの救済を得る機会の提供、加害者の制裁に向けた実効的な措置を講じることを求めています。
また、強制労働が完全に廃止されるまでの経過期間を強制労働条約の第1条2、3項、第3条~第24条に定めていましたが、この議定書で削除しました。
他にも政府に対しては、労働者、特に移民労働者を募集し、職業紹介の課程から生じる可能性のある不当な取り扱いや詐欺行為から保護する措置を講じることも求めています。
(出典:国際労働機関「1930年の強制労働条約(第29号)」)
(出典:国際労働機関「1957年の強制労働廃止条約(第105号)」)
(出典:国際労働機関「1930年の強制労働条約の2014年の議定書」)
SDGs目標達成に向けて強制労働をなくし、誰もが平等な労働条件で働ける世界を作る
強制労働や奴隷制は世界の悪しき文化の1つです。
世界の経済発展を阻害し、社会全体が後退してしまう可能性も出てきます。
開発途上国、とりわけ貧困国などで多いとされていますが、その国の問題だけでなく世界で取り組まなければ解決できない問題です。
それは経済支援としてだけでなく、強制労働からの保護や補償、児童労働を強いられていた子どもたちの良質な教育の提供などがあります。
各国政府だけでなく、ユニセフなどの国際機関や支援団体は、このような人々を支援するために日々活動しています。
私たちは現地で強制労働の人々を直接助けることはできませんが、国際機関や支援機関を支援することで、間接的にですが手助けをすることができます。
まずは強制労働や奴隷制について理解を深め、できることから行動をしていきましょう。
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