格差が広がる傾向にある今、ベーシックインカムが再注目を集めています。
ベーシックインカムは、「貧困解決や対策につながる」「労働環境が改善される」など、世界や日本国内で抱えている問題解決の糸口になると言われています。
この記事では
・ベーシックインカムのメリットデメリット
・ベーシックインカムが必要だと言われる背景
・導入により解決が期待されている課題
について解説します。
また、よりよい世の中の実現のために、ベーシックインカムの導入前に私たちが取り組めることも紹介します。
「ベーシックインカムとは?」
「ベーシックインカムを導入するとどのようなメリットがあるのだろうか?」
と考えている方は、ぜひご一読ください。
ベーシックインカムとは?簡単に解説
ベーシックインカム とは、年齢、性別、所得水準などに関係なく、すべての国民や市民に一律の金額を恒久的に支給する基本生活保障制度のことです。たとえば「国民全員に毎月〇万円を支給する」といった仕組みがベーシックインカムの具体例として挙げられます。
ベーシックインカムの起源は、16世紀にイギリスの思想家によって提唱されたと言われています。「食料、つまり富をみんなで分かち合う」という考え方がベースになっています。
ベーシックインカムが近年注目され始めたきっかけは、2008年のリーマン・ショックによる金融危機です。
働いていても十分な収入が得られなかったり、不安定な就労環境で人間らしい生活を送るのが困難な人々が増えてきました。ここには、グローバル化による世界的な賃金低下、AIなどのデジタルテクノロジーの進化による失業なども、複合的な要因として加わっています。
さらに2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた景気の悪化や失業率の上昇をきっかけに、ベーシックインカムに関する議論が世界的に活発化しました。
日本では、実業家であり経済学者の竹中平蔵氏がメディアでベーシックインカムを提唱したことで議論が盛り上がりました。
ベーシックインカムのメリットとは。導入したらどうなる?
まず始めに、ベーシックインカムのメリットを解説していきます。
大きく分けて、以下の4点と言われています。
- ・貧困解決や対策につながる
- ・少子化の解消が期待できる
- ・労働環境が改善される
- ・多様な生き方が可能になる
貧困解決や対策につながる
ベーシックインカムが得られることで、多くの国民は最低限の生活を維持できるようになります。
生活は苦しいが、働いているため社会保障を受けられない層も受け取ることができ、プラスで労働による収入を得ることで生活にゆとりのある人々が増えることが期待できます。
少子化の解消が期待できる
ベーシックインカムは個人に支給されるため、子どもにも支給されます。
そのため、金銭面の不安を理由に子どもを持てなかった人にとっても追い風となり、少子化の解消も期待できるでしょう。
労働環境が改善される
ベーシックインカムによって、無職期間でもある程度の収入が保障されることで、貯金が少ない状態で無職になってもすぐに困窮しにくくなります。
そのため、生活が困窮するのを恐れて、低賃金や長時間労働を強いられる、いわゆる「ブラック企業」からの退職を躊躇、我慢して働き続ける人が減ると思われます。そして、生活のための悪条件の労働に縛られる人が減ると、自然とブラック企業が淘汰されていきます。
多様な生き方が可能になる
ベーシックインカムは国民の多様な働き方を後押しします。
毎月一定額の現金が得られれば、フルタイムの仕事に縛られることなく、副業、フリーランス、学業と仕事の両立、夢を追うなどお金の心配をせずチャレンジできます。
家庭環境や健康状態などに何らかの事情を抱えている人は、無理な働き方をする必要がなくなります。
ベーシックインカムのデメリットや懸念点は?
続いて、ベーシックインカムのデメリットをみていきます。
主に、以下の2点があげられます。
- ・財源確保が難しいとされている
- ・労働意欲低下に繋がるという指摘がある
財源確保が難しいとされている
ベーシックインカムの実現には莫大な財源の確保が必要です。
例えば、日本の国民年金の満額である月額約6万5千円(2022年時点)を全国民にベーシックインカムとして支給する場合、年間約100兆円分の財源確保が必要です。この金額は年間の国家予算と同規模となります。
財源確保は、ベーシックインカムを実現するうえで最も大きなハードルとなると考えられます。
労働意欲低下に繋がるという指摘がある
一定の収入が得られることが分かっているため、労働意欲や他者との競争意欲が低下する可能性が考えられます。
「何もせずに生活できるのならわざわざ働かなくていいだろう」
「最低限の収入が得られるなら、努力して人より優位なポジションを守る必要はない」
という感情を芽生えさせるという見方があるため、とされています。
しかし、働いている人は生活が苦しくても生活保護受給できないため、あえて働かない選択をする人もいるのが現状です。ベーシックインカムは働いているかいないかは関係なく受給できるので、生活保護の不正受給者が減ると期待されています。
また、海外ではベーシックインカムが支給されても、労働意欲が下がらないという実験結果も出ています。記事後半で他国でのベーシックインカムの導入・導入検討例を紹介しているので、ご一読ください。
>>参考:他国のベーシックインカム導入・導入検討例
ベーシックインカムが求められている背景は?
ベーシックインカムの考え方は16世紀からあったと言われています。金融危機やコロナによる世界的な不景気、日本では竹中平蔵氏のメディアでの「ベーシックインカム的な政策が必要だ」という発言により、近年改めて注目されています。
ここでは、ベーシックインカムが必要と言われている理由について、以下の背景に注目して紹介します。
- ・広がり続ける格差にセーフティネットが対応できていない
- ・職はあるのに生活が苦しい人たち向けの救済措置がない
- ・コロナ禍や災害など個人で対処できない有事への対応策が必要
背景1:広がり続ける格差にセーフティネットが対応できていない
日本の子どもの貧困率は令和3年時点で11.5%であり、9人に1人が貧困生活を強いられています。
子どもの貧困には親の貧困が大きく関わっており、ひとり親家庭の相対的貧困率は44.5%にまでのぼります。
また、子どもの大学等進学率は、全世帯の進学率73.0%に比べ、生活保護世帯(35.3%)、児童養護施設(27.1%)、ひとり親家庭(58.5%)において低くなっており、教育格差にも繋がっています。
参考:内閣府 「共同参画」2019年2月号
出典:厚生労働省 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況
背景2:職はあるのに生活が苦しい人たち向けの救済措置がない
ブラック企業勤務や非正規社員など、職はあるが十分な収入がない人たちが多くいます。
生活保護などの社会保障は、職がない人たちを助けるものなので、職がある人たち向けには救済措置がないのが現状です。また、社会保障を受けようと不正を行う人たちもいます。
さらに、今職がある人たちも、グローバル化やAIなどのデジタルテクノロジーにより、将来職を奪われたりより待遇が悪くなる可能性もあります。
背景3:コロナ禍や災害など個人で対処できない有事への対応策が必要
コロナ禍では、雇用自体が失われたケースのほか、労働時間や移動が制限されたことによる収入減が大きな問題となりました。
感染症の大流行や大災害で経済が大打撃を受け、個人では対応できなくなった時に国民を守る手段が必要とされています。その手段の一つとして、ベーシックインカムの導入が挙げられます。
ベーシックインカムの日本での導入はいつ?
日本でのベーシックインカムの導入時期はまだ決まっていないのが現状です。
国民年金で受け取れる満額、6万5000円/月を軸に考えると、ベーシックインカムの支給額は月7万円が良いのではないかと言われています。しかしそのためには100兆円規模の予算を立てなければなりません。
100兆円というと、だいたい日本の年間の国家予算です。
一方で、社会保障に使っているお金は、国家予算をはるかに上回る約120兆円にのぼります。
そのため、社会保障の予算をベーシックインカムにまわせばよいのではないかという案もあります。しかし、他の制度の見直しが必要になるなど、議論する事項がまだまだたくさんあります。
ベーシックインカム導入前でも、課題解決に向け私たちが今できることは?
前述のとおり、政府がベーシックインカムを実施する目処は立っていません。しかし格差・生活困窮問題は深刻になるばかりです。
予期せず生活困窮に陥ることは誰にでも起こり得ます。
急に大けがや大病をして働けなくなったり、親の介護が必要になり仕事と両立できなくなったり、などが例として挙げられます。またコロナ禍では、収入が減ったり、解雇され次の就職先がなかなか見つからず、今まで考えもしなかった「自分が炊き出しの列に並ぶ」という経験をした人たちもいます。
生活困窮はいつ誰にでも「自分事」になるのです。
ここでは、私たちに今できることを考えてみようと思います。
私たちが今できることはNPOの活動支援
私たちができることの1つは貧困支援を行っているNPOの活動を支えることです。
主に寄付やボランティアといった方法があります。
民間の貧困支援の活動には以下のようなものがあります。
- ・こども食堂
- ・貧困家庭のこどもの教育支援:奨学金給付や学習支援など
- ・ホームレス支援:炊き出し、就業支援、住居支援など
貧困家庭の子どもの支援に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
>>日本でも増え続ける「子どもの貧困」問題とは?貧困の原因、支援方法は?
貧困支援をしているNPOに寄付をする
貧困支援をしている民間団体に寄付をすることで、格差・生活困窮問題の解決に貢献できます。
寄付には定額寄付と都度寄付があり、「定期寄付」は、クレジットカードや指定の金融機関から毎月同じ任意の金額が引き落とされる寄付のことです。それに対し「単発寄付」は1回限りの寄付のことをいいます。
金額は団体にもよりますが、1,000円から寄付できる団体がほとんどです。
クレジットカードを使えばその場ですぐに寄付できるのがメリットです。
また、長期で支援したい方には継続寄付がおすすめです。貧困支援はすぐに成果がでる簡単なものではないため、長期的な支援を必要としている団体がほとんどです。継続寄付をすることで寄付先の団体から活動報告などを受け取ることができます。変化の進捗が分かり、課題がより自分事になります。
さらに、お金の寄付の場合、寄付金控除が適用される場合もあります。
こちらの記事では、貧困問題に取り組むNPO団体を紹介しているので、寄付を考えている方はぜひご一読ください。
>>貧困問題に取り組むNPO団体を支援したい!おすすめ団体を6つご紹介
また、貧困問題に取り組む団体の中にも、あまり寄付をおすすめできない、いわゆる「寄付してはいけない団体」も存在します。
以下の記事で、寄付先を選ぶ際の注意点を詳しく解説しているので、ぜひ一度目を通してみてください。
>>寄付してはいけない団体は本当にある?寄付先を選ぶときのポイントを3つ紹介!
貧困支援をしているNPOでボランティア活動をする
NPOの活動を支援するもう1つの方法にボランティア活動があります。
ボランティアの種類としては、
・貧困支援に必要な寄付を集める募金活動
・炊き出しやフードバンクの運営補助など、必要な食料を届ける活動
・学習支援活動
などがあります。
ボランティアの種類によっては、人助けをしている実感がわくなど、やりがいを感じて活動を続けることができます。
一方で、タイミングや場所の制約などがあり、思った通りに活動できない場合があるのがデメリットとしてあげられます。
まとめ:ベーシックインカムは格差問題や労働環境を改善。導入前でも私たちができることに取り組もう
この記事では、ベーシックインカムのメリット・デメリット、必要とされる背景などを解説しました。内容をまとめます。
- ・ベーシックインカム とは、すべての国民や市民に一律の金額を恒久的に支給する基本生活保障制度
- ・格差が広がる日本社会において、ベーシックインカムの導入は収入の安定や労働環境の改善などの問題解決に有効な手段の1つ
- ・ベーシックインカムは、財源の確保などの懸念事項があるため、今すぐの導入は難しいのが現状
ベーシックインカムの導入により、日本が抱える課題の解決が期待できそうです。しかし実現にはまだ時間がかかりそうなのが現状です。
突然、生活困窮に陥ることは誰にでも起こり得ます。貧困問題は、自分たちが生きる社会をよりよくするために、社会全体で取り組むべき問題です。
私たち個人が手軽にできることの1つとして支援団体への寄付があります。誰もが安心して暮らせる社会に少しでも近づくために、貧困問題に取り組む支援団体への寄付を検討してみませんか。
参考:他国のベーシックインカム導入・導入検討例
参考として、世界のベーシックインカム導入例を紹介します。
現在、ベーシックインカムを本格的に導入している国はありません。ただ、似たような制度や実験的試みはどんどん増えてきています。
フィンランドでの給付実験
フィンランドでは、社会保険庁によって、失業給付者に、月ひとりあたり月560ユーロを、2年間にわたって給付する実験が行われました。
ベーシックインカム本来の考え方本来の制度である「性別や年齢関係なく全員」ではありません。しかし支給された人に調査をしたところ、労働意欲や雇用の促進に影響はそれほどありませんでした。またストレスが軽減されたことで幸福度が向上したという結果が出ています。
ブラジル・マリカ市
ブラジルのマリカ市では、条件つきで地域通貨がカードやスマートフォンへのチャージという形で支給されています。
これにより、ベーシックインカムが何に使用されているのか、および給付を受けた後の人々の行動の変化をより正確に測定できるようになりました。
資金調達源は、石油収入による収益であるため、実験は長期にわたって実施可能であると言われています。この実験は2013年に始まったばかりであり、結果は出ていません。
スイスでは国民投票を実施
2016年に、一人あたり月2500スイスフラン(日本円で約30万円に相当)のベーシックインカム支給プランが提出されました。
しかし、2016年に発議されたものは国民投票により否決となりましたっています。要因は、説得力のある財源案を提示できなかったことだと言われています。