「犬の殺処分はなぜなくならないの?」
「人間の都合で犬の命が奪われるなんて納得できない」
このように考える方のために、この記事では以下の内容を解説します。
- ・日本における犬の殺処分の現状
- ・なぜ犬の殺処分がなくならないのか
- ・殺処分ゼロに向けた行政や民間団体の取り組み
- ・殺処分ゼロ実現のために私たちにできること
日本では毎日平均6.6頭の犬が殺処分されています。人間の無責任な行動が原因で、命を奪われている犬がいるのです。
私たち人間が、責任をもって殺処分ゼロを実現する必要があります。ボランティアや寄付など私たちにできることはたくさんあるのです。
私たちにできることを今すぐ知りたい方はこちら
>>犬の殺処分ゼロ実現するために私たちにできることとは
日本における犬の殺処分の現状
環境省によると、2022年度(2022年4月1日~2023年3月31日)に保健所などで引き取られた犬は22,392頭。殺処分数されたのは2,434頭でした。
引き取られた犬の10%以上が殺処分されていることになります。
殺処分数は、10年前の38,477頭と比べると10分の1以下になっており大幅な減少傾向にあります。また、引き取り数および殺処分率も減少しています。
しかし、いまだ1日に平均6頭以上の犬が殺処分されているのが実情です。人間の都合で命を奪われている犬がいるのです。
都道府県別にみると、多い順に
- 徳島県 248頭(殺処分率 32.5%)
- 香川県 238頭(殺処分率 23.7%)
- 長崎県 215頭(殺処分率 39.7%)
- 愛媛県 172頭(殺処分率 48.0%)
- 愛知県 154頭(殺処分率 17.6%)
少ない都道府県は
- 静岡県 0頭(殺処分率 0.0%)
- 福井県 1頭(殺処分率 1.3%)
- 山形県 1頭(殺処分率 1.6%)
- 富山県 2頭(殺処分率 3.8%)
- 神奈川県 3頭(殺処分率 1.2%)
となっています。
中でも、四国の香川、愛媛、徳島3県の合計は658頭と、全国の殺処分数の30%近くを占めています。
これらの県で収容されている犬の多くは野犬です。比較的温暖な気候であり、森や山の多い四国地方は、野犬が生き延びやすい環境となっています。
保健所に収容された犬は譲渡の対象になりますが、攻撃性が高かったり健康上の問題が多い野犬の譲渡は、なかなか難しいのが現状です。
逆に、殺処分数の少ない都道府県は、自治体が地元の民間団体と協力して保護活動や譲渡のマッチングなどに取り組み、成果を上げています。
自治体や民間団体が殺処分ゼロを目指して行っている取り組みについては、以下の項目で解説しています。
>>【自治体】犬の殺処分ゼロを目指して行われている取り組み
>>【動物保護団体】犬の殺処分ゼロ目指して行われている取り組み
出典:環境省 統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」
犬が殺処分されてしまう理由の多くは治癒の見込みがない病気や攻撃性があるケース
動物愛護センターで保護されている犬が殺処分される理由は、以下に分類されています。
- 譲渡することが適切ではない(治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等)
闘犬として訓練された犬、動物衛生上または公衆衛生上問題となる感染症に罹患している犬、飼い主等を再三咬んだ履歴を持つ犬など - 愛玩動物、伴侶動物として家庭で飼養できる動物の殺処分
施設の収容可能数等により飼育困難となった犬、高齢・大型犬・人に馴染まないなどで里親希望者が見つからない犬など - 引取り後の死亡
運搬、飼育管理中に殺処分以外の原因で死亡した犬
(出典:環境省 動物愛護管理行政事務提要の「殺処分数」の分類)
表から、281頭の犬が、保護期間内に里親が見つかれば助かったと考えることができます。また、1,701頭の「治癒の見込みがない病気や攻撃性がある」犬も、野犬以外は飼い主がしっかり責任を持って世話をしていれば、保健所に引き渡されることなく飼い主の下で一生を終えられたと考えられます。
保健所に犬が持ち込まれる理由の多くは「人間の身勝手」
犬の殺処分は動物愛護センターで行われています。ここに送られてくる犬の多くは、保健所に持ち込まれた犬です。
動物愛護センター、保健所どちらも公共の施設で、各地方自治体が運営しています。
保健所には、飼い主が「飼えなくなった」犬や、野犬や迷い犬など飼い主のいない犬が持ち込まれます。
2022年度の引き取り数22,392頭の12%、2,392頭が飼い主からの引き取りです。1年に2,400頭近い飼い犬が保健所に引き渡されているのです。
飼い主が保健所に引き渡す理由としては、飼い主の死亡(家族が引き渡し)、何らかの事情による飼育放棄、近隣からの虐待通報があります。
死後の譲り先のことを考えていなかった・家族と相談していなかった、一度飼うと決めたにも関わらず最期まで責任をもって世話をしない、飼い犬を家族の一員として扱わなかったなど、人間の身勝手な行動の表れです。
残りの88%は野犬や迷い犬など所有者不明の犬です。しかし、ここにも人間の責任感の不足が見られます。
適切な飼育環境で育てていれば、多くの場合、迷い犬は生まれません。また、野犬の多くは迷い犬が産んだ子どもです。迷い犬が去勢避妊手術をしていればこのような犬は生まれないのです。
殺処分の現場:怯えて震える犬も
犬の殺処分は動物愛護センターで行われます。頭物愛護センターは、動物の収容、保護、愛護普及事業も行っています。
殺処分は二酸化炭素ガスによる窒息死または薬による安楽死の方法が取られています。これらは以下の環境省の指針に則って行われています。
殺処分動物の殺処分方法は、化学的又は物理的方法により、できる限り殺処分動物に苦痛を与えない方法を用いて当該動物を意識の喪失状態にし、心機能又は肺機能を非可逆的に停止させる方法によるほか、社会的に容認されている通常の方法によること。
(環境省「動物の殺処分方法に関する指針」)
薬による安楽死処分は、1頭1頭処置をする必要があるので手間がかかります。また、注射を打つために押さえつけると犬が暴れるので、職員の負担も大きいとされています。そのため殺処分数が多い施設では二酸化炭素ガスを使った殺処分を行っています。
二酸化炭素ガスによる殺処分は「ガス室」で行われます。殺処分が決まった犬たちは狭い廊下に出されます。電動のボタン一つで動く金属製の壁に押され、犬たちはガス室へ押し込まれるのです。これから何が起こるのか、ただならぬ雰囲気を察知し、怯え、震える犬もいるといいます。
狭いガス室に閉じ込められた恐怖感で、犬たちは暴れます。部屋に二酸化炭素ガスが注入され、呼吸ができなくなった犬は10分ほどで息絶えます。その後、焼却場で焼かれるのです。
動物愛護センターについて詳しくは以下の記事で解説しています。
>>動物愛護センターとは?活動内容や犬猫の譲渡方法などを紹介
【自治体】犬の殺処分ゼロを目指して行われている取り組み
動物愛護センターを管轄する各自治体も、殺処分がなくならない現状を改善しようと努力しています。
犬の殺処分ゼロを目指し、自治体が行っている取り組み事例を紹介します。
名古屋市:犬猫サポート寄附金を設置
愛知県名古屋市は、2016年度から犬の殺処分ゼロを維持しています。
殺処分ゼロを実現した取り組みの1つに「犬猫サポート寄附金」の設置があります。この寄付金はふるさと納税を通じて行える返礼品なしの寄付です。
「犬猫サポート寄附金」は、動物愛護センターの犬猫の収容頭数を減らし、譲渡頭数を増やすための様々な取り組みに使われています。具体的には、子猫のミルク、犬猫のフード、ペットシーツ、薬品の購入費用、譲渡ボランティアへの支援物資や、のら猫の避妊去勢手術費用等などに充てられています。
2022年度は2,017件、7,780万円の寄付を集めました。
奈良市:殺処分ゼロを4年連続達成中(令和5年時点)
奈良県奈良市は、犬猫殺処分ゼロを2019年から4年連続で達成しています(自然死・安楽死を除く)。
2015年度から本格的に殺処分ゼロ実現のための取り組みを始めました。
市が中心となって様々な取り組みを行っています。主なものは以下の通りです。
- ・預かりボランティア制度
登録した預かりボランティアが保護された人馴れしていない犬猫を預かり、ミルク給餌や排泄、人馴れなどの世話を行う。1日200円の協力謝礼金を市で予算化。また、委託中に発生した犬猫の病院受診費用を35,000円まで市が負担。 - ・犬猫パートナーシップ店制度
認定店は、終生飼育をすることなどを購入者に誓約してもらう(累計1800件の誓約書)。販売する犬や猫にマイクロチップを装着する。 - ・譲渡動物不妊去勢手術補助金
保健所から譲渡した犬猫の不妊去勢手術に対し、上限5,000円まで補助金を交付する
また、ふるさと納税「犬猫殺処分 ZERO プロジェクト」も実施。2020年度から2022年度にかけて総額 4,659万円を集めました。集まった寄付金はボランティアへの支援などに活用されています。
動物愛護センターの殺処分ゼロに向けた取り組みは以下の記事でも解説しています。
>>動物愛護センターの殺処分ゼロに向けた取り組みとは?
【動物保護団体】犬の殺処分ゼロ目指して行われている取り組み
民間の動物保護団体も犬の殺処分ゼロを目指して活動しています。
以下の主な取り組みを解説します。
- ・新たに犬を飼おうとする人たちへの啓発運動
- ・犬を保護する活動
- ・里親と保護犬をつなぐ活動
- ・殺処分の現状を多くの人に知ってもらう啓発活動
新たに犬を飼おうとする人たちへの啓発運動
これから新たに犬を飼うことを検討している人たちに「犬を飼うとはどんなことなのか」「どんな責任を伴うのか」を伝える活動です。
SNSやペット関連のイベントなどで、犬を飼うことの喜びとともにどんな責任を伴うのか、費用は払えるのか、自分の生活環境にあった犬種の選び方などを伝えています。
また、ペットショップで犬を購入するのではなく保護犬を引き取る選択肢があることも伝えています。
犬を保護する活動
殺処分施設に収容された犬を、保護する取り組みです。
保護した犬を譲渡が可能な状態になるまで団体の施設で飼育、健康管理および人に慣れるためのトレーニングを行っています。
里親と保護犬をつなぐ活動
保護した犬を里親に譲渡する取り組みです。
譲渡会を開いたり、オンラインに譲渡のプラットフォームを用意したり、団体自らが運営する保護施設で譲渡をしたり、と形式は様々です。
いずれにしても、保護犬が責任感のある適切な里親に渡るよう、動物保護団体が説明会や研修、面接などを行っています。
殺処分の現状を多くの人に知ってもらう啓発活動
多くの人に殺処分の現状を伝える取り組みです。
殺処分の現状や背景を、YouTubeを始めとしたSNSおよびラジオやTVなどで訴えたり、ペットイベントや学校での講演などで直接伝えたりしています。
犬の殺処分ゼロ実現するために私たちにできることとは
犬の殺処分ゼロを実現するため、私たち個人にもできることがあります。
- ・殺処分の現状を知り発信する
- ・犬を飼う際は責任を持った判断をする
- ・保護犬の里親になる
- ・ボランティア活動に参加する
詳しく解説します。
殺処分の現状を知り発信する
殺処分の現状を知り発信することができます。
この記事で紹介したように、いまだ2,500頭近くの犬が殺処分されていることを、身近な人に対してやSNSで発信すれば、より多くの人が現状を知ることができます。
また、各自治体や民間団体の取り組みが功を奏し、殺処分数が10年間で大幅に減っていることも併せて発信することも大切です。
殺処分ゼロは不可能なことではなく、自分でも何らかの力になれるかもしれない、と考える人が行動に移すきっかけを作れるかもしれません。
犬を飼う際は責任を持った判断をする
殺処分を減らすには、そもそも保健所に引き渡される犬の数を減らせばよいのです。
犬を飼うことを決める前に、本当に犬の一生に添い遂げられるのか、犬を安全で健康な環境で育てられるのかを考え、責任を持った判断をすることが大切です。
犬を飼うことは、楽しい、かわいい、だけではありません。飼う前に以下の点を家族でしっかり話し合う必要があります。
- ・旅行などできなくなることが増えるがいいのか?
- ・毎日の散歩はできるのか?
- ・飼い主として責任をもってしつけられるのか?
- ・安全で健康的な環境で飼育できるのか?
- ・飼育環境整備、予防接種、病院受診などの費用はどのくらいか?払えるのか?
- ・犬種や年齢は生活スタイルに合っているか?
また、自身が犬を飼わなくても身近に犬を飼うことを検討している人がいる場合もあるでしょう。その際、上記の内容を問いかけることも、私たちにできることの1つです。
保護犬の里親になる
環境がゆるせば、保護犬の里親になるという選択肢もあります。
「犬の里親になる」とは保健所に引き取られた犬を、家で引き取り飼うことです。里親になるには、動物愛護センターや保護施設に譲渡可能な犬がいるかを問い合わせたり、民間団体などが開催する譲渡会に参加します。
里親は誰でもなれるわけではありません。里親になるには、譲渡元が決めた条件を満たす必要があります。
内容は譲渡元の団体によって異なりますが、例えば
- ・飼育者の年齢
- ・飼育環境
- ・家族構成
- ・生活リズム
- ・家計状況
などがチェックされます。
また、研修などを受け「保護犬の里親になるとはどういうことか」を理解する必要があります。保護犬には、病気を持っていたり人間に対して不信感を持っている犬もいます。それを理解した上で受け入れを決めるのです。
里親になる決断は簡単にできることではありませんが、直接的に「殺処分ゼロ」の実現に寄与できる方法の1つです。
ボランティア活動に参加する
動物愛護センターや民間の動物愛護団体でボランティア活動をすることもできます。
主に以下のようなボランティア活動があります。
- ・譲渡ボランティア
動物愛護センターで保護している犬を預かり飼養しながら、適正がある新しい飼い主を探す。新しい飼い主が見つかったら適切な手続きを踏んで譲渡。その後もアドバイスなどを行う - ・ミルクボランティア
哺乳が必要な月齢の犬を一時的に預かり、固形フードが食べられるようになるまでの期間の世話を行う - ・災害発生時の犬の保護など
災害発生時の、飼い主とはぐれた犬の保護、輸送、一時預かり、シェルターでの飼育管理などを行う
犬の一生を預かる里親は難しいけど、直接関わりたい、保護された犬の心の支えになりたい、という方にできる取り組みの1つです。
以下の記事では動物愛護のボランティアについて詳しく解説しています。
>>動物愛護のボランティアがしたい!活動内容や参加方法とは
また、こちらの記事ではボランティア活動に参加することで得られるメリットを解説しています。
>>NPOへのボランティア活動で得られる8つのメリット【専門メディアが解説】
支援団体へ寄付をする
今すぐこの場で行動に移せるのは、動物愛護団体などの支援団体への寄付です。
様々な動物愛護団体が寄付を募集しています。ほとんどの団体でホームページで申し込み、クレジットカードでの決済を受け付けています。
お金の寄付の良い点は、日々現場で活動する支援団体が「今最も支援が必要だ」と考える場所に自分の寄付が使われることです。自分の寄付が効果的に使われます。
寄付の中でも毎月継続的に寄付する「継続寄付」がおすすめです。多くの団体が月1000円程度からの寄付を受け付けています。
「殺処分ゼロ」は、すぐに実現できるものではありません。長い時間がかかります。また、犬は生き物です。エサ代や治療費など毎月決まった額が必ず必要になります。
gooddo編集部おすすめの寄付先は、「犬の殺処分ゼロ」の実現を目指し、犬の保護・譲渡活動を行うピースワンコ・ジャパンです(ピースワンコ・ジャパンは特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンが運営しているプロジェクトです)。
ピースワンコ・ジャパンの活動拠点である広島県では、かつて犬の殺処分数が全国で最多でした。しかし、ピースワンコ・ジャパンの活動の成果が実を結び、2,496日間、犬の殺処分機(※)が稼働していません。
※ガス室による殺処分
毎月の継続寄付の会員「ワンだふるサポーター」は63,000人。多くの人の共感を得、支持を受けている団体です。
寄付控除の対象団体に寄付すると、税金控除が受けられます。犬のために寄付をしながらも、自分も恩恵を受けられるのです。
寄付金控除については以下の記事で詳しく解説しています。
>>寄付金控除の仕組みとは?確定申告の方法も紹介
以下の記事ではピースワンコ・ジャパンの口コミ、専門家の解説、寄付プログラムの詳細を紹介しています。より詳しく知りたい方はぜひ、ご一読ください。
>>【怪しい?】ピースワンコ・ジャパンの口コミ評判は?専門家に詳しく聞いてみた
人間の身勝手な行動によって犬の命が奪われている。現状を変えるために行動しよう
この記事では犬の殺処分の現状、殺処分ゼロの実現に向け行われている取り組み、私たちにできることについて解説しました。
内容をまとめます。
- ・犬の殺処分数は10年で10分の1以下になったがまだまだゼロにはほど遠い
- ・殺処分がなくならないのは「人間の身勝手な行動」が原因
- ・自治体や民間団体の努力により、殺処分ゼロを実現した地域もある
犬の殺処分ゼロの実現のために私たち個人にもできることがあります。
支援団体への寄付はそのうちの1つです。お金の寄付であれば今この瞬間に行動に移せます。また、犬を引き取ったり預かったりできる環境にない人でも、殺処分ゼロの実現に向け、手軽に貢献できる手段です。
奪われなくて良いはずの犬の命を守るため、寄付をはじめ自分にできることから始めてみませんか?
以下の記事では寄付をするメリット・デメリットについて解説しています。殺処分ゼロの実現のために寄付をしてみたいけど、初めてなので不安という方はぜひご一読ください。
>>個人が寄付をするメリット・デメリットは?寄付で私たちの生活がどう変わるのかを解説