2011年3月11日、東日本大震災。
あの日から、もう5年が経とうとしています。
現地からは「いまだ復興は進んでいない」という声も聞こえてくる一方、「ふるさとの復興に貢献したい」「そのために、学びたい」という意欲を持つ子ども達が育ってきている、という嬉しいニュースも飛び込んできました。
取材を進めるなかで分かったのが、子ども達が立ち上がった背景には、全国から寄せられた温かな「寄付」が、欠かせない役割を果たしていたことでした。
家も友達も思い出も、すべて津波が飲み込んでいった
今回私たちが取材に訪れたのは、岩手県大槌町。
住居倒壊率約60%と、被災地で3番目に大きな被害を受けた、三陸沿岸の町です。
震災直後の岩手県大槌町
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認定NPO法人カタリバ
あれから約5年が経った今でも、震災の爪あとは強く残っています。
津波が押し寄せた地域は、今もなお盛り土工事が行われており、町中をダンプカーが走り回っています。
住民の約3分の1が、現在も仮設住宅で暮らし続けています。
津波の被害を受けた地区では、今も盛り土工事が続く
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復興が思った以上に進まない一方、嬉しいニュースも飛び込んできました。
この大槌町では今、「町の復興のために、自分たちも何かしたい!」「支援される側を卒業して、自分が大槌や社会をつくる人になりたい」と20組以上の高校生が活動しているそうです。
大槌町は、震災前から過疎化が進み、若者を中心に人口流出が止まらなかった町。
家も、あるいは家族でさえも津波で失った家庭もあるなか、なぜ子ども達に「地元愛」が芽生えたのでしょうか?
一人の女子高校生に、話を聞くことができました。
大好きだった地元が、震災後には嫌いになった
友里恵(ゆりえ)さんは、地元の高校に通う高校2年生。
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”震災前の風景”を壁画として残す、というプロジェクトに取り組んでいます。
単純に壁画を描くのではなく、モザイクアートのように一人ひとりが描いた絵が合わさって一つの大きな絵になるようにするという試み。
名付けて、「キリキリアートプロジェクト」です。
(※「吉里吉里(きりきり)」は、大槌町にある地名)
町に住むお年寄りの似顔絵を描きながら準備
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彼女が東日本大震災に遭ったのは、小学6年生のときでした。
教室で、卒業文集を作っていたときのことでした。津波がきたんですけど、学校にも波がきそうだということになって・・学校よりも上のお寺に逃げました。正直、こんなに大変なことが起こっているとは思わなくて・・・お寺に上がって津波の風景をみて、どっと悲しさがこみ上げてきました。びっくりして、涙も出なかったです。
震災後は地元のことを嫌いになった時期もあったそうです。
震災前は、大槌の町が大好きでした。でも震災があって、たくさんの人がいなくなって、それが自分の中で気に食わなくて。町の人とのつながりに入っていけない自分がいて、それで大槌が嫌いになっていって。「地元愛」の強い人たちもいたけど、暑苦しくて、嫌でしたね。
震災で失われた人と人とのつながりを、取り戻したい
ふとした時、「どうして私は、大槌の町が嫌いになったのか?」を考えます。
そしたら、”人と人とのつながり”が減ったからだ、って思って。多分、震災があって遊ぶ場所とかイベントとかが減って、交流することが前よりなくなったからじゃないかって。
プロジェクトについて発表する友里恵さん
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そこで考えたのが、震災前の風景を壁画で残すというプロジェクトでした。
最近、高校に行くバスに乗ってて、ふと「あれ、前ここに何があったんだっけ?」と思うことがあって。そのときに、これからこの場所を見る人達は(もしかしたら自分も)ここに何があったかもわからないんだ、と思ってそれはすごく悲しいなって。だから、震災前の風景を残しておきたいなと思いました。
「震災前の風景を残したい」という想いで取り組む
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それから、自分の大好きな絵を使ったプロジェクトをしたいなというのと、みんなで絵を描いたり、何かを作るっていう作業を通して人が集まって、そしてその絵を見に来る人が来て。そうやって人と人とがつながればいいなって思って、このプロジェクトをやりたいと思っています。
いまの大槌は嫌いです。でも、前の大槌が好きです。震災前の大槌が素敵すぎた。素敵っていうのは人なんですよね。でも、プロジェクトを始めて、地元ってすごくいいなと思えるようになってきた。
このようにプロジェクトを起こして活動している友里恵さんですが、彼女が「大槌町の復興に携わりたい」と思うようになったのは、震災後に建てられた放課後学校に通うようになったのがきっかけでした。
全国からの寄付で建てられた、希望の学び舎
友里恵さんが中学生の頃から通うのは、放課後学校「コラボ・スクール」です。
震災後、多くの子ども達が住んだのが、狭い仮設住宅。「勉強する場所がない」という課題を解決するために、全国から寄せられた寄付によって設立されました。東京から被災地支援に訪れていた、認定NPO法人カタリバが運営しています。
コラボ・スクールの仮設校舎
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コラボに通い始めたのは、中学三年の6月ごろ。お母さんに勧められて、「受験生だから行ってきなさい」と言われて来ました。やる前は、普通の塾のようなイメージでした。数学がすごい苦手だったが、コラボにかよい始めてから50点ぐらい点数が伸びて、楽しくなってきて、受験でも数学が一番成績が良かったんですよ。勉強しているときも楽しかったし。
コラボ・スクールで勉強する、中学生の頃の友里恵さん
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後輩との人間関係とか勉強の悩みとかで、落ち込んでいた時期があったんですね。そのときにある先生が声をかけてくれて、「どうしたの?」って話を聞いてくれたことが印象に残っていて。「コラボの人たちって、すごい良い人だな」と思いました。塾ってただ勉強を教えるだけのところだと思っていたんですけど、先生と勉強以外の話ができて。世界中を旅したり、留学したり、いろいろ体験をしたことを話してくれたのが、勉強で学べたよりも大きくて。そこが「塾じゃねえな」と思いました。
未来の復興のリーダーを育てる。5年前の志が現実に・・
コラボ・スクールが設立当初から目指していたのが、未来の復興を支えるリーダーを育てること。
震災という苦しく辛い試練を経験した子どもたちが、もしそれを乗り越えたなら、誰よりも強く、そして優しくなれるはず。そんな想いから、まずは子ども達が安心して集まり、勉強できる居場所をつくりました。
今では、小学生から高校生まで約300人が通い、町にとって欠かせない教育機能を担っています。
2015年4月、朝日新聞に掲載
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認定NPO法人カタリバ
次に取り組んだのが、プロジェクト学習。
「町の復興のため役立ちたい」と想いをもった子ども達が、行動に移すのをサポートしています。
そのなかから、津波の記憶を未来に残したいと考えた高校生が、「大きな地震が来たら戻らず高台へ」と刻まれた木碑を建立しました。
震災の記憶を後世の人たちに残したい「3.11復興木碑設置プロジェクト」
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「津波で写真と思い出を流されてしまった、町の大人たちの笑顔を取り戻したい」と、高校生が100人の笑顔を撮影して出版した生徒も出ました。
津波で流された笑顔を取り戻す!「100人Photosプロジェクト」
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その他にも、町の復興のために、自らプロジェクトを起こした生徒が約20組活動しています。
震災直後には、想像のなかにしかなかった希望の灯が、今現実となって灯っています。
継続的な運営への瀬戸際、理由は資金難
ところが、この放課後学校が今、継続的に運営をしていけるかどうか?の瀬戸際に立っていると言います。
コラボ・スクールが立ち上がったのは、全国の個人や法人から寄せられた寄付。
これまで約5000の個人・企業からの支援を受けて、また行政委託や事業収入も合わせて運営費をまかなってきました。
ところが、震災から約5年間が経ち、人々の関心も風化しつつあります。
もう被災地への支援は必要ないのではないか?
そんな声も寄せられるそうです。
広報を担当する川井綾さんは、「5年経った今も、課題の深刻さは続いている」と言います。
生徒たちと話す、広報担当の川井さん
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認定NPO法人カタリバ
震災をきっかけに失業や転職を余儀なくされた家庭も多く、家計の苦しい世帯の割合が増加。経済的理由から、塾など民営サービスには手が届かない家庭も多く、進学をあきらめる生徒も出てきてしまっています。
ストレスのため、「PTSD」など心の問題を抱えた子どもの割合も増えているそうです。
被災地の子ども達に起こっている問題(河北新報調べ)
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「あと3年間は続けたい」とスタッフは言うが、資金の目処は立っていません。
そこで、同団体が用意しているのが「サポーター会員」制度です。
▶︎ サポーター会員について、詳しく見る
震災を忘れないしるしに、毎月1000円から支援してみては?
サポーター会員は、毎月1,000円をクレジットカードまたは銀行口座からの引き落としで寄付する仕組み。
寄付は、放課後学校の運営など、同団体の教育活動に活用されています。
1,000円 で、新学期の中学生の英語テキスト1冊の購入費用に
提供:
認定NPO法人カタリバ
支援の申し込みをした方には、子ども達からの作文が届くなど特典も。
また、報告会に招待されて、子ども達の成長の過程を見守ることができます。
学んだことや将来の夢など、生徒からの発表も
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認定NPO法人カタリバ
カタリバは、東京都から認められた認定NPO法人。
確定申告をすれば、寄付は税制優遇の対象にもなります。
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「ふるさとのために、役に立ちたい」「そのために、今は学びたい」と願う、子ども達のために
サポーター会員には、約2000人が参加。
「被災地のために、自分でも何かできることを探していました」
「子ども達は、社会の宝。どうか思いっきり、学べますように。」
それぞれの想いを持つ方が、支援をしているそうです。
報告会に集まった支援者たちの集合写真
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認定NPO法人カタリバ
冒頭でインタビューした友里恵さんは、「東京の大学で学んで地元に帰ってきたい」と言います。
震災の復興にはだいたい30年ぐらいかかると言われていたんですが、それまでに大槌はちゃんとした町として残っているのか?他の地域の人たちが、「大槌が元気になるため、応援しよう」と言ってくれているのに、大槌が復活しなければ、もったいないというか、悲しいというか。そんなことがあって、「町のためになりたい」と思うようになりました。東京の大学にいって、たくさん勉強して、地元に帰ってきて、地元のためになにか貢献できたらいいなと思っています。
「ふるさとのために、役に立ちたい」
「そのために、今は学びたい」
そう強く願う子ども達が、ここにはいました。
希望の灯を消さないために、あなたも今できること考えてみてはいかがですか?
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