「お母さんに捨てられた」——18歳で施設を出た彼が直面した社会の壁とは

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汗ばむ日も増えてきた5月、大阪にある小さな駅の改札口。
自転車のライトを消し、小さなため息をつきヘルメットを外した拓也さん(仮名)、18歳。
片道1時間半以上の自転車通勤が続いていました。4月は電車通勤でしたが、5月からは定期代が払えなくなり、自転車に切り替えたのです。

「2歳のころ、お母さんに捨てられた」

※画像はイメージです

物心がついたころには、すでに母親の記憶がありませんでした。

「両親は2歳の頃に離婚したらしいです。そのまま母に捨てられて、18歳まで児童養護施設に入っていました」

そう、拓也さんは淡々と話します。

施設での暮らしは、けっして悪いものではありませんでした。衣食住は整っていて、職員との関係もそれなりにありました。それでも、「家族」と呼べる人がいない事実が拓也さんの心に影を落としていました。

お年玉をもらったことも、親にねだってゲームを買ってもらったことも、ありません。

施設からはお小遣いを月に5千円ほどもらっていました。高校の同級生たちはカラオケなどの遊びや洋服にある程度自由に使っていましたが、「施設を出たときのために貯金しておこう」と思っていたことから断ることも多かったと言います。

いつしか同級生からの誘いも減ってしまっていることを感じてはいましたが、仕方がないと自分に言い聞かせていました。

施設を出た瞬間から、「社会」がはじまる

※画像はイメージです

18歳の春。高校卒業と同時に施設からも出なければなりませんでした。

「新卒で就職が決まっていたので、なんとかなると思っていたんですけどね」

施設でも金銭管理について教わる機会はありました。ただ、実際に毎月の生活費をやりくりする経験は少なく、退所後にはじめて現実の重さを実感しました 。

これまで食事は三食、栄養の考えられたメニューが食べられていました。学校にもお弁当を持たせてもらっていて、食事で困ったことはありません。

施設で料理を手伝うこともあり、ある程度は作れると自負していた拓也さんですが、一人分の食事を作ることがいかに難しいかということに一番に直面しました。

安く抑えようとすると食材を余らせ、腐らせてしまう。
一人分の小分けにされた食材は割高になってしまう。

そんなジレンマに日々頭を悩ませます。施設にいる頃はスーパーに立ち寄ることがなかったので、自分で買い物をするようになって初めて食材がこんなにも高騰していることを実感しました。

そして慣れない仕事から帰ってくると疲れてしまい、総菜やコンビニ弁当で済ますことが多くなっていきました。18歳と食べ盛りの拓也さんにとってはどれもお腹を十分に満たす量ではありませんでしたが、どんどん減っていく貯金に焦りが募っていくばかりでした。

職場では、ランチは先輩たちと一緒に外で食べることが多くなっています。施設でたくさんの人と食卓を囲むことに慣れていた拓也さんにとって、先輩たちとの食事の時間は寂しさを紛らすものでもありました。

また、高校生の頃誘いを断っているうちに友人と疎遠になってしまった経験から、「断ったら先輩たちに嫌な思いをさせるかも…」という気持ちも大きくありました。
「…大丈夫、給料が入ればなんとかなる」
しかし、最初の給与が振り込まれるのは5月下旬です。気づけば4月末には、高校生の頃までに貯めた貯金はあと少しで底をついてしまいそうです。

もう5月分の定期代は払えそうにもありません。そこで、1時間半かけてでも自転車で通勤することにしたのです。

1時間半自転車を漕いでの通勤、もやしが主食の日々

※画像はイメージです

5月中旬のことです。
ポストに届いた電気ガスの請求書を見て愕然としました。

「たったひとり分なのに、こんなに高いんだ…」
拓也さんは当初は自炊も頑張っていたこともあり、自分が想像していた以上に料金が高くなったことに驚きました。一人暮らしでのんびりお風呂に入れる嬉しさから、湯舟をためることも多かったことを悔みました。

朝ごはんを食べることをやめました。
お昼は出費が大きくなることから、夜ごはんを最大限減らすことにしました。
おにぎり一個やカップ麺のみの日もあれば、もやしが主食の日も。ポン酢をかけたり、マヨネーズをかけたりしていますが、むなしさばかりが広がっていきます。

「このままじゃ…家賃も払えなくなって住む場所もなくなってしまう…」そんなことを考えると怖くなります。

さらに栄養不足からか、体調を崩しはじめた拓也さん。
仕事をはじめて休んだ日には「ひとりでやっていかなきゃいけないのに何やってんだろう…」と自分を責めてしまいます。

卒業した施設の職員の連絡先は持っていますが「迷惑をかけたくない」という思いがあり、なかなか連絡できませんでした。

頼れる家族も、親族も、いない。地元の友人に「お金を貸してほしい」なんてもっと言えない。もう限界、というところまできていました。

そんなある日、知人から「ユキサキチャット」の存在を教えてもらいました。困窮する若者のためのオンライン相談窓口だと聞き、思い切って連絡をしてみました。

「まず、食べてほしい」ただ聞いてくれる優しさに触れて

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はじめてメッセージを送ったとき、拓也さんは自分の状況を正確に伝えられませんでした。

うまく説明できないし、どこまで話せばいいかもわからない。施設育ちということがどこか引け目でもありました。

拓也さんは「自分の管理不足だ」と後ろめたい気持ちでいっぱいでしたが、勇気を出して伝えたところ…スタッフは何一つ責めることはありませんでした。状況を少しずつ聞きながら、まず食料を送ってくれました。

「まずは、お腹を満たしてほしい。それから一緒に次のことを考えていきましょう」

そして、相談していく中で食料配布と、生活費のための現金給付で支援してくれることになりました。

届いた段ボールには、食材がたっぷり入っていました。しかも、温めるだけですぐに食べられるように配慮されたレトルト食品ばかりで、拓也さんは久しぶりに自宅でお腹いっぱいに食べることができました。

お腹が満たされると、焦る気持ちが少しだけ和らいだ気がしました。

『自分は後回しでいい』が、少しずつ溶けていった

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これまで拓也さんは施設でも、本音をなかなか話すことができないでいました。

どこか「自分は母親に捨てられたから…」という思いがぬぐえず、周りの人の気持ちに合わせすぎてしまうところがあります。

自分以上に困っている子や、年下の子たちがいれば自分の悩みや相談は後回しにする。そうしているうちに相談するタイミングを逃してしまうということも少なくありませんでした。

いつしか、施設の中で年齢を重ねるたびに、何でも一人でやらなければ、という感覚が染みついていったのかもしれません。

ユキサキチャットでは、会ったこともない自分の話にじっくり耳を傾け、信じてくれたことを嬉しく感じました。顔が見えないからこそ、拓也さんも本音を伝えられたのかもしれません。

こうして3か月ほど支援を続けてもらいながら、少しずつ生活を立て直していきました。遠慮していると「仕事はどうですか?」「食事は足りている?」とメッセージが届き、ユキサキチャットがそっと見守ってくれている…そんな感覚になっていました。

ひとりで抱えていたものを、少しずつ誰かに渡してもいいのかもしれない。
そう思えるようになっていきました。

「自分の人生を、やっと考えられるようになってきた」

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最初の支援を受けたときに、先輩とのランチ代が大きな出費であることを伝えた拓也さん。

その時に「自分の負担にならないように、断ったり、その理由を話してみてもいいんじゃないかな?」とアドバイスをもらっていました。

アドバイスに背中を支えられ、勇気を振り絞り先輩たちに「誘ってもらえるのが嬉しいけど、実はランチ代で生活費が厳しくて…」と伝えました。

「そうだったのか。全然気にすんな。来られるときだけ来たらええよ」

先輩はそう明るく言って拓也さんの肩にポンっと手を置きました。身構えていた拓也さんの胸に、じわっと温かいものが広がりました。

(…こうやって自分の気持ちを、人に伝えてもいいのかもしれない。もし、また迷ったり困ったら相談すればいいんだ…。)

相談できる場所がある。話を聞いてくれる人がいる。

たった18歳で、頼れる実家や家族のいない中でひとりで社会へ出ていかなければならない不安は、私たちが想像する以上です。

今、拓也さんは不安なことがあればユキサキチャットで相談しながら、仕事に慣れようとがんばっています。すべての不安がなくなったわけではありませんが、お金のやりくり等、面と向かっては相談しにくいことも気軽に聞けることは、特に拓也さんの支えになっています。

施設を出た若者が直面するのは、単なるお金の問題だけではありません。ひとりで抱え込まざるを得ない「誰かを頼ることが難しい」という状況です。

そんな若者の不安に、ユキサキチャットはそっと手を差し伸べています。

※本エピソードは、実際の相談事例をもとに個人の特定につながる情報は変更し、再構成しております。

孤立する若者に「30秒」でできる支援があります

※画像はイメージです

拓也さんのように、家族を頼れないままひとりきりで社会へ出ていかなければならない若者が、日本中にいます。

彼らに必要なのは、「今月の家賃」だけでなく、「何度転んでも、見捨てずに関わり続けてくれる大人」との繋がりです。

今、この記事を読んでくださっているあなただからこそ、できることがあります。 簡単なアンケートに答えるだけで、D×Pの活動を支援することができます。

「見守ってほしい」「頼っていいですか?」

そう言えるようになるまでの道のりを、拓也さんのような若者が一人で歩かなくていいように。彼らの「次の物語」を、あなたも一緒に支えませんか?

 

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