ザックは、幼い頃から周りとのコミュニケーションが上手く取れず、触られることを特に嫌がり、ご両親も頭を悩ませていました。
ある日、彼は自閉症の一種であるアスペルガー症候群だったことが判明。
そして、彼の症状は年齢を重ねるごとに深刻になっていきました。

周りとのコミュニケーションが上手く取れないだけではなく、パニック状態になりやすかったザック。
夜は眠れず、突然泣き出してしまうことも多くありました。
パニック症状は誰かに触られると余計にひどくなるため、彼を落ち着かせるのは簡単なことではなかったのです。
ご両親は、彼の為に出来る事を必死で探しました。
そしてみつけたのは『クリス・フォード』というある人物の名前。
実はクリスさんはその業界では有名な、自閉症の子の相棒となる犬「コンパニオンドック」を育てている有名なドック・トレーナーだったのです。
しかし・・・

なんと、クリス・ヴォートは殺人罪で服役中の囚人でした。
殺害に加わったとして、1998年に48年の禁固刑に処されていたのです。
彼は刑期を過ごしながら、シェルターに保護された犬達のリハビリテーションを行うプログラムに参加し、自閉症について学び得た知識をもとに、自閉症の子どもにあった犬のトレーニングを考案したのです。

自閉症の子ども達向けのコンパニオン・ドッグの育成というのは、ほとんど存在していません。
刑務所内のトレーニングセンターでも、盲導犬や聴導犬のトレーニングが主に行われていました。
クリスはそこで、自閉症の人向けのコンパニオンドッグのトレーニングを開始したのです。
「刑務所に出向いて殺人犯に会うなんて…」
ザックは乗り気ではありませんでしたが、すぐに気が変わりました。
初日のセッションで、ザックはこのチョコレート色の犬が、自分にとって良き相棒であることをすぐに感じとったのです。
この犬の名前はクライド。
クリスがクライドに教えたのは、パニック症状を感知する方法でした。
ザックの心拍数が上がるのを感じたら、クライドは側に寄ってきて彼の気をそらすように働きかけることでパニックを防ぐ、というのです。
ザックはその後、数回に渡って刑務所にいるクリスを訪ね、クライドとのトレーニングを行いました。
その結果・・・
ザックの症状はすぐさま驚くべき改善を見せたのです!
「僕のパニック症状は70%くらい減ったと思う。
近頃はリラックスしてることが多くて、学校で友達もできた。
今までは、友達なんて全くできなかったのにね。」
一家は感謝を伝えるために再び刑務所を訪れました。
その時、ザックが驚きの行動をしたのです。
なんとザックは、コンパニオンドッグを訓練してくれたクリスにありがとうのハグをしたのです!
あんなに人に触れるのが嫌だったザックが見せた行動に、両親たちは驚きを隠せませんでした。
これにはクリスも感極まり、思わず涙を流しました。
クライドのおかげでザックの症状が改善したことに、彼も心を動かされたのです。
クリスがある男性と言い争いになり、取り返しのつかないことをしてしまったのは21年前間のこと。
クリスは服役中、事件のことをあまり口にすることはありませんでした。
しかし、この時、涙ながらにあの時の事をこう語りました。
「あの時の自分は、正しいことをするのが怖かった。臆病者だったんだ。」
クライドと出会えたことでザックの人生は変わりました。
ザックがパニックになりそうになると寄ってきて、うまい具合に注意をそらすクライド。
そんなクライドを見ると、ザックも落ち着きを取り戻すことができるのでした。

夜もぐっすり眠れ、友達もできました。
以前は別は学校への編入も考えていたザックですが、今では成績トップの特別クラスに通っています。