記事提供:認定NPO法人カタリバ

認定NPO法人カタリバは、東北大震災後、「被災した子どもの復興を担うリーダーを育てたい」という想いから宮城県・岩手県に「コラボ・スクール」を設立し、子どもたちが安心して学べる場をつくることで、これからの東北の子どもたちを対象に学習支援・キャリア支援を行っています。
この記事は、認定NPO法人カタリバの創業者であり、代表理事である今村久美氏が、コラボスクールに対しての想いを綴ったものです。

※本記事は、2012年3月時点の記事です。コラボ・スクールは2015年夏で、設立5年目を迎えます。

■認定NPO法人カタリバ 代表理事 今村久美氏プロフィール


2001年に任意団体NPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2006年には法人格を取得し、全国約1000の高校、約180,000人の高校生に「カタリ場」を提供。

2011年度は東日本大震災を受け、被災地域の放課後学校「コラボ・スクール」を発案。

2011年7月に一校目の「女川向学館」を宮城県女川町で開校。同12月には、二校目の「大槌臨学舎」を岩手県大槌町で開校。被災地の子どもに対する継続的な支援を行っている。

2008年「日経ウーマンオブザイヤー」受賞。

2009年内閣府「女性のチャレンジ賞」。

■悲しみの先に希望を。「コラボ・スクール」に賭ける想い



カタリバの今村久美です。

私は震災以降、宮城・岩手と東京を行ったり来たりしながら生活をしていました。昨年夏までは避難所で寝泊りしながら、今は岩手県大槌町のシェアハウスで皆と暮らしています。

コラボ・スクールを立上げるため走り回ってきて、先週にようやく中学3年生の高校受験が終わりました。発表まで、生徒全員の「合格!」を祈って、ドキドキしながら過ごしています。

この1年間、被災地で子どもたちと接してきて、嬉しかったことがあったので、皆さんに共有させてもらいますね。それは、目をキラキラと輝かせながら、将来の夢を話してくれる子どもたちにたくさん出会えたことです。

私たちが立ち上げた「コラボ・スクール」は、被災地で、勉強する場所を奪われた子どもたちに学習指導をする、放課後の学校です。

なぜ私は、東北に行こうと思ったか?

もちろん、「可哀想な子どもたちのために何かしたい」という想いもありました。でも一番の動機は、

「この被災地で、たくさんのものを失った子どもたちの中から、10年後に日本を支えるイノベーターが生まれてきやすいのではないか?」

そう考えたからです。

たしかに、震災による悲しみは、子どもたちにとって抗えない現実です。私が今大槌臨学舎で受けもっているクラスでも、26人中7人の生徒が親を失いました。ふとしたことで、家族の話題になると、目に涙を浮かべる子どもが、今もいます。

でも、その悲しみに向き合うのが、彼らの課題でもあります。この現実を受け入れて、自分自身で乗り越えていく。そのために私たち大人ができるのは、彼らに寄り添って、“悲しみ”を“強さ”に変えるための学習機会をつくってあげることです。

私たちは、コラボ・スクールで「勉強」を教えています。

「何をやろうとしても、力が出ない・・」

震災後は、そんな風に落ち込んだ子どももいました。彼らが、勉強を通じて「できることが増えた!」「昨日の自分より、一歩前に進んだ」そう実感することで、意欲が回復してきている。学ぶことが、心のケアにもなっているんだと感じます。

私が今いる大槌臨学舎で、親御さんたちから喜ばれていることがあります。全国からボランティアさんが1週間単位で来てくれて、代わるがわる勉強をサポートしてくれることです。

生徒たちは、「はじめまして」「ありがとう」、「さようなら」を、たぶん日本で一番多く言う子どもでしょう。 コミュニケーション能力は、確実に育っているでしょうし、なにより、震災前なら出会うことのなかった職業の方々、大学生たちと勉強の合間に話すことで、これまでは身近でなかった、広い世界を見通しながら、大きな未来を、思い描きやすい環境が整ってきています。

子どもたちが、震災の悲しみを乗り越えるのに伴走し、かつては与えられなかったチャンスを提供することで、感謝の気持ちと明るさ、そして力強さを持って、新しいことに挑戦する人が、この地から生まれるだろう。

そんな思いは、彼らの語ってくれる将来の夢を聞いて、強くなりつつあります。

「避難所でやさしく励ましてくれた看護師さんみたいに、将来なりたい」「福祉の仕事でお年寄りの方々のために働きたい」「前は保育士になりたかったけど、病院で働く姿がかっこよくて、震災後、薬剤師を目指すことにしました」「女川町はこのままではいけない。自分が女川町を支えられる人間になりたい。」「ここで集中して勉強して、消防士になる夢を叶えたい」

日本中と比較しても、公共心を持って職業選択を目指す子どもたちが、本当に多くいます。私のクラスでも、看護師志望が半分で、福祉の仕事が1/4、自衛隊希望者も2人います。

“主体性”、そして“公共心”をもった子どもたちが育っていること。この事実は、とてつもない被害と悲しみをもたらした震災の「希望」とも言える一面かもしれません。

実はこれを始めた当時、「この活動は3年間をめどに終わりにしてもよいのではないか」と思っていました。どもたちが奪われた“学ぶ場”を確保して、失業した地元の塾の先生たちに、“雇用”を提供する。地元の方々の独立を支援して、私たちは徐々に手を引いていけばよいのではないか、と。

でも今、行政や学校、地域の方々、そして全国から集まったボランティア、遠くから見守る寄付者の皆様など、さまざまな立場の人たちの力がコラボレーションして、今までになかった、新しい教育のカタチが生まれようとしています。

被災地に限らず、この日本では“ナナメの関係”は不足しています。子どもたちが希望をもって未来をかたち創るための環境も、十分とは言えません。

このコラボ・スクールは、そんな日本、特に同じ過疎地に、新しい教育のモデルを提示できるのではないか?そんな可能性に、胸をワクワクさせています。

生徒たちが震災という悲しい体験を“チャンス”に変え、たくましく育っているのを目の当たりにするなかで、「子どもたちを支える機能さえあれば、この東北から、誰よりも強く、そして優しい未来のリーダーが生まれるはず」この1年間、信じてきたことが、少しずつ現実へとなりつつある手ごたえを感じています。

資金や人材など、現実的な問題はたくさんありますが、私は、このコラボ・スクールを3年以上続けたい。今は、そう思っています。

もちろん、これはカタリバだけでは、できません。大事なのは、たくさんの大人たちが少しずつでも教育に関わってくれるように、“居場所”と“出番”を用意すること。 

ボランティア、寄付、そしてさまざまな形での連携。
これまでたくさんの方々に関わっていただき、ありがとうございました。

これを読んで興味をもった方は、あなたなりの関わり方を考えてみていただければ嬉しいです。

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