まとわりつくような熱気が満ちる7月。
終業式まであと一週間、子どもたちの会話もどこか浮き足立っているように見えます。
今日の給食はみんなが大好きなカレーライス。
3年2組の教室のあちらこちらから喜びの声が聞こえてきます。
私はそんなみんなの様子を微笑ましい気持ちで眺めていました。
ふと、教室の後ろの席に座るひびきさん(仮名)が、まるで何かに追われるように一心不乱にカレーを口へとかき込んでいる姿が目に留まりました。
クラスの中でも小柄なひびきさんですが、給食の時にはお友達と話すことよりも、給食をガツガツと食べる姿が印象的な子です。
このクラスの担任になった4月頃は、細身なのによく食べる子だなと呑気に思っていました。
でも、明らかに他の子とは食べる様子が違うというか…
(…私の思い過ごしかもしれない…)
この1学期の間でずっと抱いていた違和感が、私の中でモヤモヤ渦巻き、胸をつつきます。
(でも、もし、思い過ごしじゃなかったら…)
もうすぐ始まる夏休み。
約40日間は給食がありません。
給食のない日々は、この子はどうなってしまうんだろう…。
そう思った瞬間、彼女の小さな背中が助けを求める悲鳴のように見えてしまったのです。
楽しいはずの夏休み。
もしかしたら、ひびきさんにとっては違うのかもしれない…。
「何が私にできるの?」葛藤と無力さに打ちひしがれる日々
行動しなきゃと思っても、正解が分からない。
そんな数日後のある日の給食で、欠席した子のパンが一つだけ余りました。
昼休み、ほとんどの子が校庭へ駆け出していく中、ひびきさんは教室の席で静かに本を読んでいました。私はそのパンを手に彼女のそばへ歩み寄りました。
「ひびきさん。これ余っちゃったんだけど、よかったら食べない…?」
そう言って差し出すと彼女は驚いたように私を見つめ、小さな声で「…先生ありがとう」と呟きました。そしてそのパンを給食セットの袋の中にしまおうとしました。
「ひびきさん、ごめんね。給食を家に持ち帰ることはできない決まりなの。」
私がそう言うと、ひびきさんは慌てて「ごめんなさい、今食べます」と口にパンを放り込みました。
私は一体何をしているのだろう…。
思いやったつもりで、逆にこの子を傷つけてしまったのではないか…。
自己嫌悪で胸が押しつぶされそうになりながら、ひびきさんが食べている姿を見つめるしかありませんでした。
放課後、職員室で昼の出来事を思い出し頭を抱えていました。
1年生、2年生の時の引継ぎの際には、ひびきさんのご家庭は経済的な余裕がないことが伝えられていました。ただ、健康診断などで引っかかることも、虐待を受けている様子などもなく、学校がこれまでに動くことはできませんでした。
個人面談の時も、当たり障りのない会話しか出来なかった自分が不甲斐ない。
でも…
今、動くしかないのでは?…でも、どうやって?
担任とは言え、他人の私が家庭のことにどこまで入っていいんだろう。
一歩間違えればあの子とご家族を深く傷つけてしまうかもしれない…。
葛藤しては結論が出せずに、ただただ夏休みが近づいてきていました。
担任として、できること、やるべきこと
机のカレンダーが目に焼き付いて離れません。終業式の日の赤い丸。その先にある夏休みの、がらんとした空白。
「夏休みが来るのが、怖い…」思わず漏らした声。
自分の声にハッとしました。
ひびきさんも同じ思いなのかもしれない。ううん、私なんかより…。
その時ふと、週に1回学校に来てくださるスクールカウンセラーの方との会話が脳裏をよぎりました。
「健康診断にひっかかるほどじゃなくても、充分に食べることのできないお子さんっているんですよね。この地域には、栄養たっぷりの食事を、みんなで一緒に食べることのできる居場所があるんです。ここでは子どもたちが安心して過ごせるよう、スタッフや大学生ボランティアのみなさんが寄り添いながら、勉強のサポートなども行っていて…」
その時にもらった資料があるはず…私は急いで引き出しの中を探しました。
認定NPO法人Learning for All …ここならひびきさんの困っていることが良い方向に向かうかもしれない。
そうだ、私がやるべきことは、パンをあげるなんてその場しのぎをすることじゃない。
学校だけで抱えきれないことがあれば、子どもたちのために専門的に取り組む支援に繋ぐことも私の役割に違いない。
私はまずはLearning for All (以下LFA)に連絡を入れ、改めて活動の内容を確認しました。
クラスに心配をしている子がいることも伝えました。
「先生、ご相談いただきありがとうございます。保護者の方にまずはお話いただいて、ぜひこちらの見学に来ていただきたいです。」
頼もしい声色に、私は安堵しました。
もう夏休みは目の前に迫っています。時間がありません。
(お節介だって、余計なお世話だって、言われたっていい。あの子の寂しそうな笑顔を変えたい…!)
決意をした私は、受話器を取り、面談の時間を作っていただくためひびきちゃんの保護者の方へ連絡を入れました。
ひびきちゃんと似た背中と、託した希望
数日後に来校していただいた際、ひびきさんのお母さんが開口一番におっしゃったのは、私への感謝とお気遣いの言葉でした。
「いつも先生にご迷惑をおかけしてしまって…」
私は慌ててお母さんに「お母さん、顔をあげてください!」と言い、普段のひびきさんの様子をお伝えしました。
個人面談でもお伝えしていましたが、学校でのひびきさんは本当に頑張り屋さんなのです。
係や掃除など、自ら進んでやってくれること。
勉強も苦手ながら、授業を一生懸命聞いてくれていること。
「クラスの担任として、ひびきさんの力になりたいと私は思っています。もし、困っていることがあるなら、一緒にどうしていけばいいか考えたいんです。
差し出がましいことをしているとは分かっていますが、もし、良かったら、どんなところかお話を聞きにいくだけでもできないでしょうか…?」
私は、失礼にならないよう、それでも毎日見ているひびきさんのことを思い出しながらお母さんにLFAのことを分かっている範囲で説明しました。
ご家庭の事情については、特にお話されなかったので私には知る由もありません。
お母さんは、じっと私の話を聞き、手渡したLFAのパンフレットを見つめていました。
「色々とひびきのこと、考えてくださってありがとうございます。帰って、もう少し考えてみます。」
帰っていくお母さんの背中が、ひびきさんのあの小さな背中と同じように見えました。祈るように、希望を託すようにその背中を見つめ、頭を下げました。
もう、夏休みまで1週間です。
渡ったバトン、繋がった未来
「先生、教えてくれたLFAに、行くことになったよ」
終業式の日、ひびきさんはこっそり私に声をかけてくれました。
私は嬉しさで飛び上がりそうになりました。
「同じ3年生で違う学校の子がいたりね、大学生のお姉さんたちも優しくてすごく楽しかった」
いつもよりおしゃべりなひびきさんの様子に、LFAがひびきさんにとって楽しく安心できる場所なのだと伝わってきます。
さらに、夏休みに入ってしばらくするとLFAのスタッフの方からも連絡をいただきました。
「ひびきさん、最初は緊張してたんですけど今ではすっかり慣れて。他の子たちと一緒においしそうにご飯を食べて、苦手だった算数にも自分から取り組むようになったんですよ」
無力感に苛まれていた私自身が、LFAという地域で子どもたちをサポートする支援のしくみに救われた瞬間でした。
もう夏休みは怖くない。きっと夏休みを楽しく過ごして笑っている。温かいご飯をちゃんと食べている。
そう思うと、目の前が少しだけ明るくなったような気がしました。
※本エピソードは、複数あるエピソードを再構成して作成しております。
あなたの「あと一歩」が、教師が憂う子どもたちの未来をつなぐ
この物語は特別な話ではありません。
夏休みが始まると、給食がなくなり静かに空腹に耐えている子どもたちがいます。
そして子どもたちの厳しい現実に向き合いながら、自分にできることの限界に葛藤し、無力感を抱えている教師たちがいます。
子どもたちの成長や未来は、家庭や学校だけが背負うものではありません。
見えずらい困難や貧しさがあり、社会や地域で支えることも必要なのではないでしょうか。
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ここまで読んで頂きありがとうございました。
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