図工好きの少年と、元大工の“師匠”をつなげた「こども食堂」での出会い

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小学3年生のダイチくん(仮名)が学校から帰ると、家の中はいつも静かです。
介護職のお母さんは、勤務時間が不規則で夜勤の場合にはダイチくんが眠る頃に帰ってくることも多く、放課後はひとりきりで過ごしています。

ダイチくんは図工が大好きですが、家で学校の授業のようなことは出来ません。
ほしい道具もありましたが「危ないからダメ」と言われ、また、家で材料を散らかして怒られてしまったこともあります。

だから、家でひとりきりでいると、何もすることがありません。
お母さんに勉強しておきなさいと言われるけど、やる気がおきません。
ぼーっとテレビを見るだけ。

※画像はイメージです

「いただきます」
外が暗くなり始めると、お母さんが作り置きしてくれたおかずをレンジで温めて、ダイニングテーブルにひとりでぽつんと座り、黙々と食べます。

食器がテーブルにあたる音、コップに入る水を飲む喉の音だけが、やけに響きます。

学校の給食ではお代わりするほど食べるダイチくんですが、夜はなんだか食欲がありません。美味しいはずのお母さんのご飯が、なんだか味気なく感じてしまうのです。

小さな弟子と師匠との通じ合う呼吸

※画像はイメージです

そんなダイチくんですが、月に一度楽しみにしている日があります。
それは「こども食堂」の開催日。

手作りの美味しいご飯が食べられることも楽しみではありますが、彼が何よりも楽しみにしているのは「工作教室」です。

はじめて訪れた時、元大工の佐藤さん(仮名)が魔法のように器用な手先で見本を見せてくれた瞬間にダイチくんが「あの!おれ、毎回ここ来ていいですか!?」と大きな声を出した日が懐かしくもあります。

何度も開催されている工作教室はいろんな子どもたちが楽しく参加しています。
その中で唯一の皆勤賞のダイチくん。

「…ダイチは、もうこれ分かってるからひとりでやってみろ」
ぶっきらぼうな物言いの佐藤さんですが、ダイチくんとの間に”信頼”が築き上げられていることが伝わります。

佐藤さんの過去:生きがいを失った、ひとりの職人

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佐藤さんは、かつてこの街で「腕のいい大工」として知られていました。
寸分狂わぬ職人技、使い込まれた鉋(かんな)や玄能(げんのう)。手先が器用であることは、佐藤さんの何よりの誇りであり、仕事こそが彼の人生そのものでした。

しかし数年前、現場での不慮の怪我が原因で、惜しまれながらも引退を余儀なくされます。「まだやれる」という気持ちと、動かなくなった体。生きがいを失った佐藤さんは、それ以来、趣味も外出の予定もないまま、一日中テレビの前で過ごすようになりました。

「そんなに塞ぎ込んでいないで、たまには外に出たらどう?」
妻のよし江さんの言葉も、佐藤さんには重荷にしか感じられません。自分を必要としてくれる場所なんて、もうどこにもない――。

そう決めつけていた佐藤さんの元へ、妻が町内会で聞いた「ある相談」を持って帰ってきました。

「近所で始まった『こども食堂』、お料理だけじゃなくて、子どもたちが喜ぶイベントをやりたいんですって。あなたのその器用な手先、子どもたちのために貸してあげられないかしら?」

「子ども相手に、大工の真似事なんてできるか……」
最初は渋っていた佐藤さんでしたが、妻の熱心な勧めに押され、一度だけという約束で、こども食堂の「工作教室」へ足を運ぶことになったのです。

その時に出会ったのが、ダイチくんでした。

「……すげぇ! 魔法みたいだ!」

久しぶりに握った道具の感触と、キラキラと輝いた幼い瞳。
かつて大工をはじめたころの自分を思い出しました。
佐藤さんの胸の中に、消えかかっていた「職人の火」が再び灯った瞬間でした。

変わっていく「放課後」の景色

※画像はイメージです

それからというもの、こども食堂は二人の「大切な場所」に変わっていきました。

佐藤さんは、回を重ねるごとにイキイキとしていきました。
「どうすれば子どもが怪我をせずに楽しめるか?」
「どんな図面なら分かりやすいか?」

夜な夜な自宅で、子ども向けの工作マニュアルを自作する佐藤さんの姿を、こっそり見守る妻のよし江さん。

その横顔は、現役時代の時のような。

ダイチくんにも変化が現れました。

「俺の弟子なら、宿題もちゃんと終わらせてからだぞ」
佐藤さんにそう言われると、家ではあんなに嫌がっていた宿題も、こども食堂のテーブルで集中して終わらせるようになりました。家では食べ終わったらシンクに置きっぱなしだったのに、皿洗いの時間には自ら「手伝います!」と言って皿洗いまでするようになりました。

何より変わったのは、食事の時間でした。
作業を終え、佐藤さんや大学生のボランティア、他校の友達と一緒に囲む大きなテーブル。
「佐藤さん、これ美味しいね!」「今日は完食したな、ダイチ」

ひとりきりで食べると食の進まなかったダイチくんですが、ここでは何度もおかわりをします。誰かと一緒に笑い、自分の作った作品を褒められ、温かいごはんを食べる。その時間が、ダイチくんのお腹と心を、何倍も満たしてくれたのです。

作品展、そしてお母さんの涙

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ある日、こども食堂主催で「作品展」が開かれました。

会場には、佐藤さんの指導のもとでダイチくんたちが作り上げた個性豊かな作品が並びました。

仕事帰りに駆けつけたダイチくんのお母さん。
一通り作品を見たお母さんは、離れたところで友だちとふざけているダイチくんを遠目に見て佐藤さんに声を掛けました。

「佐藤さん…いつもありがとうございます。あの子、学校のことはあまり話さないんです。でも佐藤さんやココのことは本当にうれしそうに話してくれるんです。」

お母さんの言葉を聞きながら、佐藤さんは照れくさそうに頭をかきました。

「家に帰ったらたくさんほめなくちゃ…つい、忙しくて、家では『散らかさないで』『早くして』ばかり言ってしまって……」

ダイチくんと佐藤さんとの出会いは、お母さんにとってもとても嬉しいことだったのです。

そんなお母さんに佐藤さんはこども食堂では宿題もしっかりやって、自ら進んでお手伝いもしていることを話しました。
お母さんは、驚きながら、そして涙を隠すようにそっと下を向いて、また何度も佐藤さんに御礼を言いました。

無事に作品展が終わり後片付けをしていた佐藤さんは、手伝いに来てくれていたよし江さんに、ぼそっと呟きました。

「……ここのこと、ありがとうな。」

子どもがいない佐藤さん夫婦にとって、ダイチくんや食堂に集まる子どもたちは、今や本当の孫のような存在です。それは、ダイチくんにとっても同じです。

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今では、食堂が開かれていない日でも、街角で二人が会えば自然と会話が弾みます。
「よぉ、ダイチ! 宿題は終わったのか?」
「モチ! 今日ね、図工ですごいのできたから次の教室のとき持っていくね!」

そんな声が響く街には、もう「ひとりぼっちの寂しさ」はありません。

こども食堂は、単にお腹を満たす場所ではありません。地域の様々な背景を持って暮らしている人たちにとっての”心の居場所”です。  

※実際のこども食堂のエピソードを参考に、作成しております。

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情報提供:認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ