野良猫への善意のつもりの餌やりが、実は周辺地域の環境や猫自身に悪影響を及ぼしてしまうことがあります。 悪臭や騒音といった生活環境の悪化を招き、住民同士のトラブルに発展するケースも少なくありません。
「かわいそうだから、なんとかしたい」
「猫たちの命を守るために何かできることはないの?」
そんな思いを抱えている方に向けて、本記事では以下の内容を解説します。
- ・野良猫への餌やりが問題とされる理由
- ・猫と地域の両方を守る「地域猫活動」
- ・地域猫活動を支援する自治体の事例
- ・野良猫を保護する動物愛護団体
適切な関わり方を知ることで、地域住民の理解を得ながら野良猫を守ることができます。
まずは正しい情報を知り、できるところから行動を始めてみませんか?
野良猫への「不適切な」餌やりがダメな4つの理由
野良猫に「不適切な」餌やりがダメな理由として、主に以下の4つが挙げられます。
- ・野良猫が過剰に繁殖し不幸な猫が増える
- ・衛生環境を悪化させる
- ・地域住民とのトラブルを招く
- ・野良猫の健康に悪影響を及ぼす
詳しく見ていきましょう。
野良猫が過剰に繁殖し不幸な猫が増える
不適切な餌やりは、野良猫を特定の場所に集中させる原因となるため、猫同士の接触機会が増え、繁殖活動が活発化します。メス猫は年に2~4回も出産し、一度に4匹程度の子猫を産むため、短期間で個体数が急増してしまいます。
こうして過剰に増えた野良猫の多くは、病気や栄養不足に苦しみ、最終的には保健所での殺処分という悲しい運命をたどることもあるのです。
猫の殺処分については、以下の記事をぜひご一読ください。
>>【6割が子猫】猫の殺処分の現状は?処分数の多い都道府県や猫を救うためにできること
周辺地域の衛生環境を悪化させる
野良猫へ安易に餌を与える行為は、周辺地域の衛生状態を悪化させる原因となります。複数の猫が集まると排泄物が増えるため、異臭が発生してしまいます。
また、残った食べ物は腐敗して悪臭を放つようになり、その結果、周囲の生活環境に深刻な影響を与えかねません。
さらに、放置された食べ物はゴキブリやハエなどの害虫、カラスやネズミなどの動物を引き寄せてしまうため、地域全体の衛生が損なわれてしまいます。
地域住民とのトラブルを招く
野良猫への無計画な餌やりは、地域の人々の間で対立を引き起こす恐れがあります。その背景には、次のような生活環境への悪影響が挙げられます。
- ・排泄物による悪臭の発生
- ・夜間の鳴き声による安眠妨害
- ・車に残る傷や足跡の被害
- ・ゴミの散乱による衛生環境の悪化
こうした迷惑が重なることで近隣住民の不満が募り、コミュニティ内の人間関係が悪化してしまうことがあるのです。
野良猫の健康に悪影響を及ぼす
野良猫への適切でない食べ物の与え方は、彼らの体調を著しく損なう恐れがあります。放置された食物は傷みやすく、不衛生な環境では病気の原因にもなりかねません。
また、管理されない餌やりは無計画な出産を招き、母猫の身体に大きな負担をかけることになります。このような状況下では、様々な健康被害が生じるだけでなく、感染症のリスクも高まります。
野良猫への餌やりは法律違反になる?
野良猫への餌やりは法律上明確に禁止されてはいませんが、環境への悪影響が生じた場合、自治体から指導や命令を受ける可能性もあります。
実際に、周囲の生活環境に被害を与えた事例では、民事裁判で高額な賠償金の支払いを命じられたケースもあるようです。
むやみな給餌行為は、地域の生活環境や人間関係の悪化を招くだけでなく、結果的に不幸な外猫の数を増やすことにもつながります。
法的規制がないからといって無責任な行動をとれば、最終的には餌を与えた本人にも不利益が及ぶ可能性があるのです。
地域住民で野良猫を守る「地域猫活動」とは
野良猫によるトラブルを減らしながら、猫の命を守る方法として注目されているのが「地域猫活動」です。 この活動は、単なる餌やりではなく、地域全体で猫と共生するための取り組みです。
ここでは、以下の点について解説します。
- ・地域猫活動の基本の考え方
- ・餌を置きっぱなしにしない工夫をする
- ・猫用トイレを設置する
- ・不妊・去勢手術(TNR活動)を行う
- ・地域住民の理解を得る
地域猫活動について、正しい理解を深めていきましょう。
地域猫活動の基本の考え方
地域猫活動は、飼い主のいない猫を捕獲して不妊・去勢手術を施し、元の場所に戻すという方法で管理する取り組みです。この活動は、猫を排除するのではなく、地域の環境課題として住民が主体的に関わります。
不妊・去勢手術を行うことで猫の繁殖を防ぎ、長期的に数を減らすことが目的です。住民の同意に基づき、餌やりの管理やトイレの世話を継続的に行います。
餌を置きっぱなしにしない工夫をする
地域猫活動で餌を与えるときは、食事は特定の場所と時間に与え、食べ終わったらすぐに回収することが基本です。餌を与えた人がその場を離れ、食べ物を放置することは適切ではありません。
適量のみを提供し、残った餌や容器は必ず持ち帰ります。給餌エリアとその周囲は清掃を行い、衛生的な状態を維持することが求められます。
猫用トイレを設置する
排泄物による環境被害を防ぐために、野良猫専用のトイレを設置することも活動の一つ。プランターなどに土や砂を入れて作り、猫が落ち着いて用を足せる環境を整えます。
設置する際は近隣住民の同意を得て、利用しやすく目立たない静かな場所を選ぶなどの配慮も必要です。毎日清掃することで衛生状態を維持でき、複数箇所に設置することで路上での排泄を防ぐ効果も期待できます。
不妊・去勢手術(TNR活動)を行う
飼い主のいない野良猫に対して繁殖を防ぐための処置を施すことも重要です。不妊・去勢手術を行う活動は「TNR活動」と呼ばれ、出産を抑制し自然と頭数を減らす効果があります。
短期間で増加を抑えられますが、近隣との問題を根本的に解決するには、継続的なケアが必要です。自治体と協力して、「TNR活動」を進めている支援団体もあります。
地域住民の理解を得る
地域猫活動を行う際は、活動内容を掲示板などで伝え、透明性を保つことで、地域住民の理解が得られやすくなります。
町内会との対話を通じて同意を得てから始めることで、円滑に進められます。動物が苦手な方の気持ちにも敬意を払い、定められた約束事に従って実施することが大切です。
近隣の方々の理解を得ながら環境を整えることで、地域住民と地域猫の共生実現につながります。
地域猫活動を支援する自治体の事例
地域猫活動を支援する自治体として、以下の3つの事例を取り上げます。
- ・東京都立川市:地域猫活動推進事業
- ・愛知県豊田市:地域猫活動支援事業
- ・福岡市:地域猫守り隊事業
各事例のポイントをまとめます。
出典:環境省自然環境局「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト:事例紹介」
東京都立川市:地域猫活動推進事業
東京都立川市では、飼い主のいない猫による近隣トラブルの解消と、暮らしやすい地域づくりを目的に「地域猫活動推進事業」を実施しています。市民グループや個人が登録すると、不妊・去勢手術や捕獲器の購入、健康検査にかかる費用の一部が助成されます。
具体的な金額は、以下の通りです。
補助内容 | 金額 |
---|---|
不妊手術 | 上限10,000円 |
去勢手術 | 上限5,000円 |
手術時の経費 | 上限1,500円 |
譲渡時の検査費用 | 上限5,000円 |
これらの活動により、野良猫の数を適切に管理しつつ、地域全体での動物との共生を促進しています。
愛知県豊田市:地域猫活動支援事業
愛知県豊田市では、野良猫による排泄物や鳴き声など、住民の悩みに対応するために「地域猫活動支援事業」を実施しています。住民・地域のサポーター・市が連携し、猫の繁殖抑制を中心とした取り組みを進めています。
具体的には、不妊去勢手術費用の補助や捕獲用具の貸し出し、飼育管理に関するアドバイスの提供に加えて、「相談会」や「セミナー」の開催を通じて、活動の理解促進と参加の輪を広げる工夫もされています。
効果測定も定期的に行われており、地域猫活動のモデルケースとして注目されている自治体の一つです。
福岡市:地域猫守り隊事業
福岡市では「地域猫守り隊事業」を展開しており、地域住民が主体となって飼い主のいない猫の管理を行っています。
猫の繁殖を防ぐ手術費用の補助(オス5,000円、メス9,000円)を行うほか、住民グループによる定期的な見守りや給餌場所の清掃も実施。
野良猫による問題を減らしながら、人と動物が調和して暮らせる街づくりを目指す活動として注目を集めています。
地域猫活動の課題
一方で、地域猫活動には様々な課題があります。
まず、この取り組みが地域奉仕として十分に理解されていないことが問題です。活動には餌の経費だけでなく、繁殖制限の手術や予防接種の料金、保護施設の維持管理にかかる出費も少なくありません。
さらに、野良猫の捕獲や医療処置に必要な人員確保、獣医の支援を得ることなど、長期的な活動継続のための資源調達も容易ではありません。
また、地域の方々からの理解や協力を得ることも大きな課題の一つです。特に、猫が好きではない方や、アレルギーなど健康上の理由で猫に近づけない方もいるため、取り組みの説明や地域内での合意形成が欠かせません。
上記のような地域猫活動の課題を少しずつ解決することで、地域住民に受け入れられる地域猫活動を展開することができるでしょう。
地域猫活動で野良猫を救う団体5選
野良猫の保護や地域との共生をめざす「地域猫活動」には、支援団体の存在が欠かせません。ここでは、野良猫を救うために日々活動している団体を5つ紹介します。
また寄付という形でこうした団体を応援することも、猫たちの命を守る力になります。各団体の活動内容や、NPOの専門家・gooddoマガジン編集部による注目ポイントも参考にしてみてください。

公益財団法人どうぶつ基金:保護・避妊・啓発を通じて殺処分される猫を減らす
公益財団法人どうぶつ基金は、野良猫の繁殖を抑制するための無料不妊手術事業「さくらねこ活動」を中心に活動しています。また、多頭飼育崩壊の救済支援や保護猫の里親マッチング、動物愛護に関する普及啓発活動を通じて、人と動物が共生できる社会を目指しています。
35年以上の長い歴史があり、活動報告書や会計報告書を詳細に公開していることから、信頼性の高い活動実績を持つ団体です。殺処分ゼロを目指し、多様なボランティアが協力して取り組む点が大きな特徴です。
- 無料不妊手術(TNR)という方法で殺処分をなくし、動物が人や自然と自由に幸せに共生することができる世の中をめざしている
- 広報とロビー活動を積極的に行い課題を発信している
- 行政や他団体、獣医師、ボランティアとの連携・協働により活動を広げている
どうぶつ基金の口コミが知りたい方はこちら
>>どうぶつ基金は怪しい?活動実態や口コミ評判を調べてみた
ピースニャンコ(認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン):医療支援をもとに保護猫ボランティアをサポート
ピースニャンコは、保護猫ボランティアを医療面からサポートする活動を行っています。
自然災害や紛争の被災地支援活動を行う、特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンが運営しているプロジェクトです。保護犬を支援するプロジェクトにはピースワンコがあり、既に蓄積されたノウハウがあります。
ピースニャンコでは、動物病院での診療費支援や不妊・去勢手術の費用援助を実施。ピースワンコの譲渡センターを活用した医療支援を通じて、保護猫の健康管理をサポートしています。
保護猫ボランティアの負担軽減を図りながら譲渡促進にも取り組み、1匹でも多くの保護猫が新しい家庭で幸せに暮らせる未来を目指しています。
- 不妊・去勢手術の費用や治療費の支援で、猫の殺処分を減らしている
- 災害時の緊急保護や医療支援にも対応し、猫の命を守る体制づくりに取り組んでいる
- 保護猫ボランティアと連携しながら、現場の声を反映した支援の仕組みを広げている
保護犬を殺処分から救うピースワンコの口コミを知りたい方は、こちらをご一読ください。
>>【怪しい?】ピースワンコ・ジャパンの口コミ評判は?専門家に詳しく聞いてみた
特定非営利活動法人 犬猫みなしご救援隊:行き場のない犬猫専用の「終生飼養ホーム」を運営
一般家庭では飼養が困難な、引き取り手のない犬猫たちを積極的に保護し、命が尽きる時まで責任を持って育てる「終生飼養」や猫の譲渡活動、野良猫の不妊手術などを行っています。
動物と人間が共生できる明るい未来の実現を目指しています。
- 障害や傷病を追っていたり、人になつかない野良犬や野良猫など、引き取り手のない犬・猫たちの受け皿として、犬猫専用の「終生飼養ホーム」を運営している
- 犬や猫だけでなく、ウサギ、鹿、ハクビシンなどの動物の引き取りも行っている
- オリジナルグッズの購入を通して、活動を応援できる。エコバッグ、Tシャツ、書籍、サーモスボトルなど種類豊富
公益財団法人 日本動物愛護協会:人と動物が共に生きられる社会を目指す
幸せな動物を増やすため、犬や猫の譲渡会の開催、災害時の動物救援、動物愛護講座の開催を始めとした啓発活動、日本動物大賞・動物愛護表彰などを通した提言活動を行っています。
1948年に設立され、70年以上も動物愛護の活動を継続している歴史と実績のある団体です。
「今を生きている命は幸せに、不幸な命は生み出さない!」をスローガンとした活動を通し、人と動物が共に生きられる社会を目指しています。
- 動物に関わる相談をメールや電話で受け付け、アドバイスを行っている
- 飼い主のいない猫の不妊去勢手術費用の助成を行い、人間の都合で不幸になってしまう猫を減らしている
- 1948年に設立され、70年以上も動物愛護の活動を継続している歴史と実績のある団体
NPO法人犬と猫のためのライフボート:20,000頭以上の里親探しの実績あり
NPO法人犬と猫のためのライフボートは、保健所からの保護犬・猫の救命と譲渡を20年以上行う団体であり、今までに22,477頭の譲渡実績があります。
保護から医療、譲渡までを総合的にケアし、施設内には動物病院も併設。全国7か所の保健所と連携し、殺処分を防ぐ活動に取り組んでいます。
- 動物病院の併設により健康面のサポートしている
- 長年にわたり里親探しの実績がある
- 幅広い地域で活動している
野良猫への餌やりがダメな理由を知り、適切に関わろう
本記事では、野良猫への餌やりに関する課題と、適切な関わり方について解説しました。以下に内容をまとめます。
- ・野良猫への不適切な餌やりは、繁殖・衛生・近隣トラブル・健康被害を引き起こす
- ・法的な問題に発展するケースもあり、責任を問われる可能性がある
- ・地域猫活動は、猫と人が共存するための現実的な解決策として注目されている
野良猫への無責任な餌やりが繁殖を招き、その結果として多くの猫が殺処分に追い込まれているのが現実です。猫を守るためには、地域との調和や、継続的な管理体制を伴った支援が欠かせません。
こうした課題に向き合い、現場で地道な活動を続けているのが支援団体です。不妊去勢手術や医療支援、地域住民との橋渡しなど、寄付によって支えられている活動も少なくありません。
野良猫たちを救うため、信頼できる団体を通じて、できる形の支援を考えてみてはいかがでしょうか。
▼保護猫活動の寄付におすすめの団体
団体名 | 寄付アドバイザー・gooddoマガジンの注目ポイント |
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どうぶつ基金 | ・無料不妊手術(TNR)で殺処分をなくし、動物が人や自然と自由に幸せに共生することができる世の中をめざしている ・広報とロビー活動を積極的に行い課題を発信している ・行政や他団体、獣医師、ボランティアとの連携・協働により活動を広げている |
ピースニャンコ | 不妊・去勢手術や治療費の支援で、保護猫の命を守り、殺処分を減らしている ・災害時の緊急保護や医療支援にも対応し、猫の命を守る体制づくりに取り組んでいる ・保護猫ボランティアと連携しながら、現場の声を反映した支援の仕組みを広げている |
寄付先の選び方ガイド:河合将生(まさお)さん
NPO組織基盤強化コンサルタント office musubime代表/日本ファンドレイジング協会・認定講師・関西チャプター共同代表・准認定ファンドレイザー
大学卒業後、国際協力分野のNGOにボランティアスタッフとして参加。その後、国際交流・協力分野の中間支援組織へのインターンシップ、職員を経て、office musubime (オフィス ムスビメ)を2011年7月に設立。
寄り添って伴走する第三者として、身近な相談相手や多様な人・団体をつなぐ役割を通し、組織診断・組織基盤強化、ファンドレイジング支援など、各団体の支援に取り組む。
国際協力や子ども/子育て支援、まちづくり分野、コミュニティ財団などの役員、大学の非常勤講師としてNPO論やボランティア論などの担当も。
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