アメリカは、その成立当初から移民によって支えられており、これまで多くの移民を受け入れてきました。
しかしその歴史は規制や問題への対策の連続であり、時代に対応した移民政策を敷いてきました。
ではどのような移民政策を行い、現在に至っているのか、その歴史をこの記事で紹介します。
移民とは?どのような問題があり、どのような政策が行われているの?
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アメリカは世界有数の移民大国
世界では元から住んでいた国や地域を離れ、他国やほかの地域へ移動する人がいます。そのような人を移民と呼び、それぞれ地理的に近い国や地域へと移動していきます。
移民に明確な定義は存在していませんが、国際的な人の移動に関する活動を行っている国際移住機関(IOM)は移民について、以下のような定義を行っています。
つまり理由や滞在期間を問わず、また国境を超えるのか国内の移動なのかにも関わらず、本来の居住地を離れて移動している、あるいは移動した人はすべて移民として扱われるということです。
移民となった人の行き先は、本来住んでいた国や地域にもよりますが、多くはヨーロッパやアメリカに移動して行きます。
一国の移民受け入れ状況を見ると、アメリカが最も多く、今までに全世界の国際移民の19%にあたる5,100万人を受け入れています。
年間の受け入れにおいても2017年時点で、ドイツの138.4万人に次ぐ112.7万人を受け入れており、その年の第2位の移民受け入れ国となっています。
また、ここ10年間の年間の受け入れ状況を見ても、2013年を除いてすべての年で100万人を超える受け入れを行っています。
元々、アメリカはコロンブスに発見されて以降、ヨーロッパの人々が移民として居住し、様々な人種の人々が集まる国として発展してきました。
国の誕生から現在に至るまで、移民によって成り立ってきたと言っても過言ではなく、まさしく移民大国と呼ぶに相応しい国となっています。
(出典:国際連合センター「国際移民は世界全地域で増大を続け、2億7,200万人に達する、と国連が予測(プレスリリース日本語訳)」,2019)
アメリカにおける移民政策の歴史
アメリカが移民によって発展してきた国ではありますが、その誕生から今まで無条件に移民を受け入れてきたわけではありません。
アメリカの移民政策の歴史の中には厳しい規制のもと、移民を受け入れないといった時代も存在し、政権が変わることでその政策も変化してきています。
ではどのような移民政策の歴史を歩んできたのか、移民法などの成立、改正の流れとともに見ていきましょう。
ジョンソン=リード法
アメリカは1776年にイギリスから独立しました。それまではイギリスの植民地とされていましたが、北米の13植民地を独立することでアメリカ合衆国は生まれています。
この独立と建国は移民によって行われたものであり、その後も移民を無制限に受け入れる国となりました。
しかし人口増加に伴い、1880年代になると徐々に受け入れに制限を設けるようになります。
特に1890年以降には大規模な移民が東ヨーロッパや南ヨーロッパ、アジアで始まったことにより、この地域の出身者を厳しく制限することを目的として1924年移民法(ジョンソン=リード法)が成立しました。
この法律は、日本では排日移民法とも呼ばれていますが、その名の通り日本人もアジアの移民として排除されたことから、このように呼称されます。
元々アジア出身者の中でも中国人の移民は1882年の時点で中国人排斥法により、移住が一切禁止されていました。加えて1907年になると日本人の入国が制限されるようになりました。
そして1924年移民法ではアジアの移民の大半を占めていた日本人が排除され、日本人も完全に排斥されることになったのです。
移民国籍法
1952年に成立した移民法ではアジア出身者の帰化権を認めました。この法律が2020年時点の外国人の入国や滞在に関する移民関係法の基盤となっています。
この法律でアジア出身者の帰化権は認められたものの、1924年移民法に引き続いてアジア出身者の移民と帰化そのものは制限されたままになりました。
またこの法律ではビザの発行に優先順位をつける制度が設けられました。その判断基準は職業能力や家庭関係などを基礎とする4つであり、優先順位の順にビザを割り当てていきます。
加えて外国人労働者の受け入れによって、国内の労働市場に悪影響を及ぼすことを懸念し、防止のために労働市場テストの機能を持つ雇用証明の制度を取り入れています。
しかし1952年の第二次世界大戦により各国は疲弊しており、アメリカへの移民は特にヨーロッパ出身の人が急増しました。
その後も世界規模で発生する移民や難民がアメリカに大量に流入し、アメリカでの永住権を獲得することで、労働人口などが増加していきましたが、1970年代以降になると不法外国人労働者が増加する結果となりました。
ハート・セラー法
移民や難民の増加を受けて、1965年に改正移民法を打ち出し、対策に乗り出しました。この改正では、出身国別の制限を撤廃し、西半球と東半球という大まかな枠組みで移民数を決定していました。
また合法移民を中心とした諸政策の規定を行い、移民により離散した家族の呼び寄せ枠と、特定の職業技能を持つ人を採用する雇用枠の2つの優先カテゴリーを設け、移民受け入れの基本的な枠組みとしていきました。
この基本原則は、2020年時点のアメリカ移民法の根幹を成している部分でもあります。
移民改革統制法
アメリカに流入する移民や難民は増加し、特に非合法移民が急増したことが、大きな政治問題にまで発展しました。
そのため1986年、非合法移民に関する政策を盛り込んだ移民改革統制法が成立しています。これによるとアメリカに5年以上滞在している非合法移民の立場については公的に認知する非合法移民合法化プログラムが開始されました。
このプログラムには非常に多くの非合法移民が申請を行い、合法的に認知されるという大規模なものとなりました。
これは同時に新規の非合法移民を阻止する政策でもありました。しかし少数民族の団体やメキシコなどのラテン・アメリカ諸国からは大きな反発を呼び、法律施行後間もなくして、非合法移民の数は再び上昇した事実もありました。
1990年以降の移民政策
1990年には改正移民法が成立し、ハート・セラー法の基本原則を踏襲しながら、家族の呼び寄せや雇用、多様化プログラムの3つのカテゴリーにおいて合法移民枠を定めて、1992年から1994年までの移民枠の上限を決定しました。
同時にこれまで相対的に移民の少なかった国からも抽選で移民を受け入れる多様化プログラムを新設することで移民の受け入れを拡大していきました。
しかし1991年に移民改革統制法によって、180万人もの非合法移民が合法化されたことや、合法移民枠の拡大による総移民数の増加が、アメリカ社会に大きな影響を与えました。
アメリカの不況時期に重なっていたため、移民による福祉負担の増大が起こり、批判が相次いだことで、移民排斥運動へとつながっていきます。
さらに1990年代に入ると短期就労目的の非移民も増加したため、移民の大量流入と合法化も合わせて対策が求められました。
加えて2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件以降は、移民を厳しく制限するように議論が巻き起こり、テロリズムの摘発や防止を行うための適切な対策を提供することが必要となりました。
アメリカの歴史において、移民への対策は経済などアメリカの発展と深く結びつくと同時に、大きな課題として常に付き纏います。
2020年時点もトランプ政権下で移民政策は行われており、2017年の就任以降特定国からの入国禁止令や、2018年には非合法の移民を例外なく起訴する不寛容政策、2019年には不法移民の一斉摘発と強制送還などが行われました。
ところがバイデン政権に変わり、2023年1月にはキューバ、ニカラグア、ハイチからの不法移民を迅速に送還する一方、これら3カ国とベネズエラから毎月最高3万人に入国許可を認めると発表。
計36万人が受け入れられることになり、米国における移民の労働機会が近年で最も拡大することとなります。
(出典:労働政策研究・研修機構「アメリカの移民政策」)
移民は世界の問題
アメリカが移民によって成り立ち、発展してきた歴史は、同時に大量に流入する移民への対処の歴史でもあることが伺えます。
時代時代の政権下において、法整備による対応が必須となり、変遷とともに内容も変化させていかなければいけません。
しかし、このような問題はアメリカだけに起こっているわけではなく、世界の先進国を中心とした国々で起こっています。
また移民が発生するのは、本来住んでいた国の経済状況や政治の不安定さなど、様々な理由が考えられます。
不法に入国した移民は、法を守らなかった人ではありますが、やむを得ない理由もあることや、貧困国あるいは紛争が起きている地域で生まれ育った被害者でもあります。
そういった移民の人々とどのように共生していくかは、国際機関や国の行政だけでなく、一人ひとりが問題に向き合わなければいけない世界の問題です。
政府は外国人労働者として扱っていますが、日本にも移民は入ってきています。共生していくのは私たち日本人です。
この問題は他人事ではなく、日常生活の中で接していかなければいけない問題にほかなりません。移民問題について知り、対岸の火事とするのではなく、自分たちも目の当たりにする問題として理解していくことが大切です。
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