カホさんの記憶にある風景は、いつも薄暗い部屋と、横たわったままの母親の背中でした。
事の始まりは、カホさんが物心ついた頃の父親の蒸発でした。事業に失敗し、多額の借金を抱えて逃げ出した父。残された母親は、女手一つで娘を育てるため、朝から晩まで仕事を掛け持ちする日々を送りました。
しかし、過酷な労働は母親の心身を蝕んでいきました。カホさんが小学校3年生のある日、母親は職場で倒れ、それ以来、ほぼ寝たきりの生活になってしまったのです。
「今度は、私がお母さんの代わりに頑張らなきゃ」
それからカホさんが、家の家事すべてを担うようになりました。
しかし、小学生の力では限界があります。
食事はコンビニの菓子パンやおにぎり、カップ麺ばかり。掃除まで手が回らず、部屋は次第に足の踏み場もない「ゴミ屋敷」へと変貌していきました。

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学校の給食だけが、カホさんにとって唯一の栄養源。夏休みや冬休みなどの長期休みが終わる頃には、カホさんは目に見えて痩せ細ってしまいます。洋服はいつも同じもの。小さくなった体操着や上履きを無理やり使い続けていました。
そんな様子を担任の先生が心配し、連絡を入れても、母親は一切電話には出ません。
それでも、カホさんは母親を責めることはありませんでした。
「お父さんがいなくなって、お母さんには私しかいない。私が支えてあげなきゃ」
その一心で、母親に寄り添い続けたのです。
「助けて」が言えないまま、引き離されたあの日

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事態が動いたのは、小学校4年生の冬です。
担任の先生は、度重なる家庭訪問にも応答がないことから、スクールカウンセラーや児童相談所にも相談し、連携していました。
ある日、カホさんは先生に放課後職員室へ来るようにと声をかけられました。
職員室に入ると、カホさんを待っていたのは先生と見知らぬ女性がふたり。
そのふたりは児童相談所の職員で、いくつかの質問をカホさんにすると…そのまま、家に帰ることなく「一時保護」となりました。
「お母さんと一緒にいたいです…」
そう懇願するカホさんでしたが、聞き入れられることはありませんでした。カホさんにとっては、どれほど過酷な環境であっても、そこはお母さんとの世界で一番大切な場所だったから…。
児童養護施設に入所してからも、カホさんの心は閉ざされたままでした。
施設の職員さんたちは皆、優しく接してくれます。しかし、カホさんは誰にも相談することができません。
カホさんは常にお母さんのことを優先してきました。自分の気持ちを後回しにしてきたカホさんにとって「大人に頼る」「本音を言う」ことは思う以上に難しいことでした。
そんなカホさんが、唯一心を開きかけた職員がいました。どこかお母さんの面影を感じさせるその女性の、無理に話を聞こうとせず、ただ傍にいてくれる距離感が心地よかったのです。
しかし、別れは突然やってきました。
その職員は、家庭の都合で急に退職。挨拶することもできませんでした。
さらに追い打ちをかけるような出来事が起こります。その職員にだけ、勇気を出して打ち明けたはずの悩みが、他の職員にも共有されていたことを知ったのです。
「結局、誰も信じられない。期待するだけ無駄なんだ。傷つくだけなんだ」
中学生になったカホさんの心は、分厚い氷の壁で覆われていきました。
転機は中学3年生。寄り添い続けたのは大学生ボランティア

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「どうせこの人も、すぐにいなくなるんでしょ」
中学3年生になったカホさんの前に現れたのは、認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンの児童養護施設の子どもたちへの支援を行うプロジェクト「ピースワラベ」の大学生ボランティア、リオさん(仮名)でした。
リオさんは、カホさんのそっけない態度や冷たい返事にも、全く動じませんでした。週に一度、必ず施設にやってきては、カホさんの横にそっと座ります。
ある日、学校で深く傷つく出来事があったカホさんは、リオさんに八つ当たりをしてしまいました。
「…今日は、何も話したくない」
しかし、リオさんは怒ることも、諭すこともしませんでした。
「うん、そういう日もあるよね。話したくなったら話せばいいよ。代わりにゲームでもしよっか?」
ただそう言って、カホさんの悲しみの感情を、そのまま受け止めたのです。
否定せず、ジャッジせず、ただ受け止めてくれる。その繰り返しの時間が、カホさんの頑なな心を少しずつ、本当に少しずつ溶かしていきました。
「夢なんて、わからない」から始まった第一歩

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進路希望調査。
クラスメイトたちが「将来は〇〇になりたい」「この高校に行きたい」とキラキラした瞳で話す中、カホさんは白紙の用紙を前に、ただ呆然としていました。
担任の先生からは「何でもいいから書いてみて」と言われますが、書けるはずがありません。今までお母さんのために…と生きてきたカホさんは、「自分のために何かをしたい」という欲求を持ったことがなかったのです。
「夢とか将来とか言われても、わからない……」
施設の職員にも言えない本音が、リオさんにはポロっとこぼれました。リオさんは微笑んで言いました。
「そうだよね。いきなり夢なんて言われてもわかんないよね。じゃあさ、カホちゃんの『今の気持ち』だけ、一緒に探してみない?」
未来とか夢とか、そんな大きなことじゃなくていい。
ただ”気持ち”に寄り添ってくれた…まるで温かいものが胸に広がっていくようでした。
「ありがとう」が教えてくれた、自分が生きる意味

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リオさんに誘われ、カホさんはピースウィンズが運営する「殺処分ゼロ」を目指す動物保護活動の現場に、ボランティア体験として参加することになりました。
最初は「別に犬が好きってわけじゃないし……」と乗り気ではありませんでした。
そこで出会ったのは、人間の身勝手により殺処分寸前だった犬たち。
健気な姿、必死に生きようとする瞳。カホさんは、自分自身の境遇を犬たちに重ね合わせずにはいられませんでした。
無我夢中で犬たちの世話をし、散歩をさせ、体を洗う。
気づけばあっという間に時間が過ぎていました。帰り際、現場のスタッフから声をかけられました。
「カホちゃん、今日もありがとう。本当に助かったよ」
今までずっと、誰かの足を引っ張っている、誰かに迷惑をかけている存在だと思い込んできた。でも、私でも、誰か何かの役に立てるんだ。
「私、動物に関わる仕事、いいかも……」
ぽつりと呟いたカホさんに、リオさんは力強く答えました。
「やってみたい、そう思うことがまずステキだよ。応援するよ」
いつもリオさんはカホさんの気持ちを一番に大切にしてくれる。
だからこそ、本当の気持ちを話せることができました。
「週に一回、年齢も少し近い…そんな関係だからこそ話せたのかも。」
少し照れくさそうに話すカホさん。
初めて、”自分で選べる未来がある”と知った日。
カホさんは今、その一歩を踏み出そうとしています。
あなたの30秒が、子どもたちの未来を歩む道を照らす

※ピースワラベのスタッフたち
カホさんのような境遇にある子どもは、決して珍しくありません。
それまでの経験から、「本音を言えない」「甘えることができない」と自分を抑えてしまうこともあります。
施設の職員さんは少ない人数で日々たくさんの業務があり、子ども一人ひとりにしっかり寄り添うことができない現状。
信じることのできる大人がそばにいることが、子どもたちにとっては”未来を選ぶ”力を取り戻すために必要です。
ピースワラベでは、児童養護施設にいる子どもたちに、通常の学習支援だけではなく「ボランティア体験」や「留学プログラム」を展開しています。
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回答時間はたったの30秒(全3問)、あなたの費用負担は一切ありません。
個人情報の入力も不要です。
あなたがアンケートに回答するだけで、厳しい環境にいる子どもたちが、リオさんのような大人に出会い、夢を見つけるためのきっかけになります。
「自分なんて」と諦めていた子どもたちが、「こうなりたい」と言える未来を作るために。
ぜひ、あなたの30秒を貸してください。
※本エピソードは複数の事例をもとに再構成しております。
情報提供:認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン