農業は日本の食文化を支える産業です。古くから米をはじめとして様々な農作物が作られてきました。
その生産は時代が進むにつれて化学肥料や化学合成農薬などを使うことで効率的に行えるようになりましたが、同時に土地や生態系に大きな負担を課すこととなってしまいました。
現在はそのような農業は見直され、環境に配慮された取組が積極的に行われています。
こちらの記事では環境保全型農業について紹介します。
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環境保全型農業とは
環境保全型農業の基本的な考えは以下のようになります。
農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくりなどを通じて化学肥料、農薬の使用などによる環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業
農業はその土地や水、気候の力などを借りて作物を育てます。
しかしその力を借りるばかりで作物を育て続ければ、土地は痩せていき、作物が育てられない環境を作り出してしまいます。
また、効率よく作物を育てるために化学肥料や農薬などを使用することがありますが、これは土地を汚染し、生態系を壊してしまう可能性もあります。
このような農業は環境破壊や地球温暖化などに繋がるため、現在は環境に配慮した農業が求められています。
化学肥料や農薬の使用を抑え、作物を栽培していない期間にカバークロップ(緑肥)(※)作物を植え、環境と調和した持続可能な農業生産を行うのが環境保全型農業となります。
※カバークロップ(緑肥):春に田畑に植えるレンゲなど栽培した植物を土壌とともに耕して天然の肥料としたもの
(出典:茅ヶ崎市「環境に優しい農業(環境保全型農業)」)
実際に行われている環境保全型農業の取組とは
環境保全型農業の取組はその対象となる制度に伴い「全国共通取組」と「地域特認取組」の2種類に分けられます。
基本的には化学肥料や化学合成農薬を原則5割以上低減する取組が対象であり、環境への負担を減らすことを目的としています。
(出典:農林水産省「⽇本型直接⽀払制度のうち環境保全型農業直接⽀払交付⾦」)
(出典:農林水産省「環境保全型農業直接⽀払交付⾦について」,2019)
(出典:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構「リビングマルチを利用した畑作物生産に関する栽培学的研究」,2019)
全国共通取組
全国共通取組は3つの取組が対象となります。それが「有機農業」、「カバークロップ(緑肥)」、「堆肥の施用」の3つになります。
それぞれの取組について詳しく見てみましょう。
有機農業
有機農業は主作物(※)について、化学肥料や化学合成農薬を使用しない取組です。厳密にはこれら肥料や農薬を使用しないだけでなく、都道府県が定める持続性の高い農業生産方式の導入に関する指針の中の土づくり技術を導入していることや組換えDNA技術を利用しない農業です。
※主作物:化学肥料や化学合成農薬の使用を都道府県が行う慣行レベルから原則5割以上低減する取組または有機農業の取組の対象作物のこと
カバークロップ(緑肥)
先述しましたが、カバークロップ(緑肥)は主作物の栽培期間の前後でレンゲなどのカバークロップを作付けする取組です。
緑肥を栽培し、その土地を耕すときに一緒に混ぜてしまうことで天然の肥料とし、化学肥料の使用を控えることができる農法になります。
ただしどのようなものでも良いわけではなく、品質の確保された種子が、効果の発現が確実に期待できる播種(※)量以上が種まきされていることや、適正な栽培管理を行った上で、カバークロップの子実などの収穫を行わず、作物体全てを土壌に還元していることが条件になります。
※播種:種まきのこと
堆肥の施用
堆肥の施用、正確には「炭素貯留効果の⾼い堆肥の⽔質保全に資する施⽤」とは主作物の栽培期間の前後に堆肥を施用する取組です。
堆肥とは枯れ草や枯れ葉、藻類などの植物、鶏ふんや牛ふんといった家畜のふんを堆積して微生物により完全に分解された肥料のことを指しますが、この取り組みでは鶏ふんなどを主原料とする堆肥は除外されます。
これら3つの取組により土壌中に炭素を貯留し、地球温暖化防止に貢献できるとされています。
地域特認取組
全国共通取組と異なり、こちらの取り組みは地域の環境や農業の実態などを踏まえた多様な取組が対象となります。そのため都道府県や市町村によって対象となる取組は違います。
2019年時点で、43都道府県で実施されており、156取組が設定されています。
ここでは例を5つほど紹介します。
こちらも化学肥料や化学合成農薬を5割以上低減して作物を育てることが前提となります。
リビングマルチ
リビングマルチは主作物を育てている畝と畝の間にある畝間(※)に麦類や牧草などを作付けする取り組みです。
リビングマルチで麦類などを育てえることで雑草や害虫を抑える効果が確認されており、農薬を使用する量を抑えることが可能です。
※畝:作物を育てる際、土を盛り作る山
草生栽培
リビングマルチのように園地において麦類や牧草などを作付けすることで雑草や害虫を抑え、農薬などを使用する量を抑えることができる取組です。
こちらは畝を必要とするような作物ではなく、果樹などを対象に行われる取組です。
冬期湛水管理
冬期は水田に作物を植えないため、その期間を利用して水を張り、2ヶ月以上の湛水(※)期間を確保する取組です。この取組を行うことで水稲に吸収・蓄積されるカドミウムの含有量を低減することができるとされています。
※湛水:水を張って貯め続けること
江の設置
江(え)の設置とは水田全体ではなく一部だけを湛水状態にすることで、水生生物の育成環境を確保できる取組です。
冬期湛水管理は水田全体を湛水状態にするのとは異なり、水田周辺の生態系保全を目的とした取組です。
IPMの実践
IPMは総合的病害虫・雑草管理の略称であり、これを実施する取組になります。例えば害虫などを引き寄せるフェロモントラップの設置や人工的に合成された性フェロモンによってオスを惑わす交信撹乱剤を設置します。
また害虫の天敵となる昆虫を放飼する方法もIPMの実施になります。
環境保全型農業を支える制度と交付金
環境保全型農業は農林水産省が推奨する農業の取組です。そのため、環境保全型農業を行っている農家は一定の条件をクリアしているのであれば、市町村から交付金で支援してもらうことができます。その制度が「環境保全型農業直接支払制度」です。
農業は日本における重要な産業としてだけでなく、国土保全や自然環境保全、さらに地球温暖化防止や生態系保全など多面的機能を持っています。
そのため現在起こる地球温暖化の防止策や生物多様性を守っていくために環境保全型農業が必要であり、農林水産省は農業において積極的にこのような取組が行われるように図り、環境保全型農業に取り組む農家の負担を軽減するために交付金での支援を行っているのです。
ただしこの交付金の申請受付事務や交付金の負担が難しい市町村では申請できない可能性があります。
また、同一の場においては2018年から複数取組支援は廃止され、1つの取り組みにのみ支援が行われるようになりました。
全国共通取組と地域特認取組を複合していた場合は、全国共通取組が優先されます。
(出典:農林水産省「⽇本型直接⽀払制度のうち環境保全型農業直接⽀払交付⾦」,2019)
(出典:農林水産省「環境保全型農業直接支払交付金」,2017)
環境保全型農で環境や動植物と共存していく
農業は日本の一次産業として食を支え、私たちの食卓を支えています。もちろん国産ばかりではありませんが、スーパーや直売店では国産の米や野菜、果物を求める人もいます。
そんな農業はその土地や環境の力を借りてでしか生産できません。そうなると環境に配慮した農業を行っていかなければ、持続的に作物を作っていけなくなります。
昔は化学肥料や化学合成農薬などを多々使用し、多くの野菜や果物を作っていましたが、それにより土地は汚染され、生態系は崩され、人体にも影響を与えるものができてしまいました。
時間はかかりましたが、そこから環境や生態系などを顧みた農業に取り組む人が増え、今では各地で環境にも生態系にも人体にも優しい作物が作られるようになっています。
環境保全型農業は広く取り組まれている方法について支援を行っていますが、独自の方法で環境保全や生態系保全を行う農業を行っている農家の人もいます。
私たちはただその取組で生み出された作物の恩恵を受けるだけでなく、自分でもできる環境保全の取組を行い、手助けを行っていけると良いでしょう。
(出典:農林水産省「環境保全型農業の推進」)
(出典:農林水産省「環境保全型農業関連情報」)
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