ジェンダー不平等、女性差別については、日本だけでなく世界中のあらゆる国において社会問題となっています。本来であれば、性別や年齢などに関係なく、すべての人が平等でなければなりません。
この記事では、ジェンダー平等の実現に向けて採択された女性差別撤廃条約について、その定義や目的を解説します。
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女性差別の定義とは
女性差別とは、女性であることを理由に女性に対して差別することを言います。
日本では以前から、「男は仕事、女は家庭」というように、性によって役割を固定化する考えを持つ人が多くいました。
寿退社という言葉は、今でも使われることがあります。これは、女性は結婚したら仕事を辞めるのが当たり前、女性は家庭に入るというのが通例となっていた時代があったことを裏付けていると言えるでしょう。
現代でも問題視されている教育や雇用の現場での女性差別については、「男は仕事、女は家庭」という考え方が一般的に浸透していたことが要因となっていると考えられています。
女性差別撤廃条約とは
女性差別撤廃条約(女子差別撤廃条約)とは、正式名称を「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」と言い、1979年12月18日に第34回国連総会において採択され、日本では1985年に締結、1986年に施行されました。
女性差別撤廃条約の目的
女性差別撤廃条約は、男女の完全な平等の達成に貢献することを目的として、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念としているのです。
女性差別撤廃条約では、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他すべての分野において、女性の性に基づく排除や制限、さらには区別することも差別にあたると定義しています。
つまり、どんな分野においても男女の区別なく、すべての人が平等であることを基礎として、女性の人権及び基本的自由を守ることを目的に締結された条約です。
女性差別撤廃条約の締約国
女性差別撤廃条約は1979年12月18日に第34回国連総会において採択され、1981年9月3日発効されました。
2019年8月時点で締約国数は189ヶ国に上っており、主な締結国は以下の通りです。
(出典:外務省「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」,2019)
女性差別撤廃条約の批准に向けた日本の取り組み
女性差別撤廃条約の大きな特徴は、公の生活はもちろん、私生活においても女性の権利を保障している点と、法の上での差別だけではなく実際の生活の中での差別を禁止している点です。
実際の暮らしの中で、女性だからという理由で男性と区別されたり、昔からの伝統や慣習による区別であっても、許されることがあってはならないことが、女性差別撤廃条約の締結によって保障されたことになります。
日本では女性差別撤廃条約の批准に向けて、「国籍法改正」「高等学校の家庭科共修の実現」「男女雇用機会均等法の制定」の3つの改正が行われました。
国籍法改正
国籍法が改正される前は、国際結婚で生まれた子どもが日本国籍を取得できるのは父親が日本国籍の場合に限られていました。しかし、条約第9条2項の「子どもに国籍が与えられる際の男女平等の権利」に違反していたため、国籍法が改正され、1985(昭和60)年5月から母親が日本人の場合も日本国籍を取得できるようになったのです。
「家庭科」が男女共通必修科目に
家庭科が男女共通の必修科目になる前は、家庭科は女子生徒のみで男子生徒は技術科が必修科目になっていました。しかし、男女の違いで必修科目が異なることは条約第10条の「教育における男女平等」に反することから、改正の方向が示されることになったのです。
1989(昭和64)年に文部省(当時)に学習指導要領が改正されましたが、実際に家庭科が男女共通の必修科目になったのは1994(平成6)年4月からで、「家庭一般」「生活一般」「生活技術」のなかから1科目を選択して学ぶスタイルに変更されました。
男女雇用機会均等法の制定
日本の労働基準法では、働く条件についての男女平等の規定がありませんでした。
そのため、男女雇用機会均等法が制定されるまでは、雇用や昇格その他あらゆる待遇の面で、男女差別があるケースが数多くあったのです。
このような状況は、条約第11条の「雇用における男女平等」の規定に反していたため、1985(昭和60)年5月に男女雇用機会均等法が制定され、1986年に施行されました。
ポジティブ・アクションは女性差別を解消するための取り組み
ポジティブ・アクションとは、社会的・構造的な男女の性差によって生じる固定概念や役割分担意識が要因となって起こる女性への差別的取扱いや男女格差を解消し、女性の活躍を推進しようという取り組みのことです。
ポジティブ・アクションの目的
ポジティブ・アクションは、実質的な男女均等取扱いの実現を目的としています。
しかし、男女には生まれながらに生殖機能に違いがあるため、妊娠や出産は女性しかできません。
妊娠中は体調に注意する必要があり、出産のためには一定期間仕事を休むことも必要になります。このような状況を配慮し、一定の範囲内で妊娠中の女性や育児期間の女性を守るための措置は、特別扱いには当たらないというのがポジティブ・アクションの具体的な内容の一つです。
女性だからという理由で差別が行われてはいけませんが、生まれながらに男性と女性では生殖機能、骨格、筋肉量などの違いや体力に差があります。ポジティブ・アクションはこのような点を考慮することは差別にはあたらないとされているのです。
ポジティブ・アクションを実現するために
ポジティブ・アクションには多様な手法があります。
例えば以下のような方法が挙げられます。
(2)ゴール・アンド・タイムテーブル方式
(3)基盤整備を推進する方式
(1)指導的地位に就く女性等の数値に関する枠などを設定する方式
指導的地位に就く女性等の数値に関する枠などを設定する方式として利用できるのがクォーター制です。
クォーター制とは、政治において議員候補者の一定数を女性と定める制度のことで、指導的地位に就く人材を男性だけに偏らせないために使われる手法です。
これは政治の世界だけでなく、一般企業などでも取り入れられている手法で、クォーター制を取り入れたことにより女性の社会進出が進んだと言われています。
(2)ゴール・アンド・タイムテーブル方式
ゴール・アンド・タイムテーブル方式は、指導的地位に就く女性等の数値に関して、達成すべき目標と達成までの期間の目安を示してその実現に努力する手法です。
達成すべき目標と達成までの期間を定めることで、目標達成の実現がしやすくなります。
(3)基盤整備を推進する方式
基盤整備を推進する方式は、研修の機会の充実、仕事と生活の調和など女性の参画の拡大を図るための基盤整備を推進する手法です。
女性の妊娠、出産、育児を理解し、仕事と生活の調和が取りやすくするために、会社や上司などがポジティブ・アクションの内容を理解する機会を設けることで、実質的な平等に向けた改善がしやすくなります。
ポジティブ・アクションを実現するためには、これらの手法の中で、各団体、企業、大学、研究機関などの特性に応じて最も効果的なものを選択することが重要です。
(出典:男女共同参画局「ポジティブ・アクション」)
女性のエンパワーメントで職場のジェンダー平等に取り組もう
エンパワーメントとは、与えられた業務目標を達成するために、組織の構成員に自律的に行動する力を与えることを言います。
女性のエンパワーメントとは、企業がジェンダー平等と与えられた業務目標を達成するために、女性の力を企業に取り込み、女性が自律的に行動できる力を与えることです。
国連グローバル・コンパクト(GC)と国連婦人開発基金(UNIFEM)(現UN Women)が共同で作成した女性のエンパワーメント原則には以下の7つの原則があります。
2)機会の均等、インクルージョン、差別の撤廃
3)健康、安全、暴力の撤廃
4)教育と研修
5)事業開発、サプライチェーン、マーケティング活動
6)地域におけるリーダーシップと参画
7)透明性、成果の測定、報告
女性のエンパワーメントの採用は、これまで伝統的に女性が少ない産業や職種に女性を登用するなどが期待されます。
女性差別撤廃条約の目的を知り、女性差別・人権について考えよう
本来であれば性別や年齢に関係なく、すべての人が平等でなければいけません。しかし、現実には男女という性別の違いによって、差別や偏見、不平等などが様々な場面で起きています。
女性差別撤廃条約は、どんな分野においても男女の区別なく、すべての人が平等に、かつ人権及び基本的自由を守ることを目的に締結された条約です。
また、ポジティブ・アクションなどの取り組みから分かるように、女性差別、男女の格差を本当の意味でなくすためには、生物的性差を考慮した上で、実質的な男女平等が求められています。
女性差別、男女格差のない社会を実現するためには、女性差別撤廃条約の目的や実質的な男女平等とは何かを理解し、実践していくことが大切なのではないでしょうか。
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