「私が、お母さんを楽にさせるから」
食卓に突っ伏してうたた寝する母の丸くなった背中。
それを見つめながら一人の少女が静かに心で誓った。
中学3年生の少女、つばささんのたった一つの決心でした。
心の中で繰り返した、たった一つの約束

夜遅く帰ってきた母。
なんとか夕食を済ませた後も、小学生の弟の連絡帳に判を押したり、山積みのプリントに目を通したりするうちに力尽きたように食卓でうたた寝をしてしまう。
そんな母の口癖は、決まって「ごめんね」だった。
でも、私は母に謝ってほしくなんてない。
だから心に決めていました。
少しでもレベルの高い公立高校に合格すること。
そして、夜間の国公立大学を目指し、少しでも稼げる良い就職先に進むこと。
これが私の夢です。
学費は最低限に抑えることは言うまでもありません。
お母さんが少しでも楽になれるように。弟が進学で困らないように。
私が、母を守れるくらい強くならなきゃ。
だから、勉強だけは決して手を抜けません。塾には行けない分、授業に必死で食らいつき、夜更けまで教科書と向き合う毎日。部活動も、遠征費のかかる運動部ではなく、費用のかからない美術部を選びました。
母に少しでも心配をかけたくない、私なりの精一杯の選択でした。
夢への道を阻む、2000円の壁

そんなある日、数学の先生が言いました。
「この問題集は、受験対策としてとてもよくまとまっています。取り組んでみれば、きっと皆さんの力になりますよ」
値段は2000円。
その金額が、私の夢への道を阻む分厚い壁のようにそびえて見えました。
たった2000円なのかもしれません。でもうちにとっては2000円も、です。
母の疲れた顔が目に浮かびます。これ以上、負担はかけられない。
「買ってほしい」なんて簡単に言えるはずがありません。どうしよう。買わなければみんなから取り残されてしまうんじゃないか…夢が、遠のいてしまうんじゃないか…私は不安に飲み込まれていきました。
声にならない叫びと、保健室の扉
定期テストが終わった直後のことです。
「つばさ!テストどうだった?数学の先生が言ってた問題集ヤバかったよね!問題集に載ってた問題ばっかりだったから今回結構できた気がするよね!」
そう無邪気に声をかけてくれた友達に、曖昧に返事をするしかできなかった私。
私にとっては、今回の数学のテストは難しく感じられました。
いい点数を取れている自信なんて、まったくありません。
多くの友達は、問題集だけじゃなくて塾にも通っているのに。
あの子も、あの子も…みんながどんどん成績を伸ばしているように見えました。
「私、やっぱり置いて行かれてるんだ…たった2000円なのに…」
心の中でつぶやくと、涙が込み上げてきました。
涙を見られたくなくて「ごめん、お腹いたくなってきたから保健室行ってくるね!」と逃げるようにその場を後にしました。

ベッドで少し休んでいると、保健室の先生が声をかけてくれました。
中学1年生のころから、時折心がつらくなった時には保健室に来ていて、先生はいつも詮索したりせずそっと見守ってくれていました。
「熱はないわね」
先生は私のこわばった顔をじっと見つめ、優しい声で続けました。
「でも、心は元気なさそう。何か悩んでることがあれば、吐き出しちゃうと楽になるかもよ。私でよければ、聞くから。」
先生の言葉に、私の肩が小さく震えます。
しばらく迷った末、抱えきれなくなった思いを口に出しました。
「…塾にも通えないし、受験に必要な問題集すら、私には買えなくて…」
先生は私の言葉を静かに受け止め、「ずっと頑張ってきたのね」と優しく呟くと、引き出しから一枚のパンフレットを取り出しました。
「ここなら、あなたの力になってくれるかもしれない」
そう言って手渡されたのが、認定NPO法人カタリバとの出会いでした。
私の夢を信じてくれたのは

カタリバが運営する「放課後教室」、そこでは大学生のボランティアスタッフが勉強を教えてくれ、夕飯も食べることができると書いてありました。
しかも、すべて無料で利用できるそうなのです。
無料なら…と母に相談の上、藁にもすがる思いで私はそのドアを開けました。
「こんにちは、つばさちゃん!待ってたよ~」
迎えてくれたのは、アカリさんという大学生のお姉さんでした。
一通り、教室の説明を聞いたあとは、アカリさんと個室で面談を行うことに。
私は緊張しながらも、勇気を振り絞って、今の思いを伝えました。
「どうしても、行きたい高校があって…。でも、問題集が、買えなくて…」
たどたどしい話し方だったと思います。
でもアカリさんは、途中でさえぎることなく私が話し終えるまでじっと聞いてくれました。
「そうだったんだ…わかるよ。私もね、中学生の時には同じようなことで悩んだから」
まさか、私と同じような経験をしていたなんて。
今のアカリさんの雰囲気からは想像もつきませんでしたが、「同じだよ」といわれて私はなんだか肩の力が抜けた気がしました。
「お母さんのこと、支えてあげたいんだよね」
その言葉に胸が詰まった。
お母さんのことなんて何も言っていないのに…なんでわかってくれたんだろう。
驚いて顔を上げると、アカリさんは「つばさちゃんは、お母さん思いの優しい子だね」と、すべてを受け止めるように微笑んでくれました。
「…大丈夫!つばさちゃんの夢、叶えられるよう私も一緒に頑張るから。」
私はその瞬間、まだ会ったばかりのアカリさんだけど、「この人を信じてついていこう」そんな風に思ったのです。
アカリさんはさっそく、私の話した問題集を調べ放課後教室の教材として用意してくれました。
さらに、志望校合格のための学習計画も一緒に考えてくれました。
勉強の合間には、大学でのサークル活動や、面白い授業の話を教えてくれました。そのキラキラした話を聞くうちに、ぼんやりしていた「大学に行く」ということが、鮮やかな未来予想図を描き始めます。私の悔しさも焦りも、そして固い決心も、そのすべてを受け止めた上で、その先にある希望を見せてくれました。
ずっと一人で張り詰めていた心の糸が、その温かさでふわりと解けていくのを感じました。
カタリバは、私の「頑張りたい」という気持ちを決して一人にしない場所でした。
カタリバでの夕飯では、みんなで食卓を囲むのですが、その時には特に「ひとりじゃない」と心強い気持ちになります。
カタリバでみんなと同じ問題集を広げ、アカリさんにたくさんフォローしてもらったおかげで、定期テストでも自信を持てるようになりました。
志望校に合格するため、アカリさんと一緒にがんばりたいと思っています。
あなたの応援が、子どもの「努力する権利」を守る

今、この日本で9人に1人の子どもが、つばささんのように経済的な困難を抱えながら生活していると言われています。
強い意志と夢を持ちながらも、たった2000円の問題集が買えないという現実が、もし子どもたちの未来への道を閉ざしてしまうとしたら。
それは、この社会にとって大きな損失ではないでしょうか。
あなたの応援が、子どもの「努力する権利」を守り、未来への道を切り拓く力になります。
まずはアンケートにご協力いただき、子どもたちの夢を支える仲間になっていただけませんか?
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※記事中で使用されている写真はイメージ画像です。