「ディーセント・ワーク」という言葉は、近年様々な問題を解決するための方法として注目を集めているものです。
高所得国、開発途上国を問わず、あらゆる仕事に関係しているこのキーワードについて紹介します。
持続可能な開発目標・SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」のターゲットや現状は?
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ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)とは
ディーセント・ワークとは「働きがいのある人間らしい仕事」「人間らしい生活を継続的に営める労働条件」のことを指します。
直接的な労働条件として、労働時間、賃金、休暇日数、勤務内容などが人間としての尊厳と健康を損なうものではなく、人間らしい生活を継続的、持続的に営むことが求められています。
さらに、それらを保障する労働条件として、結社の自由、団体交渉権、失業保険、十分な雇用、雇用差別の廃止、最低賃金などが保障されていることが求められているのです。
これらの労働条件がしっかりと確保されるとディーセント・ワークが実現できたとされます。
このディーセント・ワークは、2009年に国際労働機関(ILO)総会で21世紀のILOの目標として提案されて支持を集めました。
それに先立って、2006年に開催された「国際連合経済社会理事会」では経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の第7条にある「公正で好ましい条件での仕事」はディーセント・ワークとして解釈されるべきであるという所見を示しています。
この内容は2011年に採択された「家庭内労働者に関する国際労働条約第189号」の表題にも明記されています。
国際労働機関ではこういった労働条件を具体的に条約や勧告として規定し、監視機関を設置して、すべての人々がディーセント・ワークを実現できるようにと進めていますが、すべての国がそれに批准しているわけではなく、さらなる展開が期待されています。
(出典:国際労働機関(ILO)公式サイト 「ディーセント・ワーク」)
世界の労働・仕事環境の現状や解決すべき問題
ディーセント・ワークの実現が進められているのは、世界の労働や仕事環境に様々な問題点や課題があるからです。
世界では1日に2ドルで生活をしている貧困ライン未満の人々は22億人いると言われています。安定した賃金が与えられない限り、貧困問題の解決は困難です。
さらに2015年の時点では世界で2億人以上が失業していると言われ、2012年の時点で2億200万人、2015年は2億400万人、2018年は1億9,200万人と、ここ数年で若干改善されつつありますが、それでも深刻な状況です。
そして、この問題は失業者が仕事に就けば終わるものではありません。
現在仕事に就いていても、自分や家族を貧困状態から抜け出すほど稼ぎを得ることができていない人たちが7億8,000万人いると言われています。
失業者が仕事を得るための雇用創出とともに、労働者を雇用している会社においては労働条件の改善の必要性も求められています。
また、会社や企業、仕事に関しては多くの問題点や課題があるのも事実です。
ここではそれぞれの項目について、問題点や課題を見ていきます。
(出典:国際連合広報センター 公式サイト)
(出典:国際労働機関(ILO)公式サイト 「ディーセント・ワーク」)
児童労働・強制労働
本来就学しているべき年齢の子どもが、学校へ行かずに仕事をし、不当に安い賃金で働かされています。
子どもたちは、学校で教育を受けていないために知識や教養を得ることができず、成長しても条件の良い仕事に就くことができません。また、児童労働の多くが不当に安い賃金しか払われないために、単純に教育の機会を奪っているだけとなってしまいます。
子どもたちの多くは、自分で希望して仕事をしているわけではなく、家庭環境から働かざるを得ない状況であったり、無理やりに働かされているのです。
そこでILOの支援のもと、過去10年間に渡り60を超える国が、労働に関して法的な枠組みをILOの「児童労働条約」に合わせて修正してきました。ILOの専門委員会では「第138号」および「第182号」条約の適用に関する定期的な検討で、改善していることを示すコメントが2004年の時点から約7倍増えたとされています。
さらにILOは、それぞれの国に対して児童労働への取り組みを目的としたプロジェクトを200件以上実施。
その結果、過去15年間において世界の約110ヶ国で100万人ほどの子どもたちが児童労働から脱出したり、新たに児童労働を行うことから逃れることができたのです。
2000年の時点では2億4600万人いると言われた児童労働者ですが、2017年には1億5200万人と大幅に減少させることに成功しています。
(出典:国際労働機関公式サイト 「ディーセント・ワーク」)
男女の賃金格差
日本でも男女の雇用機会や賃金の格差については議論があり、それによって男女雇用機会均等法や男女共同参画社会基本法が制定されたという経緯があります。
男女の格差は、世界でもまだ残っています。
世界各地では女性の文化的、社会的な地位が低く設定されているところが多く、教育の機会などにも差がつけられていることがあります。
仕事をするようになっても、同じ仕事内容なのに賃金が男性の方が高い、男性しか高い役職に就けない、出世できないといった問題があります。
さらに、そもそも就職の時点で女性は採用されにくいというケースもあり、男女の就職率や生涯賃金にも差をつける原因となっています。
現在、ILOからも様々な条約や勧告によって「男女の平等」が指摘されています。
平等な教育から公正な雇用、能力に合った仕事の提供など、すべて男女間に格差が生じないように取り組みが行われているのです。
長時間労働
長時間労働は発展途上国や地域だけでなく、高所得国と呼ばれる国でも起こっている問題です。1日の勤務が長い、休日が与えられないまたは少ない、などの問題です。
多くの国や地域では長時間労働を強制した上で、その分の賃金を支払う、残業手当などを充実させているなどの手当などは発生しておらず、低い賃金で長く働かせるという慣習が根付いています。
そのため、労働者はいつまでも仕事をしなければならないという精神的な苦しみや長時間労働による体力的な辛さを受けることとなり、心身の故障が発生して仕事を辞めることになったり、仕事を「楽しくない」と感じるようになっているのです。
貧困状態の国や地域では、そのように低賃金で長時間労働をさせなければ会社が成り立たないという経営システムになっていることも多く、この問題を解決していくためにはそのシステムから改善していかなければなりません。
長時間労働については、長期的に取り組んでいかなければならない課題とされています。
失業率・ワーキングプア
先にも触れた失業に関する問題ですが、2015年時点で2億400万人いると言われる失業者に対して雇用を創出していくことは課題とされているものの、なかなか改善はされていません。
またもう一つの問題となっているのが「ワーキング・プア」です。
「働いているのに貧困」という状態を指し、これも発展途上国だけでなく高所得国でも問題になっています。
その大きな要因の一つとして挙げられるのは「不当に安い賃金で労働をさせている」ということです。これは発展途上国などに特に多く、長時間働いても賃金が安いために安定して生活できるだけの稼ぎが得られません。
解決するには、その国や地域の最低賃金の水準を上げて、生活を保障するということが重要となるでしょう。
また、仕事に就くまでの教育環境もワーキング・プアにつながる要因の一つです。
子どもの時に児童労働を強制されていた子どもは、学校での基礎的な教育を受けていません。そのため学力や識字率、知識などが大きく欠けたまま成長することになります。
大人になって仕事に就く際に、それがネックとなって賃金が高い仕事に就けないという悪循環に陥るのです。
高所得国では近年増加しているフリーターなどがこれに当たります。
多くのフリーターは、労働時間はある程度長いものの、福祉面、福利厚生で正社員に大きく劣ったり、ボーナスがない、出世できない、賃金が上がらないなどの不利益によって働いているのに貧困という状態に陥るのです。
これらの問題を解決していくためには、子どもの時からの教育環境や、最低賃金水準の向上、労働条件の見直しなどが必要となってきます。
(出典:国際連合広報センター 公式サイト)
業務中のケガや病気
業務中のケガや病気は、雇用されている人にとっては福利厚生、自営している人にとっては社会保障の問題になります。
大きなケガをしたり、病気にかかったことで仕事ができなくなった場合に賃金が保障されるかどうかという問題です。
労働条件や雇用されたときの条件によっては、ケガや事故をして仕事を休んでいる間は賃金が支払われないことがあります。賃金が支払われずに医療費や治療費がかかるために大きく貧困に陥ってしまうのです。
業務中のケガや業務が原因となる病気にも関係してきます。
本来であれば労働災害になるため、業務中のケガに関してはその間の賃金は保障されるべきですが、世界ではまだまだそういった考え方が浸透していないところもあります。
様々なハラスメント
ハラスメントとしては、日本でも「セクハラ」「パワハラ」などが有名ですが、これは世界的に問題になっているものです。
職場で問題とされているハラスメントとしては、
- 暴行・傷害などの身体的な攻撃
- 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言などの精神的な攻撃
- 隔離・仲間外し・無視などの人間関係からの切り離し
- 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害などの過大な要求
- 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないことなどの 過小な要求
- 私的なことに過度に立ち入ることなどの個の侵害
- セクシュアル・ハラスメント
- その他ハラスメント(その他のいじめ・嫌がらせに該当する行為)
が代表的なものとされており、
「働きがいのある仕事」をしていく上で大きな障害となっています。
(出典:厚生労働省公式サイト「職場のパワーハラスメントについて」)
私たちも身近なところから始めよう!
これらの問題を解決していくためには世界規模でディーセント・ワークに取り組んでいくことが重要です。また、ここで挙げたような問題を解決していくことはSDGsの達成にも大きく影響してくると考えられています。
また、経済活動を行うのは私たち一人ひとりであり、それなくして経済成長は見込めません。特に充実した生産活動を行っていけなければ、停滞してしまう可能性もあるのです。
ディーセント・ワークへの取り組みは国や地域単位で行うような大きな問題から、自分の身の回りから取り組んでいくことができるものまで様々です。
まずは自分の身近な人や環境を意識し、改善するべきことがあれば行動を起こしていくことが重要なのです。
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