「小さい時から、自分はみんなとちがうんだって思ってました。だから、誰にも言えなかったんです。」
そう語るのは、中学3年生のミナトさん(仮名)。
自分の好きな髪型や服装ができない。周りと少しちがうからって理由で始まったいじめ。
すべてが息苦しく、死にたいという思いが募る毎日。
高校に進学したある日、ミナトさんにとって大きな出会いが──。
幼い頃から感じていた違和感
小さいころから、自分のことを女の子だと思っていたミナトさん。
保育園のお遊戯会で、男女に衣装が分かれたとき、「なんで自分だけ男の子の服なの?」と泣きじゃくりました。
そのときのミナトさんの気持ちを、両親はうまく理解できていなかったと思います。
誕生日には「おままごとのセットがほしい」とお願いすると
「ミナトは男の子なんだから、男の子らしくしなさい」と叱られました。
「自分は男の子らしくしなきゃ怒られるんだ」
──そう思った幼いミナトさんは、次第に「本当の気持ちは言わないほうがいい」と心を閉ざしていきます。
小学校入学のとき、本当はピンクのランドセルがほしかった。
けれど選んだのは緑色。ピンクを選べばまた怒られるとわかっていたから。

学校では、持ち物の色も列の並び方も男女で分けられました。
「男の子はこっちね」
その言葉を聞くたび、胸の奥がギュッと痛みました。
とくに苦しかったのは、男子トイレ。
ある日、我慢しすぎて授業中に漏らしてしまったことをきっかけに、いじめが始まりました。
「オネエかよ」「男のくせに」──。
髪を引っ張られ、体操着を隠され、トイレに上履きを捨てられる日々。
登校前になるとお腹が痛くなり、朝がくるのが怖くなりました。
勇気を出して先生に相談しても、返ってきたのは冷たい一言でした。
「ミナトくんが男らしくないことも原因なんじゃないか」
その瞬間、味方が誰もいないように感じました。
両親には心配をかけたくなくて、「体操着を学校に忘れた」とか「上履き無くしちゃった」と嘘をついていましたが、ある日の夕食時、父が真剣な表情で聞いてきました。
「ミナト、学校でいじめられているのか?」
思わず頷いたミナトさん。
けれど、返ってきたのは思ってもいなかった言葉でした。
「なんでやり返さないんだ? 男ならもっと強くなれ」
「そうね、柔道でもやってみたら?」
──両親はきっと助けてくれる、そう信じていたのに。
「やっぱり、男らしくない、弱い自分が悪いんだ…」そう自分に言い聞かせました。
その日から、ミナトさんは柔道を習うことになりました。
本当は何度も「やりたくない」と伝えました。
けれど、お父さんは「男なら強くならないとダメだ」と言って、聞き入れてはくれませんでした。

仕方なく通い始めた道場では、先生からも「もっと頑張らないと女の子に負けちゃうぞ」と笑われました。
それでも、稽古が少しゆるかったおかげで、なんとか続けることはできました。
「男らしくなれ」と言われるたびに、心の奥の“自分”が小さく押しつぶされていくようでした。
柔道を始めてからも学校でのいじめは続き、気づけば笑うことを忘れていました。
5年生になるころには、朝になると布団から起き上がれなくなる日が増えていきました。
最初は「ちゃんと学校に行きなさい」と叱っていた両親も、やがて何も言わなくなり、ミナトさんは、そのまま不登校になりました。
この頃からミナトさんは、学校にも家にも自分の居場所はないと感じるようになっていました。
本当の自分を隠しながら生きることの苦しさ
学校に通えなかった間、ミナトさんはひとり考え込む日々を過ごしていました。
「このままじゃ、またいじめられる。やっぱり、自分が“男らしくない”のが悪いんだ」
本当の自分を隠して生きていくしか、生きる道はないのかもしれない──。
そんなふうに思い詰めるようになっていました。
そんな中、中学進学のタイミングで、お父さんの転勤が決まりました。
新しい街、新しい学校。
「知り合いのいないところなら、もう一度学校に通えるかもしれない」
その思いが、ミナトさんにとって小さな希望の光になりました。
「今度こそ、頑張って学校に行こう」
そう決意したミナトさんでしたが、入学準備を進めるうちに知ったのは、制服が学ランであること、そして男子は耳が出るほどの短髪が校則だということ。
その瞬間、胸の中にあった希望が一気に崩れ落ちました。
“もう終わりだ”──そう思ったとき、心の中を覆ったのは、深い絶望でした。
それでも、「もう一度学校に通うには、校則に従うしかない」と自分に言い聞かせました。
そして覚悟を決めて、初めて髪を短く切った日の夜。
鏡の前に立った瞬間、こらえていた涙がこぼれました。
「これが正しい自分なんだ」
そう言い聞かせようとするほど、胸の奥にある“本当の自分”が遠ざかっていく気がしました。

“もういじめられたくない”という一心で、ミナトさんは“男の子らしく”振る舞う努力を始めました。
自分のことを「俺」と呼び、男の子向けの雑誌を読み、人気の女性アイドルの名前を覚え、クラスの男子たちの間で流行っている漫画も読み込んで、周りの話題についていけるようにしました。
その努力の結果、次第に男の子たちとも話が弾むようになり、友達が増えていきました。
“男の子らしく”なるミナトさんの姿を見て、両親も安心しているようでした。
「これでいいんだ…」
そう自分に言い聞かせながら過ごす毎日。
けれど、本当の自分ではない自分にどんなに友達ができても、両親が笑顔を見せてくれても、心の奥では常に「本当の自分じゃない」という葛藤が消えませんでした。
友達の前で、家族の前で笑うたびに、少しずつ自分が削れていくような感覚に悩み続けました。
変わっていく体と心に、消えたいという思いが増す日々
そんなある日、ミナトさんはYouTubeやSNSで「トランスジェンダー」という言葉を知りました。
「自分は、これかもしれない」
胸の奥に、小さな光が灯った気がしました。
けれど、その何倍ものトランスジェンダーへの誹謗中傷の言葉を目にして、希望は一瞬で恐怖に変わりました。
「自分がトランスジェンダーだって知られたら、生きていけない」
そう思うようになりました。
ある日、テーブルの上に置きっぱなしにしていたスマートフォンのロック画面に、「トランスジェンダーの体験談」というYouTubeの通知が表示されました。

たまたま近くを通りかかった母親が画面を目にしてしまい、ミナトさんを呼び止めました。
「ねえミナト、この動画、どういうこと?」
胸が締めつけられるように苦しくなりながらも、言葉が出てきません。
「ミナト、まさかゲイなの?」
沈黙が続く中、ミナトさんは震える声で打ち明けました。
「ゲイじゃない。……ずっと、自分のことを女の子だと思ってる。女の子として生きたい」
一瞬、時間が止まったような静けさのあと、父の怒鳴り声が響きました。
「ふざけるな!そんな“恥ずかしいこと”を言うな!」
「お前は男に生まれたんだ! 男として生きろ!」
母親も顔を覆いながら言いました。
「どうしてそんな子に育っちゃったの……?お願いだから、もう二度とそんなこと言わないで」
それでもミナトさんは、涙をこらえながら「でも、本当の自分で生きたい」と言いました。
すると父は険しい表情で立ち上がり、声を荒らげました。
「そんな“気持ち悪いこと”を言うなら、もう家にいる資格はない!」
母親も、泣きながらこう言いました。
「あなたを、そんなふうに産んだ覚えはない!もう顔を見たくない」
──助けてほしかった相手から、突き放される。
その瞬間、胸の奥に何かが崩れ落ちていく音がしました。
「ごめんなさい」と繰り返すしかできませんでした。
自分が悪い、自分が壊れている。
そんな思いが、頭の中をぐるぐると回っていました。
その夜、家の空気は凍りついたままでした。
母は食事も用意せず、父はひとことも口を開かない。
自分の存在そのものが、この家の中から消えてしまったような気がしました。
「もう、生きていたくない」
気づけば、足は無意識に外へ向かっていました。
街灯の下を歩きながら、涙が止まりませんでした。
「生まれ変わったら、女の子として生きたい」
そうつぶやきながら、気がつくと踏切の前に立っていました。

近づいてくる電車のライトが、涙で滲んで見えました。
ほんの一歩踏み出せば、すべてが終わる。
そう思った瞬間、体が震えました。
「本当は、生きたかった」
その言葉が胸の奥からこぼれ、ミナトさんは線路の外へと駆け出しました。
膝から崩れ落ち、静かに泣き続けました。
“自分を否定する必要はない”と教えてもらった日
その後、両親もどう接していいのかわからなくなったようで、家の中での会話はほとんどなくなってしまいました。
居場所のない家で過ごすより、まだ学校にいる方がマシだと思うことさえありました。
ミナトさんは、周りに合わせて“男らしい自分”を演じながら、毎日をなんとかやり過ごしていました。
中学3年生のある日、学校でLGBTQについて学ぶ出張授業が行われました。
来ていたのは、認定NPO法人ReBit。LGBTQもありのままで未来を選べる社会をつくるために活動している団体です。
授業では、LGBTQの基礎知識や、多様性を尊重する大切さについて学びました。
講師が映し出したスライドには「LGBTQ」と書かれていて、性の多様性について話し始めます。

さらに、講師自身がトランスジェンダーであることを話してくれました。
「私は、性自認と生まれたときに割り当てられた性別が違うトランスジェンダーなんです。小さい頃から誰にも相談できなくて。小中学校のころは、毎晩布団の中で『自分っておかしいのかな…』って泣いてました」
講師はそこから少しずつ自分を受け入れられたきっかけを始めたと話してくれました。
「高校で初めて友達にカミングアウトしたら『あなたはあなたじゃん』と言ってもらえて、その言葉をきいて自分のままでいいんだって思えたんです。」

講師は最後にこう話しました。
「誰かとちがうことで、大人になれないのではと思う人がいるかもしれません。LGBTQの人に限らず、国籍や障がいや、さまざまな背景などによりそう思った経験がある人がいるかもしれません。」
「私自身も、そうでした。そのときに身近な大人に『あなたのままで大人になれる』といってほしかった。だからこそ今度は自分が一人の大人として『あなたのままで大人になれる』と伝えたいんです。」
授業の終わりには、担任の先生もこう話していました。
「先生も学びながら、LGBTQの生徒にとっても自分らしく過ごせる学校をつくっていきたいと思っています。何か気づいたことや困ったことがあったら、相談してください」
一緒に授業を受けていた仲の良い友達たちも「みんな、いろんなちがいがあっていいよね」という肯定的な反応をしてくれていました。
家では自分の気持ちを打ち明けたとき、強く拒絶され、深く傷ついた経験があったミナトさんにとって、その光景はまるで別世界のように感じられました。
「自分を否定する人ばかりじゃないんだ」
「ありのままの自分でも受け入れてくれる人がいるんだ」
そのことを実感できた瞬間、ミナトさんの心の中には、これまで感じたことのない大きな安心が広がりました。
「自分も、ありのままの自分で大人になれるのかな……」
そう思う気持ちは、まだ小さく揺れていましたが、少しだけ未来に希望の光が差し込んだのを、ミナトさんは感じていました。
この授業で、ミナトさんが最も印象に残ったのは、「LGBTQは人口の約10%、つまり10人に1人いる」という話でした。
「10人に1人……この学校でもきっと自分ひとりじゃないんだ」
そう考えると、孤独だった気持ちが少し和らぎました。
「いつか自分らしく生きられるかもしれない」
授業が終わってから、周りから見れば日常に大きな変化はなかったかもしれません。
でも、ミナトさん自身にとっては、心の中の安心感が大きく変わっていました。
トランスジェンダーの大人と出会い、ロールモデルができたことで、「自分のままで大人になれるんだ」と思えるようになったこと。
困ったことがあったら、先生に相談できるんだという安心感が、心のお守りのようにミナトさんの気持ちを軽くしてくれました。

数ヶ月後、進路希望の面談でミナトさんは担任の先生にこう伝えました。
「高校は、地域で唯一の私服校がいいです。正直、学ランはどうしても辛くて……」
すると先生はこう答えてくれました。
「そうだったんだね、教えてくれてありがとう。中学の今でも、できることを一緒に考えよう」
初めて、自分の気持ちを否定されずに受け止めてもらえたことが、とても嬉しかった。
そのとき、ミナトさんは初めて、学校にもこの社会にも自分の居場所があるんだと感じることができたのです。
ReBitの「授業」が、未来を変える小さなきっかけに
ReBitは、「LGBTQもありのままで未来を選べる社会」をめざして活動するNPO法人です。
教育からキャリア、そして暮らしまで切れ目なく支えることで、LGBTQもありのままで未来を選べる社会をつくっています。

学校で行う出張授業では、LGBTQについての基礎知識や、多様性を尊重する大切さを伝えています。
「自分だけが変わっているんじゃないか」と孤独を感じていた子どもや若者たちが、「自分を否定しなくていいんだ」と思えるきっかけを届けています。
孤立を防ぎ、「生きていていい」と思えることを当たり前に
LGBTQの子どもや若者にとって大切なのは、「自分のままで安心できる人や場所」があることです。
また、「安心して相談できる場所がある」と答えた人は、自殺を考えたり自殺未遂をする割合が下がるという調査結果もあります。
孤立を防ぎ、支えてくれる人とつながれることが、命を守る力につながっているのです。
ReBitは、ありのままで安心できる社会を広げるために、以下の活動をしています。
- 学校への出張授業
すべての学校をLGBTQにとっても安全な場所にするため、小中高大などで児童生徒、学生向けの出張授業をしています。これまで累計2,000回の授業を行ってきました。
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先生がLGBTQの子どもたちを支える環境づくり
教職員向けの研修を実施し、LGBTQへの理解を深めるとともに、授業で活用できる教材を開発し、無料で配布しています。これまでの教材の発行部数は、5.4万部になります。
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LGBTQの若者を支える就活支援
学校を卒業した後も、LGBTQの若者たちは様々な困難に直面します。LGBTQもありのままで働けるように、2万人への就労支援や企業への研修を行っています。
こうした取り組みを通じて、孤立しがちな子ども、若者たちが「あなたはひとりじゃない」「自分らしく生きていい」と思って暮らせるよう、社会の仕組みを変え続けています。
30秒で終わる「ReBit」の活動に関するアンケートに答えて、無料でできる支援に参加しよう!

LGBTQの子どもたちが、「自分らしく生きていい」と思える社会を目指して──
学校や家庭、地域社会での無理解や偏見により、孤立を感じているLGBTQの子どもや若者が、今この瞬間も苦しんでいます。
でも、支えてくれる人との出会いや、安心して過ごせる学校、偏見のない職場、そして自分を受け入れてくれる社会があれば──
「自分らしく生きていい」と思える未来は、きっとつくることができる。
認定NPO法人ReBitは、孤立するLGBTQの子どもや若者に対して、教育からキャリア、そして暮らしまで切れ目なく支えることで、ありのままで未来を選べる社会をつくっています。
そして今、そんなReBitの活動を“あなたの30秒”で応援することができます。
それは、ReBitの活動に関する3問のアンケートに答えるだけ。
今なら、30秒で終わる3問のアンケートに答えていただくだけで、10円の支援金をReBitさんに届けることができます。
支援にかかる費用は、サポーター企業であるgooddo(※)が負担するため、あなたには一切費用はかからず個人情報なども必要ありません!
※gooddo株式会社は、株式会社セプテーニ・ホールディングス(東京証券取引所 スタンダード市場)のグループ会社
私も女の子として生まれ、男性として生活するトランスジェンダーです。
周囲に相談できる大人が誰もいなくて、17歳で自殺未遂を経験しています。
当時の自分のように「誰かとちがう自分は生きていけない」と思う子ども、若者たちにあなたのままで大丈夫と、今度は自分が大人として伝えたい。
その思い、20歳でReBitを設立。
以降、16年にわたりLGBTQの啓発支援を行ってきました。
その想いは少しずつ実現していて、実際に
「ReBitと出会って自分のままで大人になれると思った」
「ReBitと出会ってから、自分らしく働けています」
といった声を頂いています。
しかし、ReBitの支援が届いているのは、まだ一部の人たちに限られています。
一人でも多くの、誰にも相談できずに悩んでいるLGBTQの子ども、若者たちに「ひとりじゃないよ」と伝えるために、ぜひあなたの力を貸していただけたら嬉しいです。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
「LGBTQの人たちもありのままで生きられる社会をつくりたい」
「社会全体で多様性を尊重する未来をつくりたい」
「あなたはひとりじゃないよ、と伝えたい」
このように思われた方は、ぜひアンケートに回答して無料支援に参加してみませんか?
あなたのご支援が、LGBTQの子どもや若者たちの未来を変える力となります。
※画像は本文エピソードに出てくる本人とは関係ありません。
※本エピソードは、実際のエピソードをもとに再構成をしております