特集

NPO初!web3「DAO」組織への移行を表明した「ドットジェイピー」理事長 佐藤大吾さんインタビュー

  • 2022年9月28日
  • 2022年11月22日
  • 特集

「若者と政治を結ぶ」NPO法人ドットジェイピーがDAOへの移行することを発表しました。
これは日本初の試み*となります。

web3やDAOは今後さらに注目され、これからのNPOやソーシャルビジネスにどうDAOを活用できるか気になる方も多いはず。
そこでgooddo編集部がドットジェイピー理事長の佐藤大吾さんにインタビューを実施しました。

・ドットジェイピーが導入するDAOのロードマップ
・そもそもなぜDAOに着目したのか
・web3でNPOやソーシャルビジネスはどう変わっていくのか

NPOのDAO化には課題が見えない部分も多い。今回の取り組みは実験台。
web3とNPOの組み合わせに可能性を感じ、一緒に考えたり、コラボしてくれる仲間を募集します!

これが、佐藤さんが今一番みなさんに伝えたいこと。

「NPOやソーシャルビジネスの運営者として今後DAOを活用していきたい」
「一個人としてDAOを通して主体的に社会貢献に関わりたい
「NPOやソーシャルビジネスがDAO化することで世の中にどのようなインパクトを与えるのか興味がある
「ドットジェイピーのチャレンジの進捗が聞きたい

という方はぜひご覧ください。

*日本初:「ブロックチェーン技術を活用し、非営利組織をDAOへ移行させ、組織活動を促進するためのDAO化プロジェクト」においての日本初。
株式会社ガイアックス調べ。ガイアックス開発部長であり、日本ブロックチェーン協会 理事およびISO/TC307 国内審議委員を務める峯荒夢より、NPO法人自体をDAOへ移行する当該取り組みを理事会で決定した前例は確認していないとのこと。ガイアックスは今回のドットジェイピーの取り組みをサポート

web3、DAOとは何か?

本記事のメインテーマである「DAO」とはweb3を語る上で欠かせない要素の1つです。
インタビューに進む前に、web3とは何か、DAOとは何かを解説します。

web3もDAOも、もう知ってる!という方はインタビューにお進みください。
>>インタビュー本文はこちら

web3とは「分散型インターネット」

(経済産業省資料より)

web3(web3.0とも呼ばれる)は「分散型インターネット」とも言われます。web1.0からweb3.0までの特徴は下記の表の通りです。

名称 年代 概要*
web1.0 1990年代半ば~2000年代前半 インターネット導入初期の段階。従前の手紙や電話といった手段に加えて電子メールがコミュニケーション手段に追加。ただし、一方通行のコミュニケーション。
web2.0 2000年代後半~現在 SNS(Twitter、Facebook等)が生み出され、双方向のコミュニケーションが可能に。他方で巨大なプラットフォーマーに個人データが集中する仕組み。
web3.0 これから ブロックチェーン**による相互認証、データの唯一性・真正性、改ざんに対する堅牢性に支えられて、個人がデータを所有・管理し、中央集権不在で個人同士が自由につながり交流・取引する世界。

web3は、スタートアップ・新規事業がグローバル市場を狙いやすくなる、サプライチェーンが透明化される、プラットフォーマーに集中した利益をクリエイターが得られる、といった新たな世界をもたらします。

一方で、資金洗浄や詐欺への利用も懸念され、税制をはじめとした法整備が必要とされています。

*引用・参考資料:経済産業省資料 経済秩序の激動期における経済産業政策の方向性(令和4年5月19日)

**ブロックチェーン:一つ一つの取引履歴(ブロック)が1本の鎖のようにつながる形で情報を記録する技術。過去の特定のブロックを改ざんするには、それ以降に発生した全ての取引について改ざんが必要であり極めて困難であるため、安全性が高いとされる。(引用元:同上)

DAOとは

DAOとは、ガバナンストークンなどの登場により生まれた、事業を行うための組織運営の新たな方法です。

Decentralized Autonomous Organizationから頭文字を取った略称で、日本語では「分散型自律組織」と呼ばれています。

概要は以下の通りです。

  • ・DAOでは、組織の理念に賛同する者が、意思決定に関与できる機能を有したガバナンストークンを保有(≒出資)し、組織運営に参画。所有と経営が一致することで、事業成功に向けたインセンティブが共有される。
  • ・投票や配当などの意思決定のルールをプログラムで定めて自動化する、取引記録を開示することで保有者構成や財務状況の透明性を高めるなど、従来できなかった組織運営も可能に。

引用:経済産業省資料 経済秩序の激動期における経済産業政策の方向性(令和4年5月19日)

ここからは、先日「日本で初のNPOのDAO化」に挑戦する発表をした、ドットジェイピーの理事長、佐藤大吾さんにgooddo編集部が直接お伺いしたお話を紹介します。

NPO法人ドットジェイピーと理事長 佐藤 大吾(さとう だいご)さんについて

まずは、今回インタビューにお答えいただいた、NPO法人ドットジェイピーの理事長、佐藤大吾さんと、団体について紹介します。

ドットジェイピー理事長 佐藤 大吾さんプロフィール

佐藤 大吾(さとう だいご)
73年大阪生まれ。大阪大学法学部在学中に起業、その後中退。98年、若年投票率の向上を目的にNPO法人ドットジェイピーを設立。議員事務所、大使館、NPO、社会的企業などでのインターンシッププログラムを運営。これまでに4万人の学生が参加、うち約150人以上が議員として活躍。10年、英国発世界最大の寄付サイトの日本事業「JustGiving Japan」を創業(17年LIFULLグループ入りを経て、19年トラストバンクへ事業譲渡)。国内最大の寄付サイトへ成長させるなど、日本における寄付文化創造にも尽力。
(兼職)理事長武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授、一般財団法人非営利組織評価センター理事長ほか。
著書に乙武洋匡氏との共著『初歩的な疑問から答える NPOの教科書』(日経BP)などがある。

NPO法人ドットジェイピーについて

若年投票率の向上を目標に活動するNPO法人。全国35拠点で約700人の大学生スタッフが中心となり、学生を対象としたインターンシッププログラムを提供。これまで約4万人の学生が、議員事務所、大使館やNPOなどでのインターンシッププログラムに参加している。(2022.3.31.現在)
また若年層向け政策コンテストを実施している。

ドットジェイピーが目指すDAO化とは

ーー今回発表された内容を教えてください。

佐藤:スタートアップスタジオの株式会社ガイアックスさんのサポートを受け、ドットジェイピーを「組織内の人間だけでなく一般の外部協力者も巻き込み、一体となったプラットフォーム」への移行を目指すことにしました。

兼ねてから「一つの団体の成長だけでは社会課題は解決されないのでは」と考えていました。
例えばドットジェイピーも「若年投票率の向上」という社会課題に25年取り組んでいますが、若年投票率は全く向上していません。団体としては継続的に成長をし事業規模の拡大しているのに関わらず、です。

一団体がどれだけ成長しようが規模が拡大しようが社会課題を解決できない。
じゃあどうすればいいのか?という問いの答えがDAO化にあると考えています。私が長い間考えていた社会課題解決の理想モデルが、ブロックチェーンの技術が生まれたことで実現できるようになったのです。

まずはドットジェイピー内部のDAO化を進める予定です。そのあとに一般外部にも開放していく計画をしています。

元からドットジェイピーはDAO的だった

ーー今回の取り組みを聞いて、学生が自ら動いて組織を創り上げているドットジェイピーは、既にDAOっぽいのではないか、と考えました。

佐藤:ドットジェイピーに運営事務局はありますが、主体となって前線で活動しているのは学生ボランティアたちです。彼らは自分たちが何をやるべきか分かっているので、事務局は細かい指示を出していません。

また、大事なことは投票で決めています。35都道府県それぞれの支部代表を決める「ドットジェイピー統一地方選挙」と呼ばれる選挙もその1つです。

おっしゃるとおり、ドットジェイピーは最初からDAOっぽかったんです。だから今回のDAO化もやれる、と感じています。

3つのフェーズでDAO化を目指す

ーー元々DAOっぽいとはいえ、急に外部の一般人を巻き込むDAOを作り上げるのはなかなか難しいと思うのですが。

佐藤:はい、なので「段階的移行が必要」だと考えています。下記の3つのフェーズに分け、徐々にDAO化を進めます。

  1. 第1フェーズ:DAO化に向けた試運転期間
    組織内でNFTを発行、運営組織内でweb3に慣れてもらい、DAOのイメージを持ってもらう
  2. 第2フェーズ:組織内部をDAO化
    学生ボランティアスタッフの活動進捗を測る指標をスマートコントラクト化。達成に応じてインセンティブとしてのNFTを自動発行。活動内でNFTを消費できる仕組みを導入。
    また状況を見ながらユーティリティトークンの発行も検討。
  3. 第3フェーズ:外部に開放
    ドットジェイピーという組織の枠を超え、社外の人もDAOに参画できる仕組みを構築

初期フェーズと第2フェーズはドットジェイピーの内部、つまり職員と学生ボランティアスタッフのDAO化で、第3フェーズは外部への公開です。

※各フェーズの詳細はプレスリリースをご参照下さい。

最初にまず既存組織をDAO化

ーープレスリリースで「2022年末までに大学生スタッフ700人にトークン(NFTを含む)を発行」とおっしゃっていましたが。その部分について詳しくお聞かせください。

佐藤:はい、まずは組織内におけるインセンティブの仕組みを設計するところから始めたいと思っています。

ドットジェイピーでは「議員事務所でインターンをすれば投票に行くようになる」という仮説のもと、エビデンスデータを集めながら、若年投票率の向上のためにインターン事業運営に取り組んでいます。

「若年投票率の向上」という目標に対する学生スタッフの貢献を、NFTという形で可視化するところから始めます。最初は売り買いを前提にしない形で始める予定です。
例えばドットジェイピーにはすごくたくさんのKPIがあるので、それをクリアするたびにNFTをもらえるという仕組みを考えています。そして各個人やチームが保有するNFTの量によって予算を自動分配する。

今はイベント開催や、書籍購入、出張交通費などの予算が欲しければプレゼンや予算申請をして、権限を持った人たちから承認されて初めて使うことができます。それを「目標を達成してNFTを獲得する。獲得したNFTの数によって、自動的に予算が認められる」みたいな感じに変えます。これが最初にできることかなと思っています。

既存組織をDAO化する上で難しい点

ーー既にDAO的なドットジェイピーでの導入は比較的スムーズに行きそうなイメージがありますが、懸念点はありますか?

佐藤:仕組みとしては上手くいくと考えていますが、新たなテクノロジー、特にUIの問題はあると思っています。職員や学生が「クリプトアレルギー」を示さなければ移行は難しくない。

ただし、実際にはここが一番難しいところかもしれません。
DAOを目指そうとかweb3とか言っていますが「全員にウォレット持たせる」というのが実はすごく高いハードル。今大流行りしているSTEPN*もなかなか簡単には始められない。
*STEPN:アプリ上でNFTスニーカーを購入し、実際に歩いたり走ったりすることで、報酬として仮想通貨を得られるゲーム

STEPNは、参加条件がウォレットを持っていること、仮想通貨を購入できることなので、ユーザーが全員ウォレットを持った状態。

対して、ドットジェイピーのように既存組織の全員にウォレットを持たせ、DAO化を図るとなると、こういったweb3への移行の困難さが出てきます。クリプトデバイドの問題(暗号通貨の世界で活動する人たちと、そうでない人たちの間の大きな隔たり)が顕在化します。

将来的には社外を巻き込んだDAOへ

ーー将来的には外部へ公開予定とのことですが。

佐藤:はい、2024年3月までに外部へ公開し、オープンなDAO化を目指します。私の考える真のDAOは「外部に開放する」フェーズです。

外部に開放するとはつまり、ドットジェイピーが解決を目指す「若年投票率の向上」という課題に対して、一般の人たちに協力を求めることです。

例えばインターン生を受け入れてくださる議員事務所など既に繋がりのある外部の方々だけでなく、プラットフォーム運営に協力してくださる方々も想定しています。

私たちの目指す課題解決のために力を貸してください、アイディアを出してください、と。そうすると共感する人たちがトークンを持ってDAOに入ってくる。

ここが本当の勝負どころだと思っています。

外部にはNFTだけでなく、FTも活用しようと考えているのですが、どうやったら値上がりするのか?どういうところで使えるのか?持っていたらどんなメリットがあるのかみたいなところは今後の重要な宿題だと思っています。

佐藤さんがDAOに注目したきっかけ

ーー佐藤さんがDAOに注目しようと思った背景についてお聞かせください。

佐藤:当時、具体的な手法がDAO化ではないか?と思っていたわけではないですが、NPOのあり方はこのままではいけないと感じたのは東日本大震災です。

私は震災発生翌日の3月12日に、ピースウィンズ・ジャパンのヘリで現地に向かいました。南北500kmに及ぶ被災状況を見た時、いちNPOがヘリ1機で被災地に乗り込んだところで何もできない、と感じました。目の前に広がる壊滅的な状況を見て、直感的に「絶対無理だ」と。

では、何をすべきかというと、ピースウィンズ・ジャパンが「てこ」となって被災地にいない日本中及び世界中の人たちに呼びかける。NPOの役割は「一緒に手伝ってくれ!」と協力を仰ぐ仲介者であることだと感じました。

冷静に考えると、災害に限らず全ての案件がそうじゃないのか?と思いました。
動物保護、障がい者支援など全部の案件が東日本大震災並みに範囲が広く根が深い。1つの団体がどれだけ頑張っても解決できる訳ないのでは?と。

これが社会課題の解決方法のあり方を変えていかなければいけない、と思ったきっかけです。
2011年の3月12日に感じて以来、この考えを色んなところで盛んに発信しています。

ソーシャルビジネスは外に向かって開くべき

ーー1つの団体で社会問題は解決できない、と。

佐藤:そうです。1つの団体が成長したところで社会課題は解決されません。これが自分の中ではっきりしました。

そこから「全てのNPOは媒介役」なんだ、ということを周囲に伝え始めました。

自分たちの組織が先頭に立つのは間違いない。しかし、自分たち「だけ」で何かをしようという姿勢をあらためないといけないと思います。

極端に言えば、たとえお金が足りていたとしても、ファンドレイズ(資金集め)はするべき、たとえ人手が足りていてもボランティアは募集すべきです。
自分のキャパシティとしてマネジメント、オペレーションできる範囲では足りている、という判断かもしれない。でも、社会課題の解決を目の前にしたときに、一団体に集まるお金も人も、足りているはずがないんです。

NPOだけでなく、すべてのソーシャルビジネスの担い手は外に向かって開いていくべきじゃないかと思います。

ーー自分たちがオペレーションできる範囲で、という形になってしまう原因は何でしょうか?

佐藤:それは当然のことだと思います。

経営者というのは、自分の最終的な大きな夢や目標を遠く北極星のように見つつ、自分のマネジメントできる範囲を見て、1-3年の目標を掲げて事業を進めるものです。
その成長スピードと組織の拡大のバランスを取るのが当たり前。

それを遠くの北極星のことだけを見て、中間マネジメント層の成長も待たずに、一気に協力してくれる人を増やすなんて、絶対そんなことはしないわけです。
組織が崩壊しちゃうから。なのでそれはしごく当たり前。

いわゆる仕切り役の実力に応じて組織の拡大をみないといけない、ということになります。
その「仕切り役」がいなくなるのがDAO。ここがDAOの概念の面白いところだと思っています。

DAOでは仕切り役の役割は、究極的に1つのことにフォーカスされます。やるべきことは、インセンティブマネジメントです。

何をやればトークンがもらえ、評価され、ポジションにつける、という評価のルールを設計することに集中すればいいのです。さらに、仕切り役が変な意志を介在できないようにプログラミング化してスマートコントラクトにしてしまうのです。

それにより、仕切り役がいなくても、誰もが同じルールのもとで社会課題の解決に向けて頑張り始めます。組織の成長のスピードと無関係に神輿の担ぎ手を増やしてもいいという状態になるのです。

今までは、社会課題の解決を担うプラットフォームをNPOなどの団体がやっていた。プラットフォームの運営を社員がやっている限り、社員の人数と実力が課題解決にとっての制約条件になるわけです。

DAOになると仕切り役の大きさは制約条件ではなくなるのです。

ーー組織の成長が、課題解決に向かう速度に対してボトルネックにならなくなる訳ですね。

佐藤:そもそも、概念として「組織ってなに?」となるわけです。最初の第1-2フェーズくらいは組織ががんばってリードしなければいけないですが、第3フェーズになれば組織はトークンを持ったDAOメンバーと混ざっていきます。

ーーある意味、課題を見つけた人は、みんなが参加してメリットが得られるようなデザインに集中すれば、結果的に世の中では課題解決が勝手に進んでいく、ということですね。

佐藤:そうはいいながら、完全にそうはならないと思っています。

web1.0の時代って、コンテンツを作る人の数が重要でしたが、急激に増やしてしまうとマネジメントできなくて大変でしたよね。でもweb2.0を迎えた時、コンテンツはユーザーが作ってくれるようになったので、コンテンツ制作に従事する社員の数は制約条件ではなくなり、ユーザーの数をどんどん増やそう!という方向性に向かいました。

Uniswap(ユニスワップ)をはじめとしたDEX(分散型取引所)は、中央集権的なDeFi(分散型金融)をやっている組織よりずいぶん少ない人数で運営しているそうです。

とはいえ、課題解決がNPOなしで進んでいくようになるわけではなく、少ない社員数でもDAO化によって、無限のインパクトを作り出せるようになると思っています。

NPOが分散型で課題を解決していく仕組みを、私は「イシュー(課題)を真ん中にする」と伝えています

DAOは究極のコレクティブインパクト

ーーなるほど、団体ではなく課題を真ん中に置くのですね。

佐藤:話は少し戻りますが、「一団体では課題解決は無理」というのは、アメリカでも話題になっています。

例えばTeach For Americaという、アメリカ国内の教育機会格差の解決に取り組む大きな団体があります。まだまだスタートアップなのにすごい勢いで伸びていっている。

でも実際のところ、子どもの貧困や教育格差、子どものリーダーシップの問題は、マクロデータ上ではそんなに改善されていないことがわかりました。

団体は大きく成長するのに、マクロデータに影響を及ぼすほどの課題解決には全く至っていない。
これはTeach For Americaに限らず全ての団体に共通して言えることです。

目覚ましい成果を挙げてどんどん成長している日本の団体も同じだと思います。ひとつの団体が成長しても大きな目で見れば、社会課題の解決はまだまだ、という状況です。

そこで注目したいのがコレクティブインパクトです。

*コレクティブインパクト:複雑化し、ひとつの組織では解決が難しくなっている課題解決のために行政や企業、NPOなどの参加者(プレイヤー)がそれぞれの枠を超えて協働することで集合的(コレクティブ)なインパクトを最大化すること

私は、DAOはコレクティブインパクトの究極の形だと考えています。

「社会を良くする」という共通目的に対して、社内・社外、個人・法人、国内・海外問わず集まってきてDAOを形成し、運営側とユーザー側がだんだん解けて行き、完全に一体となって課題に向き合っていくのです。

「自分だけで解決しようとしない」という方向転換

ーー1つの団体では絶対に無理と考えた時に、一団体が社会課題全体の解決のために参加を呼びかけて貢献できる形がDAOということですね。つまり外に開くことが重要だと。

佐藤:NPOが外に開いてないと問題が解決できないと思っていたので、DAOのコンセプトは私の考えにとてもマッチします。

今まではテクノロジーがなかったので「NPOが外に開く」状態を作ることができませんでした。これがテクノロジーとして実現できるようになったので、アイディアを具体的に実現するチャンスが訪れたわけです。

トークンもしくはNFTという非常に分かりやすいものが、みんなの共通のメンバーシップカードになります。みんなが同じものを持つということによって同じコミュニティの絆の証になるんじゃないかと思いました。

さらにその金銭的価値が上がったり下がったりするわけじゃないですか。そうすれば、がんばればがんばるほど、社会課題が解決に向かえば向かうほど、トークン価値と連動して金銭的価値が上がっていく。そうすると長期間、つまり最初から持っている人の方が得をします。

今まで非営利の世界というのは絶対に金銭メリットというのはなかったんですけど、それが手に入るかもしれない。金銭的なメリットになる可能性が初めて出てきたのです。

このような可能性があると、非営利に興味がなかった人たちが社会課題の解決に手を貸してくれる可能性が出てきます。お金儲けに興味がある人も入ってくるかもしれない。

そういう人が入ってきたらどうするんですか?とよく聞かれますが、動機が何であれ社会課題の解決に力を貸してくれる人が増えることは絶対的にいいことです。

この問題をどう扱うかは主催している側の腕の見せどころだと思っています。
たしかに、価値観の違う人が入ってくるとマネジメントの難易度、要求レベルは上がります。でも、まずは神輿の担ぎ手は多ければ多いほうがいいと思うのです。

「歩いて稼ぐゲーム」STEPNが目指すパーパス

ーーちなみに、社会貢献活動にDAOを取り入れている成功例はありますか?

佐藤:先ほども話に出したSTEPNは大流行りしていますね。

STEPNの目的はCO2削減。車に乗るのをやめましょうというコンセプトから「歩く」ことを促しています。それで世界中の人がお散歩をしている。理屈上はみんなCO2削減のために歩いているわけです。

ーー外部に開かれたユーザーからするとミッションを意識しなくなる感じがいいのでしょうか?

佐藤:STEPNはCO2削減DAOのためのファンドレイジングツールです。ゲームの設計がおもしろいからユーザーたちがどんどん入ってきて、お金をどんどん投入しているんです。取引手数料を払うたびにSTEPN側にお金が落ちていくので金額がかなり大きいのです。

ただ、STEPNは自分たちでCO2削減業務はできないから、専門の知識とノウハウを持ったNPOにそのお金を寄付して業務を委託しています。CO2削減に詳しい専門的なチームに対し、月間1000万円の寄付の契約を結んでいるのです。

なので、この図のような形になるんですね。

今までは、この図でいうと左側の「これまで」のNPOが、CO2削減活動も資金集めも両方やらないといけませんでした。

STEPN、つまり右側の「これから」の図の支援者DAO、の登場によってNPOは自分の得意とする活動に専念できるようになるのです。お金の問題はDAOが解決してくれます

「これまで」のNPO、つまり今のNPOは支援現場での活動と資金集め、両方をやらなければいけない大変さがあります。基本的にNPOは、お金集めより現場での活動の方が得意なんです。

web3でNPOなどソーシャルビジネスはどう変わるか

ーー最後に。ドットジェイピーのDAO化が順調に進んだ先に、NPO業界のどんな姿が見えるのでしょうか?どのように変わっていくのでしょうか?

今まで、支援者側の選択肢はボランティアとして関わる、または寄付をするという選択肢しかありませんでしたよね。もしくは自分が団体の職員になって実際に支援現場の中心で働く。

しかし、今後は当然ながら、DAOを作るまたはDAOへの参加によって社会課題の解決に向けて協力するという選択肢が生まれます

また、運営側であるNPOにとっては、課題解決の専門的な部分に注力できるようになります。
先ほども触れたように、通常NPOは「①現場での事業活動(第1の顧客)」と「②ファンドレイジング(支援してくれる顧客)」というふたつの顧客に対し仕事を行っています。

ソーシャルビジネスのDAO化が進めば、いずれファンドレイジングやマーケティングなどについてはDAOが行い、蓄積されたノウハウや専門性が求められる直接の支援活動については、DAOから専門NPOへ委託が行われるという形になるかもしれません。

web3アプリとNPOの連携可能性

ーーつまりNPO団体がコンパクトで質の高いチームになり、DAOの仕組み作りをする。そこに、たくさんの人が集まるようになるというのが未来の姿になってくるのでしょうか?

佐藤:その点については、どこから第一歩を踏み出すかによって違ったパターンが想定できます。

実務、つまり実際に支援活動を行っている側のNPOがDAO作りをスタートするのか。あるいは、web3アプリ、つまりDAOを作っている側が社会課題の解決に乗り出すのか。それによってだいぶアプローチが変わってくると思います。

現実的に考えると、今日お話した内容をNPOの人たちに今すぐ全部理解して自分たちで動いてみましょう!というのは酷な話です。

一方で、web3アプリをやってる会社は「社会課題解決のために」とは言ってるけど、自分たちはそのノウハウがないから実際にどうやって解決していいのか分からないはずなんです。

例えば、子どもの貧困解決のためにアプリやweb3ゲームを作って大成功したとします。でも、集めたお金をどう子どもの貧困に使ったらいいのか分からない。

なので、NPOがDApps会社*と提携して進めていくことになります。きっとそっちのほうが現実的じゃないでしょうか。お互いの足りないところを補いあえます。

*DApps会社:ブロックチェーンを活用して作られた「分散型アプリケーション」を作る会社、web3スタートアップ

DAOとNPO、それぞれが得意分野に専念する

ー最終的に、NPOは課題解決の専門家集団としてやっていくイメージですね。

佐藤:はい、寄付集めやマーケティング、社会認知とかそういうところはDAOに任せていくっていうのがいいのではと思っています。

だからといってNPOにとって楽な環境になるわけではありません。
現実的な進め方は、NPOが自分でDAOを作るアプローチだとお話しましたが、そのDAOが回るようになったら、今度はそのDAOから選ばれる提携先にならなければいけない

自分たちが作ったDAOだからといって永続的に自分たちのNPOが委託先として選ばれるわけではありません。DAOの議決によってドットジェイピー以外に適した委託先があるとなればよその団体にお金が行ってしまいます。

若年投票率の向上を支援するならやっぱりドットジェイピーだよね、と選んでもらう必要がある。だから引き続き情報公開や活動成果の報告をきちんとやっていく必要があります。

ーーなるほど、緊張感がありますね。

佐藤:ただ考え方によっては良い点もあります。
自分たちが作ったDAOからお金がもらえない可能性がある、ということは逆にいえば、よそのNPOが作ったDAOから寄付や委託をしてもらえる可能性もありますよね。

ドットジェイピーがファーストペンギンになる

ーードットジェイピーのDAO化は新しい風になりそうです。

佐藤:実際のところ、うまくいくかどうかは、やってみないことには正直分かりません。たとえば社内にDAOについて分かっている人が少なすぎるというのも課題なので、現在はみんなで必死に勉強しています。
まずは自分がファーストペンギンとなってやってみよう、と思いました。ドットジェイピーはいわば実験台です。

これまで献身的・率先的にやっていたしんどい業務について「NFTをもらえないならやりたくない」という人が出てくるかもしれません。
また、外部に開くと色んな思惑や思想の人が入ってくるわけですから、運営が難しくなるのは間違いありません。すべては試行錯誤だと思っています。

DAOとソーシャルビジネスはほぼイコールだと思っています。
今回の実験は、ソーシャルビジネスを標榜している人たちはDAOを目指した方がよくないですか?という投げかけともいえます。

ただ、分からないことが多いと思うので、ドットジェイピーが実験台になりますよ、成功も失敗も含めて全部みなさんにシェアするから、ソーシャルビジネスに関わる人、NPOの人たちはみんな注目していてくださいといった感じです。

コレクティブインパクトと同様、色んな仲間が多いほうがインパクトを最大化できます。
ぜひ一緒に試行錯誤したい、という方がいればご連絡ください。

>>ドットジェイピーへの問い合わせはコチラ

まとめ:日本初のDAO化。一緒に取り組める人を募集中!

この記事では、NPOのDAO化を目指すドットジェイピー理事長 佐藤大吾さんにお話をお聞きしました。記事の内容をまとめます。

  • ・ドットジェイピーがNPOをDAO化する日本初の取り組みを行う
  • ・真の社会問題解決には組織を外に開くことが重要。その理想形がDAO
  • ・とはいってもまだ実験段階。一緒に試行錯誤する仲間を探している

扱う課題の規模が大きいソーシャル分野こそ、DAOとの相性が良さそうということが分かりました。また、今までソーシャルに興味のなかった人も、モチベーションを持って関われる新しい仕組みです。

ソーシャルビジネスのDAO化に興味がある、相談に乗ってほしいという方は、NPO法人ドットジェイピーの佐藤大吾さんまでお問い合わせください。

この記事を書いた人
gooddoマガジンはソーシャルグッドプラットフォームgooddo(グッドゥ)が運営する社会課題やSDGsに特化した情報メディアです。日本や世界の貧困問題、開発途上国の飢餓問題、寄付や募金の支援できる団体の紹介など分かりやすく発信しています。 なお、掲載されている記事の内容に関する「指摘・問い合わせ」「誤字脱字・表示の誤りの指摘」につきましては、こちらの報告フォームよりご連絡ください。

- gooddoマガジン編集部 の最近の投稿