「英検なんていらない」そう強がる中学生が、あきらめかけていた進路とは?

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「英検なんて、別に持ってなくても大丈夫だし」

中学2年生のゆうかさん(仮名)は、少し強がるようにそう言いました。

ゆうかさんは、英語が得意です。
発音をまねるのが好きで、知らない単語に出会うたび、辞書で意味を調べる習慣があります。
英語の時間だけは、ゆうかさんが胸を張れる時間でした。

いま、まわりの友だちのあいだでは、英検や漢検の話がよく飛び交っています。

「準2級受かった」「次は何級を受ける?」

そんな会話を横で聞きながら、ゆうかさんは「わたしは英語できるし、検定なんていらない。お金もったいないもん。」と、自分に言い聞かせるようにしていました。

本当の気持ちを、自分の奥へとしまい込みながら。

母を思うがゆえの、強がり

※画像はイメージです

ゆうかさんには、小学校低学年の妹と保育園に通う弟がいます。
弟が生まれたあと、両親は離婚。
母親はシングルマザーとして懸命に働いてくれていますが、家計に余裕はありません。

「少しでも家族の役に立ちたい」
そんな思いから、お母さんの帰りが遅い日には、ゆうかさんが、いちばん下の弟の世話をしています。
洗濯や食器洗いに加えて、弟にごはんを食べさせ、お風呂に入れ、寝かしつける。
家事を終えるころには、もうくたくたです。

そんなゆうかさんには、行きたい公立高校があります。
英語の授業や取り組みに力を入れている学校で、<得意な英語をもっと伸ばせる>そう思うと、心が躍りました。

でも、その高校の推薦を受けるには、「英検準2級を持っていること」が条件になっていました。
英検には、検定料がかかります。
ゆうかさんに必要な準2級は、8,400円。

ゆうかさんの家庭にとっては、決して小さな出費ではありません。

相談すれば出してくれるかもしれない。
けれど、お母さんが何年も同じ服を着ていて、美容院にも1年に一度も行かず、ごはんも子どもを優先して、いつも自分のことを後回しにしていることに、ゆうかさんは気づいていました。

「本当に自分が行きたい学校に行ってね。できることはお母さんフォローするから」
お母さんはそう言ってくれます。

でも、これ以上お母さんに負担をかけたくない。
離婚してから、ずっとがんばりつづけているお母さんをみてきたゆうかさんは、「英検を受けたい」と思うこと自体が、ワガママなのだと思い込んでいました。

だから、ゆうかさんは推薦をあきらめ、一般入試で勝負するしかないと考えていました。

けれど、学力検査で問われるのは、国語、数学、英語、理科、社会の5教科。とくに苦手な数学が、大きな壁になっていました。 今の点数では、あの高校は遠い。「国際科は無理でも、せめて普通科なら……」と、志望を下げることも考えはじめていたのです。

本当は、得意な英語と面接で勝負できる推薦のほうが、一般入試より合格へのチャンスがあったはず。でも、その入り口に立つための英検が、ゆうかさんには受けられませんでした。

ゆうかさんの心の声に耳を傾けてくれる場所

※画像はイメージです

そんなゆうかさんが、放課後に通っている場所があります。
認定NPO法人カタリバが運営する、子どもたちの居場所です。

ここは、ゆうかさんのように経済的に余裕のないご家庭など、厳しい環境にいる子どもたちが安心して過ごせる「第三の居場所」。
他愛もない会話をしたり、みんなで食卓を囲んだり、学習のサポートを受けたりできる場です。

居場所の学習支援では、ゆうかさんは苦手な数学を中心に、こつこつと取り組んでいました。誰かに頼るのではなく、自分の手で道をひらこうと、もがいていたのです。

家でも学校でも、弟妹や母を一番に気遣ってがんばっているゆうかさん。
でもこの居場所では、ふっと肩の力を抜くことができます。

ある日の学習支援の時間、ノートに向かっていたゆうかさんの手が、いつのまにか止まっていました。
こくり、こくり――前の晩、弟がなかなか寝つけなかったのです。
スタッフは、起こさずにそっとしておきました。

起きて「あ!ご、ごめんなさい!昨日ついテレビ見て夜更かししちゃってて…」そう言うと慌ててまたノートに向かいました。本当は弟のお世話で寝不足でしたが、そのことは口にしません。

いつも「家のことが大変」とは口に出さないゆうかさんですが、スタッフはそのがんばりを分かっています。ゆうかさんの発言をそのまま受け止め、見守っています。

さりげない一言から

※画像はイメージです

ある日の何気ない会話のなかで、ゆうかさんがこう言いました。
「最近さ、友だちみんな英検とか漢検、受けたりしてるんだよねー」

特別な相談でもなく、グチでもない、ただの世間話のように。
けれどスタッフは、その一言の奥にあるものを感じ取りました。
――きっと、受けたいんだ。でも、言えないんだろうな。

ゆうかさんは、いつも「やりたい」「あれが欲しい」とはあまり言いません。
家のことを思えば、欲を口にできないことを、スタッフは知っていました。
「英検なんていらない」という強がりの奥に、本当は挑戦してみたい気持ちがあることも。

だから、さりげなく伝えました。
「ゆうかさん、カタリバで英検の受験料を負担できるんだけど…受けてみない?」

その瞬間でした。
いつもは穏やかなゆうかさんの表情が、パッと輝いたのです。
「……いいの? わたし、受けたい」
飛びつくように、そう言いました。

それは、ただ英検を受けられるということ以上の意味を持っていました。
英検準2級は、ゆうかさんが行きたい高校の推薦を受けるための、条件。
あきらめかけていた進路への扉が、もう一度ひらいた瞬間でした。

カタリバでは受験料だけでなく、そのための教材費用も負担してくれ、さらには合格のための勉強サポートもしっかり行ってくれるというのです。
「お金のことは気にしなくていい」その一言が、ゆうかさんの背中をそっと押しました。

「やればできる」を、自分の手で

※実際のカタリバの居場所(提供:認定NPO法人カタリバ)

英検や漢検といった資格は、どの高校を受けるかによって、持つ意味が変わります。
ゆうかさんのように、志望校の推薦で「英検準2級以上」が条件として求められるケースもあります。

英語科や国際科を置く高校では、こうした資格を出願の条件とすることが少なくありません。(条件となる級や扱いは、学校・地域によって異なります)
資格は、入試で有利に働くだけではありません。
「合格できた」という経験そのものが、「やればできる」という確かな自信になります。

けれど、検定の受験には費用がかかります。
家計が苦しいご家庭にとっては、その一回の受験料さえ、簡単に「受けてみよう」とは言い出せないものです。
カタリバの居場所では、こうした英検・漢検などの受験料のサポートも行っています。

スタッフは、ゆうかさんの「我慢すればいい」「自分でできる」という気持ちも、大切にしています。
それは、10代の子どもが、自分の力で未来を切り開いていこうとする気持ちの芽生えでもあるからです。

だからこそ、すべてをお膳立てするのではなく、きっかけをつくりながら、ゆうかさん自身が一歩を踏み出すのを見守ります。

にじみ出た、よろこび

※画像はイメージです

それから数週間後。
ゆうかさんが居場所にやってきて、いつもと変わらない様子で、かばんから一枚の紙を取り出しました。

英検の、合格通知でした。

ゆうかさんは、飛び跳ねて喜んだりはしません。
ただ、その紙をそっと見せながら、口元がほんの少しだけ、ゆるんでいました。
「……受かってた」
小さな声でしたが、その目には、抑えきれないよろこびがにじんでいました。

スタッフは、その表情の意味を、ちゃんと受け取りました。
「すごいね。自分の力でつかんだんだよ」
そう言うと、ゆうかさんは少し照れたように、でも嬉しそうに、うなずきました。

得意な英語で手にした、はじめての合格。
行きたい高校への推薦に必要な、大切な一歩。
そしてきっと、苦手な数学に向き合う日々のなかでも、ゆうかさんの心を支えてくれるはずです。

子どもたちの家庭には、それぞれに事情があります。
家庭や学校では、親やきょうだいを一番に気遣ってがんばっている子もいます。

でもカタリバに来たら、「つかれた」と気兼ねなく言って、ごはんを食べて、安心して自分の夢に向かえる。
そんな居場所を、これからも守っていきます。

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※画像はイメージです

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「子どもの貧困率」とは相対的貧困率のことであり、一定基準を下回る所得の家庭で育つ子どもの割合のことを指します。
情報提供:認定NPO法人カタリバ
※記事中で使用されている写真はイメージ画像です。