冬休み明け、四年生の教室は「お年玉」の話題で持ちきりでした。
「俺、今年は合計で十万円超えた!」
クラスで一番賑やかな男の子が、自慢げに声を張り上げます。
周りの女の子たちからも「えーっ、いいな!」「私は三万円かな、欲しかったゲーム買うんだ」と、景気のいい数字が次々と飛び出しました。
その輪の少し外側で、絵麻ちゃん(仮名)は、机の下で自分の足元を隠すように引き寄せました。 洗っても落ちない汚れが目立ち、親指の付け根が窮屈になってきている上履き。お父さんに”新しいのが欲しい”と言い出せないまま、一年近く経ちます。

「ねえ、絵麻ちゃんはどうだった?」
突然の問いに、心臓が跳ねました。
お正月、お父さんと小学校二年生の弟・隼人くん(仮名)と一緒に、隣の県に住むおじいちゃんとおばあちゃんの家に行きました。
古い平屋の家で、暖房を節約しているのか、家の中でも白い息が出るほど冷えていました。
「絵麻ちゃん、これだけでごめんね。お父さんを助けてあげてね」
年金暮らしの二人が、しわの刻まれた手で差し出してくれたポチ袋。
そこに入っていたのは、千円札が一枚だけでした。
その千円が、二人の生活のどれだけを削って用意されたものか、十歳の絵麻ちゃんには分かってしまいました。
「……私も、みんなと同じくらいかな。二万円、くらい」
気づけば、嘘が口からこぼれ落ちていました。
「あ、やっぱりそれくらいだよね~」 友達は満足そうに次の話題へ移っていきましたが、絵麻ちゃんの胸の中には、自分への嫌悪感が溢れてきました。
(嘘をついちゃった。おじいちゃんたちの千円を、恥ずかしいって思っちゃった……)
自分だけが違う世界に住んでいるような感覚が絵麻ちゃんを襲いました。
千円札一枚の重みを知っているからこそ、その嘘は絵麻ちゃんの心を深く傷つけ、…もう、消えてしまいたい…そんな思いがこみ上げてきました。
保健の授業と、薄れていく「お母さん」の記憶
午後の保健の授業が、さらに絵麻ちゃんを追い詰めます。
「これから皆さんの体は、大人になる準備を始めます」
先生がモニターに映し出したのは、女の子の体の変化についての図解でした。胸が膨らみ始めること、生理が来ること。
真剣に聞きながらも、周りの女の子たちのコソコソ話が耳に入ります。 「私、もうお母さんと一緒に買い物行ってきたんだよね」 「生理のこと、お母さんに『痛いよー』って脅かされちゃった」
絵麻ちゃんが四歳の時、お母さんは病気で亡くなりました。写真や動画が残っているけれど、絵麻ちゃんの中にあるお母さんの記憶はどんどん薄れていくばかり。
(もし血が止まらなくなったら……。ナプキンって高いのかな。お父さんを困らせちゃうよね)
お父さんは工事現場の契約社員として、土日も返上で働いていますが、年収は日本の平均年収を少し下回ります。贅沢をしなければなんとか三人で暮らしていけるほどですが、大きな借金がありました。
それはお母さんの治療費の時に借りたもの。保険などには入っておらず大きな負担がかかってしまったのです。
さらにお母さんの治療の期間に返済が滞ったお父さん自身の奨学金の返済。
そこから税金や家賃を差し引くと、家族三人の生活費は驚くほどわずかです。
小学四年生にもなると、自分の家が「お金がない」という現実を、絵麻ちゃんは否が応でも思い知らされることが多くなってきていました。
ふたりきりの寂しい食事

放課後、先に帰宅している二年生の弟・隼人くんが待つ家に帰ります。 夕飯は、昨日の残りの味噌汁。
電気代を気にして、エアコンは消し、ダイニングの光だけで過ごす冬の夜。
二人が毛布にくるまりながら飲む味噌汁は、この家で一番の「温かさ」でした。
静まり返った家にふたりきり、漂う冷えた空気が寂しさを増幅させているように感じます。
夜十時を過ぎた頃、ようやく玄関の鍵が開く音がしました。
「ただいま……」 疲れ切ったお父さんの声。
「おかえり。ご飯、温めるね」
「ああ……いい。そのまま食うから」
お父さんは食卓に座ると、しばらく動けないほど疲れ切っていました。
元々口数の少ないお父さんは、自分から学校のことを詳しく聞くことはありません。
家事も育児も「やり方がわからない」まま、ただ必死に今日を繋ぐために泥だらけになって働いているのです。
「学校で……何か困ったことはないか?」 たまにそう聞かれても、絵麻ちゃんはいつも「ううん、別に」と答えてしまいます。 お父さんのひび割れた手のひらを見ると、自分の悩みごとは喉の奥に引っ込んでしまうのです。
私はもう四年生。
ひとりでも頑張らないと…絵麻ちゃんはそんな思いでいました。

一方、お父さんも葛藤していました。
子どもが寝た後、一人で家計簿を睨みます。
もっと稼ぐにはもっと家を空けなければならない。母親がいれば、女の子の悩みも聞いてやれただろう。 どうしても母親と違って、自分には細かいところには気づけないことがあるようだ…。
でも…
「男は弱音を吐いてはいけない」と自分を追い詰めるお父さんは、ポケットのクシャクシャな千円札を見つめます。明日のパンを買うか、ガソリン代にするか。
そんな選択肢が毎日、心を削っていました。
「頼ってもいい」を知った日

そんな日々に、ある変化が訪れました。 学校の先生の紹介で、絵麻ちゃんと隼人くんは認定NPO法人 Learning for All(LFA)が運営する「居場所拠点」に通い始めたのです。
小学生から高校生の絵麻ちゃんたちのような子たちが通っており、無料で夕飯をみんなで一緒に食べたり、大学生ボランティアによる学習支援を受けられるところです。
電気代の節約を気にしなくていい。
温かい栄養バランスの考えられた食事。
みんなで囲む明るい食卓。
通い始めたころは絵麻ちゃんも隼人くんも緊張している様子でしたが、すぐに二人にとって「安心できる居場所」となっていきました。
何より絵麻ちゃんを救ったのは、「ここでは嘘をつかなくていい」という安心感でした。ありのままを話しても受け止めてもらえること。逆に話したくないことは無理に追及してこないこと。
ある日、大学生ボランティアのさくらさんが、絵麻ちゃんの上履きがきつそうなことに気づき、そっと声をかけてくれました。
「絵麻ちゃん、足痛くない? 正しい靴のサイズ、調べてみようよ」
絵麻ちゃんは、ずっと胸に溜めていたことをポツリとこぼしました。
お年玉の嘘のこと、保健の授業が怖かったこと、お父さんに何も言えないこと……。
「嘘をつくのは辛かったよね。でもそれは、お父さんたちを大切に思っているからだよ。これまでよく頑張ったね」
さくらさんは、優しく寄り添ってくれました。LFAでは、お母さんがいない絵麻ちゃんのために、さくらさんたちが生理のことや体の変化について、お姉さんのように優しく、丁寧に教えてくれました。
「困ったらすぐに言ってね!身体も心も人それぞれだから、不安なことは何でも聞いて」
その言葉に絵麻ちゃんは(そっか、頼っていいんだ。頼っても大丈夫なんだ…)そう思うと肩の力がふっと抜けていくのがわかりました。
結ばれた手、再出発

LFAの支援は、お父さんにも及びました。
スタッフがお父さんと面談し、利用できる公的支援のサポートをしたり、子育ての悩みを共有したりすることで、お父さんの顔から少しずつ険しさが消えていきました。
「男性だからとか関係なく、困っていたら頼るのも親の役目だって言われて…自分一人で背負わなくていいのかもと思ったら…少し安心しました」 お父さんはそう漏らしました。
ある夜、お父さんは絵麻ちゃんに言いました。
「絵麻、不安な思いをさせて悪かったな。これからは、困ったことは何でも話してほしい…一緒に考えよう。もちろん、お父さんに言いにくいことはさくらさんに頼ってな」
冬の夜はまだ冷えますが、今の絵麻ちゃんの家には、以前のような刺すような冷たさはありません。 お年玉は、相変わらず千円かもしれません。年収もすぐには増えません。
けれど、頼れる大人たちが周りにいることで、絵麻ちゃんは「嘘」で自分を固める必要がなくなったのです。
「おはよー!」
足にぴったりの、真っ白な新しい上履きを履いて、絵麻ちゃんは学校の下駄箱で元気よく友達に挨拶をします。
その背中には、もう「消えたい」という影はありませんでした。
アンケートで絵麻ちゃんのような子どもたちに安心できる居場所を

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