「医療的ケア児とはどんな子どもたち?」
「医療的ケア児が抱えている課題は?」
このような疑問を持っている方に向けて、本記事では下記の内容を紹介します。
- ・医療的ケア児とは?
- ・医療的ケア児が抱える課題とは?
- ・医療的ケア児に対して行われている支援は?
医療的ケア児とは、生活するうえで医療的ケアが必要な子どものことです。医療的ケアとは、痰の吸引や経管栄養(チューブなどを通して直接胃や腸に栄養を送ること)などのケアを指します。
医療的ケア児は、健常児が送るような一般的な生活を送れず、医療的ケアにより行動に制限がかけられている子どもがほとんどです。
医療的ケア児は年々増加傾向にある一方、医療的ケア児とその家族に対する公的機関からのサポートは追い付いていません。
医療的ケアを施す専門スタッフの確保や、保育園による医療的ケア児の受け入れなど、医療的ケア児へのサポート体制が十分に整っていないと、家族が1日中付きっきりでケアをすることになります。また、子どもの家庭外での経験の機会が乏しくなります。
医療的ケア児について理解を深めたい方は、ぜひご一読ください。
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医療的ケア児とは
医療的ケア児とは、生活する中で医療的ケアを必要とする子どものことを指します。
「医療的ケア児およびその家族に対する支援に関する法律」では、日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケアを受けることが不可欠である児童(※)と規定されています*。
※児童:この法律においては主に18歳未満の人を指す。さらに詳細は出典へ。
また厚生労働省では、医療的ケア児とは、医学の進歩を背景として、NICU(新生児特定集中治療室)等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のことと定義しています**。
しかし、一般的には長期入院の経験がない子どもでも、医療的ケアが日常的に必要であれば、医療的ケア児に含まれます。
医療的ケアの具体例として以下が挙げられます。
- ・気管に溜まった痰(たん)を吸引する「たん吸引」
- ・チューブ用いて、鼻やお腹の皮膚から栄養を送る「経管栄養」
- ・医療的ケア児専用の「服薬管理」
- ・血液中の酸素飽和度チェックや脈拍数の測定といった「血液検査」
- ・バンド交換など「気管切開部の管理」
- ・呼吸器疾患などで正常に呼吸ができない医療的ケア児のための「在宅酸素療法」
医療的ケアは主に子どもの家族が行います。家族は、医師や看護師が本来行う医療的ケアを、医療従事者から指導を受けたうえで行わなくてはいけません。
医療的ケア児の多くは超未熟児として産まれた子どもや先天的な疾病を持つ子どもです。歩行可能な子どもから、重度の知的障害と肢体不自由が重複した「重症心身障がい」をもつ子どもまで存在します。
*出典:厚生労働省 医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律
**出典:厚生労働省 医療的ケア児について
医療的ケア児は年々増加している
わが国の医療的ケア児は増加傾向にあります。
グラフ出典:厚生労働省 医療的ケア児について
医療的ケア児が増加傾向にある要因として考えられるのが、新生児医療技術の向上です。ひと昔前は、妊娠中や出生時のトラブルにより疾患や障がいがある赤ちゃんの多くは命を落としていました。しかし、新生児医療の向上により、たくさんの赤ちゃんの命が救えるようになったのです。
現在の日本では、総合周産期母子医療センターやNICU(新生児集中治療室)の増設など、高度な医療施設の整備が進んでいます。
ただ、医療の進歩により救える命が増えた反面、医療的ケアが必要な医療的ケア児が増えています。それにより、保育園や学校、レスパイト(※)など彼らおよびその家族をサポートする環境の整備が追い付いていません。
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2021年に成立した医療的ケア児支援法とは
2021年、「医療的ケア児支援法」が成立、施行されました。医療的ケア児が健常児と同じような教育を受けられるよう、また適切な保健医療や福祉サービスを受けながら生活できるよう、社会全体で支援する法律です。
成立には、増加傾向にある医療的ケア児に対し、制度が整備されておらず医療的ケア児とその家族が適切な支援を受けられていなかったという背景があります。
本法律では「医療的ケア児」を定義し、国や地方自治体が医療的ケア児の支援を行うことを示しています。医療的ケア児の概念が法律的に明文化されたのです。
医療的ケア児支援法の具体的な内容は、以下の通りです。
- ・国や自治体による、医療的ケア児が在籍する保育所や学校への支援
- ・医療的ケア児とその家族への生活支援
- ・家族のための相談窓口の体制完備
- ・医療的ケア児でない児童とともに、学習を行えるための教育支援
- ・居住地域に左右されず、平等な支援が受けられる施策
医療的ケア児とその家族を取り巻く現状と課題
医療的ケア児支援法は施行されたものの、まだまだ課題が多いのが現状です。
医療的ケア児とその家族を取り巻く環境の主な課題は、以下の通りです。
- ・保育所や学校の受け入れ体制が整っていないため、十分な教育を受けられていない
- ・親がずっと付き添わなければならず、仕事に行けず経済的に困窮したり、精神的に疲弊しやすい
- ・医療的ケア児の家族が相談できる場所が少ないため、心理的・社会的に孤立しやすい
保育所や学校の受け入れ体制が整っていない
医療的ケア児にも教育を受ける権利があるにも関わらず、彼らを受け入れられる体制にある保育所や幼稚園、学校の数は限られています。
令和元年の厚生労働省の調査では、「登校や施設・事業所を利用するときに付き添いが必要である」について「当てはまる」または「まあ当てはまる」と回答した保護者は、どの年齢層においても半数以上を占めました。
また同報告書では、半数以上の都道府県が医療的ケア児の受け入れが可能な「保育所や幼稚園、認定こども園等の子ども・子育て支援」および「小・中学校や特別支援学校」が「大いに不足」または「不足」していると回答しています。
主な原因として、医療従事者の人材不足と、医療的ケア児に対する保育園や学校の理解不足が挙げられます。医療従事者からの支援が受けられない医療的ケア児には保護者の同伴が必要となります。
家族の同伴が難しく保育所や幼稚園、学校に通えない医療的ケア児は、教育を受ける機会と、様々な人と接し成長する機会が極端に少なくなってしまいます。
出典:厚生労働省 令和元年度障害者総合福祉推進事業 医療的ケア児者とその家族の生活実態調査 報告書
親がずっと付き添わなければならない
学校や保育所の受け入れ体制が整っていないと、親が子どものケアにつきっきりになります。
そうすると、親は仕事を続けることができません。さらに、多くの家庭で介護を担っている母親は、一日のほとんどの時間を医療的ケアに割いているため、働きに出るどころか、休む時間さえ確保しにくい傾向にあります。
令和元年の厚生労働省の調査では、家族の抱える生活上の悩みや不安について以下の項目において「当てはまる」または「まあ当てはまる」と回答した保護者が半数以上を占めました。
- ・慢性的な睡眠不足である・・・71.1%
- ・自らの体調悪化時に医療機関を受診できない・・・69.7%
- ・医療的ケアを必要とする子どもを連れての外出は困難を極める・・・65.3%
出典:厚生労働省 令和元年度障害者総合福祉推進事業 医療的ケア児者とその家族の生活実態調査 報告書
一時的に医療的ケア児をみてもらえる民間サービスの登場・増加が期待されますが、いまだ数が足りていない状況です。
また、医療的ケア児が検査などで入院する際、家族が24時間付き添わなくてはいけない場合が多い点も課題です。付き添い入院について詳しく知りたい方は、下記のURLをご覧ください。
>>付き添い入院とは?断れない・しんどい理由と私たちにできること
さらに、親が医療的ケア児につきっきりになると、医療的ケア児のきょうだいが親と過ごす時間が極端に少なくなってしまいます。障がいを持った子どものきょうだいを指す「きょうだい児」について下記で説明しています。きょうだい児について詳しく知りたい方は、ご一読下さい。
>>きょうだい児とは?抱えている問題や行われている支援を知ろう
医ケア児の家族が相談できる場所が少ない
医療的ケア児をもつ家族が相談できる場所が少ないことも課題の1つです。
厚生労働省の調査では「医療的ケア児者に対応可能な相談支援専門員」が「大いに不足」または「不足」と回答した都道府県は93.7%にも上りました。ほとんどの都道府県が足りていないという認識を持っています。
医療的ケア児支援法では、各都道府県に医療的ケア児支援センターの設置が義務付けられました。しかし、都道府県によっては開所後あまり時間が経過しておらず、十分機能していない施設がある状況です。
また、支援センターでは、医療的ケア児等コーディネーターや社会福祉士へ相談できますが、高度医療ケアには精通していない場合もあります。
医療的ケア児に対して行われている支援
医療的ケア児やその家族に対し行われている、公的機関および民間団体の支援を紹介します。
国や自治体が行っている支援
国や自治体による支援には以下があります。
- ・在宅生活支援
障害児相談支援、訪問診療、訪問看護、訪問歯科診療、訪問薬剤管理、医療型短期入所事業所開設支援など - ・社会生活支援
幼稚園や学校などへの医療的ケア看護職員配置、放課後児童クラブへの障害児受入強化推進など - ・経済的支援
医療費の助成や手当の支給
出典:厚生労働省 在宅の医療的ケア児とその家族の支援に向けた主な取組
NPOなどの民間団体が行っている支援
民間による支援の1つに認定NPO法人フローレンスの活動があります。
フローレンスでは、障がい児とその家族両方の生活を支えるための活動を行っています。
おもな事業内容は、以下の3つです。
- ・障がい児保育園
最長9.5時間保育可能な日本初の長時間障がい児保育園。看護師、作業療法士、研修を受けた保育スタッフが対応する - ・障がい児訪問保育
医療的ケアにも対応可能な、研修を受けた保育スタッフが訪問して保育。看護師も定期的もあり。世帯収入に合わせた利用料でサービスを提供 - ・障がい児シッターサービス
小児科経験豊富な看護師が訪問するため医療的ケアに対応可能。預かり中、保護者は外出も可能。障害福祉の制度を活用するため自治体から利用料の補助が出る
このようにフローレンスでは、専門のスタッフを育成し医療的ケア児の親子の多様な支援ニーズに応えています。
また、障がい児保育園と障がい児訪問保育を利用している母親の常勤雇用率は88%となっており、保護者の悩みの解決に貢献していることが分かります。
フローレンスについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
>>【怪しい?】フローレンスの気になる評判や実態は?寄付先として信頼できるかを徹底解説
ほかにも、SNSやオウンドメディアを通じて、医療的ケア児について情報発信を行ったり、医療的ケア児の家族が参加できるコミュニティづくりを行ったりする団体があります。また、在宅看護中の保護者が働く機会を得るための、在宅就労支援事業なども行われています。
医療的ケア児とその家族を支えるために私たちにできることとは
医療的ケア児とその家族のために、多くの支援活動が行われていますが、私たち個人にもできることがあります。
- ・医療的ケア児について理解を深める
- ・支援団体に寄付する
- ・医療的ケア児支援の現場の担い手になる
詳しく解説します。
医療的ケア児について理解を深める
医療的ケア児とその家族を支えるためには、まず医療的ケア児についての正しい理解が大切です。相手の事情や状況をなにも知らないままでは、できる支援はありません。
医療的ケア児を支えるために必要なものはなにか、家族はどのようなことで困り、どんな悩みを持っているのかを知ることが大切です。その内容をSNSなどを通して周囲に発信することで、より多くの人が課題に気づけます。
また、当事者と家族の実情を把握することで、身近に当事者がいる場合寄り添うことができます。
支援団体に寄付する
支援団体にお金の寄付をする方法もあります。
例えばフローレンスでは、以下のように寄付が障がい児支援に役立てられています。
- ・障害児保育園の運営費および医療器具・遊具の購入
- ・保育スタッフ・看護師・作業療法士・理学療法士スタッフの採用、研修費
- ・施設維持費
多くの団体では、自分の好きなタイミングで寄付できる都度寄付と、毎月決まった額を寄付する継続寄付、2つの方法があります。
都度寄付は、支援したい団体のホームページからクレジットカード、銀行口座からの振込などで、希望する金額を自分の好きなタイミングで寄付できます。特にクレジットカードでの寄付は、思い立ったらすぐその場でできるのでとても手軽で便利です。
継続寄付は、毎月決まった金額を、継続的に寄付することです。都度寄付と同様、団体のHPなどからクレジットカードや口座引き落としで手軽に寄付できます。
選択できる金額の設定は団体によって異なりますが、通常1,000円から10,000円程度の設定金額から選択します。継続的なお金の寄付であれば、医療的ケア児とその家族を長期的に安定して支援できます。もちろん、途中で継続寄付を辞めることも可能です。
一定の条件を満たせば、確定申告で寄付金控除を受けられる団体もあります。
多くの団体では継続寄付向けに活動報告書などが送られ、寄付がどう使われたのか、寄付がどのようなインパクトを与えたのかが報告されます。
医療的ケア児支援の現場の担い手になる
医療的ケア児とその家族を取り巻く課題の主なものとして、学校や保育園などで受け入れるための医療人材の不足があります。また、地域の相談窓口となる医療的ケア児等コーディネーターの不足も挙げられています。
誰もが今すぐにできる支援ではありませんが、医療的ケア児支援の現場の担い手になるのも私たちができる支援の1つです。
既に看護師資格や保育士資格を保有している人は医療的ケア児等支援者養成研修を受けることで、医療的ケア児の看護特有の知識を身に着けられます。
また、既に地域の保健師や相談員として働いている人は、医療的ケア児等コーディネーター養成研修を受け、包括的な支援の調整役として医療的ケア児の家族をサポートする方法もあります。
もちろん今から看護師や保育士の資格を取得し、将来的に医療的ケア児の看護や保育に特化した施設で働くという道もあります。
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医療的ケア児とその家族のために私たちにもできることがある
本記事では、医療的ケア児について解説しました。内容をまとめます。
- ・医療的ケア児とは、生活において「たん吸引」など医療的ケアを必要とする子どもを指す
- ・医療的ケア児は増加傾向。新しく法律が整備されたが、ケアできる医療従事者の数や受け入れ態勢はいまだ不十分である
- ・医療的ケア児への支援活動は国や自治体、団体によって行われている。私たち個人にもできることがある
医療的ケア児に関する法律は整備されましたが、医療的ケア児を受け入れられる施設が少なく、行政による支援は未だ整備段階です。そのため、学校や保育園に通えていない医療的ケア児が多い状態が続いています。
保育園や学校に通えていない医療的ケア児は教育の機会や家庭外での様々な経験の機会が乏しくなりがちです。また医療的ケア児の親は、子どもを付きっきりで見なくてはならないため、仕事をする時間的余裕がありません。また精神的に孤立してしまう親もいます。
そんな医療的ケア児や家族を支えるために、実情を知ったり支援団体への寄付したりなど、私たちにもできることがあります。増え続ける医療的ケア児を取り巻く課題が少しでも解決に向かうよう、自分たちにできることを考え、行動してみませんか。