農業は私たちの食を支える重要な産業です。作物を育てるには肥沃な土地や管理された水などが必要であり、それらの力を借りて栄養豊富な作物が育ちます。
しかし、ただその力を享受するだけでは土地は痩せていくだけでなく、農薬などを使うことで土地を汚染して生態系を壊してしまう可能性や、地球温暖化に繋がってしまうこともあります。
そのため農業を持続的に行うためにも環境保全ができる農業が農林水産省によって推奨されています。
こちらの記事では環境保全型農業直接支払制度や交付金などについて紹介します。
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環境保全の取り組み
2011年以降、農林水産省は環境保全の取り組みの1つとして化学肥料や化学合成農薬を原則5割以上低減する取り組み
と合わせて行う環境保全に効果の高い営農活動を支援しています。
これは地球温暖化や生物多様性保全も含まれ、それらをまとめて「環境保全」と位置づけており、環境保全に配慮した農業を支援すると言う取り組みです。
さらに2015年には「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」に基づき、日本型直接支払の1つとして実施されています。その中の1つに環境保全型農業直接交付金というものがあります。
(出典:農林水産省「環境保全型農業直接支払交付金」)
日本型直接支払制度の概要
日本において農業は重要な産業の1つですが、農業そのものやこれを営む農村は国土保全や水源かん養、自然環境保全、景観形成などの多面的機能も持っています。
その利益は広く国民全体が享受していますが、近年は農村地域の高齢化や農業を営む人口の減少などにより、その多面的機能の発揮に支障が生じている状況にあります。
また地域の共同活動の困難化に伴い、担い手への水路や農道などの地域資源の維持管理の負担が増大し、農業の担い手による規模拡大が阻害されていることも懸念されています。
このため、「農業の有する多⾯的機能の発揮の促進に関する法律」に基づき、農業や農村の多面的機能の発揮のための地域活動や営農の継続などに対して支援を行っています。
多面的機能が今後とも適切に発揮されるようにするとともに、担い手の育成といった後押しをしていく必要があるとして設けられた制度です。
環境保全型農業と環境保全型農業直接支払交付金
先述した農地・水・環境保全向上対策における地域ぐるみで化学肥料や化学合成農薬を5割以上低減する取組に対する支援は2007年から開始されました。
それから4年後の2011年には地球温暖化防止や生物多様性保全への対応が国際的に急務となったことから、農地・水・環境保全向上対策から環境支払いを独立して創設されたのが、「環境保全型農業直接支援対策」です。
この対策の創設により。地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農への支援が開始されました。
ただ先ほども挙がったように、農業の担い手の高齢化や人口減少、共同活動の困難化などの問題により、多面的機能を維持することが難しくなりました。
そこで2015年に農業や農村の有する多面的機能の維持と発揮を図るため、農業の有する多面的機能の促進に関する法律に基づく制度として「環境保全型農業直接支払制度」を実施しています。
(出典:農林水産省「⽇本型直接⽀払制度のうち環境保全型農業直接⽀払交付⾦」,2019)
(出典:農林水産省「環境保全型農業直接支払交付金」,2017)
(出典:農林水産省「環境保全型農業直接⽀払交付⾦について」,2019)
(出典:環境省「調査条件に係る留意点」)
環境保全型農業直接支払交付金とは
環境保全型農業直接支払制度の支援金として、対象となる取組や特認取組で交付されるのが「環境保全型農業直接支払交付金」です。
農業者が農業を継続できる環境を整え、日本国内の農業の再生を図ると共に、農業が本来有する自然循環機能を維持・増進し、地球温暖化防止や生物多様性保全に積極的かつ効果の高い営農活動に対して支援を行うために支払われる支援金になります。
ただし交付金の申請受付事務や交付金の負担が難しい市町村では申請ができない可能性もあるので、予め農地の所在する市町村に申請が可能か確認する必要があります。
対象となる団体
この環境保全型農業直接支払制度の対象者および対象になる取り組みが定められています。
まず対象者は複数の農業者、または複数の農業者および地域住民などの地域の実情に応じた方々によって構成される任意の組織になります。
この組織は基本的に同一市町村の範囲内で組織された農業団体が対象となります。その条件下であれば複数集落や市町村全域で農業者団体を形成することが可能です。
単独で事業を実施する場合も以下の条件を満たしている農業者であれば対象となります。
(自然環境の保全に資する農業の生産方式を導⼊した農業生産活動の取組面積が、耕作する農業集落の耕地面積の概ね1/2以上または全国の農業集落の平均耕地面積の概ね1/2以上となる農業者)
他には農業協同組合を除く複数の農業者で構成される法人も対象です。
またこの「農業者」とは主作物(※)について販売することを目的に生産を行っており、国際水準GAPを実施していることが条件となります。
(※)主作物:化学肥料や化学合成農薬の使用を都道府県が行う慣行レベルから原則5割以上低減する取組または有機農業の取組の対象作物のこと
対象となる取り組みと支援内容
対象となる取組は「全国共通取組」と「地域特認取組」の2種類があります。
全国共通取組
全国共通取組内でも3種類に分かれており、その1つがカバークロップ(緑肥)の作付けです。これは主作物の栽培期間の前後のいずれかにカバークロップ(緑肥)を作付けする取組です。
緑肥とは栽培した植物を土壌と共に耕して入れた天然の肥料です。春に田んぼ一面に咲くレンゲは、緑肥として栽培しているものになります。
このカバークロップの作付け10アールあたり8,000円の交付が受けられます。ただしヒエを使用する場合は10アールあたり7,000円となります。
2つ目は炭素貯留効果の高い堆肥の水質保全に資する施用(堆肥の施用)も対象です。堆肥とは枯れ草や枯れ葉、藻類などの植物、鶏ふんや牛ふんといった家畜のふんを堆積して微生物により完全に分解された肥料のことを指します。
ただし鶏ふんなどを主原料とする堆肥は除外され、C/N比10以上のもので腐熟したものを使用する必要があります。堆肥の使用の場合は10アールにつき4,400円の交付を受けられます。
3つ目は有機農業が対象です。有機農業とは主作物について化学肥料や化学合成農薬を使用しない取組になります。
都道府県の定める「持続性の高い農業生産方式の導入に関する指針」による土づくり技術を導入していることや組み換えDNA技術を利用していないことも要件となります。
こちらは10アールあたり8,000円の交付を受けられますが、ソバなどの雑穀や飼料作物を用いている場合は10アールあたり3,000円となります。
カバークロップの作付けや堆肥の施用を化学肥料または化学合成農薬を5割低減の取組の前後に行う取組や、有機農業により化学肥料や化学合成農薬を使用しない取組を行うことにより対象となります。
このような自然環境の保全に資する農業生産活動の実施に伴う追加的コストを、それぞれの取組の規定に従った交付単価として支援されます。
ただし同一の場においては、1つの取組にのみ支援が行われ、複数取組支援は2018年から廃止されています。
また後述する地域特認取組と複合して行っていた場合は、こちらの全国共通取組が優先されます。
地域特認取組
地域特認取組は、その地域の環境や農業の実態などを踏まえ、多様な取組を支援しています。2019年には43都道府県で156取組が設定されました。
交付単価は対象となった取組や都道府県で変わるため、10アールあたりで3,000円から8,000円の間で交付されています。
例えばリビングマルチと呼ばれる取組は主作物の畝間(うねま)(※1)(※2)に麦類や牧草などを作付けする取組ですが、こちらは10アールあたり5,000円から8,000円の交付単価となっています。
また、冬期湛水(たんすい)(※3)管理と呼ばれる取組は冬期の間の水田に水を張り、2ヶ月以上湛水期間を確保する取組です。
こちらは10アールあたり4,000円から8,000円の交付単価となっています。
(※1)畝:作物を育てる際、土を盛り作る山
(※2)畝間:畝(うね)と畝の合間
(※3)湛水管理:水を張って水稲がカドミウムを吸収・蓄積する含有量を低減させることができる取り組み
環境保全型農業に取り組み、自然や生物に優しい農業を目指そう
環境保全型農業は地球温暖化防止や生態系保全効果はもちろんのこと、農業が持つ多面的機能を継続的に行っていくことができます。
農業を行う環境は保全されなければならず、環境に優しい農業は持続的に作物を作っていくために必要です。
化学肥料や化学合成農薬を使うことは確かに便利ではありますが、過剰な使用は土地だけでなく私たちの人体にも悪影響を与える可能性もあります。
環境にも人体にも優しい農業を工夫して行うことは可能であり、都道府県市町村から支援を受けられるのであれば利用して、負担を減らしながら取り組めます。
農業に従事している人、これから農業を行おうと考えている人は環境保全型農業直接支払制度の利用も考えてみることをおすすめします。
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