冷え込みが厳しい、ある冬の日のこと。
古い木造アパートで、ショウさん(仮名・20歳)は布団の中で小さく体を丸めていました。 室内にもかかわらず、厚手のダウンジャケットを着込み、フードを深くかぶり、マフラーまで巻いています。吐く息は白く、枕元の水は冷え切っています。
エアコンは、以前から調子が悪く、ついに3日前に壊れてしまったのです。
管理会社に電話をすれば、すぐに直してもらえるはずです。
しかし、ショウさんは携帯電話を握りしめたまま、発信ボタンを押せずにいました。

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「壊れてしまったことを、僕のせいにされるかもしれない」
「このくらいの寒さ…我慢だ、なんとかなる…」
ショウさんは「助けを求めること」より「状況をひとりで引き受けること」を選んでいました。
「泣かない」ことで守ってきたもの

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ショウさんが児童養護施設に入所したのは、小学3年生の時。それまでは、実父による暴力が日常的にありました。
鮮明に残っているのは、コップを誤って割ってしまった時の光景です。ただ手が滑っただけ。それでも父は激昂し、手をあげました。
床に散らばるガラスの上でうずくまると、さらに怒号が飛びます。
「男のくせに 泣くんじゃない!」
痛くても、怖くても、泣くことは状況を悪くするだけでした。
(泣いちゃダメだ、我慢…我慢…)そうして、感情を外に出さず、無表情で嵐が過ぎるのを待つ術を身につけました。
その後、施設に保護されましたが、彼の心は固く閉ざされたままでした。
美味しい食事に温かい布団。職員さんはみんな優しく接してくれます。定期的なカウンセリングも受けました。
それでもショウさんは、決して涙を見せることがありませんでした。「泣いて迷惑かけたら施設から追い出されるかも…」という恐怖が、心の奥に残り続けていたからです。
偶然耳にした「世間の本音」

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施設の生活にも慣れ、地元の中学校に通っていた頃のこと。 ある日、仲の良かった同級生の家に遊びに行きました。
帰宅しようとしたところ忘れ物に気づいたショウさんは、玄関のチャイムを鳴らそうとしました。すると…家の奥から、母親が同級生を叱る声が聞こえてきました。
「あんたも悪いことばっかりしてると、あの施設に入れるわよ!」
その言葉を聞いた瞬間、ショウさんは手を止めました。 「あの施設」とは、間違いなくショウさんが暮らす場所のことです。
(そうか…。僕がいる場所は、他の人にとって『罰の場所』なんだ…)
チャイムを押さず、そのまま施設に戻ったショウさん。
その日から、「施設出身」という事実は、隠し通さなければならないという意識が芽生えました。
閉ざされたドアを開けた「つながり」

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ショウさんは、18歳で退所し一人暮らしをはじめました。
人とのコミュニケーションが苦手だったショウさんは、物流倉庫の仕分けの仕事をしています。黙々と、マニュアルに沿って商品を段ボールに詰める日々。
手取りは16万円ほど。家賃と光熱費を払えば、生活はギリギリです。
そんな彼が、仕事以外での社会との接点を持つのが「アフターケア団体」でした。 児童養護施設などを出た若者を支援する団体です。
施設を出る際、職員に勧められて登録だけはしたものの、悩み相談をしたことはありません。 彼がスタッフさんと顔を合わせるのは、「お米やレトルト食品を持っていくね」という連絡が来た時だけ。
団体スタッフの田中さん(仮名)からの「元気?」というメッセージも、いつもスタンプ一つで済ませていました。
そして訪れた、エアコンの故障。 寒さと疲れが重なり、ショウさんは高熱を出して寝込んでしまいました。 喉は渇き、体は鉛のように重い。
(もう、どうでもいいや……)
意識が朦朧とする中で、携帯が鳴りました。田中さんからです。 『ショウくん、今日お米を届ける日だけど、在宅かな? 近くまで来てるよ』
そういえば、今日は月に一度の配達日でした。しかし、返事をする余裕はありませんでした。今の姿を見られたくない気持ちもあり、ショウさんは、画面を伏せました。
しばらくして、玄関のチャイムが鳴りました。返事はありません。
もう一度、携帯に着信が入りました。
ショウさんは少し迷った末、通話ボタンを押しました。
「あ、ショウくん? よかった、繋がった。チャイム鳴らしたんだけど……って、声、変じゃない?」
「……大丈夫です、風邪なんで」
「少しだけ、顔を確認させてもらっても良い?今日はお米の他に、ゼリーもたくさん持ってきたんだ」
ショウさんは、食料をもらおうと、ふらつく足で玄関へ向かい、少しだけドアを開けました。
「一人じゃない」と知った車の中

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隙間から見えたショウさんの姿に、田中さんは驚きました。 室内なのにダウンジャケット。顔は熱で真っ赤でした。
「この部屋、寒すぎない…?」
「……エアコン、壊れちゃって……」
「一度、病院で診てもらったほうがいいと思う。車、下に停めてあるけど、どうかな?」
ショウさんは首を振りました。
「いいです、お金ないし……それに、入院とか言われたら手続きもよくわからないし……」
田中さんは、少し間を置いて続けました。
「費用や手続きのことは、あとで一緒に考えよう。今すぐ全部決めなくていいから、まずは暖かいところで休まない?」
ショウさんはしばらく考え、小さくうなづきました。暖房の効いた車内。温かい風に包まれた瞬間、ショウさんの張り詰めていた糸が切れました。
病院の待合室。 問診票の「緊急連絡先」の欄を、田中さんが迷いなくペンで埋めていくのを、ショウさんはぼんやりと見ていました。 そこには、自分を「迷惑な存在」として扱う空気はありませんでした。
「……肺炎になりかけてたよ。来てよかった」
診察を終え、点滴を受けるショウさんの横で、田中さんは言いました。
「エアコンのことも、管理会社に連絡しておいたから。困ったことがあったら、次からは一緒に考えよう」
その言葉を聞いた時、ショウさんの目に静かに涙がにじみました。
長い間、表に出せずにきた感情が、安心できる場で少しだけほどけました。
「……すみません、迷惑かけて」
「迷惑じゃないよ。頼ってくれるとうれしいよ。」
田中さんは笑って、ティッシュを渡してくれました。 20歳になって初めて、彼は安心して人を頼ることができたのです。
誰もが「助けて」と言える社会へ

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ショウさんのように、過去の傷や社会への不信感から、ギリギリまでSOSを出せない若者は少なくありません。
そうした若者とつながり続けるためには、効率やルールだけでは測れない関わりが必要です。「ご飯食べた?」「部屋寒くない?」という日常的な関わりが、状況が深刻になる前に気付くきっかけになることがあります。
現場で若者一人ひとりへ向き合うには、時間が必要です。
継続した関係の中にこそ、前に進む力が育まれていきます。
アフターケア団体は全国にありますが、その数も人員も決して足りていません。
そんなアフターケア団体が、現場で若者たちへの支援に集中できるように支えているのが、認定NPO法人かものはしプロジェクト。
資金難や人手不足で活動を止めなくて済むように。 彼らが若者たちのSOSに気づき続けられるように、縁の下の力持ちとして支え続けています。
ショウさんのような誰にも頼れず困難な環境にいる若者に寄り添い続けるために。 あなたの30秒を、どうか貸してください。
3問のアンケートに答えるだけで10円の支援金をかものはしプロジェクトへ届けます。あなたの費用負担や個人情報は一切不要です。
誰にも頼れずたった一人で不安を抱える若者をなくすために。 彼らが安心して「助けて」と言える関係性を、どうか一緒に支えてください。
\いますぐアンケートに答えて、子どもたちの未来を応援する!/
https://www.kamonohashi-project.net/about/document/
※情報提供:認定NPO法人かものはしプロジェクト