日本の婚姻制度や家族の在り方として導入が議論されている「選択的夫婦別姓制度」について、
「なぜ必要とされているの?」
「いつから始まるの?」
と疑問を持つ方も多いでしょう。そこで本記事では、以下の内容を詳しく解説します。
- ・選択的夫婦別姓制度が求められている理由
- ・選択的夫婦別姓制度が実現していない理由
- ・夫婦別姓のメリット・デメリット
選択的夫婦別姓の導入が必要かどうかを考える際の参考にしてください。
※本記事は、2024年10月時点の情報に基づいて執筆しています。
日本における選択的夫婦別姓制度の現状と動向
日本では夫婦同姓が義務付けられているものの、近年、社会の多様化が進むなかで選択的夫婦別姓制度の導入を望む声が増えています。まずは、日本における選択的夫婦別姓制度の現状と、その法改正を巡る動向について詳しく解説します。
現行法では夫婦同姓が義務化
日本の現行法では、結婚時に夫婦が同じ姓を名乗ることが義務付けられています。
日本における姓制度の変遷をたどると、明治9年には妻の姓を実家の姓として用いる夫婦別姓制度が導入されています。
その後、明治31年の明治民法により夫婦同姓制度が定められました。現在の夫婦同姓制度はこの明治民法によるもので、民法750条では「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と規定されています。
昭和22年の改正民法により、「男女平等の理念に基づき、夫婦は合意により夫又は妻のいずれかの姓を称することができる」ようになりました。
ただし、実際には9割以上の夫婦が男性の姓を選択しており、女性が姓を変えるケースがほとんどです。
選択的夫婦別姓制度を求める声の高まり
近年、夫婦が希望に応じて結婚前の姓を維持できる選択的夫婦別姓制度の導入を望む声が高まっています。
この背景には、個人のアイデンティティや多様な家族観を尊重する意識の広がりがあります。
内閣府による令和3年の世論調査では、「夫婦同姓制度の維持」が27%、「旧姓の通称使用に関する法制度を設ける」が42.2%、「選択的夫婦別姓の導入」が28.9%という結果が得られました。
今後、こうした多様な意見を反映した法制度の整備が期待されています。
日本で選択的夫婦別姓が求められる理由
日本で選択的夫婦別姓が求められる背景には、以下への懸念があります。
- ・改姓による各種手続きの負担
- ・アイデンティティの喪失
なぜ、これらが問題視されているのでしょうか。ここではその理由について解説します。
改姓による各種手続きの負担
姓を変更する際に、多岐にわたる手続きの負担が生じることが理由の一つです。
戸籍変更に加え、運転免許証や健康保険証、銀行口座の名義変更など、法的・公的な証明書の再登録も必要です。
また、職場でも社員証やメールアドレスの更新といった各種手続きが発生し、これらに多くの時間と労力を費やします。
こうした煩雑な手続きの負担を軽減するために、夫婦別姓を認める制度を望む声が年々強まっています。
アイデンティティの喪失
改姓が個人のアイデンティティに影響を与えることも、制度が求められる大きな理由です。
特に長年使用してきた姓を変更することで、職場での人間関係に影響を与えることがあります。姓が変わると、同僚や上司、取引先との認識が一時的にリセットされ、心理的な負担が生じることも少なくありません。
結婚後も旧姓の通称使用を続けるケースは増えていますが、法的には正式に認められておらず、あくまで個人の対応に留まっています。
このような不便さを解消し、アイデンティティを守るためにも、選択的夫婦別姓の法整備が求められています。
日本で選択的夫婦別姓制度の導入が実現しない理由
日本で選択的夫婦別姓制度が実現しない理由には、以下のような背景があります。
- ・根強い「家制度」保持の意見
- ・家族の一体感が弱まることへの不安
ここでは、制度が実現に至らない背景を解説します。
根強い「家制度」保持の意見
選択的夫婦別姓制度が実現しない理由の一つに、日本における「家制度」の考えが根強く残っていることが挙げられます。
家制度とは、家父長制のもとで家族が統括されるという旧制度です。戦後この家制度は廃止されたものの、夫婦同姓によって家制度が存続するという考えが根強く残りました。
このことから制度導入の議論には、家族の伝統的価値観の理解も必要とされています。
家族の一体感が弱まることへの不安
選択的夫婦別姓制度への反対意見として、「家族の一体感が弱まるのではないか」という不安も存在しています。
日本では、同じ姓を名乗ることが家族を象徴すると考える人も少なくありません。夫婦同姓は、その伝統的な家族観を支える重要な要素となっています。
また、夫婦別姓が認められた場合、子どもの姓をどうするかという新たな課題が生じ、これが家族内の対立を引き起こす可能性も指摘されています。
こうした懸念から、選択的夫婦別姓制度の導入には慎重な意見が根強く残り、制度実現への道筋が複雑化しています。
夫婦同姓は日本だけ?海外の法律事情
日本以外の多くの国では、夫婦別姓が法的に認められており、結婚後も夫婦がそれぞれの旧姓を維持することが一般的です。
例えば、ドイツでは1991年の法改正により、夫婦が共通の姓を使用するか旧姓を保持するかを選択できるようになりました。別姓のままの夫婦も一般的な家族の形と受け入れられています。
また、イギリスやアメリカでは、社会的な慣習や州ごとの手続きの違いはあるものの、夫婦が自由に姓を選べる制度が整っています。
一方で、日本は国連から夫婦別姓の導入を勧告されているものの、国民の理解のもとに進められるべきとして具体的な実施には至っていません。海外では、夫婦それぞれの姓をつなげて子どもの姓とする複合姓をとっている国もありますが、日本では国際結婚のみでしか認められていません。
選択的夫婦別姓を導入するメリット
夫婦別姓にした場合、以下のようなメリットがあります。
- ・改姓手続きの負担が軽減される
- ・キャリア形成への影響が抑えられる
- ・結婚・離婚を周囲に知られにくい
ここでは、選択的夫婦別姓を導入するメリットを詳しく解説します。
改姓手続きの負担が軽減される
選択的夫婦別姓を導入することで、改姓に伴う煩雑な手続きを省ける点がメリットの一つです。
マイナンバーカードや運転免許証、パスポート、銀行口座、国家資格の名義変更が不要となり、本人および事務手続き側の負担が大幅に軽減されます。
なお、現状では「旧氏記載請求書」を提出することで住民票やマイナンバーカードに旧姓を併記できます。
とはいえ、基本的に各種書類への記載変更手続きは必要なので、夫婦同姓のままでは負担の軽減にはならないでしょう。
キャリア形成への影響が抑えられる
結婚前の姓を維持しながらキャリアを続けやすくなる点も大きなメリットです。
姓の変更は職場での混乱や取引先との関係に影響が懸念され、旧姓と新姓を併記する手間が増える場合もあります。
職場によっては旧姓を通称として使用できるケースもありますが、人事書類や公式書類には戸籍上の姓が必要とされ、二つの姓を使い分けることで負担や混乱が生じやすくなります。
結婚・離婚を周囲に知られにくい
選択的夫婦別姓の導入により、結婚や離婚の事実が周囲に知られにくくなり、プライバシーが保たれる点もメリットです。
姓が変わることで職場や取引先に結婚や離婚の事実が推測されやすくなり、意図せずプライバシーが漏れてしまうことがあります。
夫婦同姓では改姓に伴う事務手続きや名義変更の際、周囲に家庭の状況が伝わってしまうケースも少なくありません。
夫婦別姓制度を導入することで、こうしたプライバシーの保護がしやすくなるでしょう。
選択的夫婦別姓を導入するデメリット
夫婦別姓にすると、子どもの姓を選ぶときに混乱が生じる可能性があります。内閣府の世論調査においても、「夫婦の名字が異なることについて、子どもに好ましくない影響がある」と考える人が多いようです。
選択的夫婦別姓制度では、結婚時に夫婦のどちらかの姓を子どもの姓として決め、複数の子どもがいる場合には全員が同じ姓を名乗ることとされています。
夫婦別姓を選んだ場合、子どもの姓の選択に悩むことがあり、夫婦や親との姓が異なることで、家族としての一体感が損なわれる懸念も指摘されています。
このように、子どもの姓の問題は選択的夫婦別姓制度を導入するデメリットの一つといえるでしょう。
出典:法務省「夫婦の氏に関する調査結果の整理」
現行法で夫婦別姓にするデメリット
次に、選択的夫婦別姓を導入した場合のデメリットではなく、現行法で別姓を選択した場合のデメリットを解説します。現行法では夫婦別姓での結婚は認められていないことから、別姓を選択すると以下のようなデメリットが生じる可能性があります。
- ・財産の相続権がない
- ・税制面での公的優遇が受けられない
- ・子どもと父親の姓と同じにするには手続きが必要
それぞれ詳しく見ていきましょう。
財産の相続権がない
現行法では、夫婦が別姓を選択する場合は法律婚が成立せず、事実婚扱いとなります。そのため、財産の相続権が認められないというデメリットがあります。
法律婚であれば、配偶者が死亡した際に自宅や財産を相続する権利が保障されますが、事実婚では相続権が認められません。場合によっては、死亡した配偶者の所有物件に住み続けることが難しくなるケースもあります。
相続面でのデメリットを考えると、現状で別姓を選ぶ際には注意が必要です。
税金の公的優遇を受けられない
現状で別姓を選ぶと、税金に関する公的な優遇措置が受けられないのもデメリットです。
法律婚では所得税の配偶者控除や相続税の軽減などの優遇措置が適用されますが、事実婚ではこれらの恩恵を受けられません。そのため、別姓を選択すると経済的な負担が大きくなる可能性があります。
子どもと父親の姓と同じにするには手続きが必要
現状では法律婚の夫婦の間に子が生まれたら、父親の姓を名乗るのが一般的です。一方、事実婚の場合は母親の戸籍に入るため、母親の姓を名乗ることになります。父親の姓を使用するには、父親による認知や養子縁組の手続きが必要です。
子どもの姓の選択の問題は、先述したように、選択的夫婦別姓が導入されても同様に生じる可能性があります。
夫婦別姓に関するよくある質問Q&A
夫婦別姓に関しては、以下のような疑問がよく聞かれます。
ここでは、これらの疑問にお答えします。
旧姓のまま仕事ができる?
結婚後は法的に姓を変更する必要がありますが、職場によっては旧姓を使用できる場合もあります。
特に営業職や公務員など、業務上での一貫性が重要な職種では、取引先や顧客に混乱を与えないために旧姓を使用するケースも多く見られます。
ただし、旧姓使用を希望する際には、組織内で許可が必要な場合もあるため、規定を確認して正式に手続きを進めましょう。
日本ではいつから選択的夫婦別姓制度が始まる?
日本で選択的夫婦別姓制度が導入される時期は、依然として明確な見通しが立っていません。
この制度を導入するためには、民法と戸籍法の改正が必要です。民法750条では婚姻時の同姓義務が規定されており、戸籍法74条1号では婚姻届により夫婦の姓を届け出ることが求められています。選択的夫婦別姓制度を導入するには、これらの法改正が不可欠です。
国民の理解を得るのに加えて、議会承認や法整備が必要となり、制度の導入に至るまでには時間を要するでしょう。
夫婦別姓と事実婚との違いは?
夫婦別姓と事実婚の違いは、法律上の夫婦かどうかにあります。
夫婦別姓制度が導入されると、夫婦別姓の場合でも、婚姻届を提出することで、法律婚としての権利や義務が同姓の夫婦と同様に認められる予定です。一方、事実婚では婚姻届を提出しないため、法的には内縁関係として扱われます。
事実婚の場合は法的な配偶者と認められず、相続権や税制優遇などの法的権利が付与されないという違いが生じます。
例外的夫婦別姓制度とは?
例外的夫婦別姓制度とは、結婚後も夫婦がそれぞれの旧姓を維持することを例外的に認める制度です。この制度は、社会の変化に対応するために、現在の法制度を徐々に修正するための提案として挙げられています。
現行民法の「夫婦同姓」を原則としつつ、但し書きとして夫婦別姓を追加することで、原則と例外を明確にします。例外的夫婦別姓は、選択的夫婦別姓とは異なり同姓を原則とする点が特徴です。
選択的夫婦別姓制度についての理解を深めよう
本記事では、日本の選択的夫婦別姓制度の現状と動向、夫婦別姓にするメリット・デメリットを解説しました。
選択的夫婦別姓制度を理解するうえで押さえておきたいポイントは以下のとおりです。
- ・日本では現在、夫婦同姓が義務付けられているが、選択的夫婦別姓の導入を求める声が高まっている
- ・選択的夫婦別姓制度を導入すると、改姓手続きの負担軽減やキャリア形成がしやすくなるが、子どもの姓の選択の問題がある
- ・選択的夫婦別姓制度の実現には、国民の理解と民法・戸籍法の改正が必要である
これらを踏まえ、個人の権利と伝統的な価値観のバランスを考慮しながら、社会全体で選択的夫婦別姓制度についての議論を深めていく必要があります。