妹のために強くなるしかなかった小学4年生―「家にいたくない」姉妹を救った、第三の居場所

「ねぇ、お母さん。今日ここに行ってきてもいい?」

小学4年生のりさちゃん(仮名)は、散らかったリビングでお母さんにそう声をかけました。手には「こども食堂」のチラシ。学校で配られたものでした。
開催日は金曜の18時から。毎週末やっているようです。

「子どもは無料なんだって!学校のすぐ近くだから、妹と一緒に2人だけで行けるし!」

お母さんは「…確かに無料は助かるね。行ってきていいんじゃない?」とチラっと時計を見ながら答えました。

あと2時間ほどで、お母さんの彼氏が家にやってきます。

お母さんが幸せなら…秘めた本当の思い

※画像はイメージです

彼氏ができた当初、お母さんは以前より明るくなったように見えました。
お母さんを取られてしまったような寂しさもありましたが、メイクを楽しそうにしている姿に、りさちゃんも嬉しい気持ちになりました。

しかし、その交際が長くなるにつれて、彼の不機嫌な態度が増えていきました。
気に入らないことがあると、とにかく大きな声で怒鳴り散らす…。
最初はお母さんに対してだけでしたが、次第にりさちゃんたちにもその怒号が向けられるようになりました。

「うるさい! 泣くなら出ていけ!」
ある時、ちょうど彼が家に遊びに来ていた時、些細なことで喧嘩して小学1年生の妹が泣いてしまいました。

彼は手元にあったリモコンを投げ、それがりさちゃんの手元に当たってしまいました。

「いたっ…!」
りさちゃんは思わず手を押さえましたが、彼は謝るどころか、ビールを飲みながら不機嫌そうに小さく舌打ちをしました。

お母さんは、りさちゃんに小さく「ごめん、ごめんね…」と謝るだけで彼に対しては何も言いませんでした。
ズキズキと痛む手を隠しながら「大丈夫だから」と精いっぱいの笑顔を作りました。

妹はそれ以来、すっかり彼氏を怖がるようになってしまいました。
「妹は私が守らなきゃ」
りさちゃんは彼がいるときは、妹のそばから離れず手をつないでいることが増えました。

「お母さんと妹の3人だけの生活に戻りたい」
そんな思いが込み上げてきますが、そんなこと言えるわけがありません。

こども食堂からつながったSOS

※画像はイメージです

妹と訪れたこども食堂の中は明るく、温かい空気が流れていました。

「いらっしゃい!ココに座ってね!」
男性スタッフの元気な声にりさちゃんの体がビクリと跳ね上がりました。
お母さんの彼氏の、あの怒号を思い出してしまったのです。

りさちゃんは妹の手を強く握り、男性から一番遠い席で妹を隠すように座りました。

ほとんど何も話すことなく、ふたりは帰っていきましたが、次の週からもほぼ毎週のように通うようになりました。
妹は慣れて話すようになりましたが、りさちゃんは妹のそばを離れず、大人ともほとんど会話をしません。

そんなりさちゃんの様子を心配そうに見守っていたのは、運営者の女性です。
初日から持っていた違和感は強まるばかりでした。
特に男性への怖がり方は、誰が見ても気になるものです。

「りさちゃんには家と学校以外に、安心できる居場所が必要なんじゃないかしら…」
そんな思いが募り、以前よりつながりのあった認定NPO法人Learning for All(以下LFA)へりさちゃんたちを紹介することを決めました。

期待と不安…りさちゃんに紹介されたのは”居場所”

※画像はイメージです

LFAは、小学生から高校生までの子どもたちに家庭でも学校でもない第三の「安心できる居場所」を無償で提供しています。
そこではおいしい手作りの夕食をみんなで食べたり、大学生ボランティアによる学習指導の時間があります。

「このこども食堂は週に1回だけでしょ。ここならもっとご飯が食べられるんだけど…行ってみない?」

運営者の人から案内のチラシを受け取ったりさちゃん。
お母さんにチラシを見せると、
「今度、仕事が早く終わる日に一緒に三人で見学に行ってみようか」と言ってくれました。

久しぶりの「三人でのお出かけ」に、りさちゃんは内心ワクワクしました。

「信頼できる大人がいる」少しずつ変わっていく姿

※画像はイメージです

部屋に入った瞬間、場の雰囲気が思った以上に明るく、りさちゃんは少し戸惑いました。
いろんな年齢の子たちが、リラックスした様子で談笑しています。

(どの子も、楽しそう…私たちがいてもいいのかな…)

スタッフは三人を中に招き入れたあと自己紹介をし、部屋の案内をしました。
りさちゃんは妹の手を握り、緊張している様子です。

「好きなキャラクターいる?」
「学校の行事、どうだった?」

そんなスタッフの声がけにも、りさちゃんはうなずくか、短い単語を答えるだけ。

こども食堂の運営者から事前に話を聞いていたため、対応するスタッフは女性がメインでしたが、もちろん施設内には男性もいます。
男性の笑う大きな声が聞こえたときには、身体がビクっ!!と反応してしまった瞬間もありました。

LFAのスタッフは、りさちゃんの様子を見ても、特別な対応はせず当たり前のような空気を作っていました。

「大丈夫?」と声をかける代わりに「この前、こんなことがあってね」とりさちゃんの気をそらすような会話をするなど、さりげないフォローをします。

りさちゃんにとって、「普通に接してくれる」それがとても嬉しいものでした。

少しずつ変わる日常

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LFAに通い始めたりさちゃんは、最初はなかなか打ち解けることができませんでした。
スタッフはそんなりさちゃんに対して、無理に話を聞いたりみんなとの輪に強制して入れるということはしませんでした。
ただ辛抱強く、りさちゃんに声をかけ誘い続けました。

学校でも物静かなりさちゃん。
周りの子たちが、新しく買ってもらった文具や洋服、休日のお出かけ、家族旅行の話で盛り上がっているのを遠くで眺めていました。

1年生の頃に買ってもらった大きめの体操服も、4年生になった今では小さくなってしまいました。積み重なる汚れも、洗濯では落ちません。
「りさちゃん、新しいの買えないの?かわいそう」という言葉には深く傷つきました。
私はかわいそうなの…?そう思うと、学校には自分の居場所はないように思ってしまいます。

LFAでの生活が数か月を過ぎたころ、りさちゃんは少しずつ笑顔を見せるようになりました。最初は妹と一緒にしか行動しませんでしたが、次第に妹と別々に過ごす時間も増えていきました。

自ら話すことも少なかったりさちゃんでしたが、今では別人のよう。

大学生のボランティアが勉強を教えてくれる時間、りさちゃんは「もっと教えてほしい」と言ったり、食事の時間も自分から話題を出したり…。

ここには学校で感じる「孤独」も、家で感じる「恐怖」もありません。

お母さんへの支援と体操着

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LFAの支援は、りさちゃんたちだけでなく、お母さんへも向けられました。

お迎えの時の立ち話や、定期的な面談。
スタッフは、お母さんの話を否定せず、ただじっくりと耳を傾けました。

会話の中には、ひとりで子育てを背負うプレッシャーと、誰かに頼りたいという切実な孤独が隠れていました。 彼氏に依存してしまっていたのも、経済的な不安や、心の隙間を埋めてくれる存在が誰もいなかったからでした。

スタッフは、そんなお母さんの苦しさに寄り添いながら、LFAで過ごすりさちゃんたちの様子を伝え続けました。
これまで見えていなかった子どもたちの「SOS」に、お母さんが向き合うきっかけとなったのです。

「私が守らなきゃ」取り戻した親としての軸

スタッフは現実的な困りごとへのサポートも行いました。
「書類を書くのが苦手で…」とこぼすお母さんに、就学援助の申請手続きなどを丁寧にアドバイス。

後日、りさちゃんが大事そうに袋を抱えてやってきました。 「これね、新しい体操着。お母さんが買ってくれたんだ」

その笑顔を見て、お母さんの心境にも変化が生まれました。
彼氏とは、まだ別れてはいませんが、お母さんの中で「優先順位」が確実に変わっていました。

「彼が不機嫌でも、あの子たちに当たるのは違うって言ったんです」

彼氏の顔色よりも、子どもたちの笑顔を守りたい。

LFAという「一緒に子どもを見守ってくれる味方」を得たことで、お母さんは母親としての自信と軸を少しずつ取り戻し始めています。

LFAに通い始めたからといって、すべての問題が魔法のように解決するわけではありません。お母さんがまた不安になり、彼氏に依存してしまう日もあるかもしれません。

それでも、りさちゃんが、自分のやりたい勉強や、将来の夢について話してくれるようになったことは、大きな一歩です。

「ここに来れば、大丈夫」

LFAでは何よりも「ひとりひとりに寄り添う」ことを徹底しています。
信頼できる大人たちに囲まれることで、そこは子どもたちにとって、どんな時でも帰ってこられる「安心できる居場所」になっているのです。

アンケートでりさちゃんのような子どもたちに安心できる居場所を

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