世界のどこに住んでいても「労働」とは必要な経済活動であり、教育を終えた人々は生きていくために労働を行います。
しかし、その労働では誰かが著しく不利な立場に置かれることもあり、公平に労働機会などが与えられるわけではないという現実があります。
2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)では、このような問題を解決するために、「働きがいも経済成長も」という目標を定めています。
そして労働に関する問題に対して、様々な対応の指針や協定の締結、勧告を行う国際機関があります。
この記事では、SDGs目標8「働きがいも経済成長も」の説明とターゲットである国際労働機関(ILO)について解説します。
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持続可能な開発目標・SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」のターゲットや現状は?
SDGs目標8「働きがいも経済成長も」とは
SDGs目標8「働きがいも経済成長も」には12のターゲットが設定されており、持続可能な経済成長と、すべての人に完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進することを目指しています。
人の世界は経済活動によって発展し、その経済活動は企業や機関など様々な場所で働く一人ひとりによって成り立っています。
時代が変われば経済の形も変わり、現在は経済の多様化によって多種多様な働き方が存在します。
経済成長を長期的に続けていくためには、多様な産業において高い生産性を持つ産業を拡大していく必要がありますが、産業が拡大されればそこに働く人々の中には不公平、不平等な立場に置かれてしまう人が出てきてしまうことも懸念されています。
獲得する収入や健康、教育、就業機会など、様々な面で著しく不利な立場に置かれる人を作ることなく、すべての人が平等かつ適切に生活できる、その状態を持続していける環境を作ることが求められています。
そのような働く人の権利を守り、持続可能な経済成長を世界中で目指すために、国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の中に、「働きがいも経済成長も」という目標が8番目に掲げられました。
このターゲットの中に、若年雇用のための世界的戦略と国際労働機関(ILO)の仕事に関する世界協定の実施を展開、運用していくことが盛り込まれています。
(出典:国際開発センター「目標8 働きがいも経済成長も」,2018)
国際労働機関(ILO)とは
国際労働機関(ILO)は国連と提携する自治機関の1つであり、「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」という憲章原則の元に設立された国際機関です。
その歴史は古く、1919年のベルサイユ条約によって国際連盟と共に誕生した機関ですが、1946年に国連との協力に関する協定に基づき、世界初の専門機関となりました。
元々は、第1次世界大戦後の社会改革に対して高まる懸念、あらゆる改革は国際的レベルで進められるべきであるという理念を体現するものとして設立されています。
そのILOが第二次世界大戦後はフィラデルフィア宣言(※)によって基本目標と基本原則が拡大され、現在に至ります。
さらに宣言は戦後の独立国家数の増加を予測し、大規模な対途上国技術協力活動の開始を明言したのも、このILOです。
創立50周年となる1969年にはILOとしての活動が評価され、ノーベル平和賞を受賞しています。また2019年3月19日時点で、ILOには日本を含む187カ国が加盟しています。
※フィラデルフィア宣言:1944年にフィラデルフィアで開かれたILO第26回総会で採択された宣言。(国際労働機構の目的及び加盟国の政策の基調をなすべき原則に関するもの )
国際労働機関(ILO)の目的と活動内容
ILOは国連機関で唯一、政労使の三者構成を取っています。この政労使とは政府、連合などの労働者団体、経団連など使用者団体の三者です。
政労使の三者構成のもと、労働条件を改善するための国際的な政策や計画の立案から、これらの政策を実施するために各国政府に必要となる国際労働基準の作成を行っています。
ただし立案、作成だけでは実際に効果を発揮するかは不明瞭であるため、各国に対する広い技術援助を行うことや、各国の労働条件改善努力の推進を助けるための訓練や教育、調査なども実施しています。
このように広範囲に渡り、ILOは労働に関する改善に向けて活動を行っています。
政労使の三者構成はILOが国連機関の中で唯一取っている構成ですが、労働者と使用者の代表が政策立案について、政府代表と共に発言権を持つというのは非常に特異と言えます。
ILOでは毎年政府、使用者、労働者の三者代表が参加して、国際労働基準の設定や、全世界で重要な社会問題、労働問題について討議する国際労働会議(総会)が行われています。
ここでは加盟国の政府代表から2名、労働者、使用者から代表1名を選出した代表団を作り、各国が参加しています。
重要な社会問題や労働問題とは、結社の自由や賃金・労働時間などの雇用条件、労働者に対する保証、社会保険、産業安全、労働衛生、労働監督などに関しての様々な問題に対してであり、討議の結果から国際的な労働基準の設定や、その設定を協定として結ぶ条約、勧告の採択を行います。
ILOで採択される条約は加盟国に対して、条約に結ばれた条項を実施、実現させる義務を負わせます。それに対して勧告は各国の政策や立法、行政の指針となるのですが、ILOが創設されてからこれまで約400件の条約および勧告が採択されてきました。
その条約の履行状況を監視し、労働組合などから権利侵害の訴えなどについて調査する特別手続きの権利も有しています。
国際労働会議(総会)で採択された条約の一例
国際労働会議では約400件の条約と勧告が採択されており、その中でも私たちの労働環境にも身近にある条約を2つ紹介します。
1つは「年次有給休暇」に関する条約です。この条約では労働者の年次有給休暇の権利を確保するため、最低6ヶ月の勤務期間を条件として1年につき3労働週以上とすべきこと、年次有給休暇の分割された部分の1つは、労使間での定めがある場合を除き、少なくとも中断されない2労働週からなるものとすべきこと、などを規定しています。
この条約は1970年に開かれた第54回総会で採択されており、日本では労働基準法における年次有給休暇の内容の指針にもなっています。
最近では2019年に暴力・ハラスメント条約が採択されました。この条約は昨今労働環境において問題になっている暴力やハラスメント(嫌がらせ)がディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)において最大の脅威であることと位置づけ、「もはや言い訳など通用しない」ものとして、暴力・ハラスメント根絶を国際的に目指すための条約です。
他にも数々の条約や勧告により、私たちの労働環境や条件を改善し、持続可能な経済成長が行えるよう取り組まれています。
国際労働機関(ILO)と日本との関係
日本はILO創設当初の1919年から加盟国となっており、1992年には八大産業国の一員として常任理事国に就任しています。
ただし1940年の第二次世界大戦の激化によりILOから脱退しましたが、1951年に再加盟、1954年には常任理事国に復帰して以降はILOの活動に積極的に参画してきました。
また1923年に開設されたILOの東京支局は一時脱退したものの、2001年に事務局直轄の事務所となり、2003年には駐日事務所と改称されました。
日本はILO通常予算に対して第3位の拠出国となっています。2020年の分担金率はアメリカが22%、中国が12%、日本が8.568%で、拠出予定額は37億2214万円(3387万スイスフラン)とされています。
また開発協力事業(マルチ・バイ事業)に対する任意拠出金についても、主要なドナー国となっています。
現在ILOにおいて、日本は1つの国から政労使三理事が揃って選出していますが、これは非常に珍しいことになります。加盟国としてILOで採択されている約400の条約のうち、現在49の条約を批准(条約に対する国家の最終的な確認、確定的な同意)しています。
※ILOは本部がスイスのジュネーブにあるため、金額はスイスフランで換算
(出典:国連広報センター「国際労働機関」)
(出典:外務省「国際労働機関(ILO)の概要」,2016)
(出典:国際労働機関「ILOについて」)
(出典:内閣府「年次有給休暇に関する条約」)
(出典:国際労働機関「ILO事務局長声明-仕事の世界における暴力とハラスメントの根絶を」)
(出典:国際労働機関「加盟国リスト」,2019)
(出典:国際労働機関「ILO と日本」,2020)
SDGs達成のためにディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と経済成長への理解を深めよう
この世界では様々な労働環境の中で働いている人がいます。すべての人が公平な労働環境の中で働けているわけではなく、収入や労働条件など改善されなければならない問題はいくつもあります。
さらには、劣悪な状況で強制的に労働が行われているような国や地域もあるほどです。
そのような問題に対して国際的に取り組んでいくためにも、ILOの存在は必要不可欠であり、政府や労使だけでなく、働いている私たち自身も、労働に関しての問題について考えていく必要があります。
世界の労働状況や問題、そして改善するために日々活動するILOの取り組みを知り、私たちの置かれている労働環境の改善にどのようなことが必要なのか、考えてみましょう。
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